より高レベルの統合:通常は良いアイデアだが、そうでない場合も
過去数十年間のIC技術における一貫したメッセージの1つは、機能集積度を高めることが、オールデジタルおよび混合信号アプリケーションにとって良いことだということです。新しいコンポーネントがより多くの信号チェーンを統合すると、全体的な設計の簡素化、相互接続の減少、信頼性の向上、ボードスペースの縮小、コンポーネント間の非互換性リスクの除去、低消費電力、システムレベルの性能確保、より包括的なデータシート、そしてもちろん低コストなど、複数の利点があります。
しかし、統合の話は完全に一方的なものではありません。1つのICで高集積化を実現するベンダーは、一方で基本的なビルディングブロックとなるオペアンプなどの高性能なミニマムファンクションICも導入しています。
この2つの方針は、ある意味で矛盾しています。結局のところ、より高度に統合されたデバイスに「すべてを含める」あるいは「より多くを含める」ことができるのであれば、なぜ単機能のオペアンプを採用するのでしょうか。答えは複雑です。コンポーネントの仕様、互いの相対的なバランス、アプリケーションとその優先順位、そして最も重要な関連するトレードオフと妥協によって左右されるからです。
制約がある中で目的を達成するためにトレードオフを行うことは、エンジニアリングの設計と専門性の核心です。高度に統合されたデバイスの魅力に対しては、完全なシステムを構築するために使用できる高度に最適化された単一機能のビルディングブロックと比較して、重要パラメータの性能における欠点を検討する必要があります。ここでは、Analog Devicesが提供する大きく異なる2つのコンポーネントを例に挙げて説明します。
Analog Devicesの電気化学フロントエンドAD5490
最近発売されたAnalog Devicesの「AD5490」を考察してみましょう。この製品は、電気化学や生物学の実験で標準的に必要とされる定電位測定、アンペロメトリック測定、ボルタンメトリ測定のための完全な電気化学フロントエンドです(図1)。
図1:Analog DevicesのAD5490は、電気化学実験や生物学実験のための完全な電気化学フロントエンドです。(画像提供:Analog Devices)
このICは、皮膚や体のインピーダンス評価、持続的なグルコースモニタリング、バッテリインピーダンステストなどのバイオインピーダンスアプリケーションで一般的な50ピコアンペア(pA、または10-12アンペア)から3ミリアンペア(mA、または10-3A)の広い範囲でセンサ出力を測定できるように設計されています(図2)。AD5490の場合、標準入力バイアス電流は、入力チャンネルの選択に応じて20または80pAです。
図2:AD5490は、この高周波の4線式バイオインピーダンスループのような、生化学や人体の測定に最適です。(画像提供:Analog Devices)
この製品は、133ページに及ぶデータシートからもわかるように、高度で複雑なICです。この回路をディスクリート部品で再現しようとすると、大変な作業になります。このICは、極めて低い入力バイアス電流に加え、アナログ/デジタルコンバータ(ADC)、デジタル/アナログコンバータ(DAC)、電圧リファレンス、スイッチマトリクスなどを備えています。
これだけの機能があるのに、なぜ設計者は使わないのでしょうか。結局のところ、プロジェクトの目的を果たすことができ、苦悩や困難を解消できる既製品があるのであれば、同等の回路を作ろうとするのは愚かなことであり、無責任ともいえるのです。
Analog DevicesのオペアンプADA4530-1
しかし、最高性能の電位計や光センサのように、さらに低い入力バイアス電流を必要とするアプリケーションもあります。Analog Devicesは、「万能なものはない」という認識のもと、入力バイアス電流がフェムトアンペア(fA、または10-15A)レベルのオペアンプADA4530-1を最近発表しました。この製品は、不要な電流が流れる原因となる迷走電位差を防ぐガードバッファも内蔵しています(図3)。
図3:ADA4530-1オペアンプは、フェムトアンペアレベルの入力バイアス電流を特徴とし、望ましくない電流を流す可能性のある迷走電位差に対するバリアとして機能するガードバッファ接続(GRD)を統合しています。(画像提供:Analog Devices)
機能的にはシンプルなこのデバイスにも、52ページに及ぶデータシートが示すように、さまざまな工夫が凝らされています。その入力バイアス電流は、フロントエンドICのAD5490に比べて3桁少なく、約60°Cまでの低温度係数を実現しています(図4)。これらの微妙ながらも重要な属性は、どちらも対象となるアプリケーションに対応する非常に優れた仕様です。
図4:ADA4530-1の入力バイアス電流対温度のグラフでは、55~60°Cまで約0.1fA以下またはそれに近い値を維持しているため、システムの性能を安定させ、誤差を最小限に抑えることができます。(画像提供:Analog Devices)
この製品は超低バイアス電流という1つのパラメータに特化しているため、その属性に最適化された設計、プロセス、製造フローで使用することができますが、ADC、DAC、電圧リファレンスなど、その他の関連機能には適していない場合があります。
まとめ
一般的に、さらなる統合に向かう進行中のトレンドは、ベンダーと設計者のどちらにも利点があります。しかし、ADA5430-1のように、特定の属性に向けて最適化された個々の低レベルブロックが、依然としてその役割を果たしている例もあります。これは、DCからRFにおいて高感度で低ノイズのアナログ回路が優先され、さらにアナログとデジタルの混在、あるいは各種プロセッサやメモリなどのオールデジタル機能が必要なプロジェクトでは特に顕著です。
より統合された製品にするか、あるいは個別のコンポーネントから独自に構築するかを決定する場合は、選択肢が急速に変化しているため、関連するベンダーの最新リリースを確認することが有益です。しかし、設計全体を成功させるためには、地味で、単機能で、高度に最適化された、妥協のないデバイスが不可欠な場合もあるでしょう。
ADA5430-1の場合は、多くの人が恩恵を受ける一方で、関連する回路を自分で作らなければなりません。このトレードオフを慎重に検討し、その挑戦が利益に見合うものかどうかを判断しなければなりません。とはいえ、アプリケーションの要件や競合圧力によって決定される場合もあります。
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