アンテナの革新的な素材と設計がマルチバンドGNSSのジレンマを解決

1970年代後半から1980年代にかけて米国国防総省(DoD)の支援を受けて運用が始まって以来、全地球測位システム(GPS)の役割と用途は飛躍的に拡大しました。もともとは航行とミサイル誘導のみを目的としていましたが、現在では資産の追跡と監視、自律走行車両、農業、ウェアラブルなど、当時の開発者が思いもよらなかった多くの最終用途に統合されています。

米国でのGPSの導入が成功した後、他の国や地域でもGPSと同等のシステムが開発され、運用が開始されました。これを総称して全地球航法衛星システム(GNSS)と呼びます。GNSSには、GLONASS(ロシア)、ガリレオ(欧州連合)、北斗(中国)のほか、QZSS(日本)とIRNSS/NavIC(インド)という2つの地域GNSSシステムが含まれます。

当初のGPS受信システムは車のトランクにぎりぎり収まるほどの大きさでしたが、最新のテクノロジーにより、GNSSコアエンジンは単一の集積回路(IC)に縮小されました。GNSSのタイプに関係なく、これらすべてのシステムには、GNSS衛星のアレイからの非常に低レベルのRF信号を受信するように最適化されたアンテナが必要です。GNSSレシーバのサイズが小さくなり、必要な電力が減ったため、それに応じてアンテナのサイズを小さくする必要がありました。

これは複数のGNSSシステムまたは帯域を処理する必要があるレシーバにとって課題となります。使用中のさまざまなシステムの高低の両方のRF帯域を処理できるアンテナが必要です(図1)。

図1:使用されているさまざまなシステムで定義されているGNSS周波数割り当てと帯域には、重複と分離の両方が見られます。(画像提供:Taoglas Limited)

GNSSの帯域と周波数には次の名称があります。

  • 1,559~1,610MHzは、L1、E1、B1
  • 1,215~1,300MHzは、L2、E6、B3、L6
  • 1,164~1,215MHzは、L5、E5、B2、L3

Lバンドとは、さまざまな衛星が補正信号を送信するために使用する1,525〜1,559MHzの周波数範囲を指すことに注意してください。

広帯域アンテナまたはマルチバンドアンテナの必要性は、20世紀初頭の無線通信の黎明期にまでさかのぼり、一般的には2つのアプローチがあります。 1つは、物理的な「トラップ」またはローディングコイルを使用して、1つの狭帯域アンテナを2つの異なる中心周波数で共振させることです。もう1つの選択肢は、本質的に広帯域性能を実現するように設計された1本のアンテナを使用することです。

これらのソリューションはいずれも、今日の小型システム設計のGNSSアンテナには適していません。トラップ方式では比較的大型のディスクリートインダクタとコンデンサが必要で、広帯域アンテナではゲインや効率などの性能にとって重要な特性が損なわれます。

優れたアンテナを使うアプローチ

Taoglas LimitedInceptionシリーズにより、より優れたソリューションが利用可能になりました。たとえば、HP5354.A(図2)は、位置精度を高めるように設計されたマルチバンドの1,160~1,610MHzのパッシブGNSSパッチアンテナです。この革新的なセラミックのpatch-within-a-patchアンテナは、北斗(B1/B2a)、GPS/QZSS(L1/L5)、GLONASS(G1)、ガリレオ(E1/E5a)帯域に最適化されたゲインを備えています。

図2:HP5354.Aは、デュアルバンド(L1とL5)GNSS性能に最適化された小型の薄型アンテナです。(画像提供:Taoglas Limited)

HP5354.Aのサイズは35 x 35mmで、高さが4mmなので、小型・薄型の設計に最適です。11ピンパッケージは、受信信号インターフェースに3ピン(L1バンド用に2つ、L5バンド用に1つ)を使用し、残りのピンはグランドとして使用します。

マルチフィードHP5354.Aは、70 x 70mmのグランドプレーンで調整、テストされており、優れた放射パターンを備えています。次世代のL1/L5 GNSSに必要な帯域をカバーでき、リターンロス、電圧定在波比(VSWR)、効率、平均ゲイン、ピークゲイン、軸比、位相中心オフセット、位相中心変動、群遅延などの主要な周波数依存パラメータについて、両方の帯域で完全に特性化されています。

Taoglas HP5354.Aの応用

HP5354.Aはユーザー提供のフロントエンドモジュールと組み合わせることができますが、TaoglasはTFM.100B GNSS RFモジュールを使用して低レベルの信号チェーンの開発を簡素化します。この高性能モジュールはL1バンドとL5バンドをカバーし、マルチフィードパッチ用に特別に設計されています。

TFM.100Bには2段の低ノイズアンプ(LNA)が搭載されており、全帯域で25dBを超えるゲインを実現し、ノイズ指数は3dB未満と低くなっています。このモジュールは、低帯域信号経路と高帯域信号経路の両方に表面弾性波(SAW)/LNA/SAW/LNAトポロジを採用しており、GNSS LNAまたはレシーバのオーバードライブによる望ましくない帯域外(OOB)干渉を防ぎます。

TFM.100B内のSAWフィルタは、3dBという低いノイズ指数を維持しつつ、優れたOOB除去性能が得られるように慎重に選択、配置されています。この統合が容易な面実装型デバイスのサイズは20 x 18mmで、1.8~5.5VのDC(VDC)単電源で動作します。

Taoglasは、AHPD5354A評価ボードを提供することにより、HP5354.Aを完全なシステムにさらに簡単に統合できるようにしています(図3)。このボードには、TFM.100B RFプリアンプと、マルチフィードマルチバンドGNSSアプリケーション向けに設計された薄型で高性能な3dBハイブリッドカプラであるTaoglas HC125Aが搭載されています。HP5354.A、TFM.100B、HC125Aは、統合された信号チェーンとして連携して動作します。

図3:AHPD5354A評価ボードは、L1/L5信号用のハイブリッドカプラと、フル機能のRFプリアンプとフィルタを備えており、完全なRF信号チェーンを構成します。(画像提供:Taoglas Limited)

HP5354.Aは、3つのピンを介して2つの直交フィードを行います。2本のピンはL1バンドアンテナ出力用、もう1本のピンはL5バンド出力用です。これらのフィードは、L1バンド用にハイブリッドカプラで組み合わされて最適な軸比が確保され、右側の円偏波(RHCP)信号が生成されてTFM.100Bの対応する入力に送られます。

HC125Aハイブリッドカプラは、このアンテナ(1,559〜1,610MHz)の高いGNSS帯域の動作にのみ必要であることに注意してください。評価ボードのレイアウト図は、ハイブリッドカプラをアンテナピンの近くに配置し、2つの100Ω抵抗を並列に使用して適切に終端する方法を示しています。

まとめ

ユビキタスGNSSは、レシーバの位置を決定するために必要な計算に高度なコアICと高度なアルゴリズムを使用しています。これらのICに生の信号を供給することが、レシーバアンテナから始まるRF信号チェーンの課題です。Taoglas HP5354.Aは小型のデュアルバンド面実装アンテナであり、GNSSの低域周波数帯と高域周波数帯の両方を同時にサポートします。Taoglasハイブリッドカプラおよび低ノイズプリアンプデバイスと組み合わせて使用すると、設計者はGNSSレシーバ用のRFフロントエンドを実装するための容易なソリューションを手に入れることができます。

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著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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