ファン駆動の強制空冷:空気を送り込むか、排出するか?
設計者は通常、強制的でない自然対流冷却を使用することを好みますが、多くの回路基板、シャーシ、システム、および設備は、この単純な方法で提供される風量では十分に冷却できません。むしろ、高温になったコンポーネントやシステムで、必要な熱膨張リリーフを得るために、エンクロージャやシャーシ内に空気を既知の容積と速度で送り込むために、1つ以上のファンが必要となるのが一般的です。
熱と温度を許容上限内に維持するために必要な風量を計算する方法や、その風量を提供するためのファンのサイズを決定する方法については、明快で実用的な良いアプリケーションノートがいくつもありますので、ご覧ください(「リファレンス」の項にある1~3)。決定すべき事項は、必要な風量と風速だけではありません。以下のどちらを使用するかを決定することも含みます。つまり、CUI DevicesのCFM-4010V-070-273(40 × 40ミリメートル、8立方フィート/分(CFM)ユニット)のような大容量ファン(図1の左)を1つ使用するか、同じ物理外形と外観ですが、CFM定格がそれぞれ約半分(4.22 CFM)の、風量が少ないファン(例:CUI DevicesのCFM-4010C-050-195。図1の右)を2つ使用するかを決定することも含みます。
図1:これら2つのファンでは長方形の寸法と全体的な外観は同じですが、左側のファンは8CFMを送り込むのに対し、右側のスリムなファンは約4.22CFMを送り込みます。(画像提供:CUI Devices)
小型のファンは、横に並べて風量を増やすことも、縦に並べて(一方の風量が他方の風量に増し加わるように)圧力を高めることもできます。風量と圧力は関連し合っています。空気の圧力が風量(空気流)の経路の抵抗によって冷却用空気を送り込むからです。
陽圧か陰圧か?
ここで、次のような質問をしたくなっても当然でしょう。「ファンを使って新鮮な空気をユニットに送り込む(陽圧)のが良いのか、それとも、ファンを排気側に置き、そこから熱を持った空気を排出する(陰圧)のが最適な空気流経路なのか」(図2)。
図2:理論的には、空気流経路は「正面から背面へ、下部から上部へ」が望ましいですが、実際の設計や設置の多くでは、このように単純に設計することはできません。(画像提供:voltcave.com)
この質問は非常に単純なので、答えも単純になるのが当然だと思われるでしょう。どちらの方法を選択しても、空気流パターンは同じになります。そこで、煙の軌跡を使って撮影した空気流の写真を見ただけで、どちらの配置が使われているかがわかるでしょうか?
しかし、多くの設計上の問題と同様に、このささやかな質問にも単純な答えがないことがわかっています。むしろ、やや矛盾し合う2つの答えがあるのです。
- 配置は、実際には重要ではない。
- 配置は、状況や、アプリケーションの細目による。
ゲーマーのPCを調査
私はファンを使った強制空冷について調べてみましたが、驚いたことに、公的な学術誌や、それほど公的なものではない学生の論文やプロジェクトでも役に立つものが見つかりませんでした。ただ、多くのゲーマーやPCオーバークロッカがこの問題を調査していることが分かりました(「リファレンス」の項にある4~13を参照)。
これらの愛好家はシステムのクロック速度をかなり強引に引き上げる傾向があるため、熱需要が増加する傾向があるので、驚くことではありません(液体冷却の使用は無視します)。愛好家のレポートやブログは、高度な推測から実際のテストにまでわたりますが、彼らのシステムにはいくつかの興味深い属性があります。
- 通常、ラックキャビネットや密閉型キャビネットに取り付けるのではない、自作の独立したユニットである。
- 生産量が多い従来のシステムほどコスト節約にこだわったシステムではない。
- 入念にメンテナンスされている(「大事にされている」)。
- 筐体の周囲に吸気と排気用のファンを複数配置し、内部で最も必要と思われる場所に冷却用空気を送り込んでいる(図3)。
図3:ゲーミングPCは消費電力が大きいため、大規模な冷却が必要です。通常、複数のファンが周辺部に配置され、あるファンは空気を送り込み、別のファンは空気を排出することで、風量を最大化し、空気流を方向付けることができています。(画像提供:Appuals.com)
これに対し、多くの規格生産の商用ユニットは通常、ファンを一方の側面または2つの向かい合う側面にのみ配置するように制限されており、ラックに取り付けられるか密閉型キャビネットに配置されます。
送り込みと排出の違い
送り込みと排出の違いが重要な理由は何でしょうか。空気流経路や効果だけによるものではなく、ファンのダストフィルタや羽根に埃がたまるという非常に現実的な理由が主な理由です。ファンや空気流経路の物理的な配置にもよりますが、フロントエンドのファンによって空気が送り込まれると、埃がフィルタのスクリーンには大量に、羽根にはより少なく溜まります。その結果、風量が、羽根のエッジに埃が付着した場合の数%から、スクリーンが詰まった場合の2桁台まで、低下します。幸いなことに、ほとんどの設計でスクリーンは比較的簡単に取り外し、清掃することができます。
一方、ファンが排気口にあって空気を排出する場合は、吸気側にフィルタがないため、内部のコンポーネントに埃が溜まりやすくなります。その結果、コンポーネント上に断熱ブランケットが形成され、コンポーネントと通過する空気との間の熱抵抗が増加して、空気流の冷却効果を低下させます。さらに、一般的なコンピュータ用ケースや製品の筐体には、ファンが埃を吸い込む可能性のある小さな開口部や割れ目、隙間などが多く場合が多いため、状況はさらに複雑になります。
排気ファンで空気を排出するのが好きなゲーマーの中には、空気が入るPCケースの周りにフィルタを付けて埃の問題を解決しようとする人もいましたが、ケースには小さな開口部がたくさんあるため、効果はほとんどありませんでした。また、もう一つ懸念されたのは、大型のコンポーネントでは、空気を押し出すのではなく排出することで局所的な「真空ゾーン」ができ、その部分の冷却が進まなくなることでした。
これに対し、フィルタでろ過した後の空気をファンで送り込めば、内部のコンポーネントはきれいなまま保たれます。他方、ファンは、空気を送り込めばコンポーネントの熱負荷を増大させますが、空気を排出すればコンポーネントの熱負荷を増大させなくなります。つまり、混沌と禁忌の世界になっています!
そこで、私は次のように考えました。数ある数値流体力学(CFD)モデリングパッケージの中から高度なものを使って、送り込みと排出がトレードオフになる空気流の状況をモデル化してみるというアイデアはどうでしょうか(図4)。
図4:CFDモデリングは、空気流とその結果生じる温度状況を詳細に解析できますが、送り込みと排出のトレードオフの問題(質問)には解答できないようです。(画像提供:SEACAD Technologies)
このアイデアは十分に論理的に思えるにもかかわらず、関連する数十件の解析を調べても、このアイデアを実行して結果を発表した人を見つけることはできませんでした。熱モデリングおよび冷却アプリケーションのベンダーにさえ、このトピックに関するものは見当たりませんでした。これはかなり予想外でした。
送り込みと排出のトレードオフの問題と、その後の答え探しの結果、私は以下の3つの結論に達しました。
• 第一に、信頼の置ける一般的な答えがないため、一方のアプローチが他方より優れているという強力な証拠がない限り、送り込みと排出に関する物理的な配置のうち、理にかなっている方を行って構わない。
• 第二に、この問題の研究を支援してくれる存在が、どこかにいるはずなので、このような研究を行うための助成金を探すのも良い。そのような助成金を出してくれる候補は、熱モデリングのCFDベンダー、ファンサプライヤ、あるいは国防総省(軍にとって冷却は非常に大きな問題)などです。
• 第三に、多くのゲーマーが行っているように、可能であれば空気流経路の両端(一端は送り込む側、他端は排出する側)にファンを配置することを検討する。このようにすれば、自分の選択が正しかったかどうか不安になることもなく、風量とその冷却効果を同時に増大させることができます。また、2つのファンによる騒音の合計は、1つのファンによる騒音の2倍とは感じられず、わずか3デシベル(dB)の増加にとどまるため、騒音の増加を心配する必要はありません。これは、多くの点でWin-Winの解決策だと思われます。
まとめ
多くの設計では、自然対流だけでは不足する冷却風を強制的に送り込むために、ファンが必要になります。その際に必要となるのは、十分な風量を確保するためにファンのサイズを決定することと、ファンの配置です。それらを決めても、ファンを使って、シャーシ内や回路基板全体に空気を送り込むか、それらから空気を排出するかを決定するのは、難しい問題です。トレードオフの関係があるのと、明確になっていない部分も残っているためです。
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リファレンス
- CUI Devices、「強制空冷用のファンを選択する際の重要な考慮事項」
- CUI Devices、「ファンによる温度管理 - あなたが考えるよりも考慮すべきことが多くあります」。
- CUI Devices、「適切なDCファンを選択するためにエアフローの基礎を理解する」
- Kitguru、「ファン構成の重要性:送り込み、排出、送り込み/排出を比較するテスト」
- Overclock.net、「空気を放熱フィン全体に送り込むか、放熱フィン全体から排出するか?」
- Tom's Hardware、「液体冷却 - 空気をケース内に送り込むべきか、ケース内から排出すべきか?」
- Tech Radar、「CorsairのファンとPCケースのエキスパートがPC冷却の神話を終焉"
- Ars Technica、「送り込みと排出の比較」
- How-to Geek、「風量と冷却効果を最適化するためのPCファン管理方法」
- Smart Buyer、「PC冷却:PCケースのファンのセットアップ方法」
- Quora、「CPU冷却用ファンの向きで違いが出るか?」
- Otosection、「PCケースの空気流:陽圧と陰圧とは」
- Appuals、「ゲーミングPCの空気流を最適化し、維持する方法」

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