熱管理入門
2021-12-14
電子機器の高密度化および高熱化に伴い、多くのシステムで何らかの熱管理手段が必要となります。熱管理ソリューションの開発はすべての設計に必要というわけではありませんが、主要部品を高温で損傷させないためには、熱がどのように発生し、移動し、除去されるのかという基礎知識を得ておくことが不可欠です。突き詰めると、熱管理は最終設計での応急処置としてではなく、設計の初期段階で考慮される必要があります。
熱管理の基礎
電子システムへの要求が高まっています。熱を伝達して部品を冷却する方法には、理論として、伝導、対流、放射の3つの方法があります。
おそらく最も効果的なエネルギー伝達方法である伝導では、2つの物体の物理的な接触によって熱エネルギーを伝達し、温度の低い方の物体が温度の高い方の物体からエネルギーを自然に吸収します。一般的に、この方法では、最大のエネルギーを移動させるのに必要な表面積を最小限に抑えられます。
図1:伝導による熱の移動。(画像提供:Same Sky)
次に、対流は空気の動きによって熱エネルギーを再分配します。冷たい空気が高温の物体のそばを通過する際、その物体から熱を奪い、デバイスを通り抜けながら熱を運び去ります。この方法は、自然な空気の対流またはファンによる強制的な空気の対流によって実現可能です。
図2:対流による熱の移動。(画像提供:Same Sky)
3つ目の放射とは、エネルギーを電磁波として放出することです。他と比較すると、この方法は効果が薄く、ほとんどの熱計算では無視されます。なぜなら、この方法は一般的に、伝導や対流を選択できない真空アプリケーションにのみ適用されるからです。原理的に、放射とは、高温の粒子が振動するときに生成される電磁波によって熱が伝達されることです。
図3:放射による熱の移動。(画像提供:Same Sky)
前述の3つの基本的な熱概念とは異なりますが、熱抵抗(熱インピーダンス)も重要です。熱インピーダンスは、物体間の熱伝達の有効性を定量化するもので、熱管理ソリューションの設計に広く使用されています。簡単に言えば、熱インピーダンスが低ければ低いほど、エネルギー伝達が向上します。熱インピーダンスと所定の周囲温度を利用することで、特定の温度に達する前にどれほどの電力が消費されるかを正確に計算できます。
熱管理コンポーネント
電子システムの冷却には、ヒートシンク、ファン、ペルチェモジュールという3つの一般的なアプローチがあります。それぞれ単独でも使用できますが、組み合わせることでより高い効果が得られます。
ヒートシンクには、さまざまな形状やサイズがあります。ヒートシンクは、装着されたデバイスと冷却媒体(通常は空気)との間の熱インピーダンスを減少させて対流冷却の効果を高めるために使用されます。対流の表面積を増やすことで冷却を実現し、一般的な半導体よりも熱インピーダンスが低い材料で作られます。ヒートシンクは低コストで、故障や消耗がほとんどありませんが、ヒートシンクが冷却する電子システムの体積は大きくなる傾向があります。受動部品であるヒートシンクは、放散された熱エネルギーをより効率的にシステムから取り除くために、しばしばファンと組み合わされます。ファンやブロワは、ヒートシンク上に新鮮な冷気の流れを定常的に作り、ヒートシンクと冷気の間の温度差を維持することで、効率的な熱エネルギーの伝達を維持します。
ファンやブロワには、多くの異なる電源オプションを備えたさまざまな形状やサイズがあります。主要な仕様は、生成できる風量で、一般的に立方フィート/分(CFM)で測定されます。ファンやブロワの中には、フィードバックベースの制御システムの一部として、現在の冷却ニーズに合わせて速度を調整できる制御機能を備えたものもあります。ファンは冷却効果の向上に役立ちますが、電源や、場合によっては制御回路が必要になるため、設計者は注意が必要です。ヒートシンクとは異なり、ファンはノイズを生じたり、可動部品があるために故障しやすくなったりすることがあります。
ペルチェデバイスは、ペルチェ効果を利用してモジュールの一方の面から他方の面へ熱を伝達させる半導体部品です。ペルチェデバイスは、熱エネルギーを移動させるために、エネルギーの供給が必要です。実際、システムが加熱されるため、ヒートシンクやファンと併用するのが最適です。ペルチェモジュールは正確な温度調節を実現し、デバイスを周囲温度以下に冷却することができます。ヒートシンクと同様に可動部品がないため、モジュール自体は柔軟で堅牢ですが、やはりファン、ヒートシンク、制御回路などと併用する必要があり、コストや複雑さが増大する可能性があります。このような理由から、多くの場合、ペルチェモジュールは、高密度に実装された電子システムの中心部から熱エネルギーを抽出するような、最も要求の厳しいアプリケーションにのみ使用されます。
熱要件の計算
最終的な設計要件が何であれ、確立されたアプローチを使って、電子システムの効果的な冷却ソリューションを設計することができます。ここでは仮定の問題とソリューションを用いて、技術者がどのように統合的な熱管理ソリューションを構築できるかを説明します。
この例では、10mm x 15mmのパッケージに収められた、定常状態で3.3Wの熱を発生するデバイスを使用します。このデバイスの動作環境の周囲温度は50℃で、理想的な動作温度は40℃となっています。システムのいかなる部分も100℃を超えてはなりません。
図4:ペルチェモジュールの性能グラフ(CP2088-219データシートより)(画像出典:Same Sky)
これらの仕様は、デバイスの温度を周囲より低くするためにペルチェモジュールが必要であることを意味します。Same Skyは、3.3Wの熱エネルギーを除去し、デバイスの温度を周囲より10℃低くすることができるマイクロペルチェモジュールCP2088-219を提供しています。ペルチェモジュールは、デバイスとクーラーの間の熱インピーダンスを低減する熱伝導材料(TIM)であるSF600Gを使用してデバイスに取り付けられています。CP2088-219のデータシート(図4)によると、ペルチェモジュールは2.5Vで1.2Aを必要とするため、その動作によってシステムに3Wの熱エネルギーが加わることになります。
ペルチェモジュールから合計6.3Wの熱エネルギーを除去するために、反対側にヒートシンク(HSS-B20-NP-12)を取り付け、再びSF600G TIMをインターフェースとして使用します。このTIMの面積は8.8mm x 8.8mmで、熱抵抗は1.08℃/W弱です。
このヒートシンクの熱抵抗は3.47℃/Wで、ヒートシンクを通過する風量は200リニアフィート/分(LFM)と仮定します。
これにより、TIMとヒートシンクを合わせた熱抵抗は4.55℃/Wとなります。
200LFMの安定した風量を得るために、CFM-25Bシリーズのファンを使用することができます。
このセットアップでは、冷却するデバイスをペルチェモジュールにTIMで接続します。ペルチェモジュールの上面は、別のTIMを介してヒートシンクに接続されており、アセンブリ全体が50℃の空気の200LFM内に存在しています。
図5:ペルチェデバイス、ヒートシンク、2つのTIM層、およびファンを使用した熱管理ソリューション(画像出典:Same Sky)
このデータを使用して、デバイスの定常温度を計算することができます。ペルチェモジュールは、冷却側を40℃に維持しますが、その代償としてアセンブリに3.3Wの熱が加わります。ヒートシンクは、6.3Wの熱を50℃の気流環境へ放散する必要があり、ペルチェモジュールと周囲空気の間の合計熱抵抗は4.55℃/Wとなります。6.3Wに4.55℃/Wを掛け合わせると、周囲に対する上昇温度が計算されます。この場合は28.67℃、合計78.67℃となります。これは100℃の要件を大きく下回るもので、結果的にシステムのニーズを満たす熱管理ソリューションとなりました。
まとめ
冷却設備、HVAC、3Dプリント、除湿機などの民生用アプリケーションで、熱管理はすでに欠かせないものとなっています。また、DNA合成用サーマルサイクラーや高精度レーザーなど、科学用および産業用アプリケーションでも熱管理が使用されています。ヒートシンク、ファン、ペルチェモジュールは、複雑な電子システムを熱設計上の限界内に留めておくのに役立ちます。Same Skyは、この重要な選択プロセスを簡略化するために、さまざまな熱管理コンポーネントを提供しています。
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