電気エンジニアリングにおける計算流体力学の理解

著者 Jeff Smootは、Same Skyでアプリケーションエンジニアリングおよびモーションコントロール担当副社長を務めています。

電気エンジニアリングの領域では、熱伝達と冷却システムの管理は、信頼性と効率を確保するために極めて重要です。推測や希望は現実的ではなく、試行錯誤の方法はコストがかかり非効率的です。熱を流体として概念化することで、技術者は正確で現実的なモデリングアプローチを採用することができます。計算流体力学(CFD)は、熱管理の課題を解析し、解決するための重要なツールとして登場し、物理的なリソースを投入する前に、チームが解決策を検討し、リスクを軽減することを可能にしています。この記事では、CFDの仕組みやエレクトロニクス設計における利点など、CFDの一般的な概要を説明します。

CFDの基礎

CFDは、流体力学と熱伝達を支配する複雑な非線形偏微分方程式を解くために数値アルゴリズムを使用します。これらの計算によって詳細な3次元モデルが作成され、物理システムの空間的および時間的ダイナミクスが正確に表現されます。この方法により、技術者は実験の立ち上げに高いコストをかけることなく、現実に深く理解することができます。

CFDは、流体と固体の相互作用をシミュレートし、周囲の流体内の対流挙動を評価することで、熱解析を一変させます。この技術は、熱が伝わる3つの主要な方法である伝導、対流、輻射を流体シミュレーションに統合します。その結果、総合的な熱挙動評価が可能になり、電気エンジニアリング用途では不可欠なものとなります。

ほとんどのCFDソフトウェアは、熱伝達、気流、相変化などの現象をモデル化する汎用アプリケーション用に設計されています。しかし、熱伝達に特化した特殊なCFDツールもあり、特に電子デバイスにおいては、熱挙動の正確なモデリングが性能と信頼性の確保に不可欠です。汎用のCFDツールとは異なり、これらのニッチなソリューションは、特定のアプリケーションに機能を合わせることでプロセスを合理化します。たとえば、専用ソフトウェアでは、集積回路パッケージ、回路基板、ヒートシンク、ヒートパイプ、ファンなどをモデリングすることができます。主な機能には、計算されたシステム抵抗に基づいて冷却ファンの動作点を決定し、不必要な電力消費なしに十分な空気流を確保することが含まれます。追加のCFD熱解析データには、以下のものが含まれます。

  • 流れ場およびパターン:電子部品周辺の気流挙動の理解
  • 熱流束率:表面全体の熱伝達強度の定量化
  • ホットスポットの特定:局所的な過度の熱領域の検出
  • 温度分布:システム全体の温度勾配のマッピング
  • 熱伝達率:冷却メカニズムの効率評価

このデータは、技術者が効果的な熱放散のために設計を最適化し、冷却戦略を強化し、熱障害を防止するのに役立ちます。これらを深く理解することは、システムの信頼性を維持し、電気機器の寿命を延ばすために不可欠です。

CFD解析の例の画像図1:CFD解析の例。(画像提供:Same Sky

CFDの仕組み

計算流体力学は、質量保存、運動量保存、エネルギー保存という物理学に由来する3つの基本原則に基づいています。これらの原則は、ナビエ・ストークス方程式によって数学的に表現されます。CFDモデルがこれらの方程式に基づいて正しく構成され、解に収束するとき、それは本質的に物理学の基本法則を満たし、結果が正しいことを保証します。

標準的なCFD解析では、通常、次の3つの主要なプロセスが行われます。しかし、予備処理と後処理を追加することで、解析の包括性と精度を大幅に向上させることができます。

3つの主要な処理工程があるCFDの画像図2:CFDには、次の3つの主要な処理工程があります。(画像提供:Same Sky)

CFD解析を開始する前に、まず問題を偏微分方程式系として定式化する必要があります。この基礎段階は、研究対象の物理現象を記述する支配方程式(通常はナビエ・ストークス方程式に基づく)を定義するため、非常に重要です。この工程によって、数学モデルが問題の物理的挙動を正確に表現していることが確認され、CFD解析の出発点となります。

  1. 前処理段階:前処理段階では、CFDソフトウェアが偏微分方程式を離散代数方程式に変換します。この段階での重要な役割を果たすのがメッシュ生成で、計算領域を構造化要素または非構造化要素(三角形、四角形、四面体など)に分割します。

    流れ場の重要な領域、特に境界付近や高勾配領域でメッシュ要素のサイズを精緻化することで、物理現象をより正確に表現することができます。この段階では、シミュレーション結果の質と精度に直接影響します。

  2. 処理段階:解法段階では,CFD シミュレーションソフトウェアが,前処理段階で生成された代数方程式を数値的に解きます。このシミュレーション工程は、計算時間と精度を決定する以下のようないくつかの要因に大きく影響されます。
    • プロセッサ速度やメモリなど、コンピュータのハードウェア性能
    • 計算速度を最適化するベクトル化と並列化技術
    • 効率的なデータ処理を実現するデータ構造
    • 収束とシミュレーションの完了を定義する停止基準
    • メッシュサイズと品質、過渡シミュレーションの時間分解能
    • コードの効率と実行に影響するプログラミング言語

    また、技術者はさまざまなシミュレーションパラメータを調整し、特定の用途に最適な解析を行うことができます。

  3. 後処理段階:後処理段階では、シミュレーション結果の分析と解釈に特化して行います。CFDシミュレーションからデータを抽出し、画像、グラフ、表で可視化することで、さまざまなパラメータに関して理解を深めることができます。これらの結果に基づき、技術者はさらなる試験、最適化、再設計が必要かどうかを判断することができます。効果的な後処理は、設計の検証、システム性能の向上、問題のトラブルシューティングなど、結果を伝達し、実行可能な工程を特定するために非常に重要です。

熱的ホットスポットの解決

CFDシミュレーションは、特に熱的ホットスポットの検出が困難な複雑な流れシステムにおいて、物理実験と比較して高い精度と貴重な知見を提供します。熱的ホットスポットとは、周囲よりも温度が著しく高い局所的な領域のことです。これらのホットスポットに対処しなければ、時間の経過とともに熱が蓄積し、システムの誤動作や故障、製品の回復不能な損傷といった深刻な結果を招く可能性があります。これらの問題は、電子デバイスの寿命を損ない、ユーザーの安全を脅かす可能性があります。

CFD熱シミュレーションを採用することで、技術者は製品設計内の熱分布を正確に予測し、可視化することができます。この機能により、潜在的な熱的ホットスポットを早期に特定することができます。この情報があれば、熱放散機構の強化、材料特性の最適化、空気流の経路の再設定など、的を絞った設計変更を実施し、過剰な熱の蓄積を防ぐことができます。その結果、システムは熱ストレスに強くなり、損傷の可能性を低減し、動作寿命を延ばすことができます。

CFDによるコストと時間の節約

技術者は、より高性能な電子製品の開発を常に目指していますが、量産に踏み切るかどうかの判断は、多くの場合、厳しい実機試験の結果次第です。現代のエレクトロニクスの設計工程はますます複雑になっており、製品は、よりコンパクトになり、試作品1つを開発するにも多大な時間とリソースの投資が必要になります。試作品ができあがると、熱ひずみ試験を行い、耐久性、物理的特性、実際の性能を評価します。これらの試験に合格した試作品だけが量産に進み、失敗した場合は初期投資が完全に失われます。

CFDは、電子製品の仮想モデル上で実環境のシミュレーションを可能にする強力な代替手段となります。CFDにより、技術者は設計の熱伝達解析を行い、熱問題を特定し、実際に試作品を作らなくてもモデルを改良することができます。このようなシミュレーション工程を繰り返すことにより、流れのパターンや熱分布の詳細な視覚化など、正確な結果が得られ、従来の物理的な試験よりも複雑な流れや熱伝達のメカニズムを深く理解することができます。

まとめ

CFDシミュレーションを活用することで、技術者は製品設計を効率的に最適化し、物理的な試作にかかる時間とコストを削減することができます。このアプローチは、失敗のリスクを最小限に抑え、開発プロセスを加速し、性能と信頼性を向上させた最終製品を量産できるようになります。CFDをどこから、どのように始めたらよいかについてお困りの場合は、Same Skyの熱設計サービスと幅広い熱管理コンポーネントがサポートいたします。

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著者について

Jeff Smootは、Same Skyでアプリケーションエンジニアリングおよびモーションコントロール担当副社長を務めています。

Same SkyのJeff Smootによって提供された記事です。