外部の専門知識の活用:スマート設計のコンプライアンス戦略

数か月前、私のデスクトップPCの電子メールアプリケーション(Microsoft Outlook)がサーバとの接続を突然拒否し、代わりに数字のエラーメッセージを返してきました。「私は技術者じゃないか。これくらい自分で修復できなければ」と思いました。エラー番号で検索すると、それはごく一般的なエラーであることが分かりました。各サイトには、エラーの対処方法について全部で十数個以上の提案がありました。分かりきった提案(基本設定が損なわれていないかを確認する)から、難解な提案(オペレーティングシステムの中心部まで深く掘り下げる)、リスクを伴う提案(電子メールアカウントを削除してから再構築する)までさまざまでした。それらの約半分を試しましたが、さまざまな理由で残りの提案は実行できませんでした。早い話が、時間を費やした努力もむなしく、私には修復できませんでした。

このエラーに20~30時間を費やした後で、最終的に、以前は考えられなかったことを実行しました。インターネットに接続し、評判の良いヘルプサービスの有料サポートを依頼したのです。彼らは私のPCにリモートでアクセスし、20分以内に問題を解決しました。その時点で、問題が何であったかを知りたくありませんでしたが、それは非常に手頃な金額であり、こちらでさらに努力することなく修正が完了しました。

それは、つらい経験が教えてくれる技術的教訓を再び思い出した瞬間でした。他者の専門知識を活用することが最も賢明である場合、プライドを捨てることをためらわないでください。特定の問題を解決したり、そもそも問題を予測して回避するために専門のコンサルタントを雇ったりする場合であっても、そうするべきです。

今日の設計における現実を見てください。ほぼすべてのプロジェクトや製品が、マーケティング要件によって定義されているだけでなく、数多くの規制基準によっても制限されています。性能、安全性、および社会政策目標といった複数の観点にわたって完全に準拠しています。これには、以下が含まれます。

  • 高レベルの技術規格:例としては、IEEE 802.xや医療機器の性能認定を満たすことが挙げられます。
  • 電気的安全規格:一般的に、電圧レベルとともにこれらの重大度が増加します。
  • 医療機器安全規格:主に一般的な電気規格と関係していますが、さらに厳格です。
  • 機械的安全規格:身体的危害や特定エリアへのアクセスを防止します。
  • エネルギー効率規格:これらはより厳格化され、低電力AC/DCアダプタなどの小型製品にも影響を与えるまでになっています。
  • EMIおよびRFI規格:ノイズ生成と感受性の両方をカバーします。
  • オーディオ規格:アラームや警告の音量の大きさ、通常動作時の静粛性、さらに特定のアラート音を定義します。
  • 信頼性評価とさまざまなエンドアプリケーション向けの対策。
  • さまざまな種類の製品警告ラベルおよびステッカー、その記載内容、サイズと配置を定義します。
  • もちろん、車載用、軍事/航空宇宙用、および他のアプリケーション用の多くのエンドユーザー規格にも対応します。

これらの安全規格のほとんどに法的拘束力があり、準拠しないまま製品を販売または流通させることはできません。これらの規格には多くの場合、評価方法(テスト機器、刺激、反応、データ分析など)を指定する詳細が含まれます。これらの規格の多くを世界的に統一化する傾向がありますが、国や地域間で多くの例外やばらつきもあります。それは、複雑で多層的なシナリオです。

ほぼすべての製品が満たす必要のある規格が多くあり、それらの多くで重複や矛盾が存在することを考えると、製品が実際に承認されて市場にリリースされるのは驚くべきことです。時折、私は今日の技術者の状況を、ジョナサン・スウィフトの古典作品「ガリバー旅行記」の主人公に似た立場になぞらえざるを得ません。リリパット人が登場する部分では、ガリバーは小さな生き物を気にも留めずに大股で歩く巨人でしたが、ガリバーが眠っている間に彼らは多くの糸で縛り始め、やがて動けなくしてしまいます(図1)。(これは、「千の切り傷による死」または「徐々に近づく死」と呼ばれることがあります。)

図1:ガリバーとリリパット人(1726年のイラストを参照)のように、多くの場合、現代の設計者は義務付けられたコンプライアンスのために大小無数の規格によって制限されながら、優れた製品を生み出すことを期待されています。(画像提供:Fine Art America/Mary Evans Picture Library)

電源から開始

部品の課題について洞察を提供するベンダーサイトは、良い出発点です。それは、通常これらのサプライヤは規制基準を注意深く調査し、製品にも取り込んでいるからです。投稿される内容は、「UL認証済」と「UL認定済」などの一般用語の違いといった小さなトピックから始まります(図2)。

図2:「UL認証済」と「UL認定済」の意味やロゴの違いなど、規格や指定には多くの機微があります。(画像提供:Triad Magnetics)

始めるのに適しているのは、AC/DC電源です。たとえば、15V/50WのユニットであるCUI Inc.VOF-50-15といった電源は、幅広い適用規格を満たしています(図3)。これらの規格には、IEC 60950(安全性)、EN 55022、EN 61000、およびその他(EMI/EMC)が含まれます。これは、MIL-HDBK-217Fに基づく平均故障間隔(MTBF)によって特徴付けられます。

図3:VOF-50-15のAC/DC電源(15V/50W)は、関連するすべての国際規格を満たしており、基本的な安全性、EMI/EMC、およびMTBF評価をカバーしています。(画像提供:CUI Inc.)

多くの認証を受けているにもかかわらず、IEC 60601-1-11:2015に基づく追加の絶縁と非常に低いリーク電流が必要なため、この電源は医療アプリケーションでは受け入れられません。より適切な選択肢は、CUI VMS-40シリーズの電源です。たとえば、VMS-40-24(24V、40W)はIEC医療機器規格も満たしています(図4)。

図4:VMS-40-24(24V、40W)のAC/DC電源は、基本的な安全性、EMI/EMC、およびMTBFをカバーする関連国際規格に加え、 医療用電源向けのIEC 60601-1-11:2015規格も満たしています。(画像提供:CUI Inc.)

AC/DC電源の認証が製品と最終承認に影響を与えるコンプライアンス上の唯一の懸念事項である場合、この設計を先に進めることができます。ただし、承認済みまたは準拠した部品を使用することは重要ですが、全体的な設計が合格するとは限りません。たとえば、部品やボードの沿面距離/クリアランスには、電源のコンプライアンスとは無関係の最低寸法があります。他にも、多くの規格が同時に適用されます。

どの規格がどの程度適用されるかを判断することは、それ自体が課題です。コンプライアンスの専門家は、規制の迷路をうまく切り抜け、それらの判断を下し、優先順位を付け、避けられない重複や矛盾を管理するように支援できます。適切な専門家(スペシャリスト)は、沿面距離およびクリアランス距離などの明白なものであれ、RFI/EMIエミッションの最小化などの分かりにくいものであれ、設計を始める前に潜在的な問題領域を特定するのを支援できます。RFI/EMIエミッションの最小化などの場合、専門家は問題の発見とソリューションの提案に加え、シールド、フェライトビーズ、バイパスといったアプローチ間のトレードオフの比較において現場の取り組みをガイドできます。

結論

ベンダーブログやアプリケーションノートは、あらゆる設計に影響を与える複数の技術規格および規制要件の複雑さやコンテキストを理解するために重要な最初のステップです。ただし、コンプライアンスに関連した多面的な問題は、複雑で絡み合っています。社内リソースが利用できない場合、設計サイクルの初期段階で経験豊富な社外コンサルタントを招くことで、コンプライアンス関連プロジェクトの問題を最小化できます。

お勧めの記事およびブログ:

「CUI IEC 62368-1準拠の電源」

https://www.digikey.jp/ja/product-highlight/c/cui/iec-62368-1-certified-power-adapter

「IEC 62368-1への移行の準備:ICTおよびAV機器向けの新しい製品安全規格」

https://www.digikey.jp/ja/articles/techzone/2019/apr/iec-62368-1-is-on-its-way-the-new-safety-standard-ict-av-equipment

「医療機器用電源および医療機器設計規格IEC 60601-1」

https://www.digikey.jp/ja/ptm/c/cui-inc/medical-power-supplies-and-the-iec-60601-1-medical-design-standards?pn_sku=102-4276-ND&part_id=7388285

「PUI AudioスピーカおよびIEC 60601-1-8:適切なスピーカの選択方法」

https://www.digikey.jp/ja/pdf/p/pui-audio/pui-audio-speakers-and-iec-60601-1-8

「聴覚的アラームを医療用モニタリング機器に適切に実装する方法」

https://www.digikey.jp/ja/articles/how-to-properly-implement-audible-alarms-in-medical-monitoring

「回路保護製品の概要」

https://www.digikey.jp/ja/ptm/l/littelfuse-inc/circuit-protection-product-overview/tutorial

「お静かに!警報は追加して構いませんが本当に必要なものだけにしてください」

https://www.digikey.jp/ja/blog/quiet-please-go-ahead-and-add-your-alerts

「医療機器用電源の安全性:AC/DC究極の課題?」

https://www.digikey.jp/ja/blog/medical-supply-safety-the-ultimate-ac-dc-challenge

「適切な部品を選び、応用することで、医療用機器、ユーザー、患者を保護する方法」

https://www.digikey.jp/ja/articles/how-to-select-and-apply-the-right-components-to-protect-medical

「新しいIEC/UL IEC-62368消費者製品の安全要求事項を満たすには適切な電源が重要」

https://www.digikey.jp/ja/articles/techzone/2019/dec/the-right-power-supply-to-meet-the-new-iec-ul-iec-62368-safety-mandate

その他の参照資料

1 – Triad Magnetics。「UL認証済とUL認定済」

https://info.triadmagnetics.com/blog/ul-listed-vs-ul-recognized

2 – CUI Inc.、「IEC 60601-1-2第4版:知るべきこと」

https://www.cui.com/blog/medical-60601-1-4th-edition

3 – CUI Inc.、「IEC 60601-1:電源用医療設計基準」

https://www.cui.com/catalog/resource/2480

4 – CUI Inc.、「医療機器規格IEC 60601-1の第4版に対する準備をしよう」

https://www.cui.com/news/in-the-news/be-prepared-for-the-4th-edition-of-the-iec-60601-1-medical-standard

5 – Minntronix、「沿面距離およびクリアランスを早期に計算することで後の設計問題を回避する」

https://www.minntronix.com/application/files/2914/5948/1301/CreepageandClearance.pdf

6 – Tempo Automation、「PCBの沿面距離およびクリアランス規格を理解する」

https://www.tempoautomation.com/blog/understanding-pcb-creepage-and-clearance-standards/

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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