BLDCモータのセンサレスフィールド指向制御およびInfineon製品の利用

電気モータは、私たちの家や職場、車の中など、あらゆる場所で使われています。たとえば一般的な最新の自動車では、平均で約35個のモータが車両の各所に使われています。標準的なDCモータとブラシレスDC(BLDC)モータはいずれも、燃料ポンプからウィンドウ昇降装置まで幅広い用途に使われています(図1)。

図1:DCモータとブラシレスDC(BLDC)モータの一般的な用途。(画像提供:Infineon)

電気自動車やハイブリッド電気自動車が増えるにつれて、1台の車に使用されるモータの数も増える傾向にあります。DCモータとBLDCモータは自動車以外にも、多くの産業用オートメーション、制御、ロボティクスなど幅広い用途に使用されています。

BLDCモータは、ブラシ付きDCモータよりも性能的に優れるため、一般的により要求の厳しい用途に使用されます。BLDCモータには、DCモータに比べて高効率、長寿命、高トルク/重量比という特長があります。BLDCの短所は、コストが高く、追加のコントローラ回路が必要な点にあります。

個人的な話になりますが、つい最近、電池駆動式のドリルとインパクトドライバをブラシ付きDCモータからブラシレスDCモータの製品にアップグレードしました。トルクと電池寿命が格段に向上して、出費に見合う価値がありました。

BLDCモータ

BLDCモータは、従来の標準的なDCモータのバリエーションの1つです。基本的な違いは、BLDCモータの場合、機械的なブラシではなく電子的な方法で転流を行うことです。BLDCモータではローターに永久磁石を使用しており、ステータには極性に対応する巻線が取り付けられています。制御回路を使用して巻線に通電し、回転磁界を発生させます。モーションとトルクは、周回するステータ磁界にローター磁石が合わせようとする作用によって発生します。

センサレスフィールド指向制御(FOC)

センサレスフィールド指向制御(FOC)は、BLDCモータの回転速度やトルクを制御する1つの方法です。フィールド指向制御(ベクトル制御とも呼ばれる)とは、3相正弦波変調を生成する技法であり、その周波数と振幅を制御できます。計算によって3相信号を、制御が容易でモータ制御回路に実装しやすい2相に変換します。センサレス制御では位置センサを使わず、逆起電力(BEMF)を測定してローターの位置を判定します。

センサレスFOCをマイクロコントローラに実装

センサレスFOCを実装するには、信号を測定して数値計算を行う必要があります。必要な性能とペリフェラルセットを備えたマイクロコントローラは、この機能の実装に適しています。InfineonTLE9879QXA40はシングルチップの3相モータドライバSoCで、Arm® Cortex®-M3コアを統合しています(図2)。

図2:TLE9879xのアプリケーションブロック図。(画像提供:Infineon)

TLE9879xは、6個の外部電源NFETによる3相モータ駆動に最適化された6つの完全統合NFETドライバ、低電圧動作を可能にするチャージポンプ、最適なEMC動作のためのプログラム可能な電流と電流スロープ制御を備えています。このペリフェラルセットには、電流センサ、PWM制御用キャプチャ/コンペアユニットと同期した逐次近似型ADC、16ビットタイマが含まれています。また、デバイスとの通信を可能にするLINトランシーバが統合されており、複数の汎用I/Oも備えています。さらに、外部負荷への電圧供給用にオンチップのリニア電圧レギュレータを搭載しています。

InfineonのTLE9879QXA40は、BLDCモータのフィールド指向制御を実装するのに適したソリューションです。また、高性能でコスト効率の良いBLDCモータドライバを最小の基板スペースで実装するための性能と機能セットも備えています。FOCの理論とそのアルゴリズムの実装方法については、詳細なアプリケーションノート「組み込みパワーSoCによるセンサレスフィールド指向制御」を参照してください。

使用方法

Infineonの低価格なBLDC_SHIELD_TLE9879評価ボードを使うと、センサレスFOCを容易に導入できます。このボードはTLE9879QXA40をベースにしており、Arduino互換ベースボードと組み合わせてBLDCモータを駆動するように設計されています。Arduino Unoおよび互換BLDCモータと組み合わせれば、モータを起動して回転させるまでに1時間もかからないでしょう(図3)。

図3:Arduino Unoベースボードに取り付けられたBLDC_SHIELD_TLE9879。(画像提供:Infineon)

BLDC_SHIELD_TLE9879の回路図、Arduinoライブラリ、および関連文書は、https://github.com/Infineon/TLE9879-BLDC-Shieldから入手いただけます。このブログに関するリサーチでは、Unoシールドを使い自分でBLDCモータの駆動を理解するために時間を費やしました。設定手順、テストコード、マニュアルの参照先については、DigiKeyのTechForumに掲載された私の「Infineonの3相モータドライバシールドTLE9879QxによるBLDCモータ駆動」プロジェクトをご覧ください。

アプリケーション開発

TLE9879Qxをベースにする設計と開発について知識を深めたい方のために、Infineonは他にもリソースを提供しています。まず、BLDCシールドに内蔵されるファームウェアのソースコードが、Keil uVisionプロジェクトファイルとして提供されています。このプロジェクトファイルは、Infineonが提供するソフトウェアダウンロード「TLE9879QXA40搭載Arduino向けBLDCシールド」に含まれており、シールドプロジェクトページのリンクBLDC_SHIELD_TLE9879からダウンロードできます。また、BLDCシールドの他に、REF_WATERPUMP100Wポンプのリファレンス設計、REF_ENGCOOLFAN1KWファンのリファレンス設計がDigiKeyから提供されています。

結論

InfineonのBLDC_SHIELD_TLE9879評価ボードを利用することで、BLDCモータの駆動に用いるセンサレスFOCを低コストで迅速に導入できます。このボードは、TLE9879QXA40の評価や提供されるソースコードの使用に関心を持つ上級ユーザーに対しても優れたリソースとなっています。

その他の参照資料

1 – Infineon「モータハンドブック」

https://www.infineon.com/dgdl/Infineon-motorcontrol_handbook-AdditionalTechnicalInformation-v01_00-EN.pdf

著者について

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Scott Raeker氏は、DigiKeyの主任アプリケーションエンジニアです。2006年以来、同社に在籍し、ワイヤレス分野でのお客様を支援を主な仕事としています。彼はエレクトロニクス業界で35年以上の経験を持ち、ミネソタ大学で電気工学の学位を取得しています。余暇には、歴史的な農家の修復を楽しんでいます。

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