最適な産業安全ソリューションを実現する安全定格コンタクタの使用方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

産業用アプリケーションでは、機械やシステムを確実かつ予想通りに安全な状態に切り替えるために、安全定格のコンタクタが必要です。これは、運転エラーや安全機能の要求が発生した場合などに特に重要です。産業安全システムを設計する際の出発点は、アプリケーションにIEC 62061で定義されたSIL 2までの安全度水準(SIL)、および/またはISO 13849のパフォーマンスレベル(PL)cが必要かどうかを判断することです。アプリケーションによっては、より高い安全性が求められます。

IEC 60947-4-1のガイドラインは、低電圧スイッチと制御装置の設計とテストに重点を置いており、ISO 13849-1は、ハードウェアとソフトウェアを含む制御システムの安全関連部分の設計と統合に関する一般原則を規定しています。

この記事では、最適な産業安全ソリューションを実現する、Siemensのフェールセーフ機能付き安全定格コンタクタ3RT2を使用した安全システムの構築方法をご紹介します。また、より高いSILおよびPLレベルの達成や、コンタクタの熱管理などのシステム統合の問題についても解説し、最後に、アプリケーションと安全性をさらに最適化するために、冗長相互接続、サージサプレッサ、機能モジュールなどのアクセサリを使用して安全ソリューションをカスタマイズする方法について説明します。

3RT2コンタクタには、従来型とソリッドステート動作オプションがあり、最大37kWまで対応可能なサイズS00~S2があります。ソリッドステート動作機構を持つコンタクタの場合は、オプションの残存寿命信号を含めるように指定してください。

これらのコンタクタは、高効率IE3またはIE4モータとの使用に適合するIEC 60947-4-1カテゴリAC-3eの要件を満たしています。主回路がオンかオフかをフィードバックするために使用できるノーマルオープン(NO)およびノーマルクローズ(NC)接点を含む、さまざまな補助出力構成を備えています。インジケータライト、アラーム、その他の制御装置をトリガするためのフィードバックを使用することができます。3RT2コンタクタの例は以下の通りです。

  • 3RT20152AP611AA0 - サイズS00、定格7A、3kW / 400V、3極、220VAC 50Hz / 240VAC 60Hz、補助接点:1 NO、スプリング式端子付き
  • 3RT20231AK60 - サイズS0、定格9A、4kW / 400V、3極、110VAC 50Hz / 120VAC 60Hz、補助接点:1 NO + 1 NC、ネジ端子(図1)
  • 3RT20281AN20 - サイズS0、定格38A、18.5kW / 400V、3極、220VAC、50/60Hz、補助接点:1 NO + 1 NC、ネジ端子
  • 3RT20371KB40 - サイズS2、定格65A、30kW / 400V、3極、24VDC、バリスタ内蔵、補助接点:1 NO + 1 NC、ネジ端子
  • 3RT20371SF30 - F-PCL-IN入力付きサイズS2、定格65A、30kW / 400V、3極、83VAC~150VAC/VDC、50/60Hz、バリスタ内蔵、補助接点:1 NC、ネジ端子

画像:サイズS0のコンタクタは定格4kW図1:このサイズS0のコンタクタは定格4kWで、1つのNCと1つのNOの補助出力を備えています。(画像提供:Siemens)

安全にとって重要な応答時間

産業用安全ソリューションを設計する際には、全体的な応答時間の影響を理解することが重要です。応答時間は複数のパラメータから構成されています。リスクアセスメントを実施する場合、応答時間は、安全要件が発生した場合に危険な動きを止めなければならない合計時間として定義されます。応答時間に影響を与える要因には、以下のようなものがあります。

  • 安全監視ユニットのセンサの入力応答時間
  • 安全プログラムのサイクル時間
  • 通信プロトコルによる遅延時間
  • モータまたはアクチュエータの慣性によるオーバートラベル時間
  • コンタクタのブレークタイム

電気機械式コンタクタとモータスターターのブレークタイムは、IEC 60947-4-1で規定されています。この規格は、さまざまな動作条件下で電流を安全に遮断するための要件を定めています。

また、高効率モータ用のAC-3eのように、負荷の種類とコンタクタの動作条件を分類する利用カテゴリも定義されています。この規格には、コンタクタのブレークタイムとその他の性能特性を試験するための手順が含まれています。

コンタクタのブレークタイムは、安全システムにおいて重要なパラメータです。これは、コイル電圧を除去してから主接点が開くまでの時間と定義され、開回路遅延時間(OD)と接点アーク時間(AT)を含みます。

たとえば、図2に示すようなスイッチング性能を持つコンタクタを使用する場合、ブレークタイム(OD + AT)は50~75msとなります。合計応答時間を計算する際には、常にワーストケースの値を考慮する必要があります。この場合、その値は75msです(図2)。

画像:主接点の合計ブレークタイム(OD + AT)は75msに指定(クリックして拡大)図2:この例では、主接点の合計ブレークタイム(OD + AT)は、ワーストケースである75msに指定されます。(画像提供:Siemens)

必要な安全レベルは?

SIL 2およびPL c設計は、故障が重大な危害につながる可能性のあるシステムに焦点を当て、SIL 3およびPL e設計は、故障が壊滅的な結果をもたらす可能性のあるシステムを対象としています。SIL 3およびPL eシステムはより複雑で、より多くのエンジニアリング、統合、および保守を必要とします。SIL 2および3、PL cおよびeシステムは、いずれも高い信頼性を備えています。それでも、SIL 3およびPL eシステムは、冗長性とフェイルセーフ機構により潜在的な故障を軽減し、さらに高い信頼性を実現するように設計されています。

安全定格コンタクタの使用は、よりシンプルで低コストの安全ソリューションを実現するための鍵となります。これらのコンタクタには、電源喪失や制御信号エラーなどの故障時に安全状態に切り替わることを保証する専用の安全入力(F-PLC-IN)があります。

F-PLC-IN入力は、フェイルセーフコントローラ(F-DQ)への直接接続を可能にし、非常停止やインターロックなどの安全機能の実装を可能にします。F-PLC-IN入力を使用すると、コンタクタ用のカップリングリレーや専用コントローラ(DQ)など、いくつかの外付け部品が不要になります。

3RT2安全定格コンタクタを使用すると、1個のコンタクタでSIL 2またはPL cの要件を満たし、2個のコンタクタで冗長直列構成のSIL 3またはPL eの要件を満たすようにシステムを設計できます。その結果、システムが簡素化され、信頼性が向上し、安全システムのコストを削減することができます(図3)。

図:3RT2安全定格コンタクタ(下)と非安全定格コンタクタ(上)の比較(クリックして拡大)図3:3RT2安全定格コンタクタ(下)を使用すると、非安全定格コンタクタ(上)と比較して、より少ない部品でより高いレベルの安全性を確保できます。(画像提供:Siemens)

Siemensの無料安全評価ツール(SET)は、IEC 62061およびISO 13849-1に準拠し、TÜV認証を取得しています。SETには、機械の安全機能を迅速かつ簡単に評価できる、段階的な安全システム評価・開発環境が含まれています。SETを使用すれば、選択した規格に準拠した報告書を簡単に作成することができ、安全性の証明としてその報告書を文書に組み込むことができます。

熱管理に関する考慮事項

他の電力処理装置と同様に、設計者は3RT2コンタクタを使用する際に発生する熱を考慮する必要があります。これらの装置は高効率のため、(多くはありませんが)いくらかの熱が発生します。たとえば、モデル3RT20371KB40は、最大30kWの負荷定格を備え、最大11Wの電力損失を発生させます。

3RT2コンタクタの基本設計は、並列取り付けに適しており、自然対流冷却により周囲温度-25°C~+60°Cで動作します。一部のコンタクタは、特定の動作制限下で+80°Cまでの温度で使用可能です。

+60°C~+70°Cで、これらのコンタクタは、適切な電流とスイッチング周波数(1時間当たりのスイッチング)のディレーティングにより、連続使用が可能です。また、並列取り付け時の熱放散を改善するため、10mmのクリアランスが必要になる場合があります。

3RT2コンタクタは、追加のディレーティングを実施した場合、+70°C~+80°Cの周囲温度で最大1時間使用可能です。ただし、24時間の平均周囲温度が+60°Cを超えてはなりません。

これらの拡張温度(推奨値)は、電子部品を含まないコンタクタにのみ適用されます。電子部品を内蔵したコンタクタは、最大動作寿命を確保するため、+60°Cまででの使用が推奨されます。

必要に応じて、電子部品を含まないS00およびS0コンタクタは、結露がない場合、最低周囲温度-50°Cで使用できますが、機械的耐久性が最大50%低下します。その他の性能仕様は変更ありません。電子部品を内蔵したコンタクタまたは電子アクセサリと組み合わせて使用するコンタクタは、-40°C未満の温度では使用しないでください。

安全ソリューションをカスタマイズするためのアクセサリ

コンタクタはシステムの心臓部ですが、最適な安全ソリューションを実現するためには、多くの場合、アクセサリを追加する必要があります。たとえば、サイズS00の3RT2コンタクタには、補助接点、補助スイッチ、インテリジェントリンクモジュール、サージサプレッサ、EMCサプレッサなど、数多くの選択肢があります(図4)。

画像:安全アプリケーションのカスタマイズ(クリックして拡大)図4:豊富なアクセサリにより、安全アプリケーションのカスタマイズが可能です。(画像提供:Siemens)

3RA29132AA1配線キット(図4の部品⑯、⑰、⑱)から始めましょう。このキットは、ワイヤ接続用のネジ端子と機械式インターロックシステムを提供し、堅牢な電気的・機械的性能を確保します。

アプリケーションでSIL 3またはPL eの安全性を実現するために2つのコンタクタを直列接続する必要がある場合、3RA29261A安全直列コネクタ(⑮)を追加してください。3RT29263AB31(図示なし)のようなラッチングブロックを追加すると、初期電源パルスが除去された後もコンタクタが通電(オン)状態を維持でき、一部のアプリケーションでの安全性をさらに向上させることができます。

機能ブロックを追加して、コンタクタを制御システムに接続できます。3RA27111AA00(⑧)機能モジュールではIO-Link接続が可能です。3RA27122AA00モジュール(⑦)は、PROFINETなどの上位フィールドバスと接続できるAS-Interfaceを追加します。3RA28132FW10(⑥)のような機能モジュールは、ダイレクトオンライン始動、リバース始動、スターデルタ(ワイデルタ)始動などの制御タスクに使用できます。

また、より小さな接点を持つ補助スイッチブロックを追加して、インターロック、シーケンス、メインコンタクタの状態監視などの機能を実装するオプションもあります。補助接点は、NO接点またはNC接点、さまざまな極数で、側面または前面取り付けなど、さまざまな構成で利用できます。たとえば、3RH29111DA02(②)は2極側面取り付けモデル、3RH29111NF02(④)は2極前面取り付け構成です。

システム性能を向上させるには、3RT29161PA2(図示なし)のようなEMCサプレッサモジュールを追加します。このモジュールはRC素子を使用して電圧サージを抑制し、特にモータなどの誘導性負荷をスイッチオフするときに、コイルの損傷を防ぎ、電磁妨害を低減します。3RT29261CD00(⑨)のようなサージサプレッサは、コイル非通電時に発生する高電圧スパイクをバリスタで吸収し、コイルを保護することができます。

まとめ

Siemensの3RT2シリーズには、最大37kWまで対応可能なサイズS00~S2があります。これらの安全定格コンタクタにより、SIL 2およびPL cからSIL 3およびPL eまでの定格の安全システムの開発が可能になります。インテリジェントリンクモジュール、補助接点、補助スイッチ、サージサプレッサ、EMCサプレッサなど、多くのアクセサリが用意されており、設計や性能をさらに向上させることができます。

お勧めの記事:

  1. インダストリ4.0ファクトリにおける安全性の強化と可用性の向上
  2. 包括的なインダストリ4.0コネクティビティをサポートする統合されたサイバーセキュアプラットフォームの使用
  3. 従来のファクトリオートメーションシステムを中断することなくインダストリ4.0に接続する方法
  4. AMRをインダストリ4.0オペレーションに安全かつ効率的に統合し、最大限のメリットを得る
  5. インダストリ4.0ファクトリにおけるマスカスタマイゼーション、高品質、持続可能なオペレーションをサポート
  6. マルチプロトコルI/Oハブおよびコンバータを使用したインダストリ4.0通信アーキテクチャの最適化
  7. インダストリ4.0オートメーションシステムへの単軸VSDの迅速な設置、接続、統合方法
DigiKey logo

免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKeyの意見、信念および視点またはDigiKeyの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

著者について

Image of Jeff Shepard

Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

出版者について

DigiKeyの北米担当編集者