インダストリ4.0ファクトリにおけるマスカスタマイゼーション、高品質、持続可能なオペレーションをサポート

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

インダストリ4.0自動生産システムの設計者は、高品質で持続可能な生産プロセスでマスカスタマイゼーションをサポートすることを困難と思うかもしれません。なぜなら、複数の検出と制御デバイスを配備し、さまざまな有線・無線ネットワークに接続し、それらの状態とエネルギー消費量をリアルタイムで監視する必要があるからです。そして、それと同時に確立された持続可能性基準を満たさねばならないからです。

といっても、さまざまな機能、ネットワーク、監視、規格要件に対応しつつ、スケーラビリティと柔軟性を確保するために、インダストリ4.0向けのオートメーションシステム設計者がすべてを自分で構築する必要はありません。その代わりに、小型の統合コントローラを組み込むことで、高い品質と持続可能性を備えた柔軟な生産システムを実現できます。こうしたコントローラは、スケーラブルで柔軟性に優れ、持続可能性の高いインダストリ4.0ファクトリを実現するために必要な多数の組み込み制御およびエネルギー管理機能、デジタルおよびアナログ入出力(IO)、安全な通信機能を備えています。

この記事では、一般的なインダストリ4.0ファクトリオートメーションの要素と要件の概要を説明します。そして、通信インターフェースとテクノロジー機能を統合したプログラマブルロジックコントローラ(PLC)の例として、Siemensの小型の拡張可能なコントローラファミリを紹介します。最後に、持続可能性のためのエネルギー管理の実施例を含め、国際標準化機構(ISO)50001と関連する運用上のエネルギー管理規格について確認します。

インダストリ4.0ファクトリの主要要素

一般的なインダストリ4.0ファクトリアプリケーションは、温度制御、ポンプ・ファン制御、コンベアシステム、包装機械などの装置で構成され、高品質の生産を確保するために柔軟な統合と精度が要求されます。さらに、効率的で持続可能な運用をサポートするために、これらの機器のエネルギー消費量を継続的に監視・分析する必要があります。加えて、分散型センサやコントローラから、モータドライブ、エネルギーメータ、機械技術者やオペレータに至るまで、有線・無線の多層接続ですべてをリアルタイムでサポートする必要があります。

プロセスの展開と再構成を迅速化し、稼働時間を最大化し、効率的な運転を確保しながら、これらの多様なニーズに対応するために、オートメーションシステムの設計者は、いくつかの主要な機能を備えた専用のプロセスコントローラを必要としています。このような機能には、セキュアな通信インターフェース、デジタルおよびアナログIOのほか、高速カウンタ、パルス幅変調(PWM)、パルスシーケンス出力、速度制御、位置決め、状態監視、エネルギー管理などの統合制御機能が含まれます。さらに、シリアル通信、PROFIBUS、IO-Link、アクチュエータセンサインターフェース(ASインターフェース)、MODBUSリアルタイムユニット(RTU)、ユニバーサルシリアルインターフェース(USI)、TCP/IP、モバイル無線規格などのプロトコルをサポートする通信インターフェースが必要です。

インダストリ4.0のコネクティビティ

インダストリ4.0のコネクティビティの要件に対応するため、Siemensが提供するPLCのSIMATIC S7-1200ファミリは、センサ、アクチュエータ、モータとヒューマンマシンインターフェース(HMI)およびクラウドとの接続をサポートしています。OPCは、産業用オートメーション用のマシンツーマシン(M2M)通信プロトコルであるOPC統一アーキテクチャ(OPC UA)を使用しています。OPC UAは、プラットフォームに依存しないサービス指向のアーキテクチャで、コネクティビティを簡素化します。本質的に安全な環境で、あらゆるクラスのデバイス、オートメーションシステム、ソフトウェアアプリケーションの統合をサポートします。これは、OPC UAフレームワークをベースとし、国際電気標準会議(IEC)62541で規定されているフィールドレベル通信(FLC)イニシアチブによって指定されたフィールド拡張を含んでいます。

FLCは、認証、署名、データ暗号化を重視した、安全で信頼性の高い通信のための独立したプラットフォームを機器サプライヤに提供します。OPC UAは単なるM2M通信プロトコルではなく、ファクトリネットワークとビジネスネットワーク間の接続をサポートするように設計されています。SiemensのSIMATIC S7-1200 PLCのOPC UAデータアクセスは、標準化された水平および垂直通信を提供します。また、一貫したマシンデータの転送を容易にするオートメーション標準であるOMAC PackML(Organization for Machine Automation and Control Packaging Machine Language)や、マシンデータの上位のITシステムへの標準化された送信を行うための通信インターフェースを定義するWS(Weihenstephan Standards)など、業界固有の要件にも準拠しています。S7-1200 PLCへのOPC UA実装の主な特長は以下のとおりです(図1)。

  • PLCと、より高度なビジネス指向のソフトウェア層との間に、新しいプロセスを効率的に追加する能力
  • Siemens OPC UA Modeling Editorによる業界固有のコンパニオン仕様の簡易実装
  • Ethernetネットワークへの無線接続によるクラウド接続
  • 暗号化を含むオープンユーザー通信(OUC)による簡素化されたアドレッシングのためのDNS名前解決
  • オプションで添付ファイルを付けることができる、電子メールを安全に送信するための手段

OPC UAはインダストリ4.0ファクトリのコネクティビティの基盤となる要素(クリックして拡大)図1:OPC UAはインダストリ4.0ファクトリのコネクティビティの基盤となる要素です。(画像提供:Siemens)

スケーラブルコントローラ

OPC UA通信の統合サポートに加えて、6ES72141AG400XB0(図2)や6ES72151BG400XB0などのS7-1200コントローラは高い柔軟性と拡張性を備えています。前者は24ボルトの直流(VDC)電源で動作し、24VDCの入力と出力を備えています。一方、後者は120ボルトまたは230ボルトの交流(VAC)電源で動作し、24VDCの入力とリレー出力を備えています。

すべてのS7-1200コントローラにはIOが統合されており、モジュール式に拡張可能で、いくつかの通信オプションがあります。SiemensのTIA(Totally Integrated Automation)ポータルは制御プログラムを開発するためのシンプルなソフトウェア環境を提供し、SIMATICオートメーションツールはSIMATIC S7-1200コントローラの操作と保守のために現場で使用できます。その他の機能:

  • スケーラビリティと柔軟性をサポートするPROFINETインターフェース
  • 包括的なアクセス、コピー、操作の保護を含むセキュリティ機能
  • Siemens TIAポータル、ウェブサーバ、SIMATIC HMI、SIMATICオートメーションツールに、追加プログラミングなしでメッセージをシンプルなプレーンテキストで表示する診断機能
  • IEC 61508およびIEC 62061で定義された安全度水準3(SIL3)、ISO 13849で定義されたパフォーマンスレベルe(PLe)までのアプリケーションに対して、標準プログラムと安全関連プログラムの両方を実行できる安全機能を一部のモデルに搭載

Siemens S7-1200コントローラの画像図2:Siemens S7-1200コントローラは統合されたOPC UA通信をサポートしています。(画像提供:Siemens)

高速カウンタ、PWM、パルスシーケンス出力、速度制御、位置決めなどの統合テクノロジー機能により、これらのコントローラは温度制御、ポンプ・ファン制御、コンベア技術、包装機械に適しています。ループ制御、計量、エネルギー管理、高速カウント、遠隔制御、RFID(電波による個体識別)、および状態監視用に最適化されています。

柔軟な通信オプション

包括的なネットワークオプションは、S7-1200 PLCの特徴です。対応する通信プロトコルは以下のとおりです。

PROFINET:オープンな産業用Ethernet(IE)規格。統合されたPROFINETインターフェースはTCP/IP標準を使用し、プログラミングのほか、HMI機器や追加コントローラとの通信に使用できます。

PROFIBUS:フィールドバス規格。PROFIBUSにより、S7-1200コントローラはフィールドレベルから制御レベルまで均一な通信を確立できます。

ASインターフェース:アクチュエータとセンサ用のフィールドバス規格。モータスタータ、ポジションスイッチ、モジュールなどのASインターフェース標準スレーブを最大62台まで接続できます。

統合された通信機能に加えて、以下のような追加プロトコルをサポートするモジュールも用意されています。

  • CANopen
  • Modbus RTU
  • Modbus TCP
  • IO-Link
  • General Packet Radio Service(GPRS)/Long Term Evolution(LTE)
  • RS-485、RS-422、RS-232
  • USS

マスカスタマイゼーションと高品質を実現

幅広い機能と通信機能により、S7-1200 PLCは、インダストリ4.0の利点といえるマスカスタマイゼーションと高品質を推進できます。これらの目標を達成する方法は数多くありますが、以下の例では、無線セルラー接続のための通信拡張モジュール、モータ制御のためのRS-485/USS/Modbus RTUシリアル接続、フィールドバスに関連するセンサやアクチュエータへのよりシンプルな接続のためのIO-Linkの使用を示しています(図3)。

Siemens S7-1200 PLC用拡張可能通信の画像図3:S7-1200 PLCの拡張可能な通信は、外部拡張モジュール(左と右)と内部拡張モジュール(上部中央の赤枠)の組み合わせによってサポートされます。(画像提供:Siemens)

図3において、「CM CP」は、クラウド接続に使用できる6GK72427KX310XE0のようなGPRS無線通信モジュールです。6ES72411CH301XB0のようなRS-485通信ボードは、S7-1200 PLC(「CPU」)内にあり、USS/Modbus RTUインターフェースを介してモータドライブ(SINAMICs V20)と通信するために使用されます。右側の「SM」は、6ES72784BD320XB0のようなIO-Linkマスター通信モジュールです。IO-Linkマスターは、左と中央の2つのセンサと、右のIO-Linkハブに接続されています。ハブは追加のIO-Linkデバイスを接続できます。

持続可能なエネルギー管理

エネルギー効率と持続可能性の向上は、スマートエネルギー管理に依存しており、そのスマートエネルギー管理は、より詳細でリアルタイムのエネルギー消費データに依存しています。このため、運用エネルギー管理のためにISO 50001規格から検討する必要性がますます高まっています。ISO 50001は、より効率的なエネルギー利用のための方針、目標、目的の策定や、結果を測定するためのデータの利用など、要求事項の枠組みを提示する根本的な基準です。ISO 50001は、以下のような追加規格によってサポートされています。

  • ISO 50003は、エネルギー管理システム(EnMS)の有効性を保証します。監査、要員の能力要件、監査の期間および複数サイトのサンプリングを包含します。
  • ISO 50004は、組織がエネルギー管理とエネルギーパフォーマンスの継続的な改善を達成するための体系的なアプローチをとることを支援します。
  • ISO 50006は、継続的なパフォーマンス監視のためのエネルギーパフォーマンス指標(EnPI)とエネルギーベースライン(EnB)の開発と維持を含む、ISO 50001の要求事項を満たす方法を拡張しています。

ISO 50006のEnPIとEnBは、エネルギーパフォーマンスの効果的な測定と管理を可能にし、エネルギー効率の最適化に役立ちます。持続可能性の向上に加え、より良いエネルギー管理は大幅なコスト削減につながります。この規格は、出発点(EnBs)と意味のあるパフォーマンス指標(EnPI)を定義し、「絶対的」および「相対的」エネルギーパフォーマンス指標と、「統計的」および「技術的」モデルの4種類の指標を特定しています。

SiemensのS7-1200コントローラは、これらのISO規格の実装を簡素化し、非常に効果的なエネルギー管理システムをサポートすることができます。オートメーションシステムの設計者は、エネルギーメータモジュールを追加して、エネルギー消費データの測定、評価、表示をリアルタイムで行うことができます。図4は、一般的なアプリケーションを示しています。

  1. モータは、エネルギー消費の監視対象となる典型的な負荷を表します。
  2. 電流トランスは、エネルギー消費量をエネルギーメータモジュールの測定可能な量に変換します。このメータは、電圧や力率など他の多くのパラメータも測定します。
  3. S7-1200コントローラのソフトウェアが測定値を評価し、エネルギー消費に関する統計をデータログに保存します。PROFINET IEバスを使用して、SCALANCE産業用ルータを介してPG/PCとHMIに接続されています。
  4. HMIは測定値を表示し、オペレータが経時的な消費電力のピークなどのパラメータを評価できるようにします。
  5. コントローラは、標準的なウェブページの形でPG/PCにデータログを送信することもできます。

一般的なエネルギー監視アプリケーションの図図4:S7-1200 PLCで簡単にサポートできる一般的なエネルギー監視アプリケーションを示しています。(画像提供:Siemens)

エネルギーメータモジュール

図4のようなアプリケーションでは、SM 1238エネルギーメータモジュールをデータ収集に使用することができます(図5)。480VACまでの単相および三相電源システムで使用できます。これらのモジュールは、ISO 50001、50003、50004、および50006への準拠をサポートするために必要なデータをS7-1200コントローラに提供できます。以下のような200以上の電気測定値やエネルギー値を記録することができます。

  • 電流
  • 電圧
  • 位相角
  • 周波数
  • 力率
  • 消費電力
  • 最小値と最大値
  • 稼働時間
  • エネルギー/電気的仕事

Siemens SM 1238がエネルギー監視モジュールであることを示す画像図5:SM 1238は、単相および三相電力システム用のエネルギー監視モジュールです。(画像提供:Siemens)

まとめ

持続可能なインダストリ4.0ファクトリネットワークの展開を簡素化し、加速するために、オートメーションシステム設計者はPLCと拡張モジュールのS7-1200ファミリを使用できます。これらのソリューションは、幅広いセキュアな通信オプションに対応し、統合された制御機能とデジタルおよびアナログIOを備え、エネルギー管理を含む幅広いアプリケーションをサポートするために拡張可能です。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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