インダストリ4.0施設に予知保全を導入して最大限のメリットを実現

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

データ分析と機械学習(ML)を活用した予知保全(PdM)は、プロアクティブな機器管理、効率の最適化、メンテナンスのスケジューリング、ダウンタイムの最小化を可能にし、持続可能性の向上をサポートするため、インダストリ4.0において極めて重要です。タイムリーで正確なデータ収集は、PdMの導入を成功させる鍵となります。

また、データは完全でなければなりません。電源は、DC電圧(VDC)および電流(IDC)、ピーク電流(IPEAK)、ランタイム、交換時期を監視できます。振動、温度、電流、絶縁抵抗(地絡)などのモータ状態モニタが必要です。

熱的条件モニタは、高電圧制御パネル、電源トランス、油圧機器、モータ、ベアリング、ギアボックスなど、さまざまなデバイスに必要です。これらの電源、モータ、サーマルモニタはすべて、リアルタイム解析のためにデータを送信するEthernet/IPまたはModbus TCP接続を必要とします。

この記事ではまず、PdMの概要、その多くの利点、そして予知保全がインダストリ4.0システムアーキテクチャにどのように適合するかをご紹介します。そして、Omronが提供する数多くのPdMデバイスとソフトウェアを深く掘り下げます。最後に、人工知能(AI)を使用してPdMのパフォーマンスを最適化する方法について考察します。

PdMは、設備や施設のメンテナンスに対する3つのアプローチのうちの1つです。環境コストと事業コストのバランスという点では、事後保全と予防保全の中間に位置します(図1)。3つのアプローチから選択する際の1つの要素は、環境コストと事業コストの相対的な重要性です。

図:PdMは、事後保全と予防保全の中間に位置図1:PdMは、事後保全アプローチと予防保全アプローチの中間に位置し、ビジネスと環境への配慮のバランスを提供します。(画像提供:Omron)

事後保全は、故障が発生した後に対処するため、環境コストと事業コストの両方が増大します。予防保全は、定期的な手作業による点検で差し迫った故障を特定することにより、最小限の環境コストを優先させるものですが、機器の過剰なダウンタイムと高額の事業経費をもたらす可能性があります。これは、機器の完全な故障ではなく、あらかじめ決められたやや恣意的なスケジュールが原因となる、事後保全の別の形態と見なされています。

高度なセンサが利用できるようになり、AIやMLツールが出現したことで、環境と事業コストのバランスを取る技術を導入するPdMの開発が可能になりました。

優れた拡張性と柔軟性

PdMは「すべてに適合する」オプションではありません。拡張性と柔軟性に優れ、企業にとって重要な1台の機器、複数の機器、あるいは集中監視を利用した施設全体に導入することができます。そのため、組織は小規模から始めて、時間をかけてPdMの導入を拡大することができ、既存の施設を改修する際の混乱を最小限に抑えることができます。

拡張可能なソリューションは、センサ、監視ユニット、コントローラなど、必要に応じて追加できるさまざまな互換性のある部品でサポートされています。Ethernet/IPやModbus TCPなどの産業用通信プロトコルを使用することで、既存システムとの統合を簡素化し、複数のデバイスを同時に遠隔監視するといった拡張機能をサポートします。

拡張可能なソフトウェアソリューションは、集中型オフィスコントロールセンターから、または施設全体のさまざまな場所から、データを分析し、デバイスを管理するために利用可能です。

これらのソリューションは、大規模な修理・点検を必要とせずに、既存の機器と統合可能であり、柔軟性を高めます。食品・飲料、自動車、医療機器製造、半導体・電子機器、軍事・航空宇宙、物流・倉庫など、ほとんどすべての業界に最適化できます。

この柔軟性は、電源、モータ状態(電流、振動、温度、絶縁抵抗)、熱的条件を監視するソリューションを含む、幅広いPdMデバイスによってサポートされています。さらに、データ収集、通信、データ処理と分析、アラーム設定と通知送信、データロギングとレポート、AIとMLベースのPdM分析をカスタマイズして実装するための標準ソフトウェア機能ブロック(FB)が利用可能です。

シンプルなセンサに代わる状態モニタ

PdMと他のアプローチとの主な違いは、機器の性能を追跡し、先行保全を可能にするために、シンプルなセンサの代わりに状態モニタを使用することです。センサと同様、状態モニタは、監視する機器と一緒に設置されます。

しかし、センサはIO-Linkなどの比較的シンプルなプロトコルで導入できるのに対し、状態モニタはEtherNet/IPやModbus TCPなど、より高度な接続性を必要とします。状態モニタは、ローカルでデータ処理を行うことができ、多くの場合、センサには通常付随しないステータス表示を含みます。

状態モニタは、1つ以上の通信ハブを介して、データを可視化するための集中ロケーションを提供できるヒューマンマシンインターフェース(HMI)のような上位デバイスや、AIやMLを含むより包括的なデータ分析ツールを備えたプログラマブルロジックコントローラ(PLC)や集中監視システムにリンクすることができます(図2)。

図:OmronのPdMソリューション群は個別に導入可能(クリックして拡大)図2:OmronのPdMソリューション群は、重要な資産を監視するために個別に導入することが可能です。小規模から開始し、段階的に拡大することで、製造現場や物流拠点全体をカバーする包括的なソリューションを実現します。(画像提供:Omron)

ソリューションの考察

Omronは、さまざまなPdMデバイスとソフトウェアを提供しています。たとえば、S8VK-X Ethernet接続スマート電源は、エネルギー消費を監視するためのVoutとIout、潜在的な過負荷状態を特定するためのIPEAKなど、多くの側面の性能を測定します。

これらの電源は、実際の稼働時間を測定します。また、温度が10°C上昇するごとにコンデンサの寿命が約半分になるというアレニウスの式を実際の動作温度と組み合わせて電解コンデンサの残存寿命を推定し、その結果を年数または残存寿命のパーセンテージで表示します。

S8VK-X電源は定格30W~480Wまで、出力電圧5VDC、12VDC、24VDCで利用できます。また、24VDC、480W定格のモデルS8VK-X48024A-EIPなど、モニタディスプレイを内蔵したタイプや、5VDC、30W定格のモデルS8VK-X03005-EIPなど、ディスプレイを内蔵しないタイプも用意されています。

電気モータの状態監視はPdMの重要な側面であり、OmronのK6CMモータメンテナンスモニタは、あらゆるタイプのウォーターポンプに加え、暖房換気空調(HVAC)、農業、エスカレータ、その他ほとんどの電気モータアプリケーションのモータに適しています。

振動・温度監視、絶縁抵抗監視、モータ電流監視などのモータメンテナンスモニタがあります。100~240 3相VACまたは24VAC/VDCの入力電源に対応したモデルがあります。

24VAC/VDCで動作するK6CM-VBMD-EIPを使用して、振動と温度を監視できます。すべての温度モニタはK6CM-VBS1振動・温度センサと連動しており、このセンサはモータ上に設置されたセンサヘッドと、センサとモニタ間を接続するプリアンプで構成されています。

絶縁抵抗の健全性は、K6CM-ISZBI52ゼロ電流トランス(ZCT)および絶縁抵抗トランスファー(IRT)センサと、24VAC/VDCで動作するK6CM-ISMD-EIPを使用して監視できます。ZCT機能は3相モータ回路のリーク電流を測定し、IRT機能はモータ巻線とグランド間の絶縁抵抗を測定します。

また、100VAC~240VACで動作するK6CM-CIMA-EIPと定格400AのK6CM-CICB400電流センサを使用することで、3相誘導モータのモータ状態を監視することができます。その他の電流センサモデルは5A~600Aで利用可能です。

これらのモニタは、Omronの完全な電流診断技術を使用しています。理想的な正弦波と測定された電流波形との偏差を定量化することで、キャビテーションや空気の混入などの異常を検出することができます。ミスアライメント、負荷不均衡、異物付着などの状態は、測定された電流波形の周波数成分を分析することで定量化されます。

K6PM熱的条件モニタシステムは、高電圧制御パネル、トランス、油圧機器、データセンター、ベアリング、ギアボックスなど、さまざまな産業機器のPdM実装に使用できます。熱画像コントローラK6PM-THS3232と、0°C~+200°Cの温度を監視できるサーマルイメージング赤外線(IR)センサK6PM-THMD-EIPを搭載しています。

K6PM熱的条件コントローラ1台で、最大31個のIRセンサを監視できます。無料のPC監視ソフトウェアには、異常温度検出アルゴリズムと3段階の温度アラームが含まれています。このソフトウェアは、ユーザー定義のアラーム閾値もサポートしています。

画像:Omronが提供するPdM(クリックして拡大)図3:Omronが提供するPdMの中核機能には、スマート電源、モータ、熱的条件モニタ、関連センサが含まれます。(画像提供:Omron)

エッジにPdM AIを追加

OmronのAI PdMライブラリは、NX/NYシリーズ 人工知能マシンオートメーションコントローラ(AIコントローラ)のAI機能を使用するためのSysmacライブラリソフトウェア機能コンポーネントの1つです。AI PdMライブラリには、各機構(シリンダ、ボールネジ、ベルトプーリなどのデバイスやコンポーネント)のFBが含まれています。

ユーザーは、カスタマイズされたPdM機能を実装するために、再利用可能なコードブロックの形でカスタムFBを作成し、統合することができます。カスタムFBは以下の用途に使用できます。

  • アプリケーションに特化したアルゴリズムの開発
  • データ収集のための多様なセンサやその他機器とのインターフェース
  • 特定のPdM実装戦略に沿ったカスタマイズされたデータ処理

FBは、NX/NYコントローラのAIエンジンの入力として使用される変数を生成します。AIエンジンは、時系列データベースで収集されたデータを分析し、機器の異常なパターンや動作を検出します。完全なAIエンジンは、AIコントローラ内で自律的に動作するように設計されています。

PdM用AIコントローラ

OmronのNX/NYシリーズ AIコントローラには、クラウドに接続せずにPdM AIを実装できるNX701-Z700があります。NX701は、1つのプログラムで最大256軸のモーションを制御できるため、設置コストを削減し、プログラムの設計、検証、リビジョン管理を簡素化できます。

Ethernet/IPおよびEtherCAT通信ポートを内蔵しています。これにより、産業用制御ネットワーク設計者は、より大きなパケットデータサイズにEtherNet/IPを、そして確定的なモーションをサポートする確実なパケット配信にEtherCATを活用するオプションを得ることができます。80MBのプログラムメモリは、OmronのAI PdMライブラリだけでなく、多数のFBをサポートすることができます(図4)。

画像:Omron NX701-Z700は、PdM AIを実装可能図4:NX701-Z700はクラウドに接続することなくPdM AIを実装でき、1つのプログラムで最大256軸のモーションを制御できます。(画像提供:Omron)

NX701-Z700 AIコントローラの追加機能は以下の通りです。

  • 120以上のNX入出力(I/O)ユニットとのプラグアンドプレイ統合
  • Sysmac Studio、Omron Vision、Omron Motion、Omron Robotics、Omron Safety Componentsを含む包括的なソフトウェア環境
  • EtherNet/IP、EtherCAT、Fail Safe Over EtherCAT、IO-Link、Factory Scale Motionなど、複数の産業用通信プロトコルをサポート
  • 0.125msから0.250msまで0.125ms刻みで、0.250msから8msまで0.250ms刻みでEtherCATサイクルタイムを保証

まとめ

PdMは、インダストリ4.0の工場や物流業務において、環境とビジネスへの配慮のバランスを最適化するための新しいパラダイムです。高度なセンサ、時系列データベース、エッジAIを備えたPLCを活用して、機器の性能と健全性を継続的に監視し、潜在的な故障を予測し、メンテナンスを積極的にスケジュールします。

PdMの洞察に基づく定期的な監視とメンテナンスは、潜在的な問題を早期に発見して対処するのに役立ち、早期の消耗を防いで資産の寿命を延ばします。PdMは、機器の稼働時間を最大化し、廃棄物を削減し、業務効率を向上させます。最後に、PdMは柔軟性と拡張性に優れており、組織は施設全体にPdMを迅速に、あるいは段階的に導入し、大幅な性能向上とコスト削減を実現できます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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