優れたLNAが実行可能なアンテナフロントエンドの鍵となる理由

学生がRFとワイヤレスリンクについて最初に学ぶ教訓の1つは、アンテナが相反定理に従っていることです。これは、アンテナの送信特性と受信特性が同一であり、2つのモード間で送信または受信ゲイン、ビーム幅、放射パターンなどの属性に差がないことを意味します。送信モードにおけるアンテナの仕様を知っていれば、受信モードでの仕様も知っていることになります。もちろん、高電力を送信するためのアンテナは、その電力を処理するために必要となる物理的に大きな素子で製造されることが多いのですが、相反性は維持されます。

メタサーフェスやメタレンズを使用した非相反アンテナの研究もありますが、まだ研究開発の段階にあるため、ここでは考慮しません。

相反性は確かに単純な設計原理ですが、送信側と受信側のアンテナ経路には、アンテナよりもずっと多くのことが関係します。送信側は決定論的な機能のため、そのタスクはかなり簡単です。送信側は、パワーアンプ(PA)を通過し、定義済みの属性を備えた既知の比較的強い信号を受け取り、それをアンテナに「提示」します。キャリヤを変調する信号の詳細な内容以外に、経路には未知のものが非常に少ないため、アンテナにはほとんど(全くではない)関係ありません。

対照的に、レシーバの信号経路は、より困難でランダムなシナリオで動作します。それは、わずかな量のRF信号電力を何らかの方法で見つけてキャプチャし、その電力を使用可能な電圧に変換する電磁界トランスデューサとして機能しなければなりません。さまざまなタイプやソースの帯域内ノイズや干渉、トランスミッタのドリフト、さらにアプリケーションによってはドップラーによる周波数偏移があるにもかかわらず、これを実現する必要があるのです。

この受信電力は非常に小さく、一部はミリワット(mW)、ほとんどはマイクロワット(µW)の単位であるため、アンテナで生成される対応電圧は通常、マイクロボルトの単位になります。ほとんどの場合、この電圧は復調に直接使用するには小さすぎるため、答えは明白です。ただ増幅すればいいのです。GPS信号の受信信号電力は、一般的に1ミリワットに対して-127~-25dB(dBm)です。また、実行可能なWi-Fi信号の範囲は-50~-75dBmです。

低SNRという相補的問題

増幅ソリューションの答えは、レシーバのストーリーの一部にすぎません。マイクロボルトの信号でも、数桁増幅することは難しくありません。しかし、元の信号にはノイズも含まれており、受信信号を復調および復号する機能に実際に影響を与えるのは、その信号対ノイズ比(SNR)です。受信信号が増幅されると、埋め込まれたノイズも増幅されます。高いパッシブゲインを備えた大型アンテナを使用すると、受信信号電力は増加しますが、受信SNRは変化しません。

システム性能の主要な指標の1つは、ビット誤り率(BER)対SNRです(図1)。これらの曲線の詳細は、受信信号強度、SNR、トランスミッタで使用される生データのエラー訂正コード(ECC)エンコーディングの種類など、多くの要因に依存します。このため、より詳細なグラフでは、補正されていない生のビットストリームと、補正されたビットパターン(QAM = 直交振幅変調)のBER対SNRを示しています。

図1:BER対SNRの標準的なプロットから、システム性能について多くのことが明らかになります。256-QAMのような高度な変調技術は、実効データレートを増加させることができますが、特定のSNRではBERのペナルティがあることに注意してください。(画像提供:Julia Computing, Inc.)

許容可能な程度に低いBERで復調を成功させることができるSNR値の目安はありますか?もちろん普遍的な答えはありませんが、許容可能なWi-Fi信号のSNRは20~40dB、旧式のアナログテレビでは40~50dB、セルラーリンクでもほぼ同じです。

当然のことながら、極端な例もあります。1977年に打ち上げられたボイジャー1号およびボイジャー2号宇宙探査機は、地球から110億マイル以上離れた場所にありますが、今でも信号が受信されています。これらの信号は、23ワットのトランスミッタから、1アトワット(10億分の1ワットの10億分の1)未満の信号電力、わずか数dBのSNRで地球に届きます。これをある程度補償するために、距離が近くて受信信号強度が高い場合の数キロビット/秒から、約100ビット/秒へデータレートを落としています。

LNAによる救援

「もしノイズがなければ、多くのシステム設計の課題はずっと簡単だっただろう」というのが、「ワイヤレス」の黎明期に生まれ、今もなお真実であるエンジニアリングの決まり文句です。これがレシーバのアンテナリンクに当てはまるのには、単純な理由があります。弱い受信信号を「ゲインアップ」するために必要なアンプは、アンテナとレシーバフロントエンド間の相互接続配線と同様に、その信号に独自のノイズをもたらします。

受信信号を増幅する必要性により、ジレンマが生じます。増幅されていない信号は、弱すぎて使い物になりません。その一方で、増幅によって信号の大きさは増大しますが、SNRが低下し、潜在的なリンク性能も低下します。このジレンマは、できるだけノイズの少ないアンプを選択することで大幅に解消されます。

フロントエンドの低ノイズアンプ(LNA)には、主な関心事として、「信号に加えるノイズの量」と「提供できるゲインの量」という2つのパラメータがあります。高度に専門化されたアナログプロセッサで製造されたLNAは、それ自体のノイズをほとんど付加しないでゲインを提供することに特化しているため、LNA非対応のアプリケーションには適していません。

たとえば、Skyworks SolutionsSKY67180-306LFは、LTE、GSM、およびWCDMAアプリケーションのセルラーリピータやスモール/マクロセルサイト、SバンドおよびCバンドの超低ノイズレシーバなど、1.5~3.8GHzのアプリケーションに適した2段の高ゲインLNAです(図2)。

図2:Skyworks SolutionsのSKY67180-306LFは、1.5~3.8GHz、0.8dB NFに対応した2段の31dBゲインLNAであり、第1段は低ノイズ指数に最適化され、第2段は追加のゲインを提供します。(画像提供:Skyworks Solutions)

この16ピンQFNデバイスの第1段は、GaAs pHEMTトランジスタを使用して超低ノイズ指数(NF)を実現します。一方、出力段(ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)は、高い直線性と効率性とともに、その周波数で追加のゲインを提供します。その結果、LNAのノイズフロア(NF)は0.8dB、ゲインは3.5GHzで31dBになります。

もう1つの重要な問題は、LNAを物理的に配置する場所です。LNAを他のレシーバ回路と一緒に配置するほうが明らかに簡単です。しかし、これはLNAからシステムへ増幅信号を運ぶケーブルに不可避な熱雑音が非増幅信号に追加され、SNRをさらに低減させることを意味します。そのため、VSAT(超小型地球局)衛星パラボラアンテナのような民生用アプリケーションでも、LNAをパラボラアンテナの焦点に配置しているのです。

まとめ

アンテナのトランスミッタとレシーバの機能は、相反定理に従っていますが、実際の課題は異なっています。多くのRFアンテナでは、SNRへの影響を最小限に抑えながら、受信信号レベルを使用可能な値まで高めるために、専用LNAが最適または唯一の方法となる場合が多くあります。特定の周波数帯に調整され、信号レベルとSNRのジレンマを解消できるゲイン値を備えた特殊なLNAが入手可能です。

関連コンテンツ

「5G LNAの特殊プロセスを最大限活用 」

https://www.digikey.jp/ja/articles/get-the-most-out-of-exotic-processes-for-5g-lnas

「ワイヤレス設計における低ノイズおよびパワーアンプの基礎を理解する」

https://www.digikey.jp/ja/articles/understanding-the-basics-of-low-noise-and-power-amplifiers-in-wireless-designs

「低ノイズアンプでレシーバ感度を最大化」

https://www.digikey.jp/ja/articles/low-noise-amplifiers-maximize-receiver-sensitivity

リファレンス

著者について

Image of Bill Schweber

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

More posts by Bill Schweber氏
 TechForum

Have questions or comments? Continue the conversation on TechForum, Digi-Key's online community and technical resource.

Visit TechForum