ワイヤレス設計における低ノイズおよびパワーアンプの基礎を理解する

著者 Bill Schweber氏

Electronic Products の提供

性能、小型化、高周波数動作の追及は、ワイヤレスシステムの2つの重要なアンテナ接続コンポーネント(パワーアンプ(PA)および低ノイズアンプ(LNA))の限界に挑戦しています。この変化は、5G現実化への取り組みや、VSAT端末、マイクロ波無線リンク、および位相アレイレーダシステムでのPAおよびLNAの使用によって拍車がかかっています。

これらのアプリケーションには、(LNA向けの)低ノイズ化と、(PA向けの)高効率化、および最大10GHzおよび10GHzを超える高周波数での動作が要求されます。これらの増大する要求を満たすために、LNAおよびPAメーカーは、従来の全シリコンプロセスから、LNA向けのガリウムひ素(GaAs)およびPA向けの窒化ガリウム(GaN)に向けて移行しています。

この記事では、LNAやPAの役割および要件やそれらの主要な特性について説明した後に、一般的なGaAsおよびGaNデバイスや、それらのデバイスを使用した設計の際の留意事項についてご紹介します。

LNAの重要な役割

LNAの機能は、通常マイクロボルトの大きさ、または-100dBmを下回る値の、極めて弱く、不確かな信号をアンテナから取得し、それを約0.5ボルトから1ボルトまでの扱いやすいレベルに増幅することです(図1)。これをわかりやすくするために、50Ωのシステムでは、10μVは-87dBm、100μVは-67dBmに相当します。

このゲインを提供すること自体は、現代のエレクトロニクスにおいて大きな課題ではありませんが、LNAが微弱な入力信号に加える可能性のあるノイズによって大きく損なわれます。このノイズは、LNAが加える増幅のいかなる利点をも打ち消す可能性があります。

受信経路のLNAおよび送信経路のPAの図図1:受信経路の低ノイズアンプ(LNA)および送信経路のパワーアンプ(PA)は、デュプレクサを介してアンテナに接続され、このデュプレクサが2つの信号を分割して、高感度LNA入力に比較的強力なPA出力が影響を及ぼすことを防止します。(画像提供:DigiKey)

LNAは、未知の世界で機能することに注意してください。レシーバチャンネルのフロントエンドであるLNAは、対象の帯域幅内でアンテナによる非常に低電力の低電圧信号に加えて、それに重畳するランダムノイズを取り込み、増幅する必要があります。信号理論において、これは未知の信号/未知のノイズ課題と呼ばれており、信号処理におけるすべての課題の中で最も難しいものです。

LNAの場合、1次パラメータは雑音指数(NF)、ゲイン、そして直線性です。ノイズは熱およびその他ソースによるもので、標準雑音指数は0.5~1.5dBの範囲にあります。標準ゲインは、1段で10dB~20dBです。いくつかの設計では、カスケード接続されたアンプが使用されます。これらのカスケード接続されたアンプは、低ゲイン、低NF段、その後により高いNFを持つ可能性がある高ゲイン段を備えていますが、これは、初期信号が「ゲインアップ」されるとあまり重要ではなくなります。(LNA、ノイズ、およびRFレシーバの詳細は、TechZoneの記事「低ノイズアンプは、レシーバ感度を最大化」をご覧ください。)

非直線性は、LNAにとってもう1つの問題です。この理由は、結果として発生する高調波および相互変調歪みにより、受信された信号が損なわれ、十分に低いビット誤り率(BER)で復調しデコードするのがより困難になるためです。直線性は通常、3次インターセプトポイント(IP3)で特徴付けられます。このIP3は、3次非線形項によって生じる非線形積を、直線的に増幅された信号と関連付けるもので、IP3の値が高いほど、アンプ性能がより直線的であることを意味します。

LNAでの消費電力および効率は一般的に、あまり重要ではありません。元来、ほとんどのLNAは、10mA~100mAの電流消費を持つ非常に低電力のデバイスであり、負荷に電力を供給するのではなく、後段に電圧ゲインを与えます。また、システム内には1つまたは2つのLNAチャンネルしかないため(後者は通常、Wi-Fiおよび5Gインターフェース用などのダイバーシティアンテナ設計で使用されます)、低消費電力のLNAを使用することによる電力節約効果はわずかでしょう。

動作周波数および帯域幅以外で、LNAには比較的多くの機能的類似性があります。いくつかのLNAにはまた、過負荷および飽和なしで入力信号の幅広いダイナミックレンジをアンプが処理することができるように、ゲイン制御が含まれています。このように入力信号強度が大きく変動することは、基地局から電話機までの経路の損失が1回の接続サイクルでさえ広範囲におよぶ可能性があるモバイルアプリケーションではよくあることです。

LNAへの入力信号、およびLNAからの出力信号のルーティングは、その部品自体の仕様と同様に重要です。そのため、設計者は、LNAの性能をフルに発揮させるために、洗練されたモデリングおよびレイアウトツールを使用する必要があります。優れた部品は、レイアウトやインピーダンス整合の不備によって簡単に劣化してしまうため、シミュレーションおよび解析ソフトウェアをサポートする信頼性の高い回路モデルを使用するとともに、ベンダーが提供するスミスチャートを使用することが重要です(「スミスチャート:RF設計で今もなお不可欠な『古代の』グラフィカルツール」をご覧ください)。

これらの理由で、GHz帯で動作する高性能LNAのほぼすべてのベンダーは、レイアウト、コネクタ、グランド、バイパス、電源など、テストセットアップのあらゆる側面が重要であるため、評価ボードまたは検証済みプリント基板レイアウトを提供しています。これらのリソースがないと、設計者は、アプリケーションで部品の性能を評価しようとして時間を無駄にしてしまうでしょう。

GaAsベースのLNAの例として、 HMC519LC4TRがあります。この製品は、Analog Devicesが提供する18~31GHz pHEMT(擬似格子整合型高電子移動度トランジスタ)デバイスです(図2)。このリードレス4 x 4mmセラミック面実装パッケージは、3.5dBの低雑音指数および+23dBmの高IP3とともに、14dBの小信号ゲインを提供します。この製品は、+3Vの単電源から75mAしか消費しません。

Analog Devicesが提供するHMC519LC4TR GaAs LNAの図図2:HMC519LC4TR GaAs LNAは、18~31GHzの低レベル入力向けに低ノイズでゲインを提供します。パッケージのほとんどの接続は、電源レール用、グランド用、または未使用です。(画像提供:Analog Devices)

シンプルな機能ブロック図から、Vdd と呼ばれる3つの電源レールに寄生を抑えて適切なRFバイパスを提供するために必要な値とタイプが異なる複数の外付けコンデンサまで、設計の段階があります(図3)。

Analog Devicesが提供するHMC519LC4TR LNAの図図3:実際のアプリケーションでは、HMC519LC4TR LNAは、低周波数フィルタリング用のバルク静電容量と、RF寄生を最小化するためのRFバイパス用のより小さな値のコンデンサの両方を提供するために、電源レール上に、すべて同じ定格電圧の、複数のバイパスコンデンサが必要です。(画像提供:Analog Devices)

この強化された回路図は、評価ボードにつながり、これには、FR4以外のプリント基板材料の使用を含むレイアウトとBOMの詳細が記載しています(図4(a)および4(b))。

基板レイアウト図の画像図4(a)

LNA BOMの画像図4(b)

図4:これらのLNAフロントエンドが動作する高周波数、およびそれらが捉える必要がある低レベル信号を考慮すると、詳細なテスト済みの評価設計が不可欠です。これには、受動部品およびプリント基板材料(b)の詳細とともに、(示されていない)回路図、基板レイアウト(a)、およびBOMが含まれます。(画像提供:Analog Devices)

さらに高い周波数向けのGaAs LNAはMACOMMAAL-011111で、この製品は22~38GHz動作をサポートします(図5)。この製品は、2.5dBの雑音指数とともに、19dBの小さな信号ゲインを提供します。このLNAは1段デバイスのように見えますが、実際には、内部的では3段のカスケード接続になっています。最初の段は、最小ノイズおよび中程度のゲイン向けに最適化されている一方で、後続の段は追加のゲインを提供します。

MACOMが提供するMAAL-011111 LNAの図図5:ユーザーには、MAAL-011111 LNAは1段増幅器に見えますが、内部では、入力から出力までの信号経路SNRを最大化するように設計された一連のゲイン段を使用し、出力で大きな利得を追加しています。(画像提供:MACOM)

Analog DevicesのLNAと同様に、MAAL-011111は低電圧の単電源のみで使用でき、わずか3 x 3mmの小型の製品です。ユーザーは、バイアス(電源)電圧を3.0~3.6Vの間で異なる値に設定することにより、いくつかの性能仕様を調整し、トレードオフすることができます。推奨される基板レイアウトは、適切なインピーダンス整合とグランドプレーン性能を維持するために必要なとても重要なプリント基板の銅寸法を示しています(図6)。

MACOMMAAL-011111レイアウトの図図6:MACOMのMAAL-011111を最大限に活用するための提案されるレイアウトで、入力および出力インピーダンス整合も提供します。インピーダンス制御された伝送線路や、低インピーダンスグランドプレーン向けのプリント基板の銅の使用に注目してください(寸法はミリメートル単位)。(画像提供:MACOM)

PAによるアンテナ駆動

LNAの困難な信号取り込みの課題とは対照的に、PAは非常に高いSNRを備え、比較的強力な信号を回路から入力し、電力をブーストする必要があります。振幅、変調、形状、デューティサイクルなどの信号に関するすべての一般的な要因が知られています。これは信号処理マップの既知信号/既知ノイズ象限であり、最も管理しやすいものです。

PA用の主要なパラメータは、対象周波数における電力出力であり、標準的なPAゲインは、+10dB~+30dBの範囲にあります。ゲインと並んで、効率もPAの重要なパラメータですが、効率の評価は、使用モデル、変調、デューティサイクル、許容歪み、およびその他ブーストされる信号によって複雑になります。PA効率は30%~80%の範囲ですが、これは多くの要因に大きく依存します。同等に重要なPA直線性は、LNAの場合と同様にIP3によって判定されます。

多くのPAが、低電力レベル(約1~5Wまで)ではCMOS技術を使用していますが、近年では他の技術も発達し、特にバッテリ寿命と熱的考慮の両方において効率が重要な高電力レベルで広く使用されるようになっています。GaNを使用するPAは、数ワット以上必要とされる高電力レベル、かつ高周波数(一般的に1GHzを超える周波数)で効率向上を実現します。GaN PAは、特に効率や消費電力が考慮される場合に、コスト競争力があります。

最新のGaNベースのPAを代表する製品として、 Wolfspeed が提供する CGHV14800Fがあります。この製品は1200~1400MHz、800Wデバイスです。このHEMT PAが提供する効率、ゲイン、および帯域幅の組み合わせは、パルスL帯域レーダアンプ向けに最適化されているため、設計者は、航空交通管制(ATC)、気象観測、対ミサイル、ターゲットトラッキングシステムなどのアプリケーションで多くの用途を見つけることができます。これは、50V電源で、50%以上の標準ドレイン効率を提供し、冷却用のメタルフランジ付き10 x 20mmのセラミックパッケージで提供されます(図7)。

Wolfspeed CGHV14800Fの画像図7:CGHV14800F 1200~1400 MHz、800 W、GaN PA の金属フランジ付き 10 x 20mm セラミックパッケージは、困難なRF要件と放熱要件を同時に満たさなければなりません。機械的および熱的完全性のために、はんだ付けではなく、パッケージをプリント基板にネジ止めするための取り付けフランジに注意してください。(画像提供:Wolfspeed)

CGHV14800Fは、50V電源で動作し、65%を超えるドレイン効率を備え、標準で14dBの電力ゲインを提供します。LNAと同様に、評価回路およびリファレンス設計が不可欠です(図8)。

CGHV14800F PA用に提供されたWolfspeedのデモンストレーション回路の画像図8:CGHV14800F PA用に提供された デモンストレーション回路 は、デバイス本体以外にほとんど部品を必要としませんが、物理的なレイアウトと熱的な考慮が重要です。PAは、取り付けの完全性と熱的な目的の両方に役立つパッケージフランジを介して、ネジとナット(底面にあり、見えない)で基板に固定されています。(画像提供:Wolfspeed)

多くの仕様表や性能曲線の中で同様に重要なのは、消費電力ディレーティング曲線です(図9)。これは、利用可能な定格出力電力対ケース温度を示し、最大許容電力が115°Cまで一定で、その後、150°C最大定格まで直線的に低下することを示します。

PAのディレーティング曲線のグラフ図9: PAは電力を供給する役割を担っているため、ケース温度が上昇すると許容出力電力が低下することを設計者に示すために、PAのディレーティング曲線が必要です。ここで、定格電力は115°Cを超えると急激に低下します。(画像提供:Wolfspeed)

MACOMは、NPT1007 GaNトランジスタのようなGaNベースのPAも提供しています(図10)。DC~1200MHzの周波数範囲により、広帯域と狭帯域の両方のRFアプリケーションに適しています。それは、標準で14~28Vの単電源で動作し、900MHzで18dBの小信号ゲインを提供します。それは、デバイスの劣化なしで、10:1のSWR(定在波比)不整合を許容するように設計されています。

MACOMのNPT1007 GaN PAの画像図10:MACOMのNPT1007 GaN PAは、DC~1200 MHzの範囲をカバーし、広帯域と狭帯域の両方のRFアプリケーションに適しています。設計者は、ロードプルのさまざまなグラフを通して追加のサポートを得ることができます。(画像提供:MACOM)

NPT1007は、500MHz、900MHz、1200MHzにおける性能の基本を示すグラフに加え、堅牢な製品の確保に努める回路設計者やシステム設計者を支援するために、さまざまな「ロードプル」グラフでサポートされています(図11)。ロードプルテスト は、ペアの信号源および信号アナライザ(スペクトラムアナライザ、パワーメータ、またはベクトルレシーバ)を使用して行われます。

関連コンポーネント値は、温度シフトや公称値付近の許容範囲内でのばらつきによって変化する可能性があるため、このテストでは、被テストデバイス(DUT)から見たインピーダンスを変化させ、PAの性能(出力電力、ゲイン、効率などの要素)を評価します。

MACOM NPT1007 PAのロードプルグラフの画像図11:NPT1007 PA のロードプルグラフは、最小/最大/標準仕様の標準的な表から外れて、負荷インピーダンスが公称値からずれたときのPA性能を示しています。この状況は、初期の製造公差や熱ドリフトにより実際の使用時に発生します。(画像提供:MACOM)

使用されるPAプロセスにかかわらず、設計者が最大電力伝達のためにPAの出力インピーダンスをアンテナに適切に整合させ、SWRを可能な限り1に近づけることができるように、デバイスの出力インピーダンスはベンダーによって完全に特性評価されなければなりません。この整合回路は、主にコンデンサおよびインダクタから構成されており、これらは、ディスクリートデバイスとして実装されているか、またはプリント基板または製品パッケージングの一部として組み込まれている可能性があります。また、それらも、PAの電力レベルに耐えられるように設計されていなければなりません。スミスチャートのようなツールの使用は、必要とされるインピーダンス整合の理解と実装に不可欠です。

PAの小さなダイサイズおよび高電力レベルにより、パッケージングが重要な問題となります。前述のように、多くのPAは、広い放熱パッケージリードおよびフランジや、プリント基板の銅へのパスとして機能するためのパッケージ下のサーマルスラッグを介したヒートシンクをサポートします。高電力レベル(約5W~10Wを超える電力レベル)では、PAはヒートシンクを上部に取り付けできる銅キャップを備え、ファンまたは他の高度な冷却技術が必要となる可能性があります。

GaN PAに関連する電力定格および小型サイズは、熱環境のモデリングが重要であることを意味します。もちろん、PA自体をケースや定格接合部温度内に保つだけでは十分でありません。PAから取り除かれる熱は、回路およびシステムの他の部品にとって問題となってはいけません。全体の熱経路について対処し、解決することを考慮に入れる必要があります。

まとめ

スマートフォンから、VSAT端末や位相アレイレーダシステムに及ぶRFベースのシステムは、LNAおよびPA性能の限界を押し広げています。このため、デバイスメーカーはシリコンを超えて、GaAsやGaNを研究し、要求される性能を提供するようになりました。

これらの新しいプロセス技術は、より広い帯域幅、小型のフットプリント、効率の向上を実現するデバイスを設計者に提供しています。しかしながら、設計者は、これらの新技術を効果的に適用するために、LNAおよびPA動作の基礎を理解する必要があります。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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雑誌『Electronic Products』とElectronicProducts.comは、電子機器およびシステム設計の責任を持つ技術者や技術管理者に関連情報を提供しています。