多様なアプリケーションに対応するため従来の常識を覆す超広帯域チップアンテナ

アンテナの機能とは、マクスウェルの方程式が支配するRFの世界と、ボルトとアンペアの電気回路の世界との間で、単に双方向のトランスデューサとして働くことです。それでも、八木式アンテナ、ボウタイアンテナ、ダイポールアンテナ、ループアンテナ、ディッシュアンテナ、パッチアンテナ、モノポールアンテナ、ホーンアンテナ、ヘリカルアンテナ、スタブアンテナなど、使用されている種類やサイズの多さには驚かされます。

それほど種類が多いのは、アンテナとその構成は常に多くの目的(それも、しばしば相反する目的)を満たすという複雑な課題に直面してきたからです。懸念の対象となるパラメータには、中心周波数、3デシベル(dB)帯域幅、放射パターン、指向性、前後比、サイドローブ、物理的サイズ、インピーダンス、パワーハンドリング、そして標準的なサイズ、効率、コストの問題があります。

理想としては、1つのアンテナですべてに対応できることです。コストとスペースが重要になる場合はなおさらです。まだそこまで到達していませんが、超広帯域(UWB)アンテナは、高速で信頼性の高い低電力コネクティビティを必要とする多くの多様なアプリケーションに適した選択肢です。

アンテナの評価

昔から多くのシステムに共通していた重要な目的のひとつは、余計な信号を拾ったり、不要な干渉を起こしたりしないように、アンテナの帯域幅(-3dBポイント間で測定)を最小限に抑えることでした。結局のところ、他の要素を妥協することになってでも、帯域外性能と受信ノイズの増加をサポートする理由は何なのでしょうか。

帯域幅パラメータの一般的な指標のひとつは、分数帯域幅(FBW)です。FBWは、周波数スパン(最高周波数から最低周波数を引いたもの)を中心周波数で割った比率です。分数帯域幅はゼロから2の範囲で、0%から200%の間のパーセンテージで示されることが一般的です。パーセンテージが高いほど、帯域幅は広くなります。

異なるアンテナタイプのおおよそのFBWを示す簡単なガイドラインがあればいいのですが、それは非現実的です。というのも、アンテナは、おそらく他の部品以上に、その設計と物理的寸法において多くのトレードオフがあるからです。非常に高い自由度を持つため、FBWを含む各パラメータが互いにバランスを保つことで、用途に応じた「最適」な設計を見つけることができます。

ほとんどのアンテナのFBWは、指向性(ゲイン)、サイドローブ、放射パターン、物理的なサイズ、多素子設計の場合の素子数など、他のパラメータとのトレードオフによって大きくしたり小さくしたりすることができます。たとえば、古典的な八木・宇田アンテナのFBWは、素子の数や間隔、厚さ、その他の物理的属性を変えることで、数パーセントから数十パーセントまで調整できます。

FBWが20%以上のアンテナをUWBアンテナと見なす専門家もいれば、FBWが50%以上のものだけをUWBとする専門家もいます。連邦通信委員会(FCC)と国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)は現在、UWBを、放射される信号帯域幅が500メガヘルツ(MHz)または算術中心周波数の20%のいずれか小さい方を超えるアンテナ送信と定義しています。混乱を招く可能性があるため、通常、その話題について話し合う際には説明を求めるとよいでしょう。

UWB:以前とは変わったニーズ

広帯域とマルチバンドアプリケーションの出現により、FBWをできるだけ狭く保つという指令は、大きなFBWを持つUWBアンテナが望ましい、あるいは必須でさえあるという方向に転じています。実際、UWB特性を持つ新規または革新的なアンテナ構成について記述した学術論文が最近多く発表されています。

先に進む前に、UWB用語について説明しておきましょう。超広帯域(ultra-wideband/ultrawideband)という言葉には、2つの異なる意味があります。アンテナの文脈では、前述したようにFBWに関係します。しかし、電磁スペクトルに関しては、「超広帯域」という用語は、より広い帯域幅を利用できる高い周波数を表すのにも使われます。

たとえば、30~300ギガヘルツ(GHz)の超高周波(EHF)帯の一部を使用するアプリケーションは、数百メガヘルツの超広帯域の「一部」を使用して極めて高いデータレートをサポートできるため、しばしばUWBアプリケーションと表現されます。しかし、60GHzで1GHzを使用するこのようなUWBアプリケーションにUWBアンテナは必要ありません。必要なのは、60GHzを中心としたFBWが1.7%程度のアンテナです。

AbraconACG0806UACG0301UACG0502UなどのUWBアンテナは、この広い周波数範囲で動作します。これらのアンテナは、高い設計柔軟性と信頼性の高いコネクティビティを提供すると同時に、複数の狭帯域アンテナの置き換えに使用することもできます(表1)。

表1:ACG0806U、ACG0301U、ACG0502U UWBアンテナは、周波数範囲と分数帯域幅のさまざまな組み合わせを提供します。(画像提供:Bill Schweber、Abraconのデータより)

UWB信号とそのアンテナの潜在的な範囲は、ゲートウェイやルータ、高速ストリーミング、無線アクセスポイント、ハンドヘルドデバイス、追跡や測位、スマートホーム機器制御、エンターテイメントシステムなどのアプリケーションに適しています。また、モノのインターネット(IoT)、マシンツーマシン(M2M)通信、セキュアカーアクセス、物品追跡、屋内ナビゲーション、ハンズフリー決済、スマートアクセス、物体検出などのアプリケーションにも有用です。

AbraconのUWBアンテナは、次世代コネクティビティのためにも設計されています。698MHzから7GHzまでの全帯域をカバーし、以下の複数の利点を提供します。

  • 高性能
  • 高い放射効率
  • 低消費電力(UWBシステムの低電力要件のため)
  • 高速/安定データ送信に対する業界のニーズに対応
  • アンテナのデザインインと基板/システムレイアウトを簡素化する完全なディスクリートチップデバイス

詳細のハイライト

AbraconのUWBアンテナを詳しく見てみると、その特性と、エンジニアリング設計の労力をいかに軽減できるかがわかります。ACG0806Uは、3.3GHz~7.2GHz動作(帯域幅4000MHz)の面実装型(SMD)UWBアンテナで、8.0 x 6.0 x 1.2mmの小型セラミックチップパッケージです(図1)。

図1:Abracon ACG0806Uは、3.3GHz~7.2GHz動作のUWBアンテナで、8.0mm x 6.0mm x 1.2mmの小型SMDセラミックチップパッケージです。(画像提供:Abracon)

電気的には、ACG0806Uは直線偏波と全方向のアジマスビーム幅を持ち、公称インピーダンスは50Ω、電圧定在波比(VSWR)は3.5未満です。性能の詳細として、リターンロスのインピーダンス特性と総合効率の放射特性を示すグラフが含まれます(図2と図3)。

図2:ACG0806Uのリターンロス(dB)のグラフは、指定された動作帯域における性能の一面を詳細に示しています。(画像提供:Abracon)

図3:ACG0806Uの動作周波数における効率を示しています。(画像提供:Abracon)

設計者にとって同様に重要なのは、チップアンテナをどこにどのように配置し、インターフェースとするかです。ACG0806Uの評価ボードには、重要な寸法と関連する整合回路が示されています(図4)。

図4:ACG0806Uアンテナの配置に関連する寸法を示しています。(画像提供:Abracon)

まとめ

UWBアンテナは、現在注目されている多様なマルチバンドおよび広帯域アプリケーションをサポートするために必要とされています。Abraconは、異なる中心周波数と帯域幅を持つ面実装型UWBチップアンテナのセレクションを提供しています。これを使えば、設計者は回路基板上のUWBアンテナを素早く選択して配置し、プロジェクトの次の段階に進むことができます。

お勧めの記事

1:ワイヤを超えて:厳しいワイヤレス要件を満たすためのアンテナの進化と適応

https://www.digikey.jp/ja/blog/beyond-wires-antennas-evolve-and-adapt

2:広帯域アンテナを使用して従来型ネットワークと5GワイヤレスIoTネットワークの両方に対応する方法

https://www.digikey.jp/ja/articles/how-to-cater-to-both-legacy-and-5g-wireless-iot-networks-using-wideband-antennas

リファレンス

1: International Journal of Antennas and Propagation、『ワイヤレスアプリケーション用の広帯域およびUWBアンテナ:包括的レビュー』

https://www.hindawi.com/journals/ijap/2017/2390808/

2: IntechOpen、『超広帯域アンテナと設計』

https://www.hindawi.com/journals/ijap/2017/2390808/

3: National Institute of Health、National Library of Medicine、『超広帯域アンテナ:成長と進化』

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8781011/

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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