ワイヤを超えて:厳しいワイヤレス要件を満たすためのアンテナの進化と適応
アンテナは本当に不思議なデバイスです。それらは同時に、魔法のようでもあり、神秘的でもあり、私たちが利用する無線の世界には絶対に欠かせないものです。1880年代にハインリヒ・ヘルツがスパークギャップという簡素なアンテナを使い、テーブル上で無線エネルギーとして信号を送ったのが始まりで、それ以降、アンテナの設計と実装は無線機器とそれを支える通信リンクの成功に欠かせないものとなっています(図1)。
図1:これは、ハインリヒ・ヘルツが、無線の電磁場による電力伝送という不思議な現象を調べるために使用したものを現代風にアレンジしたものです。(画像提供:Lesics Engineers Pvt.Ltd.)
では、アンテナ(イギリスでは「エアリアル」と呼ばれています)は具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか。物理学や電力の観点からは、アンテナは、ボルトやアンペアで表される回路の電力と、マクスウェルの方程式で表される自由空間の電磁場との間のトランスデューサです。この物理的な面は今後のブログで説明しますが、回路からの電力を自由空間に放射したり、周囲の電磁力を取り込んで回路に供給したりすることができるため、相互作用を示し、方向性を問わないということを知っていれば今のところは十分です。
アンテナは、非常にシンプルな所与の長さのワイヤである場合もあれば、多くの要素、配慮の必要な幾何学的配置、洗練された相互接続を備えた、気が遠くなるほど複雑な構成である場合もあります。その大きさも、ミリ単位のものから数十エーカーを占める巨大なものまでさまざまで、周波数や電力などの必要な能力特性や、システムのスペースの制約などによって変わってきます。
あらゆる部品と同様に、これらは最初にいくつかの最重要のパラメータと、それに続く多くの副次的なパラメータによって特徴づけられます。もちろん、アプリケーションによっては、副次的な属性が非常に重要な場合もあります。注目する主な属性は以下のとおりです。
- 動作周波数:アンテナが有用な性能を発揮する周波数または帯域の中心です。
- 帯域幅:アンテナが動作するスペクトルの幅で、シングルバンドかマルチバンド設計かを示します。
- 効率:電磁エネルギーを放射したり、取り込んだりする能力のことです。
- 放射:360°の水平面(アジマス)と垂直面(エレベーション)でのパターン(図2)です。
図2:数あるアンテナの特性の中で、アジマスとエレベーションの放射パターンも注目されています。(画像提供:VCEguide)
それぞれの要素について、単純な良い/より良い/最良という順位はありません。たとえば、より大きな帯域幅を必要とするアプリケーションもあれば、アプリケーションの要件を最もよく満たすために少ない帯域幅しか必要としないアプリケーションもあります。
理想的なアンテナは、動作周波数において純抵抗負荷(通常は50または75Ω)のみ存在するようなものですが、ほとんどの実際のアンテナのインピーダンスには無効分も含まれています。同時に、アンテナを機能させる送信機出力(またはアンテナに接続された受信機)は、独自の無効非抵抗性インピーダンスを有します。この2つの現実の組み合わせにより、多くの場合これらのインピーダンスをマッチングさせる必要があります。
直感に反して、「インピーダンスがマッチングしている」とは、これらのインピーダンスが等しいことを意味しません。そうではなく、ソースインピーダンスとロードインピーダンスが互いに複素共役であることを意味し、その結果、2つの間の電力伝達が最大となる条件となります。このマッチングを実現するためのインピーダンス変換には、アンテナと同様に、ディスクリートの受動部品を含めて、無数の配列、部品、技術があります(図3)。
図3:この代表的なバラン回路は、抵抗性と誘導性の両方のインピーダンス成分を持つアンテナに、コンデンサと抵抗器を使ってインピーダンスマッチングを行うものです。(画像提供:ResearchGate)
送信機からアンテナへのリンクでは、電圧定在波比(VSWR)を1に近づけることが目標で、これは反射した電力がソースに戻ってこない効率的な電力伝送を意味します。
圧倒されないでください
アンテナの種類や構成は無限にあるため、テーマ全体というと圧倒的な量に思えるかもしれません。幸いなことに、覚えておくべき基本的なポイントがあります。ほとんどすべてのアンテナは2つの基礎的なブロックのどちらかから構成されているということです。2つとは、ロングワイヤまたはホイップデザインが特徴的な、実際の(または仮想の)グランドプレーンを持つ単一素子の「不平衡」のモノポールアンテナ(図4)と、平衡でグランドのないダイポールアンテナです(図5)。これらの基礎要素はよく単独で使用されますが、より大きく、より複雑なアンテナ構成を形成するためにも使用されます。
図4:ロングワイヤまたはホイップアンテナ構成は、グランドプレーン(ここでは車の屋根、左)を使用した単一素子設計で、アンテナの図はそのシンプルさを示しています(右)。(画像提供:Lihong Electronic、Electronics Notes)
図5:基本的なダイポールは、その図(右)に示されているように、グランドリファレンス(左)のない平衡の、対称的なアンテナです。(画像提供:TCARES.net、Tutorials Point)
バラン(平衡-不平衡の略)と呼ばれるアダプタは、必要に応じて、不平衡のグランド回路と平衡の非グランドダイポールとの間の電気的な変換を行い、また、ソース/レシーバとアンテナとの間の抵抗整合のためにインピーダンス(Ω)を変換することができます(図6)。
図6:このパッシブバランは、50Ωの不平衡インピーダンスを300Ωの平衡インピーダンスに変換します。(画像提供:Pinterest)
アプリケーションの周波数、複雑さ、柔軟性の向上に伴い、アンテナシステムも進化しています。たとえば、5Gのアクセスポイントでは、複数のアンテナをフェーズドアレイ方式で使用しています。これは、もともと軍用レーダに使用されていた技術を発展させたもので、アンテナアセンブリ全体を機械的に動かす代わりに、個々のアンテナエレメントを位相シフトさせて電子的に操作します。
他にも、金属製のグランドプレーンを持つチップスケールのアンテナを小型化した誘電体セラミック共振器があります。また、最終製品のプリント回路基板(プリント基板)をグランドプレーン(シングルエンド)やダイポールアンテナの素子として使用するものもあります。
アンテナの複雑性とさまざまな構成がある中で、用途に適したものを選択するにはどのすればよいのでしょうか。まずは、既製品や標準カタログとして提供されている、あらゆるサイズと性能を備えた何千ものアンテナが相手です。これらのアンテナには、実際にテストされた性能や特性を記した詳細なデータシートが添付されています。
固有のサイズ、周波数、性能を満たすために新しいアンテナ設計が必要な場合、最新のシミュレーションおよびモデリングツールは非常に有効です。これらの電磁界ソルバーは、ほぼすべてのアンテナ構成の電界と磁界の性能(それぞれEとHのフィールド)をモデル化することができます(図7)。
図7:高度な電磁界モデリングツールは、単純なアンテナ構成と複雑なアンテナ構成の性能を定量的に評価できます。(画像提供:Altair Engineering, Inc.)
これらのツールは、素子の端部における電磁界の「フリンジング」効果や、ゼロではない厚さなど、現実のアンテナの問題を考慮するのに十分な機能を備えています。隣接する部品や表面の影響や、避けられない寄生要素の影響もモデル化できます。
一般的に、これらのモデリングプログラムは、分析はできても作成はできませんが、中には代替案や修正案を提供することで、必要なアンテナの設計を支援することができるものもあります。研究者たちは、これらのプログラムに人工知能(AI)を加えることで、多くの構成の考案、探索、分析を可能にし、指定された性能目標を達成できるようにしています。また、最終的な設計を選択する過程で必要となるトレードオフの問題も指摘することができます。
まとめ
アンテナは、用途や優先順位に応じて、設計の中で最もシンプルな要素にも、最も洗練された多様な要素にもなり得ます。動作周波数が増加し、スペクトルが混雑することが設計上の現実となるにつれ、アンテナは、新たな制約が生まれたり、複数の性能パラメータと機能における優先順位付けや重み付けがより困難になったりしているにもかかわらず、より多くのことをより上手く行うことが求められています。今後のさらなる探究にご期待ください。
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