広帯域アンテナを使用して従来型ネットワークと5GワイヤレスIoTネットワークの両方に対応する方法
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2022-03-29
非常に目立つ民生用スマートフォンの他にも、5Gベースのワイヤレスリンクは、モノのインターネット(IoT)、マシンツーマシン(MTM)リンク、スマートグリッド、自動販売機、ゲートウェイ、ルータ、セキュリティ、遠隔監視接続など、多様な組み込みアプリケーションに対応しています。しかし、この5Gへの移行は、一夜にして実現するものではありません。そのため、ワイヤレス通信リンクのフロントエンドには、5Gに対応できるアンテナだけでなく、5Gの普及後も長年にわたって残る従来の2G、3G、およびその他の非5Gリンクにも対応できるアンテナが必要となります。
これらの理由から、技術者は5G規格をサポートする帯域に加えて、他の帯域もサポートする製品を設計する必要があります。内部RFフロントエンドやパワーアンプが帯域ごとに異なる場合でも、単一の広帯域アンテナで5Gと従来の帯域の両方に対応できるメリットがあるのです。
この記事では、Abracon LLCの実例が示すように、低帯域の5G周波数帯と従来の帯域に対応する広帯域アンテナについて考察します。また、このタイプのアンテナが目に見える外付けユニットまたは内部に埋め込むユニットのどちらの場合でも、これを使用して設計を容易にし、部品表(BOM)を簡素化し、必要に応じて5Gへのアップグレードを促進する方法を紹介します。
規制帯域からスタート
アンテナは、RF信号経路の最後の要素であり、相補受信経路の最初の要素です。アンテナの機能は、電流や電圧の回路世界と、放射エネルギーや電磁場のRF世界の間のトランスデューサとなることです。
対象アプリケーションに応じたアンテナを選択するには、使用されている変調方式や業界標準にかかわらずアンテナが機能することを念頭に置くことが重要です。中心周波数、帯域幅、ゲイン、電力定格、物理的サイズなど、アンテナの選択に用いられるパラメータは、アンテナが振幅、周波数、位相変調(AM、FM、PM)信号、3G、4G、5G、または独自の信号形式のために使用されているかどうかとは無関係です。
もちろん、5G規格をサポートする新興アプリケーションのシステム設計は、特に5Gアクティビティが最も多く存在する6GHz未満の5G帯において、大きな注目を集めています。システムがサポートするワイヤレス規格と、アンテナの選択を決定づける使用周波数および周波数帯を区別することが重要です。
新しい5G規格では、以前は利用できなかった周波数セグメントを利用すると同時に、スループットを向上させるためのより高度な変調方式を取り入れることにより、すでに利用されている周波数帯の一部も活用します。したがって、2022年の3Gのように、既存の規格に対する業界とキャリアのサポートが段階的に終了(または「停止」)しても、3Gで使用されていた周波数帯の一部は4Gや5Gでも使用されます(図1)。
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図1:600~6000MHzの周波数は、3G、4G、5Gなど複数の規格をサポートし、一部の周波数帯は重複しています。(画像提供:Abracon LLC)
これは、3Gまたは4G帯域に対応したアンテナが5Gでも使用できる可能性があり、またその逆も同様であるという意味です。規格は廃止されても、それに対応したアンテナは廃止されず、アンテナの上位/下位互換が可能になります。これらの各ケースにおいて、複数の規格や帯域に対応したアンテナの再利用は実用的であり、多くの場合、望ましい解決策となります。
600MHz~6GHzのRF周波数帯におけるその他の重要な規格には、以下が含まれます。
- 3550MHz~3700MHz(3.5GHz~3.7GHz)の範囲で軽度に安定化された150MHz幅のセグメントである、市民ブロードバンド無線サービス(CBRS)。米国では、連邦通信委員会(FCC)が、既存ユーザー、優先アクセスライセンス(PAL)ユーザー、一般認可アクセス(GAA)ユーザーの3階層で共有する目的でこのサービスを指定しています。
- LTE Cat-M1(しばしばCAT Mと呼ばれる)、またはロングタームエボリューション(4G)、カテゴリM1の略称であるLTE-M。この技術により、低デューティサイクルでバッテリ駆動のIoTデバイスを、ゲートウェイなしで直接4Gネットワークに接続することが可能になります。
- 狭帯域IoT(NB-IoT)は、3G領域内で直交周波数分割多重(OFDM)を使用するセルラーグレードのワイヤレス技術です。これは、セルラーシステムの標準化組織である3GPP(Third Generation Partnership Project)が、モバイルネットワークに接続する必要がある超低データレートデバイス(バッテリ駆動の場合が多い)のニーズに対応するために提唱しているものです。
混同や曖昧さが生じる可能性があるため、広帯域とマルチバンドという用語について、注意事項を記載します。「広帯域」アンテナとは、中心周波数のかなりの割合の帯域幅に対応するアンテナを指します。この数値の正式な定義はありませんが、非公式には通常、中心周波数の少なくとも20~30%の帯域幅を意味します。対照的に、「マルチバンド」アンテナは、規制規格によって定義された2つ以上の帯域をサポートするように設計されたアンテナを意味します。これらの帯域は、密集する場合もあれば大きく離れている場合もあります。
マルチバンドアンテナの極端な例としては、放送用AM(550~1550kHz)と放送用FM(88~108MHz)を同時に受信できるアンテナがあります。マルチバンドアンテナは広帯域である場合もありますが、必ずしもそうとは限りません。
マルチバンドアンテナは、その数、間隔、帯域幅にかかわらず、内部的には2つ以上の異なるアンテナを組み合わせたものであっても、RF接続は1つです。実際、マルチバンドアンテナは単純な広帯域アンテナとは異なり、同一チャンネル干渉を最小限に抑えるため、帯域幅全体にわたってゲイン範囲に意図的なギャップが生じるように設計される場合があります。
内部または外部アンテナ
アンテナが使用されるワイヤレス接続規格はアンテナ設計の問題ではありませんが、周波数と帯域幅は間違いなく考慮すべき事項であり、アンテナの物理的実装が重要な決断となる要因になります。設計上の大きな考慮事項の1つは、外部アンテナを使用するか、最終製品の内部にアンテナを組み込むかです。
内部アンテナには、以下の特性があります。
- 破損したり引っ掛かったりする外部アタッチメントのない、よりスマートなパッケージを実現
- 組み込みアンテナは常時接続で利用可能
- カバレッジ、効率、放射パターンなどの性能基準に関して固有の制約がある
- 組み込みアンテナの性能は隣接する回路の影響を受けるため、その配置は回路基板のサイズ、レイアウト、部品、全体的な配置と密接に関連する
- ユーザーの手や体によって、アンテナのパターンや効率、性能に変化が生じる可能性がある
一方、外部アンテナは以下の特徴を備えています。
- 設計の自由度が高いため、放射パターン、帯域幅、ゲインを調整できる可能性が高い
- IoT/RFユニットに取り付ける必要がなく、同軸ケーブルを使用して適度な距離で最適に設置できる
- 製品設計やパッケージングの電気的側面による影響をあまり受けないか、全く影響を受けない
- 複数のスタイルや構成で利用可能
- 取り付けにコネクタやケーブルが必要となり、それらが故障の原因になることがある
通常、外部アンテナか内部アンテナかという選択は、複数の要因によって決定されます。これには、最終製品の用途やユーザーの好み、性能とのバランス、アンテナがモバイルと固定のどちらで使用されるか、などが含まれます。たとえば、外部アンテナを搭載したスマートフォンは不格好と思われるかもしれません。対照的に、外部アンテナやわずかに離れたアンテナを備えた固定型のIoTノードは、より優れて一貫した接続を提供する場合があります。
マルチバンドアンテナの利点
マルチバンドアンテナは、既存の用途に対応すると同時に、5G接続を含むアップグレードに対応した将来性のある設計も可能にします。しかし、設置パラメータや仕様が分かっているのに、なぜそのようなアンテナを検討するのでしょうか?以下のような、もっともな理由があります。
- 単一のアンテナで異なる帯域を対象とする製品ファミリに対応できるため、在庫管理や購買の簡素化が可能
- マルチバンドアンテナを内蔵するとパッケージが小さくなり、外付けにすると製品エンクロージャのアンテナコネクタの数が少なくなる
- マルチバンドアンテナは、性能上の理由か既存の帯域や規格が廃止されたためかにかかわらず、5Gなどの新しい帯域へのアップグレードが可能または予想されるIoTデバイスに対応可能
- 単一の外部アンテナで複数の帯域に対応するため、設置技術やツールの共通化が図れる
- 重要な固定用途および、特にモバイル用途では、デバイスのRFセクションがデュアルバンドをサポートすることで、デバイスが帯域を動的に切り替え、特定の場所や設定において最適な性能を実現できる
- 設計者は、関連のないデバイスに単一の内部マルチバンドアンテナを使用する際に、アンテナのモデリング、配置、および考えられる生産上の問題についての経験を活用できる
マルチバンドアンテナの実例
マルチバンドアンテナは、その広帯域性能にもかかわらず、3つの例で示すように、フォームファクタや終端タイプが限定されません。
AEBC1101X-Sは、5G/4G/LTEセルラーホイップアンテナで、長さ115mm、最大直径19mm、600MHz~6GHzの動作用に設計されています(図2)。標準的なオスのSMAコネクタが付属しており、90°回転して製品エンクロージャに直接取り付けることができます(同軸ケーブルを延長して使用することも可能)。また、逆極性のSMAコネクタも用意されています。
図2:AEBC1101X-S 5G/4G/LTEセルラーホイップアンテナは、600MHz~6GHzの動作用に設計されており、90°回転可能なSMA同軸コネクタが内蔵されています。(画像提供:Abracon LLC)
その電圧定在波比(VSWR)とピークゲイン性能は、低周波数帯と高周波数帯で効率の変化があるものの、全帯域でほぼ一定となります(図3)。
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図3:AEBC1101X-S 5G/4G/LTEセルラーホイップアンテナは、ローエンド(600~960MHz)とハイエンド(1400~6000MHz)の間で性能の変化が緩やかです。(画像提供:Abracon LLC)
放射パターンは全帯域にわたってほぼ円形であり、3600MHzで小さなローブがいくつか現れ、5600MHzではさらに顕著になります(図4)。
図4:AEBC1101X-SのX-Y放射パターンは、3600MHzと5600MHzの間で変化し、いくつかのローブが現れます。(画像提供:Abracon LLC)
同じく600MHz~6GHzで動作するAECB1102XS-3000S 5G/4G/LTE/NB-IoT/CATブレードアンテナの寸法は、長さ115.6mm × 幅21.7mm、わずか5.8mmの薄さです(図5)。平面に対して、粘着テープで簡単に設置できるように設計されています。
図5:同じく600MHz~6GHzで動作するAECB1102XS-3000S 5G/4G/LTE/NBIOT/CATブレードアンテナは、粘着テープを使用して平面に貼り付けるだけの便利な薄型アンテナです。(画像提供:Abracon LLC)
RF性能はAEBC1101X-Sと同様で、最大VSWRは3.5未満ですが、等方性放射体(dBi)に対してピークゲインは2デシベルと少し低くなっています。また、X-YおよびX-Z平面での放射パターンも、より複雑になっています(図6)。
図6:AECB1102XS-3000SブレードアンテナのX-ZおよびY-Z放射パターンでは、ホイップアンテナよりも複雑な一連のローブが確認できます。(画像提供:Abracon LLC)
AEBC1101X-SとAECB1102XS-3000Sの顕著な違いは、使用できる終端にあります。AECB1102XS-3000Sブレードアンテナには、1mのLMR-100同軸ケーブル(RG174およびRG316ケーブルタイプの代わり)が標準装備されており、広く使用されているオスSMAコネクタで終端されています。ただし、ケーブルの長さはほぼ自由に注文でき、SMA以外のコネクタタイプも標準オプションで用意されているため、接続の柔軟性が高くなっています(図7)。
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図7:AECB1102XS-3000Sの標準的な同軸ケーブルは、SMA(M)コネクタで終端されていますが、他にも多くのコネクタが選択可能です。(画像提供:Abracon LLC)
ACR4006X 600~6000MHz広帯域セラミックチップアンテナは、サイズがわずか40 × 6 × 5mmの面実装デバイスです。動作中に望ましい50Ωのインピーダンスを実現するためには、8.2nHのインダクタと3.9pFのコンデンサ(それぞれ0402サイズ)で構成される小型のインダクタ-コンデンサ(LC)インピーダンス整合ネットワークが必要となります(図8)。
図8:ACR4006X 600~6000MHz広帯域セラミックチップアンテナは、フットプリントがわずか40 × 6mmで、50Ωのインピーダンス整合のために2個の小型受動部品のみを必要とします。(画像提供:Abracon LLC)
ACR4006Xのデータシートには、600~6000MHzのデバイスであることが記載されていますが、その効率、ピークゲイン、平均ゲインのグラフには、いくつかのギャップがあることに注意してください(図9)。このマルチバンドアンテナは、その範囲内の3つの特定の帯域(600~960MHz、1710~2690MHz、3300~6000MHz)で性能を発揮するように設計および最適化されているため、これらは意図的なものです。これにより、3G、4G、5Gに加え、より小さな周波数分配にも対応できます。
図9:ACR4006Xにおける600~6000MHzの効率とゲインのプロットにはギャップがありますが、3G、4G、5Gの動作帯域内ではないため、ユーザーにとってほとんど問題ありません。(画像提供:Abracon LLC)
ACR4006XはGPSレシーバ用を意図していないため、1575.42MHz(L1キャリア)と1227.6MHz(L2キャリア)のGPSキャリア周波数における性能は規定されていません。
また、ACR4006XのX-Y放射パターンも周波数の関数ですが、やはり広帯域にわたってほぼ円形を保ち、その低周波数範囲で90°と270°にわずかなゲインディップがあるだけです(図10)。
図10:ACR4006XチップアンテナのX-Y放射パターンはほぼ円形ですが、90°と270°に周波数依存のゲインディップがあります。(画像提供:Abracon LLC)
アンテナの性能評価は、データシートから始まり、多くの場合で無響室を使用した確認へと続き、最後に最終製品でのフィールドテストが行われます。外部アンテナの実際の性能に影響を与える要因としては、エンクロージャ、モバイルユニットの場合はユーザーの体や手、そしてアンテナの位置や配置などがあります。これらは、製品の内部回路基板レイアウトから大きく切り離されています。
対照的に、ACR4006Xチップアンテナのような内部ユニットの性能は、隣接する部品やプリント基板の影響を受けます。そのため、Abraconでは、このチップアンテナの技術評価を容易にする手段として、ACR4006X-EVB評価ボードを提供しています。
このボードは、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)と組み合わせて使用します。ほとんどのVNAテストにおける標準的な手順として構成の初期較正を行った後、アンテナの性能は、基板上のSMAコネクタを使用し、VNAの較正ポートを介して評価されます。
評価ボードのサイズは120 × 45mmで、チップアンテナを適切に配置できるように精密に設計されています。これには、アンテナを正常に動作させるために必要な45 × 13mmのメタル/グランドクリアランス領域が含まれています(図11)。
図11:ACR4006X-EVB評価ボードはサイズがわずか120 × 45mmで、SMAコネクタを介したチップアンテナの評価を容易にします。データシートには、重要なレイアウト領域と寸法が記載されています。(画像提供:Abracon LLC)
まとめ
マルチバンドアンテナは、IoTデバイス、特に現在シングルバンドをサポートする必要があるデバイスの課題に対処すると同時に、5Gなどの新しい規格へのスムーズなアップグレード経路も提供します。また、複数の帯域をサポートすることで、シングルバンドでは接続が確保できないようなゾーンでも性能を最適化することができます。この記事で説明したように、回路基板に実装されるAbraconの内部アンテナは、よりスマートなパッケージを実現します。一方、外部アンテナは、内蔵RFコネクタまたは同軸ケーブルを使用することで配置の柔軟性を提供し、最適な信号経路を実現します。
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