50Ωと75Ωの伝送線路を注意深く選択しなければならない理由

RF技術者がプロジェクトの伝送線路のインピーダンスについて考えるとき、これらの線路はすべて公称インピーダンスが50Ωであると頭から決めてかかるかもしれません。現在のRF設計の多くはこの値に基づいているため、それも当然です。この数字は、任意のものではありません。あえて50Ωを使用する技術的な理由があるのです。

一方で、伝送線路インピーダンスが75ΩのRFアプリケーションも多く存在します。それらは主にビデオ信号やケーブルテレビに関連するもので、この大きな市場にはビル用分配アンプなど多くの関連機能も関与しています。これらの分野の設計者やエンドユーザーにとっては、75Ωが「公称インピーダンス」であり、50Ωは変則的な値なのです。

非常に異なる2つのインピーダンスを使用することで、興味深い質問がいくつか生まれます。なぜ、2つの基準インピーダンスが存在するのでしょうか?なぜ、それらは特定の値を持っているのでしょうか?どちらが、どんな場合に、なぜ「優れている」のでしょうか?どちらを使うかは本当に重要でしょうか? そうだとしたら、どのような意味で重要なのでしょうか?

シンプルに見える同軸ケーブルとそのコネクタは、単に固体内部導体の周囲にシールドを施しただけのものではありません。実のところ、同軸ケーブルは、電磁エネルギーの導波路として精密に設計されているのです(図1)。

図1:同軸ケーブルは概念上シンプルに見えますが、実際には電磁エネルギーの導波路を物理的に実装したものです。(画像提供:Bill Schweber氏、DX Engineeringの資料を使用)

インピーダンスの質問に対する答えには、歴史的および技術的なルーツがあります。それは、伝説的なベル研究所で働いていたロイド・エスペンシードとハーマン・アッフェルが、1929年に最初の同軸ケーブルを開発および分析したことから始まります。彼らの目的は、帯域制限のあるアナログ音声通話を約1000件、何百マイルも伝送するために必要だった4MHz信号(当時の長距離電話通信では非常に広い帯域幅)を伝搬する伝送媒体を見つけ出すことでした。そのためには、高電圧と高電力の両方に対応できる伝送線路が必要でした。

2人の研究者は、減衰、電圧定格、電力定格といった主要な伝送線路パラメータ間のトレードオフを分析しました(図2)。

図2:主要な伝送線路パラメータには、減衰、電圧定格、電力定格があります。各パラメータの最適値は、インピーダンスが異なれば変わってきます。(画像提供:https://vk8bn.me)

彼らの分析では、3つの特性の性能をインピーダンスの関数として考え、以下の点が発見されました。

1:減衰(損失)は主に、ケーブル内の誘電体の関数である。彼らが分析した空気絶縁同軸ケーブルでは、約77Ωで損失が最も小さくなった(誘電体によっては約50Ωだったが、そのようなケーブルはまだ存在していなかった)。

2:最大電圧は、同軸の外部導体と内部導体の間の電界強度の関数である。TE10の電磁(EM)界導波モードでRF信号に対応する同軸ケーブルの場合、約60Ωで電界が最大となる。

3:電力処理能力は、破壊電界およびインピーダンス(V2/Z)によって決定される。TE11モードのカットオフ周波数未満で動作する空気絶縁同軸ケーブルでは、約30Ωで電力伝送が最大となる。

設計上の決定でよくあるように、「理想的」なインピーダンス値というものは存在せず、「最善」の選択肢にはトレードオフの調整が必要になります。トランスミッタから出力されるような電力や電圧に対しては、50Ωの値が良い妥協点となります。対照的に、アンテナからの低レベル信号やアナログビデオリンクなど、低減衰を第一に考える場合は、75Ωを選択した方が良くなります。

さらに、75Ωが望ましいインピーダンスである場合がもう1つあります。広く使用されている折り返しダイポールアンテナのインピーダンスは300Ωですが、標準的な半波長ダイポールアンテナの共振周波数における「固有インピーダンス」は73Ωとなります。つまり、75Ωは大型のダイポールにほぼ完璧に適合するのです。また、基本的な4:1バランを使用すれば、折り返しダイポールにも簡単に適合させることができます。

異なるインピーダンスを使用することにより、1つの設計で異なる目的を達成でき、複雑さのレベルも向上します。実際には、数センチ程度の短距離における損失の差は無視できるかもしれません。また、75Ωのケーブルと50Ωのケーブルを接続したときの電圧定在波比(VSWR)は1.5:1であり、これは許容可能な非単一値と考えられます(多くの低/中電力状況では、2:1未満のVSWRは許容可能と考えられています)。

同軸ケーブルと終端

電磁界の理論や分析を実際の伝送線路に置き換えるのが同軸ケーブルの機能であり、そのほとんどが「RG」の呼称を持っています。RG(ラジオガイド)は、同軸ケーブルに対する第二次世界大戦時の軍用規格に由来します。

RG-Xには100種類以上がありますが、ほぼすべての公称インピーダンスが50Ωか75Ωのいずれかです。多数のバージョン間の違いは、その物理的サイズ、絶縁仕様、シールドのタイプと性能、誘電体の材料と構造、電力定格、環境的耐久性、火災関連定格などの要素に関連しています。多くの場合、RG-X番号には、特定の非インピーダンス属性を示す接尾文字が付きます。

ベンダーは通常、さまざまなタイプのRGケーブルを大型スプールで提供しています。たとえば、Belden Inc.は、いろいろな50Ωケーブルの中でも、30AWGワイヤを7本束ねた22AWG内部導体を備えた9223 010100 RG-8/U(図3)を100フィートのスプールで、20AWGの固体内部導体を備えた8240 010500 RG-58A(図4)を500フィートのスプールで、それぞれ提供しています。75Ωアプリケーション用には、18AWGの固体内部導体を備えた1694A 010500 RG-6Uと、20AWGの固体内部導体を備えた1505A 010500 RG-59U(共に500フィートのスプールを使用)が用意されています。

図3:この50ΩのRG-8同軸ケーブルには、30AWGワイヤを7本束ねた22AWG内部導体が使用されています。(画像提供:Belden Inc.)

図4:この50ΩのRG-58ケーブルは、20AWGの固体内部導体を備えています。(画像提供:Belden Inc.)

同軸ケーブルは、単体で使用できるものではありません。同軸ケーブルのサイズとシールド用にだけでなく、正しいインピーダンス用にも設計されたコネクタで終端する必要もあるのです。一般的に使用されている50Ω同軸ケーブル用のコネクタとしては、Amphenol RF83-1SP-1050のような優れたPL-259(図5)や、Cinch Connectivity SolutionsVNS30-2051のような広帯域幅タイプN(図6)があります。

図5:この50Ω同軸ケーブル用PL-259コネクタは、その古さにもかかわらず、今でも広く使用されています。(画像提供:Amphenol RF)

図6:タイプNコネクタは、PL-259に代わる新しい広帯域対応50Ωコネクタです。(画像提供:Cinch Connectivity Solutions)

多くの75Ωシステム、特に低コストの民生用アプリケーションではF型コネクタが使用されており、TE Connectivity AMP Connectors5-1814822-5はその好例です(図7)。

前述のコネクタは利用可能な標準同軸コネクタのほんの一部であり、近年では、多数の製品に使用されている薄型・低電力の同軸ケーブルに対応した新しいコネクタが登場しています。

図7:75ΩのF型コネクタは、基本的な民生用ビデオシステムで多く使用されています。(画像提供:TE Connectivity AMP )

設計者は要注意

設計者はなぜ、設計の公称インピーダンスをよく調べる必要があるのでしょうか?まず、システムが50Ωであると決めつけてはいけません。実際は75Ωかもしれませんし、その逆である場合もあります。また、部品表(BOM)は極めて重要なため、それを作成する際は、同軸ケーブルと関連コネクタ、または指定するプレカットされた終端ケーブルのインピーダンス値を必ず確認するようにしてください。

BOMの場合、50Ωの同軸ケーブルの代わりに不注意に75Ωのケーブルを選んだり、その逆になったりすることがありがちです。さらに、従来のBNCスタイル(最も古い部類ですが現在も使用されています)などのコネクタには、50Ωと75Ωの2種類があります(図8)。見た目は同じで、寸法が少し違うだけです(少し押しただけで互いに嵌合すらします)。

図8:第二次世界大戦中に開発されたBNCコネクタは、現在でもテストシステムや計測器システムでよく使用されています。50Ωと75Ωのバージョンが提供されており、外観はよく似ていますが、寸法に決定的な違いがあります。(画像提供:Wikipedia)

まとめ

RFの世界では、公称設計インピーダンスを使用して、貴重なRFエネルギーをソースから負荷へ効果的かつ効率的に伝送することが、ほとんどの場合において重要な課題となります。特に、伝送線路インピーダンスに2つの合理的な選択肢があり、それぞれの選択肢が、対象とするシナリオに対して独自の属性を持っている場合に、そうした状況が生まれます。特に、BOMを作成する際には、注意深く選択するようにしてください。

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著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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