技術革新が始まったばかりのMEMSセンサ

現在、低コストで高性能なマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)センサは当然あるものとして受け入れられていますが、以前はそうとは限りませんでした。量産向けのMEMSが本格的に登場したのは1991年で、当時、Analog Devicesが同社の1軸加速度計ADXL50(現在は生産終了)を発表したのは、シミュレーション、固体物理学、プロセス技術、パッケージング、試験などの幅広い分野で約10年にわたる技術的な難関を乗り越えた末のことで、1993年までに量産化されました(図1)。

図1:完全アナログ式のADXL50は、初の量産向けMEMS加速度計でした。車載用エアバッグを対象に提供され、完全に調整されたアナログ出力に対応し、デジタル化するかまたはコンパレータ回路による直接使用が可能でした。(画像提供:Analog Devices)

このデバイスは寸法が5mm x 5mmで、非常に特殊なある単一用途向けの画期的技術として設計されました。その用途とは、導入され始めたばかりでまだ義務化されていなかった自動車用エアバッグをトリガすることです。MEMSセンサが市場に出回る前は、大半のエアバッグはAllen K. Breedが1967年に開発したセンサでトリガされていました。このセンサではチューブ内のボールが検知マスとして使われました。衝突で車の速度が下がるとボールが保持用磁石から離れて小さな電気スイッチをトリガし、これにより回路が閉じてエアバッグの化学物質に点火されました。

この最初のMEMSセンサは、小型化され低価格でパッケージ化しやすい製品でしたが、それらはこのデバイスの特長の一端に過ぎません。より重要なのは、加速度検知を「はい/いいえ」のシナリオから、検知した値のアナログストリームをセンサが提示できるようなシナリオに変えたことです。その結果、実際の加速度の波形がトリガアルゴリズムの一部になりました。

ADLX50は1999年までに生産終了となり、代わりにより高度なMEMSユニットが投入されましたが、その時点までに幅広いインパクトをもたらしたのは明らかです。後継のデバイスは、センサのセルフキャリブレーションについて高い信頼性を備えていました(大半のセンサにとって重要な特長)。また内部信号調整、A/Dコンバータ(ADC)、マイクロコントローラインターフェースなどの使いやすい機能が追加されました。かつては測定するのが難しく高コストだった(サイズ、重量、電源)パラメータが、短期間でほとんど些細な問題になったのです。

しかし、そこで終わるわけがありません。ベンダー各社は早くも、2軸さらには3軸の加速度計を、最初は小型のモジュールとして、ほどなくモノリシックデバイスとして提供し始めました。突如として、本格的なモーションセンシングやナビゲーションまでも含む各種アプリケーションが実現可能になったのです(基本の物理学:加速度を積分して速度を判定し、速度を積分して変位を判定します)。

その後間もなく、これらの小型デバイスは振動MEMS音叉型共振子が追加され、ジャイロスコープおよび完全慣性測定ユニット(IMU)となりました。このデバイスは、先月(2019年7月)のちょうど50年前に宇宙飛行士を月まで誘導する役割を果たし大半がバスケットボールほどのサイズ(100ポンド超、200ワット超)だったIMUの後継として利用され、さらに1980年代に完成の域に達したリングレーザージャイロスコープ(RLG)と光ファイバジャイロスコープ(FOG)の後継にもなりました。

突如として、以前は手付かずだった加速/位置決めアプリケーションに利用でき、さらにドローン誘導の中核にもなる小さなIMUが登場します。たとえば、STMicroelectronicsLSM6DSOXTRは3軸IMU(±2/±4/±8/±16gのフルスケール範囲)で、サイズがわずか2.5mm x 3mm x 0.83mmの14端子パッケージで提供され、必要な電源電流はわずか0.55mAです。このIMUにはSPIおよびI2Cインターフェースが含まれています。

ここで、ほぼ最終的な完成形に達しています。他の加速度計はほどなく電子式手ぶれ補正機構に使われるようになり、以前は機械式ジャイロスコープでぶれを補正するジンバル式プラットフォームが必要だった問題を解決しました。また、いくつかのアイデアがMEMSマイクロフォンに適応されました。このマイクは、実装は別としても、ある意味で原理的に加速度計と類似しています。

始まったばかりのMEMS技術革新と応用

これらの例から、MEMSテクノロジの応用範囲はさまざまな形での加速度に限定されるようにも見えますが、実はそうではありません。現在ではMEMSデバイスは、加速度とは無関係のアプリケーションにも多く使用されています。

たとえば、Texas Instrumentsは、デジタルライトプロセッシング(DLP)ICのマイクロミラーによるステアリングライトを初めて開発しました。DLPは当初、大画面ディスプレイとピコプロジェクタを対象にするデバイスでした。TIのDLP6500は、200万を超えるマイクロミラーを含む1080p(1920 x 1080ピクセル)アレイを備えており、空間光変調器(SLM)として使用でき、入射光の振幅、方向、および/または位相を制御できます(図2)。

図2:Texas InstrumentsのDLP6500 DLP ICでは、完全にアドレサブルで正確に制御されたライトビームステアリングを備え、アレイ内の200万ピクセルを制御することができます。(画像提供:Texas Instruments)

TIは、基本的な投射を超えた、昔からある発想をまったく新たに具現化した製品を発表しました。車のヘッドライトをハンドルの方向に向けるのです(この発想は1940年代後半にタッカー48という自動車で最初に提案されたものです)。TIのDLP5531はMEMSベースの電子ステアリングデバイスで、ギア、モータ、ベアリングを必要とせず、完全にプログラマブルな機能を備え、ヘッドライト単体で100万アドレサブルピクセルを超える高分解能を実現しています。

非オプティカルRFの分野では、Analog Devicesが4極単投(4PST)MEMSカンチレバースイッチADGM1004を提供しており、0Hz(DC)~13GHzの帯域幅のRF信号を処理します(図3)。このデバイスは先端が金属の双方向接点スイッチをいくつか備えており、デバイスを回路内に使用することで、4つの出力ポートのいずれかにRF信号をルーティングするか、あるいは4つの入力信号の1つを選び出力に送ることができます。このスイッチは、RF信号チェーンの多くのポイント、または試験のアレイやマトリクスで広く利用されています。

図3:Analog Devicesは、MEMSテクノロジの基本を拡張してカンチレバー構造を生み出し、4PST RFスイッチの金属同士の接点閉鎖を実現しています。その帯域幅はDC~13GHzです。(画像提供:Analog Devices)

また、大学の研究チームも、MEMS技術を独自の基盤として使用し、MEMSなくして製造できないようなデバイスの作成に役立てています。Accelerator on a Chip International Program(AChIP)と呼ばれる国際的なプロジェクトがあり(米Gordon and Betty Moore Foundationの出資による)、小さなシリコンベースの電子加速器が作成されようとしています。この加速器はフェムト秒からアト秒(10-15~10-18秒)の電子パルスを生成し、そのエネルギーは最大1MeV(メガ電子ボルト)に達します。これがシリコンチップで行われることを考えると、現在必要とされる非常に長距離の構造を持つ加速器とは極めて対照的です。

Photonics-based laser-driven particle acceleration: from proof-of-concept structures to the accelerometer on a chip(フォトニクスベースのレーザー駆動粒子加速:概念実証構造からチップ上の加速度計まで)」におけるプロジェクトの協議が幅広く行われており、そのプロジェクトの一端が、Physical Review Lettersに掲載された論文、『Alternating-Phase Focusing for Dielectric-Laser Acceleration(レーザー駆動誘電体加速器の焦点となる交互位相)』に詳しく説明されています。その中で、TUダルムシュタットにおけるプロジェクトの加速器物理学グループに所属するエンジニアは、彼らが小さなMEMSチャネルと新しい電子ビーム集束方法をどのように作成し、この用途には頼りない従来の磁気集束アプローチからその方法に置き換えたかを解説しています(図4)。

図4:シリコン製デュアルピラー構造は、レーザーベースの光位相制御を使用して電子の加速と減速ゾーンの焦点を合わせます。(画像提供:TUダルムシュタット)

もう1つの革新的なMEMSプロジェクトとして、より日常的なIoT(モノのインターネット)分野を対象にしたプロジェクトがあります。ノースイースタン大学のチームはこれまでにMEMSベースのスイッチを開発しました。そのスイッチは、休眠スタンバイモードでは消費する電力がゼロですが、入射する赤外線(IR)光でトリガされると「起動」します(図5)。それを実行するのは、このチームが開発したプラズモニック拡張マイクロメカニカルフォトスイッチ(PMP)で、決まったスペクトルバンド内の微量フォトニックエネルギーを変換してMEMSメカニズムをアクティブにすることで行います。アクティブ化IRエネルギーが除去されると、スイッチがオフになります。

図5:PMPの各カンチレバーは、ヘッド、作動用の熱に敏感な2種材料レッグの内部ペア、温度補償/応力補償用の同一2種材料レッグの外部ペア、内外部レッグを接続する熱分離リンクのペア(a)。4つのPMPに当たる入射光線の概念図。それぞれが異なる帯域の赤外線放射に「調整」されています(b)。実際に製造されたPMPスイッチ「メカニズム」の擬似カラー走査電子顕微鏡の画像。プラズモニック吸収材、ボウル型コンタクトチップ、および自己整合Al層およびSiO2層を備えた2種材料レッグ端部の拡大図(c)。(画像提供:ノースイースタン大学/Nature Nanotechnology)

Nature Nanotechnologyに収録された同チームの論文、『Zero-power infrared digitizers based on plasmonically enhanced  micromechanical photoswitches(プラズモン的に強化されたマイクロメカニカルフォトスイッチに基づくゼロパワー赤外線デジタイザ)』には、技術的な詳細の全文が掲載されています。IR吸収の変換物理学はプラズモンに基づいています。プラズモンは電子の波で、光子が金属に当たった後に金属表面に沿って移動します。プラズモニック吸収材は3種材料のスタックとして製造され、100nmの誘電体層が上側の50nmの金ナノパッチアレイと下側の100nmプラチナプレートに挟まれたサンドイッチ構造です(図5)。スイッチは、目標を絞った特定波長のIR電磁放射からエネルギーを得て、それを利用しスイッチの接点を機械的に閉じます。

まとめ

MEMSベースの技術は、当初の目的だったエアバッグをトリガするための加速度センサから非常に長い道のりを歩んできました。そして、拡張や変化を経てマイクロミラーによる光線ステアリングや接点ベースのRFスイッチなどの多様なアプリケーションをサポートする技術に至っています。同時に、MEMSは大学での最先端の研究によって、平易な科学と難解な科学の両方の分野に進出しています。想像力をフルに巡らせMEMSの技術やツールを進化させる努力を惜しまなければ、MEMSの可能性は際限なく広がるでしょう。

 

リファレンス:

1 – Analog Devices、ADXL50データシート(生産終了)

2 – Patrick L. Walter、「The History of the Accelerometer: 1920s-1996 – Prologue and Epilogue, 2006」、Sound and Vibration、2007年1月。

3 – Tekla S. Perry、「Kurt Petersen, 2019 IEEE Medal of Honor Recipient, Is Mr. MEMS」、IEEE Spectrum、2019年5月。

著者について

Image of Bill Schweber

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

More posts by Bill Schweber氏
 TechForum

Have questions or comments? Continue the conversation on TechForum, Digi-Key's online community and technical resource.

Visit TechForum