アンテナ偏波:アンテナ偏波の定義とそれが重要な理由

電子技術者なら、アンテナがマクスウェルの方程式で決定される電磁エネルギー波の形で信号を放射し、受信することを理解しておられるでしょう。多くのトピックと同様に、これらの方程式は、さまざまなレベルで検討することができます(レベルには、比較的定性的な条件から複雑な方程式までいろいろなものがあります。また、電磁波の伝播や属性も一緒に検討することができます)。

偏波は、電磁波エネルギー伝搬が持つ数多くの側面の一つであり、アプリケーションとそのアンテナ設計にさまざまな影響や懸念をもたらす可能性があります。その基本原理は、RF/ワイヤレスエネルギーや光エネルギーを含むすべての電磁波放射に適用されますが、よく使われるのは光学的アプリケーションです。ここでは、RFエネルギーのみを見ていきます。

アンテナ(の)偏波とは

偏波を理解するには、電磁波の基礎から始めます。この波は、一方向に移動する電界(Eフィールド)と磁界(Hフィールド)で構成されます。EフィールドとHフィールドは互いに垂直であり、また平面波の伝搬方向にも垂直です。

偏波とは、信号の送信側から見たEフィールドの面のことです。水平偏波の場合は電界が水平面内で横に移動し、垂直偏波の場合は電界が垂直面内で上下に振動します(図1)。

図1:電磁エネルギー波は、互いに直角なEフィールドとHフィールドの成分で構成されています。(画像提供:Electronic-Notes)

送信アンテナと受信アンテナのペアは、両者のアンテナの偏波が同じ平面上にあるときに最もうまく機能します。つまり、「あなたの悲鳴が誰にも聞こえない宇宙」(1979年の名作映画『エイリアン』に対し、このことばの使用をお断りするとともに、オマージュを捧げます)のように機能します。もっとも、宇宙には水平も垂直もないことも事実ではあります。それでも、「偏波とアンテナの調整により信号エネルギーを最大限に転送して捕捉する」という考え方は有効です。

直線偏波と円偏波

偏波モードはいくつかあります。

直線偏波:これは基本的な偏波モードです。2つの可能な偏波が互いに直交(直角で交わる)しています(図2)。理論的には、水平偏波の受信アンテナは垂直偏波の受信アンテナからの信号を「見る」ことができません。また、その逆もできません(含む:両方のアンテナが同じ周波数で動作している場合)。偏波とアンテナの調整がうまく行くほど多くの信号が取り込まれ、偏波をついに一致させた場合にはエネルギー転送が最大になります。

図2:直線偏波では、互いに直角な2つの偏波を選択することができます。(画像提供:Mimosa Networks, Inc.)

斜め偏波:これは直線偏波のバリエーションです。これは、基本的な水平・垂直偏波と同様に、地上波の場合にしか意味を持ちません。斜め偏波は、水平基準面から±45°の偏波です。これは直線偏波の一種ですが、一般に直線偏波というと、水平偏波専用アンテナまたは垂直偏波専用アンテナを指します。

斜め偏波アンテナで送信(受信)した信号は、多少のロスはあるものの、垂直偏波専用アンテナまたは垂直偏波専用アンテナで使用することが可能です。斜め偏波アンテナは、片方または両方のアンテナの偏波が不明な場合や使用中に変化する場合に有効です。

円偏波(CP):これは直線偏波よりも複雑です。このモードでは、Eフィールドベクトルで表される偏波が、信号の伝搬に伴って回転します。送信機から見て右に回転する場合は右旋円偏波(RHCP)、左に回転する場合は左旋円偏波(LHCP)と呼ばれます(図3)。

図3:円偏波では、電磁波のEフィールドベクトルは回転しますが、この回転は右巻きと左巻きのどちらにもなり得ます。(画像提供:JEM Engineering)

CP信号は、位相のずれた2つの直交波で構成されています。CP信号を生成するには、3つの条件が必要です。つまり、Eフィールドが直交する2つの成分を持つこと、および、これらの成分が、位相が90度ずれており、かつ大きさが等しいことが必要です。CPを簡単に生成する方法として、ヘリカルアンテナを使用する方法があります。

楕円偏波(EP):これはCPのバリエーションです。楕円偏波とは、CP波のように2つの直線偏波から発生するゲインのことです。不等振幅を持つ2つの互いに垂直な直線偏波を合成すると、楕円偏波が得られます。

アンテナ間での偏波の調整不良は、偏波損失係数(PLF)として算定されます。このパラメータはデシベル(dB)を単位として表され、送信アンテナと受信アンテナ間での偏波角度の差の関数になっています。理論的には、PLFは、完全に調整されたアンテナの場合である0dB(損失なし)から、完全に直交しているアンテナ同士の場合である無限大dB(損失は無限大)までの範囲にわたります。

しかし、0dBの場合、実際には、アンテナの機械的な位置、ユーザーの操作、チャンネルの歪み、多重反射などの現象により、送信電磁界に多少の角度のねじれが生じるため、偏波が完璧に調整されることはありません(つまり、多少は調整不良になります)。当初、直交偏波は10~30dB以上の信号直交偏波「漏れ」を持つことがあり、この漏れにより、希望する信号回復が妨害される恐れが高くなります。

逆に、偏波と調整が最適化された2つのアンテナは、状況に応じて実際のPLFが10、20、あるいはそれを超えるdBとなり、20超のdBとなった場合は信号回復ができなくなる可能性があります。つまり、意図しない直交偏波やPLFは、目的の信号を妨害するとともに、目的の信号の強度を低下させます。

なぜ偏波に注意する必要があるのでしょうか?

偏波には2つの働きがあります。まず、2つのアンテナ間で調整の度合いと偏波の類似性が高いほど、受信信号強度が向上します。逆に、偏波がうまく調整されないと、予期した/しなかった受信機が十分に有用な信号を捕捉することが難しくなる可能性があります。多くの場合、「チャンネル」が送信偏波を歪ませたり、一方または両方のアンテナの向きが固定されていなかったりすることがあります。

どの偏波を使用するかは、一般的に設置(実装)条件や大気条件によって決まります。たとえば、水平偏波アンテナは天井近くに実装すると偏波保持性能が向上し、垂直偏波アンテナは側壁近くに実装すると定格に近い偏波性能を発揮します。

広く使われているダイポールアンテナ(レギュラー型、折りたたみ型)は、「正規」の実装方向では水平偏波です(図4)が、垂直偏波にしたり好みの偏波モードをサポートしたりする必要がある場合は90度回転させることがよくあります(図5)。

図4:ダイポールアンテナは通常、水平偏波が得られるようにマストに水平に実装されます。(画像提供:KAC Radio)

図5:垂直偏波が必要なアプリケーションでは、マストにダイポールアンテナを適切に実装することができます。(画像提供:Progressive Concepts)

垂直偏波は、初期対応者が使用するようなハンドヘルドのモバイルラジオによく使用されます。これは、多くの垂直偏波ラジオアンテナ設計が全方向の放射パターンを持っているためです。ラジオの向きが変わっても、このようなアンテナは全方向の放射パターンにより、向きを変える必要がありません。

3~30メガヘルツ(MHz)の高周波(HF)帯のアンテナは通常、シンプルな長いワイヤを支持体間に水平に張った構造になっています。その長さは、波長(10~100メートル(m))によって決まります。これらのアンテナは当然ながら水平偏波です。

興味深いのは、この帯域に「高周波」という呼称が使われるようになったのが、30MHzが確かに高周波であった何十年も前だということです。この呼称は、今では古臭く感じるかもしれませんが、国際電気通信連合の公式呼称であり、今でも広く使われています。

また、好ましい偏波の決定は、300kHz~3MHzの中波帯の放送局が、より強い近接した信号の伝搬に地上波を使うのか、それともは長距離の回線に電離層を経由する上空波を使うのかによります。一般に、良好な伝搬性能を得るには、地上波では垂直偏波アンテナを、天空波では水平偏波アンテナを使用する必要があります。

円偏波は、衛星で広く使われています。衛星では、地上局や他の衛星に対する姿勢が常に変化するためです。送受信アンテナ間の効率が最大となるのは両アンテナとも円偏波の場合ですが、直線偏波アンテナとCPアンテナを併用することもできます。ただし、偏波損失係数が幾分かにはなります。

偏波は5Gシステムでも重要性を持ちます。5Gの多入力多出力(MIMO)アンテナアレイの中には、偏波によって利用可能な周波数帯域をより効率的に利用することでスループット向上を実現できるものがあります。これは、複数のアンテナの空間多重化(空間的多様性)と信号偏波との組み合わせで実現されます。

5Gシステムは、2つのデータストリームを送信することができます。というのも、これらのデータストリームが、直交する偏波を持つ別々のアンテナに接続され、それぞれ独立的に復元できるためです。パスやチャンネルの歪み、反射、マルチパスなどの不完全性により直交偏波が発生しても、受信機の高度なアルゴリズムにより元の信号を復元し、低いビット誤り率(BER)を実現して、周波数帯域利用率を向上させることができます。

偏波に応じた標準アンテナあり

偏波が問題になるのは、マストに実装された剥き出しの大型アンテナだけだと思われがちですが、そうではありません。たとえば、PCTelBOAH515905NMは、5.1GHz~5.9GHzで使用する水平偏波Wi-Fiアンテナで、主に屋外の802.11acアクセスポイントをターゲットにしています(図6)。

図6:PCTelの水平偏波Wi-FiアンテナBOAH515905NMは、5.1GHz~5.9GHz(802.11ac)でのWi-Fi接続向け屋外アクセスポイントとして設計されたものです。(画像提供:PCTel)

IP67準拠の完全密閉型アンテナは、紫外線(UV)に強い白色の堅牢なプラスチック製レドームに収納され、Nタイプパネルマウントコネクタ(オス版とメス版があり)も付いています。寸法は外径1.26インチ x 長さ6.32インチ(3.20 x 16.1センチメートル)、公称ゲインは5dBi、電圧定在波比(VSWR)は指定帯域全体で2:1未満です。

また、偏波は上記より小さなアンテナにも設計することができます。TaoglasPC140.07.0100Aは、産業・科学・医療(ISM)およびBluetooth/Wi-Fiアプリケーション向けの円偏波2.45GHz(公称)アンテナです(図7)。

図7:Taoglasの小型アンテナPC140.07.0100Aは、システムの回路基板と一緒にエンクロージャに埋め込むように設計されています。(画像提供:Taoglas)

この、わずか57 x 57mm(ミリメートル)四方、厚さ0.97mmの50Ω小型アンテナは、直径1.13mm、長さ100mmの同軸ケーブルが付属しており、IPEXコネクタ(プリント基板に直接はんだ付けする50Ωの面実装用標準コネクタ)で終端されます。本アンテナは回路基板材料FR-4で製造されており、一体型の接着パッチを使用して簡単に実装することができます。

本アンテナの放射パターンは、X-Y放射パターンとX-Z放射パターンから分かるように、高い全方向性を持っています(図8)。VSWRは2:1未満、効率は動作帯域2.4~2.5GHzで約60%です。

図8:Taoglas PC140.07.0100Aの放射パターンは、X-Y平面(左)とX-Z平面(右)の両方で、かなりの全方向性を示しています。(画像提供:Taoglas)

まとめ

偏波は、見落とされがちなアンテナ属性ですが、重要です。用途に応じて、直線水平/垂直偏波、斜め偏波、円偏波、楕円偏波が使い分けられます。これらの偏波は、その相対的な方向と調整内容に応じて、エンドツーエンドのさまざまなRF性能を提供します。市販されている標準アンテナの中には、対象アプリケーションに適したさまざまな偏波を提供でき、いろいろな周波数帯域に対応するものがあります。

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8:オープンフィールド環境での距離測定

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リファレンス

1:JEM Engineering「アンテナ偏波入門」

https://jemengineering.com/blog-intro-to-antenna-polarization/

2:Mimosa Networks, Inc.「アンテナ偏波の基礎知識」

https://mimosa.co/white-papers/antenna-polarization

3:Mimosa Networks, Inc.「アンテナ偏波の解明」

https://mimosa.co/white-papers/antenna-polarization-2

4:Electronics-Notes「アンテナ偏波」

https://www.electronics-notes.com/articles/antennas-propagation/antenna-theory/polarisation-polarization.php

5:Antenna-theory.com「平面波の偏波」

https://www.antenna-theory.com/basics/polarization.php 

6:Electronics Desk「アンテナ偏波」

https://electronicsdesk.com/antenna-polarization.html

https://www.mpantenna.com/antenna-polarization-explained/

7:MP Antenna, Ltd.「概説:アンテナ偏波」

https://www.mpantenna.com/antenna-polarization-explained/

著者について

Image of Bill Schweber

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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