開発キットで、ウェルネス向けバイオセンシングウェアラブルの設計が簡単に
気付いていないかもしれませんが、航空宇宙エンジニアのエドワード・マーフィーについて、皆さんはすでによく知っているはずです。マーフィーが従事していたのはセーフティクリティカルなシステムでしたが、「失敗する可能性のあるものは必ず失敗する」という彼の言葉にはバイオエンジニアの誰もが共感することでしょう。一見シンプルそうなシステムにおいて、それぞれの個別部品について十分な知識と理解を持っていたとしても、それらをすべて組み合わせると、部品の総和よりもはるかに劣るものになる可能性があります。
正確な測定を実現する健康 & フィットネスウェアラブルのカスタム設計を作成している人なら、この現象とマーフィーの法則が身に染みることになるでしょう。
光電式容積脈波(PPG)や心電図(ECG)を使用してバイタルサインを測定するという概念は、確かによく理解されています。技術者は、末梢血管の血液量の変化を測定してPPGに基づく心拍数を求めたり、心筋から発生する生体電気をモニタリングしてECGに基づく心拍数を求めたりできることを知っています。彼らは、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの吸収スペクトルの違いを利用することで、末梢酸素飽和度(SpO2)を推定するという簡単な理論を理解しています。技術者は、脈波伝播時間(PTT)または脈波到達時間(PAT)を使用してカフレス血圧モニタを作成するなど、より高度な測定機能にも精通してきました。
これらのさまざまな測定では、A/Dコンバータ(ADC)に提供されるセンサ信号を調整するためにアンプやフィルタなどの類似した信号チェーンが使用されています。変換されたデータを使用して、マイクロコントローラ(MCU)が十分に裏付けられたアルゴリズムを実行し、心拍数、SpO2、血圧などの値を生成します。
クリーンな生体信号の取得
開発者は、豊富な低電力高精度デバイスを活用して、カスタム信号チェーンを構築したり、健康 & フィットネス製品の差別化を図るサブシステムを処理したりすることができます。しかし、ほとんどの場合、専用のすぐに使用可能なバイオセンサを入手できるため、これらのアプリケーション向けにバイオセンサの信号チェーンを独自に構築する必要はありません。
Analog DevicesのMAX86140やMAX86141のようなデバイスは、光学的PPG手法に特化して設計されています。Analog DevicesのMAX30003、AD8232A、AD8233Aは、生体電位ECGの測定に必要な信号チェーンを実装しています。Analog DevicesのADPD4100とADPD4101は、どちらのタイプの測定にも対応できます。これらのマルチモーダルアナログフロントエンド(AFE)は、トランスインピーダンスアンプ(TIA)、バンドパスフィルタ(BPF)、積分器、ADCで構成されるマルチチャンネルの信号調整チェーンを1組内蔵しています。
このAFEは民生用ウェアラブルに非常に適しているため、開発者は、生体電気に基づく単リードECG測定(図1左)と光学式PPG測定(図1右)の両方の基盤として使用することができます。
図1:Analog DevicesのADPD4100およびADPD4101 AFEは、PPG(左)とECG(右)の両方の測定に対応しています。(画像提供:Analog Devices)
これらの専用バイオセンサは、開発のスピードアップには貢献しますが、生物学的システムを扱う際に発生する可能性のあるすべての問題を解決するものではありません。周囲源の一過性や皮膚の不均一性などの予測不可能な(しかし予想外ではない)アーティファクトは、PPGに影響を与えます。一方、電磁妨害(EMI)や骨格筋の収縮などの生理的な電気信号は、ECGを複雑にします。(私は学位論文の研究で、これらの多様なアーティファクトがSNR(信号対ノイズ比)に与える影響は時として圧倒的なものになることを知りました。私は、クリーンな生体信号を取得するために、機械学習(ML)ベースのサブシステムのようなものを構築するという、本来の目的を延期しなければなりませんでした。)
生物学的システムの性質上、PPG、ECG、PAT/PTTなどの生物物理学的手法の背後にある理論を完全に理解していたとしても、開発者は、健康 & フィットネスウェアラブルの設計が予想以上に難しいと感じるでしょう。信号チェーンやアルゴリズムにばかり目を向けていると、クリーンな生体信号の取得における予測不可能な変化に対処しなければならなくなり、開発者自身の仕事が横道にそらされてしまうことがあります。
しかし、バイオセンサ開発キットを使用すれば、異なる光の波長や電極の配置など、生体信号の取得を最適化するためのさまざまな工夫を施した試作品をすぐに作成することができます(最初から動作させることもできます)。
ウェルネスウェアラブルの試作向けの専用キット
Analog DevicesのEVAL-ADPD4100Z-PPG評価キットやMAXREFDES103#ヘルスセンサバンドなどのキットは、ウェルネスウェアラブルの開発を加速するために特別に設計されています。開発中、EVAL-ADPD4100Z-PPGは、キット基板のUSBマイクロコネクタポートを介して接続された同社のEVAL-ADPDUCZ Cortex-M3マイクロコントローラベースのマザーボードを使用してプログラムされます。開発者は、USBケーブルを取り外した後、基板上のカットアウトを介して付属のリストバンドを接続することで、その場で設計をテストすることができます(図2)。
図2:Analog DevicesのEVAL-ADPD4100Z-PPG評価ボードは、手首に装着して現実世界のバイオセンシングの状態を調べることができます。(画像提供:Analog Devices)
MAXREFDES103#キットは、MAX86141バイオセンサをベースにしたセンササブシステムと、MAX32630 MCUをベースにした包括的なホストサブシステムを組み合わせたもので、あらかじめウェアラブルパッケージに組み込まれています。ウェアラブルパッケージには、ボタンやデバイスの状態を表示するカラー発光ダイオード(LED)のほか、付属のファームウェア更新用アダプタボードを接続するためのUSB Type-Cコネクタが用意されています(図3)。
図3:MAXREFDES103#のヘルスリファレンス設計には、現場でバイオセンサアプリケーションを研究するためのウェアラブルが含まれています。(画像提供:Analog Devices)
おそらく最も重要なこととして、各キットには測定データを解析するためのソフトウェアパッケージが同梱されており、開発者は、さまざまなセンシング構成での連続測定時に発生する波形を調べたり、意図的または偶発的なアーティファクトの影響を調べたりすることができます。Analog DevicesのWavetool評価ソフトウェアにより、開発者はEVAL-ADPD4100Z-PPGをSpO2モードやECGモードなどのさまざまなアプリケーションモードで実行できます。
Analog DevicesのMAXREFDES103#リファレンス設計ソフトウェアパッケージには、同社のDeviceStudioアプリケーションが含まれており、開発者は心拍数とSpO2用にバイオセンサと組み込みアルゴリズムを設定することができます。また、睡眠の質、呼吸速度、心拍変動(HRV)などのアルゴリズムを追加したAndroidアプリであるHealth Sensor Platformも提供しています。後者のメトリックは、自律神経系の変化を非侵襲的にモニタする方法として、医学界で特に注目されています。
まとめ
ウェアラブル向けのバイオセンシング信号チェーンを一から設計するのは、気の遠くなるような作業です。しかし、自分自身で作成することにした場合、この記事で紹介した専用の開発キットは、バイオセンシングに関連した現実的な課題を解決するための重要なライフラインとして機能します。
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