光信号経路をマルチパラメータモニタで皮膚の上から検知し、素早く擦り抜ける

著者 Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ウェアラブル健康&フィットネスモニタは、様々な技術を用いて、動作、健康全般、睡眠などの幅広い情報を収集します。設計者にとっては、パルスオキシメトリ(SpO2)、フォトプレチスモグラフィ(PPG)、心電図(ECG)、血圧、呼吸数の測定など、より多くの機能を備えたウェアラブルモニタを求めるエンドユーザーのニーズを満たす方法を見つけ出すことが課題となります。機能を追加するたびに、設計者が直面する統合、電源管理、性能、重量、開発期間、コストなどの課題が増えていきます。

たとえば、SpO2ソリューションでは、発光ダイオード(LED)、光センサ、トランスインピーダンスアンプ(TIA)、A/Dコンバータ(ADC)、および関連するアルゴリズムを使用して本体内に光路を形成する複数の集積回路(IC)を備えた複雑な電子機器が通常必要です。ECGには、フロントエンドの計装アンプとADCによる高感度・低ノイズのアナログ回路が必要です。また、これらのディスクリートシステムには、周囲の光の影響を軽減したり、EMI(電磁干渉)を管理したりするためのハードウェアが追加されています。これらのソリューションを作動させるには、PC基板内の大きなスペースとカスタムファームウェアを必要とするため、コストが高くなり、開発期間も長くなります。求められているのは、設計上のこのような課題の多くを解決する、より完全で統合されたソリューションです。

この記事では、皮膚の上から検知できる生体について説明するとともに、LEDドライバ、TIA、バンドパスフィルタ、積分器、ADCで構成されるマルチパラメータモニタについて説明します。この記事では、マルチパラメータモニタ(Analog DevicesのADPD4101)および関連する開発ボードを使用して、設計プロセスを簡素化して加速する方法を紹介します。

アナログフロントエンドの概要

バイタルサインは、医療現場だけでなく日常生活でもモニタリングされるようになっています。当初、健康に関するバイタルサインのモニタリングは、病院や医院で医師の厳しい監視下に置かれていました。マイクロエレクトロニクスのプロセスと設計の進歩により、ウェアラブルモニタのコストが削減され、遠隔医療、スポーツ、フィットネスなどのモニタリングが可能になっています。このようなウェアラブルデバイスへの拡張に伴い、健康関連の品質基準は、ユーザーのハイレベルな期待を満たし続けています。

バイタルサインモニタリングでは、個人の健康状態を示す一連の生理学的パラメータを測定します。たとえば、SpO2測定では、血液中の酸素濃度の割合や心拍数を検知します。SpO2ウェアラブルデバイスに適したセンサは、LEDとフォトダイオードです。

ECGとバイオインピーダンスの測定により、心拍数、呼吸、血圧、皮膚コンダクタンス、体組成などを測定します。これらのバイタルサインを測定するソリューションは、コンパクトでエネルギー効率が良く、信頼性の高いものでなければなりません。これらのバイタルサインをモニタリングするには、光学的測定と生体電位およびインピーダンスの測定が必要です。

光学的バイタルサインの信号経路

SpO2は、血液中の酸素飽和度などのバイタルサインを測定するものです。血中酸素濃度の測定には、周波数が異なるLED光の身体への透過率を評価するSpO2法を使用しています。SpO2検査では、呼吸器系に影響を及ぼす疾病や障害の発症を示す、酸素濃度の低下を検出することができます。また、SpO2測定データから、真の動脈血O2(酸素)飽和度、血中酸素濃度(SaO2)を推定することができます。

SpO2を測定する際、光学系には様々なLEDや光検出器などから成るツールボックスが必要となります。光学測定の対象となる典型的な信号チェーンに備わっているLEDが複数の波長を生成することで、相対的な血中酸素濃度を全体的に識別できるようになります。受け取ったLEDの光信号を、一連のシリコンフォトダイオードが光電流に変換します。フォトダイオードの電流を増幅してADCにより変換することで、必要な分解能と精度が得られます(図1)。

SpO2検査の信号チェーンの図は、LEDライトの信号で始まる(クリックして拡大)。図1:SpO2検査の信号チェーンは、LEDライトの信号が患者の身体を通過することで開始されます。フォトダイオードは、身体を通過するLEDライトの信号をピコアンペア(pA)の電流信号に変換してキャプチャします。TIAはその電流を電圧に変換し、ADCに送ります(画像提供:Analog Devices。Bonnie Baker氏により一部修正)。

SpO2検査では、波長940ナノメートル(nm)の赤外線(IR)と波長660ナノメートルの赤色LEDを使用しています。940nmの赤外波長の方が、酸化ヘモグロビンによって赤外光をより多く吸収します。脱酸素化ヘモグロビンンは、波長660nmの赤色光をより多く吸収します。フォトダイオードは、両方のLEDから独立して、吸収されなかった光を受け取ります。しかし、これらのLEDは光の吸収とともに光の発信も行うものではありません。LEDには、クロスオーバーエラーを無視できるようにするパルスシーケンスが用意されています(図2)。

SpO2装置における660nmの赤色LED(PulseRED)と赤外線LED(PulseIR)のタイミングの画像(クリックして拡大)。図2:SpO2装置では、660nmの赤色LED(PulseRED)と赤外線LED(PulseIR)のタイミングにより、それぞれのLED光信号に光のにじみが生じないようにしています(画像提供:Bonnie Baker)。

LEDからの信号を感知すると、AC成分とDC成分が発生します。AC成分は動脈血の脈動性を表します。DC成分は、組織、静脈血、非拍動性動脈血による光の吸収を表す定数です。この成分は動脈の非時変部分で、心臓の休息期に起こります。式1は、SpO2度の計算方法を示しています。

式1 式1

ディスクリートのSpO2測定回路には、LEDドライバアンプ、TIA、アナログゲイン段、ADC、LEDドライバアンプを制御するデジタル/アナログコンバータ(DAC)、ADCとDACのためのアナログ電圧リファレンスという6つの重要なシステムがあります。

LEDドライバアンプは、赤色光と赤外光が互いに混ざらないように、2つのチャンネルを循環させる必要があります。TIAは、フォトダイオードの電流を受け取り、出力電圧に変換します。ゲインアンプは、TIAの出力電圧に対するADCの入力範囲に合わせて、信号の大きさを増大させます。ゲインアンプの後は、ADCが信号をデジタル化し、マイクロコントローラやDSPに送ります。最後に、信号チェーン全体にアナログ電圧リファレンスが必要となります。

生体電位と生体インピーダンスの測定

生体電位とは、生体の電気化学的な活動による電気信号のことです。たとえば、ECGも生体電位の測定値です。例外的に低い心拍信号の振幅は0.5ミリボルト(mV)~4mVで、周波数範囲は0.05ヘルツ(Hz)~40Hzです。

病院や医院では、医師が患者の皮膚に電極を貼り付けて心拍数をモニタリングします。ウェット電極は身体にしっかり着けるためのものなので、通常、銀/塩化銀(Ag/AgCl)パッドを使用します。ウェアラブルアプリケーションを使用している人は、この電極が非常に不快で、皮膚が乾燥したりかぶれたりすることがあります。

そのため、別の方法として、ウェアラブルECG回路で検出用のコンデンサに電荷を蓄積するという手もあります。受動的な抵抗-コンデンサ(RC)回路網から計算された最適な時定数により、充電プロセスは皮膚と電極の接触インピーダンスの変動を排除します。図3では、ECG信号がRCネットワークとTIA1に流れ込んでいます。このECG回路は、皮膚と電極の接触インピーダンスの変化に対して固有の電磁波耐性を持っています。

ECG+パッドとECG-パッドが患者に乾式で接続されている図図3:ECG+パッドとECG-パッドが患者と乾式に接続されています。これらのパッドは、皮膚の電荷の変化をRCネットワークに伝えます。BIO-Z1とBIO-Z2は、貼付型抵抗体(RBIO-Z)を介した接続であり、TIA2を使ってRBIO-Zと並列になっている皮膚抵抗の変化を測定します(画像提供:Analog Devices。Bonnie Baker氏により一部修正)。

生体インピーダンスは、有用な身体情報を提供するもう一つの測定値です。インピーダンスの測定値から、身体の組成や水分補給量に関する皮膚電位情報を得ることができます。図3の2番目のセンシング回路は、皮膚抵抗と並列のパッド抵抗RBIO-Zを用いて、皮膚抵抗を測定しています。この検査ではLED信号は必要ありません。患者がパッドの下で水分を発生させる、つまり汗を掻くことがない限り、皮膚抵抗はほぼ無限大です。汗を掻くと並列の皮膚抵抗が小さくなり、TIA2の反転入力に入る電流が増大します。

本ウェアラブルヘルス&フィットネスモニタには、生理学的なセンシングに関するユニークな課題があります。要件が増えるごとに、回路が複雑になり、プリント基板の面積も増えていきます。ヘルス&フィットネスモニタの選択肢が増える中、高集積、複雑、かつコンパクトなICが求められています。

統合型マルチモーダルセンサ

ADPD4100ICおよびADPD4101 ICは、最大8個のLEDを刺激し、最大8個の個別の電流入力で帰還信号を測定する、完全なマルチモーダルセンサフロントエンドです。12のタイムスロットが用意されているので、1つのサンプリング期間に12の独立した測定が可能です。アナログ入力は、シングルエンドまたは差動ペアで駆動することができます。8つのアナログ入力は、1つのチャンネルまたは独立した2つのチャンネルに多重化されるので、2つのセンサの同時サンプリングが可能です。これら2つのセンサ製品の唯一の違いは、ADPD4100がSPIインターフェースを持つのに対し、ADPD4101がI2Cインターフェースを持つことです(図4)。

Analog Devices ADPD4100およびADPD4101の機能ブロック図(クリックして拡大)図4:これはADPD4100とADPD4101の機能ブロック図であり、LED駆動出力チャンネルとアナログ入力チャンネルを示しています。入力チャンネルは、ADCで変換するためのフォトダイオード電流信号や容量性電流信号を受信します(画像提供:Analog Devices)。

図4では、デジタル処理のタイミング制御用に12のタイムスロットが用意されているため、1つのサンプリング期間に12回の測定を別々に行うことができます。ADPD4100/ADPD4101の柔軟なアーキテクチャは、外付けのLEDやフォトダイオードとともに、生体電位や生体インピーダンスのデータを収集できるので、設計者がウェアラブル測定のニーズを満たすのに役立ちます。ADPD4100は、デジタルSPIインターフェースも備えた完全なアナログモジュールです。ADPD4101のデジタルインターフェースはI2Cです。

ADPD4100/ADPD4101のアナログ信号経路を構成する8つの電流入力は、シングルエンドまたは差動ペアとして2つの独立したチャンネルの1つに設定できます(図5)。

アナログ信号経路ブロック図の画像図5:アナログ信号経路ブロック図には、8つのアナログ入力端子と2つのTIAがあります。バンドパスフィルタ(BPF)の後にある積分器は、ADCの分解能を向上させる役割を果たします(画像提供:Analog Devices)。

図5では、2つのTIAチャンネルに、2つのセンサを同時にサンプリングするオプションが用意されていることが示されています。各チャンネルでアクセスできる対象は、プログラマブルゲイン(RF)を備えたTIA、ハイパスコーナーが100キロヘルツ(kHz)、ローパスカットオフ周波数が390kHzのバンドパスフィルタ(BPF)、サンプルあたり±7.5ピコクーロン(pC)の積分が可能なインテグレータとなります。各チャンネルは、14ビットのADCに時分割で多重化されます。図5では、RINTは積分器への入力となる直列抵抗になっています。

ADPD4100/ADPD4101は、設計者がウェアラブルデバイスに取り組む際に直面する多くの課題を解決します。このバイオメディカルフロントエンドは、高性能なデュアルチャンネルのセンサ入力段、刺激チャンネル、デジタル処理エンジン、タイミング制御により、すべての要件を満たしています。この世代のマルチモーダルセンサフロントエンドは、S/N比を100デシベル(dB)に向上させ、システム全体の消費電力を30マイクロワット(μW)に抑えています。

ADPD4101評価ボード

EVAL-ADPD4100Z-PPG評価ボード(図6)は、ADPD4100/ADPD4101光測定フロントエンドを検討している設計者の役に立ちます。このボードは、バイタルサインモニタリングアプリケーション、特に手首を使ったPPG用のシンプルなディスクリート光学設計を実装しています。

Analog Devices EVAL-ADPD4100Z-PPGボードの画像図6:EVAL-ADPD4100Z-PPGボードは、手首を使ったPPGの設計面でADPD4100/ADPD4101を評価するのに役立ちます。右側にある光学素子は、3個の緑色LED、1個の赤外線LED、および1個の赤色LEDとフォトダイオードで構成されています(画像提供:Analog Devices)。

EVAL-ADPD4100Z-PPGにある3個の緑色LED、1個の赤外線LED、および1個の赤色LEDは、すべて個別に駆動されます。また、この評価ボードは、フォトダイオードが1個搭載されているので、すぐに使用することができます。

ADPD4101のリファレンス設計

ADPD4101にセンサーを接続するのに便利なツールは、EVAL-CN0503-ARDZリファレンス設計です。このリファレンス設計はウェアラブルモニタに特化したものではありませんが、このリファレンス設計により、EVAL-CN0503-ARDZがADPD4101を使って濁度、pH、化学組成、その他の物理的特性を検出していることが『CN0503ユーザーガイド』に説明されているのを参照することができます。EVAL-CN0503-ARDZリファレンス設計は、再構成可能な、マルチパラメータの光学式液体プラットフォームであり、測色および測光の測定を行うことができます(図7)。

Analog DevicesのEVAL-CN0503-ARDZ光学式液体測定プラットフォームの簡易回路図(クリックして拡大)図7:EVAL-CN0503-ARDZの光学式液体測定プラットフォームの簡易回路図(画像提供:Analog Devices)。

EVAL-CN0503-ARDZは、開発ボードEVAL-ADICUP3029と組み合わせることで、4つの光路を設定することができます(図8)。また、2つの外側の光路には、蛍光および散乱を測定するための垂直フォトダイオードとフィルタレセプタクルが搭載されています。各光路には励起LED、集光レンズ、ビームスプリッタ、参照フォトダイオード、送信フォトダイオードが配置されています。

Analog DevicesのEVAL-CN503-ARDZがEVAL-AIDCUP3029の上に完全に組み立てられている画像図8:EVAL-CN503-ARDZを上に、EVAL-AIDCUP3029を下に置いて完全に組み立てた状態(画像提供:Analog Devices)。

本光学装置をCN0503デバイスドライバおよびWavetool評価ソフトウェアと併用することで、総合的な光学式液体分析が可能になります。

まとめ

設計者には、ウェアラブルモニタの機能性向上が常に求められています。これにより、設計プロセスの複雑化や遅延、部品コストの増加、消費電力の増加などの問題が発生します。健康モニタリングには、より統合されたアプローチが必要です。

これまで見てきたように、Analog DevicesのADPD4101が提供するLED、光検出器、ADC信号経路、12の時限信号経路を組み合わせることで、ウェアラブル医療機器やレクリエーション機器向けの高精度で頑丈なセンシングシステムを実現できます。ADPD4101は、複数のLED、アナログチャンネル、優れたタイミングアルゴリズムを備えており、ウェアラブルなSpO2、心電図、皮膚抵抗の測定に理想的なソリューションとなっています。

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著者について

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Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)氏

Bonnie Baker氏は、アナログ、ミックスドシグナル、シグナルチェーンの経験豊富な専門家であり、電子技術者です。Baker氏は、業界の出版物で技術記事、EDNコラム、製品特集など、数百本の署名記事や著書を執筆してきました。『A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers』(ベイカーの12の教え:デジタル設計者のためのリアルアナログソリューション)を執筆し、他にも数冊の書籍を共著する傍ら、Burr-Brown、Microchip Technology、Texas Instruments、Maxim Integratedで設計者、モデリングエンジニア、戦略マーケティングエンジニアとして働いてきました。Baker氏は、アリゾナ大学ツーソン校で電気工学の修士号を取得し、北アリゾナ大学(アリゾナ州フラッグスタッフ在)で音楽教育の学士号を取得しています。彼女はまた、ADC、DAC、オペアンプ、計装アンプ、SPICE、IBISモデリングなど、様々なエンジニアリングトピックに関するオンラインコースの企画・執筆・発表に携わってきました。

出版者について

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