パワーエレクトロニクスを実現するSiCおよびGaN半導体
SiC(シリコンカーバイド)およびGaN(窒化ガリウム)は、電気自動車、産業用電源、および太陽光発電システムにおける次世代電力設計に最適なワイドバンドギャップ(WBG)技術になりつつあります。この記事では、まず現在の状況とWBG技術が今後の選択肢となり得る理由を説明したあと、それを実現する最先端のWBGソリューションを紹介します。
ハイブリッドや電気自動車から、データセンターや軍事用パワーエレクトロニクスにいたるまで、SiCおよびGaN半導体材料は高電圧パワーエレクトロニクスにおいてパワー変換および省エネを改善するための実行可能な選択肢として出現しました。
たとえば、電気自動車(EV)に搭載されるパワートレインインバータはシリコンベースのIGBTに長年依存してきましたが、EVの設計者は、高周波数で動作し、降伏電圧の高いアプリケーションに最適なSiC MOSFETを次第に使用するようになってきています。その結果、SiCショットキーバリアダイオード(SBD)、SiC MOSFET、SiC接合ゲート電界効果トランジスタ(JFET)などのSiCディスクリートが利用できるようになるにつれ、SiCデバイスはハイブリッドおよび電気自動車分野で力強く成長してきています。期待できる次の論理ステップは、フルSiCモジュールのリリースです。
一方GaN半導体は、低コストが保証され、SiCウェハより製造が簡単なため、流通量もSiCに追いつきつつあります。現在のGaNデバイスは、インバータのような車載設計に加えて、データセンター、高電圧電源、および軍事用パワーエレクトロニクスにおけるDC/DCコンバータでも人気が高まっています。
SIC:より高い電力密度および信頼性
SiC材料は2.86電子ボルト(eV)1のワイドバンドギャップを備えているため、シリコン(1.11eV)と比較して熱伝導性が高くなっています。したがって、高電力アプリケーションに対して高電圧を分配することができます。より高い電力密度、耐久性、および信頼性を備えたSiC材料は、車両電動化用のパワー変換システム、ソーラーインバータなどの高電力アプリケーションに最適です。
たとえば、Wolfspeed(Cree社)のSiC MOSFETのEシリーズは、EVバッテリチャージャおよび高電圧DC/DCコンバータに最適化されています。EシリーズはWolfspeedの堅牢な第3世代プレーナ技術に基づいており、同社の6.6キロワット(kW)双方向オンボード充電器のリファレンス設計に取り入れられています。
Wolfspeedは、Eシリーズ SiC MOSFETを業界で最もスイッチング損失が少なく、最も性能指数(FOM)が高い製品として位置付けています。実際、本製品のRDSonは最小65ミリオーム(mΩ)であるため、WBG電力デバイスの電力損失や熱限界を考慮に入れると、この記事の執筆時点でFOMが最上位またはそれに近い可能性は十分にあります。
さらに、極度に過酷な環境で動作する太陽光発電システムにおいて、これらのSiCデバイスはHV-H3TRB定格に準拠しています。常時85°Cの周囲温度、85%の相対湿度の環境チャンバにおいて、定格ブロッキング電圧が80%の状態で準拠しました。
Rohm Semiconductorも、第3世代のSiC SBDをさまざまな電流定格およびパッケージで提供しています。SBDは、Vf特性を大幅に向上させ、リーク電流を低減しつつ、より高いサージ電流抵抗を備えています。その結果、これらのデバイスのスイッチング損失は、シリコン高速リカバリダイオード(SiFRD)よりも少なくなります。
さらに、Rohmは業界標準パッケージにSiC MOSFETとSBDを統合した電源モジュールをリリースしました(図1)。
図1:第3世代SiC MOSFETを使用する電源モジュールのスイッチング損失が少ない主な理由は、RDS(ON)の大幅な低下です。(画像提供:Rohm Semiconductor)
フルSiCハーフブリッジパワーモジュールのスイッチング損失は従来のIGBTモジュールよりも大幅に少ないため、100kHz以上の高周波数動作が可能になります。
GaN:シリコンよりも小型で高速
GaNは、シリコンと比較して、3.4eVというさらに高いバンドギャップと2倍の電子移動度を備えています。さらに、電流崩壊がないというGaNデバイスの特性により、サイズが小型化され、パワー変換システムの効率が向上します。
EPCのEPC2206デバイスを例に見てみましょう(図2)。eGaN® FETファミリの一部であるEPC2206は、48ボルトの配電バスを使用して、電動スタート/ストップ、電動ステアリング、電子式サスペンション、および可変速空調などの機能を促進する車両を対象としています。EPC2206 eGaN FETは、棒はんだによりパシベーション処理されたダイ構造でのみ提供されます。ダイサイズは、6.05ミリメートル(mm)x 2.3mmです。
図2:EPCのEPC2206 eGaN FETは、棒はんだによりパシベーション処理されたダイ構造でのみ提供されます。ダイサイズは、6.05mm x 2.3mmです。(画像提供:EPC)
EPCのEPC2100ハーフブリッジGaNトランジスタも、eGaN FETファミリの一部です(図3、上部)。パワーFETのコンバータ設計への統合を簡素化するために、EPCはEPC9036開発ボードも提供しています(図3、下部)。
図3:EPC2100ハーフブリッジGaNトランジスタは、はんだバンプによりパシベーション処理されたダイ構造で提供されます(上部)。サイズは、6.05mm x 2.3mmです。2つのトランジスタが、EPC9059開発ボード上に平行に配置されます(下部)。(画像提供:Digi-Key Electronics)
EPC9036開発ボードには、2つの30ボルトEPC2100 eGaN ICが平行に配置され、高出力電流用のオンボードゲートドライブが1つ搭載されています。この開発ボードにはすべての重要なコンポーネントが搭載され、最適なスイッチング性能を実現するようレイアウトされています。
さらにTransphormは、2017年に初の車載用AEC-Q101認定GaNトランジスタを発売しました。Transphormによると、同社の高電圧GaN FETは、電力システムの開発時に十分なサーマルヘッドルームを提供します。TransphormのTP65H035WSQAは、同社の第3世代AEC-Q101認定GaNデバイスであり、FETの熱限界を175°Cまで拡大しました。これは、AEC-Q101認定の高電圧シリコンMOSFETよりも25°C高くなります。
上記のソリューションは、SiCおよびGaN電源デバイスが商業的に台頭していることを示しています。主なアプリケーション分野でこれらのソリューションが重要な設計課題に対処し続けることにより、流通量と使いやすさが向上し、ドロップイン置き換えにおいてシリコン対応製品に肉薄できるようになるでしょう。
参照資料:
1 – http://hyperphysics.phy-astr.gsu.edu/hbase/Solids/bandgap.html#c1
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