忙しく騒がしい環境に対するタッチレスインターフェースとして、ジェスチャ認識を簡単に追加

パンデミック以前から、ジェスチャ認識は視覚障害者の補助としてだけでなく、ゲームプラットフォームや自動車、手術室などの用途でも注目されていました。公共空間の衛生面がさらに重視されるようになり、公共の場でのタッチインターフェースを可能な限り避けようとする傾向がますます強まっています。

このような変化は、エンジニアに課題を与えました。多くの技術は大量の人的インタラクションに依存していますが、多くの場合、物理的な接触が避けられ、積極的に抑制されると、そのインタラクションを維持することは困難になります。タッチレスインターフェース技術は、その解決策を提供します。

タッチレス方式としては、近接型タッチスクリーン(指が近くを移動するが実際には画面に触れない)、アイトラッキング、近距離無線、音声認識など、すでにいくつかの方式が採用されています。しかし、これらの技術は、感染症対策が求められる医療現場や、手袋を着用することが習慣となっている産業現場、さらに高度なセキュリティが求められる認証アクセスポイントなど、専門的な用途に限られていました。それ以外の用途では、タッチパネルを搭載する方がシンプルでコストも安く済みます。

また、タッチレスインターフェースは比較的ニッチな技術であったため、開発が遅れ、ソリューションが不格好になりがちで、使用頻度が高い用途に適さないこともありました。パンデミックがきっかけとなり、革新的なタッチレスインターフェース製品が次々と開発され、中には街の中心部からホテルのロビーまで、通行量の多い大通りや騒がしい公共空間に最適な製品も登場しています。

タッチレスジェスチャ認識を使用する理由

それぞれのタッチレス技術には利点がありますが、公共の場で大量に使用する場合は、タッチレスジェスチャ認識が最適であることはほぼ間違いありません。この技術は、近接型ソリューションで必要とされる指の位置の正確性、近距離無線ソリューションで必要とされるタッチカードやキーホルダーの携帯、音声認識を使用する際に混雑した周囲の騒音に負けない大きな声などの必要性を克服できます。また、ジェスチャ認識は、比較的簡単で安価に実装でき、信頼性も良好です。

タッチレスジェスチャ認識システムは、手を振る、スワイプするといった体の動きを検知し、その動きを指示や命令として解釈します。この手法は、カメラや可視光センサ、赤外線(IR)センサを使用し、手の動きによる光の違いを検出して機能します。

新しい設計を立ち上げるには数回の設計サイクルが必要ですが、設計者はゼロから始める必要はないことを認識しておく必要があります。たとえば、Analog Devicesは、安価なジェスチャ認識システムの便利なリファレンス設計を提供しています。EVAL-CN0569-PMDZジェスチャセンサPmod評価ボードは、IRパルスを送信し、2つのIRセンサが動く手からの反射を探知します(図1)。その後、リファレンス設計はこの光を検出し、物体の位置に応じた応答を生成します。

図1:EVAL-CN0569-PMDZジェスチャセンサPmod評価ボードは、実験や新しい設計のための良い出発点となります。IR LEDからパルスが送信され、2つのIRセンサが動く手からの反射を探知します。(画像提供:Analog Devices)

ハンドジェスチャのトラッキング

システムは、タッチレスインターフェース周囲の空間のどこかで手を振っていることさえわかれば十分というわけではありません。多くのシステムでは、誤作動を避けるために、手の動きのパターンを定義する必要があります。典型的な手の動きのパターンでは、ジェスチャの開始を検出し、ジェスチャ中の手の動きを追跡し、ジェスチャの終了を特定します。

ジェスチャセンサ評価ボードでは、Analog Devicesの赤外光角度センサADPD2140を用いて、動く手からの入射光を拾うことで、この要件を満たします。1台のデバイスで赤外光の入射角を2軸1点測定できるため、複数のデバイスを連携させて距離を三角測量することが可能です。さらに、赤外光角度センサは、広い視野角(±35°)で線形応答を維持するため、手の位置の不正確さに非常に敏感です。

また、可視光をシャープに遮断する光学フィルタを内蔵していることも、赤外光角度センサADPD2140を使用する際の大きな利点です。これにより、外付けレンズが不要になり、太陽光や室内照明に対して配置しても、センサのダイナミックレンジが保たれます。フィルタは波長800nmの光に設定されているため、ジェスチャを見分けるためには、IRパルスを発するLEDの光の波長がそれ以上でなくてはなりません。たとえば、リファレンス設計では、850nmのエミッタ1個が赤外光源として使用されています。光源は、1番目のセンサから6mm、2番目のセンサから19mm離れた場所に設置されています(図2)。

図2:EVAL-CN0569-PMDZリファレンス設計では、1つの850nmエミッタが赤外光源として機能しています。光源は、1番目のセンサから6mm、2番目のセンサから19mm離れた場所に設置されています。(画像提供:Analog Devices)

消灯の例

駐車券発行機のような用途では、センサの前で手を動かすだけで機械が作動します。しかし、他の用途では、異なることを行うために別々の手の動きが要求される場合があります。たとえば、タッチレス照明のスイッチの場合、電気をつけるときは手を上に、消すときは下に動かす必要があるかもしれません。

2つのセンサを使うことで、それぞれのセンサの検出範囲に手が入ったときに、リファレンスボードが動きを判断できます。しかし、それ以上に、センサはどのような手の動きをしているかを判断できるのです。たとえば、手を上向きに動かした場面を追跡し、下向きの動きと簡単に区別します(図3)。

図3:評価ボードのIRセンサで検出された、「上」の後「下」に動く手の角度位置。水平方向の角度運動(青のXSTART1 > XEND1およびXSTART2 > XEND2)はわずかですが、垂直方向の角度運動(紫のYSTART1 > YEND1およびYSTART2 > YEND2)は上への動きで角度位置が増加し、下への動きで減少していることに注目してください。(画像提供:Analog Devices)

次に、ボードをコンピュータに接続し、具体的なジェスチャが画面にどのように表示されるかを観察します。これらのジェスチャは、関連する開発プラットフォームでコード化され、タッチレスインターフェースに特定の機能を実行するように指示します。

まとめ

設計者が電子システムとの衛生的なインタラクションのニーズに対応する場合、騒音や人混みの多い公共の場でのインターフェースとして、タッチレスジェスチャ認識が良い選択肢となります。説明したように、ゼロから始める必要はありません。その代わりに、手の動きだけでなく特定のジェスチャも検出できる比較的安価なIR LEDとセンサの設計を、EVAL-CN0569-PMDZジェスチャセンサPmod評価ボードを使って始めることができるのです。

著者について

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スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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