9億ドルを要するEVバッテリのリコール(バッテリ管理システムの故障による)
バッテリ管理システム(BMS)の故障が最近Hyundaiで起きたリコール原因の少なくとも一部となり、82,000台のKonaモデルの電気自動車(EV)で発火のリスクがあるリチウムイオン(Liイオン)バッテリパックを交換しなければならなくなったことには、教えられる所が多々ありました(図1)。このリコールは、約10億ドルを要するため、史上最大の自動車リコール案件の1つとなりました。
図1:Hyundai Motor Co.は、世界中で販売している約82,000台のKona EVと他の2車種のEVのバッテリを発火する可能性のあるリスクにより交換しようとしています(画像提供:Hyundai Motor Co.)。
前述のように、リコールの原因はバッテリの故障だけではありません。「韓国の国立自動車試験研究院(KATRI)の試験によると、車両の発火原因はバッテリセパレータでもバッテリセルの誤配置でもなく、Hyundaiのバッテリ管理システムが高速充電システム内で適切に適用されていなかったためである」と、Korea Heraldはレポートしています。
また、同レポートでは、「韓国国土交通省は、2017年7月から2019年にかけて南京のLG工場で製造された故障していたいくつかのバッテリセルに、発火リスクの可能性が疑われる殊を発見した」とも追加しています。さらに、前回のリコールにおいて、「Hyundaiは、最大充電率を90%に制限するようBMSをアップグレードした」が、ソフトウェア更新をダウンロードした車両が発火したところで、リコールが命じられました。
Liイオンバッテリは、EVだけでなく、移動ロボット、電動自転車、ドローン、電動工具、ポータブル医療用デバイスなど幅広いアプリケーションで使用されています。Hyundaiが行ったリコールの結果、効率的なBMSの設計と高品質のLiイオンバッテリの使用が非常に必要となることが判明しています。
幸いなことに、設計者がBMSシステムの設計に使用できる選択肢には、設計プロセスを短縮するためのリファレンス設計、評価ボードなど、複数個あります。Texas InstrumentsのEVと大型移動ロボット、Maxim Integratedの電動自転車と小型移動ロボット、NXP Semiconductorsのドローン、ローバー、電動工具、ポータブル医療用デバイスなどに使用できるいくつかのBMSソリューションを見ていきましょう。
最大560個のセル用のBMS
Texas InstrumentsのQEC-Q100認定およびASIL-D準拠のBQ79616-Q1を使用すると、自律的なセルバランシングと内部温度モニタリングが可能になります。過温度状態の場合には、自動的に中止し、バランシングを再開します。BQ79616-Q1は、6個~16個のセルのセル電圧を200マイクロ秒(μs)未満で高精度に測定することができます。
BMSアプリケーションの開発を加速するため、Texas InstrumentsではBQ79616EVM-021評価ボードをご用意しています(図2)。EV用に最大560個のセルのLiイオンバッテリパックをサポートするため、最大35個のBQ79616-Q1デバイスを接続することができます。
図2:1つのBQ79616EVMあたり、最大16個のLiイオンセルを管理でき、35個のBQ79616EVMモジュールをスタックすることができます(画像提供:Texas Instruments)。
電動自転車と小型移動ロボット
Maxim IntegratedのDS2788E+は、電動自転車、小型移動ロボット、電動工具の設計者向けに電流、電圧、放電率、温度を監視します(図3)。また、LiイオンおよびLiポリマーバッテリの利用可能な容量を推定します。オンチップEEPROMは、セル特性とアプリケーションパラメータを保存します。容量推定は、フル充電のミリアンペア時(mAh)数に対するパーセンテージとして報告されます。DS2788E+には、充電状態を簡単に表示するためのLEDディスプレイドライバが搭載されています。設計をすぐに開始できるように、MaximではDS2788EVKIT+ DS2788燃料計電源管理評価ボードをご用意しています。
図3:DS2788Eには、Liバッテリパックの充電状態を簡単に表示するためのLEDディスプレイドライバが搭載されています(画像提供:Maxim Integrated)。
3~6セル用のBMS
3~6セルを使用するドローン、ローバー、スクーター、電動工具、ポータブル医療用デバイスの設計者向けに、NXPでは、 6チャンネルLiイオンバッテリセルコントローラMC33772BをベースにしたRDDRONE-BMS772 BMSリファレンス設計をご用意しています(図4)。同コントローラは、複数のセルの電圧と電流に対してA/D変換を行うことで、バッテリ残量ゲージを実装し、バッテリ温度測定値を提供します。リファレンス設計は、ドローン内で使用すれば、UAVCANやSMBusを介して飛行管理ユニット(FMU)と通信することができます。
図4:リファレンス設計RDDRONE-BMS772は、UAVCANやSMBusを介してFMUと通信することができます(画像提供: NXP)。
リファレンス設計RDDRONE-BMS772は以下の特長を備えています。
- 6.0V~26Vの電圧を持つ3~6セルバッテリスタックのサポート
- スタック電圧とセル電圧を測定する際の精度:±5.0ミリボルト(mV)
- スタック充電中のアクティブセルバランシング
- バッテリ認証をサポート
- CAN、I2C、NFC通信のサポート
- 低リーク電流のディープスリープモード(蓄電と送電用)を搭載
まとめ
大量のEV車リコールでバッテリが言及される場合、多くの人がすぐに想定するのは、「バッテリは、製造時に化学薬品や組成が追加されるから、言及されたのだ」ということです。しかし、この特殊な例が指摘しているように、それではあまりにも単純化しています。バッテリとBMSの間にある相乗関係の重要性は、どれだけ誇張してもし過ぎることはありません。設計者が非常に慎重になる必要があるのは、高品質のLiイオンバッテリの選択に加えて、BMS設計に使用する選択肢です。また、それらの選択肢を試験し、検証するために、入手可能な評価ボードとリファレンス設計を活用することも必要です。
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