電源のEMI/EMC測定への入門 - 第2部:放射EMI

このブログシリーズの第1部では、主に伝導電磁妨害(伝導EMI)の測定について取り上げました。この記事では、第2部として、放射EMIの測定について説明します。

放射EMIは、横波の電磁波として、あるいは容量結合/誘導結合を介して自由空間に伝搬する、望ましくない電磁エネルギーです。時間的に変化する信号を伝送する回路基板導体は、電磁エネルギーを空間に放射します。回路基板トレースはすべて、信号を送受信できる紛れもないアンテナです。大きなスイッチング電圧/電流を備えたスイッチドモード電源は、適切に設計しないとEMIを発生しやすくなります(図1)。

図1:スイッチドモード電源で見られる信号には、スルーレートの高い広帯域の電圧/電流波形のほか、スイッチング周波数に関連した狭帯域信号や、リンギングなどの振動信号も含まれます。(画像提供:Art Pini)

放射EMI試験では、高スルーレートのスイッチング電圧/電流に固有の、被試験デバイス(DUT)から発生するEMI信号について、電磁界強度を測定する必要があります。

放射EMIのコンプライアンス試験は、DUTから信号を隔離する無響シールドルームで実施します(図2)。センシングアンテナは、DUTから所定の距離(通常1m)を保って配置されます。また、バイコニカルアンテナやログ周期アンテナが一般的に採用されます。

図2:放射EMIのコンプライアンス試験は、DUTが外部RF放射から隔離されたシールド無響室で行います。(画像提供:Art Pini)

DUTは、グランドプレーンの上にあるテーブルに配置されます。これらの特殊なエミッションは指向性を持つ傾向があるため、DUTをターンテーブル上に設置することで、見通し線要素の優れたセンシングアンテナを実現しています。また、アンテナは可動式で、高さを調節できます。試験中には、最も高い測定応答を示した方向が記録され、コンプライアンス試験の基礎値として使用されます。DUTへの配線は試験試験対象に含まれ、ケーブルハーネスに封入されています。

試験室では、スペクトラムアナライザやEMIレシーバを使用して対象となる周波数帯をスキャンし、試験限界に近いエミッションを探します。これは、DUTのすべての方向とアンテナの偏波に対して行われます。試験室では、これらの各エミッションに焦点を当て、電界強度の振幅を数値化します。

図3は、Texas InstrumentsLM61495Q3RPHRQ1 10A車載用降圧コンバータの一般的な放射エミッション試験の結果を示しています。

図3:LM61495Q3RPHRQ1 10A降圧コンバータのCISPR 25クラス5に基づく一般的な放射エミッション試験を示します。ピーク、準ピーク、および平均検出器応答の試験限界値がプロットされています。ピーク(青)と平均(紫)の測定応答の取得データが示されています。(画像提供:Texas Instruments)

この仕様では、ピーク、準ピーク、および平均検出器応答に対する試験限界値が設定されています。準ピーク応答は、振幅ピークを発生頻度で重み付け処理した応答です。ピークおよび平均の測定応答がプロットされています。仕様に適合するためには、それぞれの値が適切な試験限界値以下でなくてはなりません。

コンプライアンス試験にはコストと時間がかかるため、ほとんどの設計者はシールドルームの外で、近接場測定を使用したプレコンプライアンス試験を行っています。近接場測定は、Teledyne LeCroyT3NFP3キットのような近接場プローブを使用して、DUTから1フィート(30.5cm)以内の距離で行われます。近接場プローブは、電界または磁界を感知します(図4)。また、近接場プローブは一般的なプローブとは異なり、較正されていないため、相対測定やエミッション源の位置確認に使用されます。

図4:Teledyne LeCroyのT3NFP3近接場プローブキットには、3個の磁界プローブと1個の電界プローブが含まれています。(画像提供:Teledyne LeCroy)

 

T3NFP3近接場プローブキットは、3個の磁界プローブと1個の電界プローブで構成されています。これらのプローブは、300kHz~3GHzの範囲で放射エミッションを感知する広帯域アンテナとして機能します。磁気プローブにはループ構造が採用され、直径は20、10、5mmが用意されています。ループが大きい方が、感度が高く、放射信号の検出に適しています。ループが小さいと感度は落ちますが、幾何学的な精度が高く、放射源を見つけるのに役立ちます。プローブの感度は、磁界がループ面に対して直角である場合に最大となります。この角感度を利用して、放射源に対する方向を特定します。

電界プローブはモノポールアンテナであり、このプローブを測定面に対して垂直に向けることが重要です。電界プローブは、高電圧源や非終端の発生源を特定するのに役立ちます。

B&K PrecisionPR262は、T3NFP3と似ていますが、非常に低いレベルの信号を検出するために40dBのプリアンプが追加されています(図5)。このセットは、9kHz~3.2GHzの周波数範囲をカバーします。

図5:PR262セットはT3NFP3と似ていますが、非常に低いレベルの信号を検出するために40dBのプリアンプが追加されています。(画像提供:B&K precision)

近接場プローブの出力は、測定機器の50オーム入力に接続されます。絶縁されたプローブヘッドをプリント基板上に通過させながら、放射源がないか応答を監視しします。磁界プローブと電界プローブの両方を使用して、放射EMI信号の発生源を確認するのです。

まとめ

回路基板上のすべてのトレースがEMIを放射する紛れもないアンテナとなるため、T3NFP3やPR262のような近接場プローブを使用してプレコンプライアンス試験を実施することが非常に重要です。これらのプローブはEMIの発生源をすばやく検出して隔離するのに役立つため、正式(および高額)なコンプライアンス試験に進む前にEMIを軽減することが可能になります。

著者について

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Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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