電源のEMI/EMC測定への入門 - 第1部:伝導EMI

電子デバイスは生活のほぼすべての面に関わっていますが、これらのデバイスが普及することで、「相互にどの程度妨害するのか」という疑問が生じます。電磁両立性(EMC)と電磁妨害(EMI)は、電子デバイスと電子システムの相性を判断するために使用される指標です。

EMI測定では、あるデバイスが他のデバイスやシステムへの妨害をどれだけ抑えられるかを数値化します。その反対のEMC測定では、外部システムが試験対象の電子デバイスの動作にどのような影響を与えるかを数値化します。

妨害を最小限に抑え、すべての電子デバイスやシステムの互換性を保証するために制定された国内および国際規格が数多くあります。これらの規格の制定機関としては、国際無線障害特別委員会(CISPR)、国際電気標準会議(IEC)、国際標準化機構(ISO)、米国自動車技術者協会(SAE)、米連邦通信委員会(FCC)などがあります。

電子機器の受け入れ試験はすべてのメーカーにとって通過儀礼であるため、設計者は設計を始める前に試験の種類と仕様限界を認識しておく必要があります。同様に、開発エンジニアや技術者は、製品の受け入れや導入における予期しない遅延を最小限に抑えるために、プレコンプライアンス試験を実行する必要があります。

EMIの観点から電源供給装置の設計を考えると、設計エンジニアには多くの課題が提示されます。妨害には、空気中の放射によって電源供給装置から伝搬する場合(放射妨害)と、デバイスの配線を介して伝導する場合(伝導妨害)があります。試験規格には、両方のタイプの妨害に対する測定値が示されています。この記事の残りの部分では、伝導EMIについて考察します。

伝導EMI試験

電源供給装置からの伝導妨害は、スイッチモード電源デバイス内の不連続な電流の流れによって生じます。伝導妨害は、コモンモード信号と差動信号という2つの要素に分けられます(図1)。コモンモード信号が、電源と試験対象デバイス(DUT)(この場合は電源供給装置)を結ぶすべてのライン上を一方向に進むことに注意してください。必要なリターンパスはグランドラインによって提供されます。差動信号は、両方向に進みます。

図1:伝導EMIは、DUTと電源の間に流れる信号の方向のコモンモード成分と差動成分で構成されます。(画像提供:Art Pini)

伝導エミッションの試験では、ラインインピーダンス安定化ネットワーク(LISN)を電源とDUTの間に設置する必要があります(図2)。

図2:LISNを電源(ライン(L)、ニュートラル(N))と試験対象の電源供給装置の間に配置した例。(画像提供:Texas Instruments)

LISNは基本的に、電源と直列に挿入されたローパスフィルタです。その目的は、試験対象の周波数範囲で安定した既知の電源インピーダンスを確保することです。また、電源およびDUTと測定装置の間を入力電源から絶縁します。LISNは、測定機器(通常、スペクトラムアナライザやEMIレシーバ)に対して、安全な振幅レベルの接続も提供することに注意してください。

Analog DevicesDC2130A スペクトラムアナライザ電源管理ボードは、デュアルLISNです。この評価ボードの一方のセクションは、測定ポートに対して最大800MHzの周波数範囲で10dBの減衰を実現します。もう一方のセクションは30dBのゲインを提供し、10MHzから2.5GHzの周波数範囲で小さなEMI信号を増幅します。各セクションは単独で使用することも、組み合わせて使用することもできます(図3)。

図3:コモンモード絶縁に-10dBと+30dBのLISNを使用したDC2130Aのセットアップ。電源供給装置/バッテリは、+30dBのアンプに電力を供給します。(画像提供:Analog Devices)

既存の設計で伝導EMIを低減するには、通常、電源とDUTへの電源入力の間にEMIフィルタを追加します。最新のDC/DCコンバータの設計では、ディスクリート部品のフィルタよりも小さな物理面積で優れたEMI低減効果を発揮するアクティブEMIフィルタが搭載されています。

このようなアクティブフィルタを組み込んでいる例として、Texas InstrumentsLM25149-Q1EVM-2100 評価ボードがあります(図4)。このボードでは、アクティブEMIフィルタを備えたLM25149-QI 同期整流降圧コンバータを使用しています。また、このコンバータはスペクトラム拡散変調を採用し、スイッチングクロックを周波数変調することで、EMIを広範囲の周波数に分散させ、ピーク振幅を低減します。

図4:LM25149-Q1EVM-2100 評価ボードは、アクティブEMIフィルタおよびスペクトラム拡散変調を使用しています。スペクトラム拡散変調は、EMIを広範囲の周波数に分散させて、ピーク振幅を低減します。(画像提供:Texas Instruments)

この評価ボードに対して、CISPR 25クラス5の伝導エミッション試験を実施し、軽減機能を有効にしていな場合の伝導EMIと、アクティブEMIフィルタとスペクトラム拡散スイッチングの両方を使用した場合の伝導EMIを比較することで、これらの技術の有効性を確認することができます(図5)。この試験では、デシベル対周波数でのEMI振幅のスペクトラムプロットを使用します。

図5:EMI低減を行わない動作間のEMIレベル(a)と、アクティブEMIフィルタとスペクトラム拡散を有効にした場合のEMIレベル(b)を比較する、CISPR 25クラス5の伝導エミッションのプロット。(画像提供:Texas Instruments)

赤い横線は、CISPR 25クラス5認定の伝導EMIのピークおよび平均試験レベルを示しています。黄色で示したピークスペクトルの測定値(低減なし)は、スイッチング周波数2.1MHzでピーク試験上限値とほぼ等しく、平均試験上限値を超えています。EMIフィルタリングとスペクトラム拡散スイッチングを有効にした場合は、両方のピークとも試験上限値をはるかに下回っています。

まとめ

電子デバイスの普及に伴い、EMI/EMCの試験および軽減の重要性がますます高まっていますが、それには複雑な技術が必要です。それでも、いくつかの基本原則があります。この記事で考察したように、伝導EMIの試験には、電源、LISN、スペクトラムアナライザまたはEMIレシーバが必要となります。本シリーズの第2部では、放射EMI試験について考察します。

著者について

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Arthur(Art)PiniはDigiKeyの寄稿者です。ニューヨーク市立大学の電気工学学士号、ニューヨーク市立総合大学の電気工学修士号を取得しています。エレクトロニクス分野で50年以上の経験を持ち、Teledyne LeCroy、Summation、Wavetek、およびNicolet Scientificで重要なエンジニアリングとマーケティングの役割を担当してきました。オシロスコープ、スペクトラムアナライザ、任意波形発生器、デジタイザや、パワーメータなどの測定技術興味があり、豊富な経験を持っています。

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