短距離ワイヤレス技術の重要ポイントの概説
自社製品を世界と結びつけるための方法として、ワイヤレス接続が最適だと判断したのなら、それは良い判断です。それにより、製品に利便性、モビリティ、柔軟性がもたらされるので、ターゲット市場にとって製品の魅力が格段に向上します。しかし、ひとしきりご自分の判断に悦に入ったら、いよいよ本格的な設計作業に取り掛かる必要があります。
作業は、製品に最適なワイヤレス接続の形態を決めることから始まります。たとえば、デバイスを別のワイヤレス対応製品やインターネットに接続して、モノのインターネット(IoT)の構成要素にすると仮定します。また、他社製品との相互運用性を活用するために、(数ある自社開発の短距離ソリューションの1つではなく)標準的な技術を選択することに決めたとします。最後に、100m未満の範囲でワイヤレス接続すると仮定します。
これでだいぶ絞ることができました。しかし、このような制約がある中でも、どのような短距離ワイヤレス技術を選択したら良いのか戸惑う可能性があります。ソリューションを見つけるには、ワイヤレスリンクにどのような用途を持たせるかを入念に定義する必要があります。
どの短距離ワイヤレス技術を使用する場合でも、通信距離、スループット、消費電力、耐干渉性の間でトレードオフの関係が発生します。一般的に、通信距離やスループットの向上には、消費電力の増加という代償が伴います。また、優れた耐干渉性は、無線周波数(RF)スペクトラムのうち、2.4GHz帯のような混雑した帯域で動作する無線技術にとって重要な要件であり、レシーバに到達しない無線パケットを絶えず再送する必要がないため、省電力にも役立ちます。考慮すべき他の重要な要素としては、メッシュネットワークやインターネットプロトコル(IP)の相互運用性があります。
主な短距離ワイヤレス技術
短距離ワイヤレス技術としては、Wi-Fi、Bluetooth LE、Zigbee、Thread(Zigbeeと同様にIEEE 802.15.4対応無線で動作)が主流です。しかし、これら以外にも、短距離ワイヤレスソリューションは多数あります。超広帯域(UWB)、近距離無線通信(NFC)、ワイヤレスM-Bus、Z-Wave、Wi-SUNといったその他の技術も、多くのニッチなアプリケーションで検討する価値があります。しかし、ここでは主流の選択肢について考察します。
スループットとIPの相互運用性がスペック表の最上位にある場合、Wi-Fiは有力な選択肢となります。現在、最も一般的なソリューションはWi-Fi 5(旧IEEE 802.11ac)で、理論上の最大スループットは3.5ギガビット/秒(Gbps)、屋内での最大通信距離は100mです。この技術はマルチチャンネルをベースにしており、スループットを向上させながら、マルチパスフェージング(1つの伝達信号が複数回反射してレシーバに届くことによる干渉)の問題を克服しています。また、Wi-FiスタックにはIPv6が組み込まれているため、クラウドにデータを送信するためにルータやゲートウェイを追加する必要がありません。
図1:Wi-Fiには、インターネットとシームレスに接続するためのIPv6が組み込まれています。(画像提供:Netgear)
Wi-Fiのスループットにはトランシーバの電力が大量に必要となるため、Wi-Fiはエネルギー予算が限られている場合に選択する技術としては適切ではありません。また、Wi-Fiは何十台ものネットワークデバイスに対応するようには最適化されていません。とはいえ、現在利用可能な一部のチップで最近採用されているWi-Fi 6(旧IEEE 802.11ax)では、この技術のスペクトル効率を向上させることで、これらの欠点にある程度対処しています。
低消費電力が最も重要な設計パラメータである場合は、Bluetooth Low Energy(Bluetooth LE)、Zigbee、およびThreadが詳細な検討対象となります。これらの技術は、前述のIEEE 802.15.4仕様のDNAを共有しているため、多くの共通点があります。IEEE 802.15.4では、低レートのワイヤレスパーソナルエリアネットワーク(LR-WPAN)用に物理層(PHY)とメディアアクセス制御層(MAC)が規定されています。これらの技術は通常、2.4GHzで動作しますが、ZigbeeのサブGHzバージョンもあります。
Bluetooth LEは、「従来型」Bluetoothの低電力版です。これは、スマートフォンとワイヤレスヘッドセットを接続するというニッチ市場を最初に見つけた民生用ワイヤレス技術です。Bluetooth LEは、Bluetoothプロトコルの一部であり、バージョン4.0から追加されました。Bluetoothの約10分の1の電力で、最大2メガビット/秒の生データスループットと50mの通信距離を実現しています。
この技術は、データ送信が少量で頻度の低い、スマートホームセンサなどのIoTアプリケーションに適しています。また、40個のチャンネルと、干渉を軽減する高度なチャンネル選択アルゴリズム(CSA)を備えています。ほとんどのスマートフォンに搭載されているBluetoothチップとの間でBluetooth LEが相互運用性を持つことは、ウェアラブルなどの民生用アプリケーションの場合に大きなメリットとなります(図2)。この技術の主な欠点は、クラウドに接続するために高価で消費電力の大きいゲートウェイが必要になることと、不便なメッシュネットワーク機能が原因で他の技術に比べて遅延が大きくなることです。
図2:Bluetooth LEはスマートフォンとの相互運用性があるため、ウェアラブル向けの重要な選択肢となっています。(画像提供:Nordic Semiconductor/DO Technologies)
また、Zigbeeは、産業用オートメーション、商用、ホームアプリケーションなど、低電力および低スループットのアプリケーションにとって優れた選択肢です。Bluetooth LEとの比較では、スループットは250キロビット/秒と低いのに対し、通信距離や消費電力は同程度です。Zigbeeは、スマートフォンとの相互運用性がなく、ネイティブIP機能も備えていません。また、16チャンネルで動作し、Bluetooth LEと同様に、干渉を避けるためのチャンネルホッピングアルゴリズムを採用しています。Zigbeeの主な利点は、最初からメッシュネットワーク用に設計されていることであり、スマート照明のように低レイテンシを必要とするアプリケーションにとって優れた選択肢となります。
Threadは、2014年に初めて公開された、短距離ワイヤレス分野の比較的新しい規格です。Zigbeeと同様に、IEEE 802.15.4のPHYとMACを使用して動作し、最大250台のデバイスからなる大規模なメッシュネットワークをサポートするように設計されています。スループットはZigbeeと同じ250キロビット/秒で、消費電力も同程度、最大通信距離は約30mです。ThreadがZigbeeと異なる点は、6LoWPAN(IPv6と低電力WPANを組み合わせたもの)を使用していることです。これにより、ボーダールータと呼ばれるネットワークエッジデバイスを介しても、他のデバイスやクラウドとの接続が容易になります。
競争よりも協力
短距離ワイヤレス分野では、対象アプリケーションに対応するために各技術内で性能間のトレードオフが避けられないため、単一の技術が優位に立つことはないという認識があります。こうした認識により、業界団体間の非常に高度な協力体制が構築され、多くの短距離ワイヤレスプロトコルスタック間で相互運用性が保証されています。
この協力の精神を示す1例が、Apple、Amazon、Googleなど180社が加盟するConnectivity Standards Alliance(CSA、旧Zigbee Alliance)によって推進されているMatterです。Matterは、セキュリティと相互運用性を重視しています。また、Zigbee、Bluetooth、Wi-Fiを統合したネットワーク層を導入して、ブランドやデバイス機能に関係なく、デバイス同士が相互に連携できるようにしています。2021年末までには、Matter認定の市販品が登場することになっています。これは、短距離ワイヤレスの転換点となるでしょう。
1つの製品バリエーションを設計する際に、プロトコルの選択に最大限の柔軟性を持たせたい設計者は、マルチプロトコルの短距離ワイヤレスチップを選択することもできます。多くのシリコンベンダーが、Wi-Fi、Bluetooth LE、Zigbee、Thread、またはそれらの組み合わせをサポートするシングルチップまたはモジュールソリューションを提供しています。チップの組み込みマイクロプロセッサが、必要に応じてプロトコルの切り替えを行うのです。
まとめ
短距離ワイヤレス接続をデザインインすることで、製品はエンドユーザーにとってさらに魅力的なものとなります。開発者が利用できる技術は多岐にわたるため、最良の選択を行うのは容易ではありません。あらゆる短距離ワイヤレス技術では、通信距離、スループット、消費電力、耐干渉性の間にトレードオフの関係が発生します。最終製品の用途やエンドユーザー体験の重要性を慎重に考慮し、それらにマッチした強みを持つワイヤレス技術を選択することが、最良の選択を行う鍵となります。

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