Silicon LabsのProキットでAmazon Sidewalk製品の設計を加速する

モノのインターネット(IoT)は多くの無線プロトコルでサポートされています。なぜなら、単一の技術ではすべてのアプリケーションに対応できないため、各無線は通信範囲、スループット、消費電力の間でトレードオフの関係にあるからです。

周波数が高い信号は1秒間に多くのビットを伝送するため、データレートは向上しますが、身の回りの物に吸収されやすく減衰しやすいため、通信範囲が狭くなります。たとえば、Bluetooth Low Energy(LE)は2.4GHz帯で動作し、最大2Mbits/sの生データスループットを提供し、屋外での通信距離はおそらく100mです。ナローバンド伝送を使用するサブGHz帯の技術では、伝送距離は最大1kmですが、スループットはわずか数百Kbits/sとなります。

Wi-FiではBluetooth LEと同じ2.4GHzの周波数帯を使用しますが(Wi-Fiは5GHz帯でも動作します)、優れた変調技術により、最大数百Mbits/sというはるかに高いスループットを実現します。電源に関しては、Bluetooth LEはコイン電池のような小型電池で数か月間動作しますが、Wi-Fiには通常、主電源か比較的かさばる充電式電池が必要となります。

このようなトレードオフの関係により、アプリケーションに最適な無線を選ぶのは簡単ではありません。最も適切な選択をしても、妥協の産物になる場合があります。しかし、2つ、あるいは3つでもっとうまく機能するのであれば、1つだけにこだわる必要はありません。Amazon Sidewalkは、複数の無線を使って「コミュニティネットワーク」を構築します。このネットワークは、ほぼどこからでもコンシューマーデバイスをインターネットに無料で安全に接続し、家庭の範囲を越えて近隣地域にまで広がっています(図1)。

図1:Amazon Sidewalkは、インターネットに接続されたデバイスの無料コミュニティネットワークを構築します。(画像提供:Amazon)

ネットワークギャップを埋める

Amazon Sidewalkは現在、米国で利用できます。この技術は、Bluetooth LEやWi-Fiといったスマートホーム向けの近距離無線技術と、LoRaWANやセルラーIoTといった広域ネットワーク(WAN)とのギャップを埋めるように設計されています。たとえば、ペットにBluetooth LEトラッカーを装着している場合、庭にいるときは簡単に見つけられても、フェンスの向こう側に移動してしまったら行方がわからなくなってしまいます。Sidewalkを使用すると、ペットが通りに出ても、角を曲がっても追跡を続けられます。

Amazon Sidewalkのコミュニティネットワークは常にオンであり、すでに家庭や商業施設にある何百万台ものSidewalk対応デバイスによって支えられています。たとえば、同社のスマートスピーカ「Echo」や、防犯カメラ「Ring」などです。このようにインフラが広く配備されているため、最新技術をサポートするための追加インフラはほとんど必要ありません。同社によると、Sidewalkのカバー範囲はすでに全米人口の90%以上に及んでいるそうです。

この技術は、近くにある物体間の通信を行うBluetooth LEと、長距離の通信を継続するためのサブGHz帯無線を組み合わせたものです。Amazon Echo、Dot、Ringといった近隣のスマートデバイスは、ネットワーク内の「Sidewalk Bridges」として機能します。この製品は、ゲートウェイ動作に少量のインターネット帯域幅(最大80Kbits/s)を割り当てます。ゲートウェイのリソースを使用することで、Sidewalk製品はクラウド上のAmazon Web Services(AWS)と接続し、デバイスの位置情報などを明らかにすることができます。Amazonによると、Sidewalkでは何重ものプライバシーとセキュリティが設計に組み込まれています。そのため、Sidewalk Bridgeの所有者は、Sidewalkに接続されている他人所有のデバイスに関する情報を一切受け取りません(図2)。

図2:Amazon RingのようなスマートデバイスがSidewalk Bridgesとして機能します。Sidewalk Bridgesは、ゲートウェイ動作のために少量のインターネット帯域幅を割り当てます。(画像提供:Amazon)

Sidewalk製品の開発を始める

Amazon Sidewalkは3つの無線を使ってコミュニティネットワークを構築します。デバイスのプロビジョニングや近隣のBluetoothデバイスとの接続にはBluetooth LE、最大1.6kmの接続にはサブGHz帯の周波数偏移変調(FSK)、長距離(数km)の接続には独自のチャープスペクトラム拡散(CSS)無線です。Sidewalk製品には通常、Bluetooth LE無線と、FSKまたはCSS長距離プロトコルのいずれかをサポートするもう1つの無線が含まれます。

Sidewalk製品の開発やRF全般が初めての方には、3つの無線の使用は少し大変に聞こえるかもしれませんが、ご心配なく。開発を始めるのに役立つ優れた統合開発ツールがいくつかあります。たとえば、Silicon Labsは、Amazon Sidewalk SDK、ワイヤレスハードウェア、セキュリティ、開発キットとツールで構成される認定ソリューションを提供しています。

ハードウェアは、KG100S-PK6130AのAmazon Sidewalk用Proキットがベースとなっています。これは、パケットトレースインターフェース(PTI)と仮想COMポートを備えたSEGGER J-Linkデバッガを搭載したメインボードで構成されています。それにより、拡張ヘッダを介して、接続された無線ボードや外部ハードウェアのアプリケーション開発やデバッグが可能になります。このキットには915MHzのアンテナも付属しています。

Proキットは、xG24-RB4187CKG100S-RB4332Aという2つのプラグイン無線ボードと組み合わせて使用できます。前者は、Bluetooth 5.3とその他の2.4GHzプロトコルをサポートする、Silicon LabsのEFR32MG24トランシーバをベースにしています。後者の無線ボードは、Bluetooth LE無線と長距離サブ1GHz(915MHz)FSKおよびCSSトランシーバを組み合わせた、QuectelKG100Sトランシーバを使用しています。KG100Sには、Silicon LabsのEFR32BG21Bマイクロコントローラが内蔵されています(図3)。

図3:Proキット(ここではKG100S無線ボードを接続)を使えば、Amazon Sidewalkのプロジェクトが簡単に始められます。(画像提供:Silicon Labs)

Proキットを使用して開発を始めるには、Silicon LabsのSimplicity Studioバージョン5の統合開発環境(IDE)をダウンロードしてインストールし、Proキットを接続し、IDEを使用してAmazon Sidewalk SDKをダウンロードするだけです。そこから、コンパイル済みのデモ、アプリケーションノート、サンプルを使って、すぐに操作できるようになります。Simplicity Studioには、エネルギープロファイリングなどの高度なツールも含まれています。このツールは、マイクロコントローラの動作を最適化し、最終製品の消費電力を低く抑えるのに役立ちます。

まとめ

米国市場にとって、Amazon Sidewalkは、補完的な無線技術を統合し、Amazonのスマートホームデバイスというすでにあるインフラを活用したエレガントなコミュニティネットワークソリューションに組み入れる巧みな技術です。この技術では複数の無線を使用しますが、Silicon LabsのProキットのような開発ツールを使えば、製品の製造はずっと簡単になります。無線ボードを選び、開発キットを同社のIDEに接続し、コンパイル済みのコードをダウンロードすれば、数分でデモを立ち上げて動作させることができます。

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