60601-1医療用電源のKISS
2015-07-14
ANSI/AAMI ES 60601-1:2005/IEC 60601-1 標準の第3版は非常に複雑で階層化されており、多くの部分で曖昧で矛盾しているため、電源やシステムの設計者が当初の目的を逸脱するのも止むを得ないかもしれません。 それでも、この新しい、通称「60601」には、オペレータと患者の両方に向けたすべての保護手法(MOP)が含まれており、設計仕様やパフォーマンスの条件を厳しくすることよりも、システムの分類、定義、システムの総合的な安全性についてより多く扱われています。 それを前提として、すぐに入手可能な適切な電源を選択することで、「短く簡潔に」(KISS)の原則に従い、多くのテスト、書類作業、それらに関連するコストを省き、同時に設計の困難な問題を大幅に低減できます。
詳しい解説の前に、標準の名前付けおよび派生語自体が混乱を招きやすいため、これらについて明確にしておきましょう。 ANSIはAmerican National Standards Institute(米国規格協会)の略で、AAMIはAssociation for the Advancement of Medical Instrumentation(医療器具開発協会)を意味します。 ANSI/AAMI ES 60601-1:2005は国際的に認知されているIEC 60601-1:2005と同じものですが、米国の送電網に対応するため変更が加えられています。 これは、FDA登録機関に公式に追加されています。 同様に、EN 60601-1はIEC 60601-1:2005の欧州向け派生版で、CSA‐C22.2 NO. 60601‐1:08ULはカナダ向けの派生版です。 ULは、IEC 60601-1の国際的な認知を前提として、米国向けのES 60601-1:2005をベースとしています。
ECRI InstituteのMDSR(Medical Device Safety Reports:医療機器安全性レポート)に従い、負傷や死亡事故を引き起こすような医療機器の故障は5つの主なグループに分類でき、そのうち機器の要因と外部の要因の2つには、電源に直接関連する可能性がある副分類が存在します。 機器の要因について、MDSRではソフトウェアの欠陥が指摘されており、外部の要因については電源が直接名指しされています。
60601-1および医療用電源に関しては、従来はアナログのみであった医療システムへデジタル電源が普及しつつあることから、ソフトウェアの欠陥は特に重要な点です。 電源がデジタルへ移行するにつれ、設計者はシステムとソフトウェアの両方の安定を保証するため、テストの要件が飛躍的に増大することを予測できます。
これまでは、第3版は明らかにMOOP(Means of protection for Operators:オペレータの保護方法)およびMOPP(Means of protection for Patients:患者の保護方法)を主眼としていました。これらは両方とも、異なる使用および危険シナリオを対象としています。 オペレータは一般に、システムやそのインターフェースと直接接触しますが、患者はセンサやプローブにより接続されます。 重症の患者の場合、リーク電流が大きな影響を与えることがあります。 健康な人間でも、わずか30mAのリーク電流が呼吸困難や心室細動を引き起こす可能性があります。

図1:数ミリアンペアのリーク電流でも、人体に影響を及ぼす可能性があるため、60601-1では制限が明確に定義されています。ただし設計者は、地域によっては(北米も含めて)これよりも低い制限値が定められている(0.5mAの代わりに0.3mA)ことに注意する必要があります。 ソース:IAEI Magazine
リーク電流は電気およびエレクトロニクスのシステムには付きもので、システムの導体からグランドへ、正しく接地された導体を経由して、またはそれが不可能な場合はシステムの他の要素、または人体との直接または間接的な結合を経由して流れる電流と定義できます。
AC商用電源コンセントに接続されている電源の場合、リークのソースにはEMIフィルタから、一次配線から二次配線へ、または電源トランスから近くの回路への容量性カップリングが含まれます。 IEC/EN 60601-1では、リーク電流の制限は通常動作と障害モード1について、接地放電の電流がそれぞれ0.5mAおよび1.0mA、筐体放電の電流がそれぞれ0.1mAおよび0.5mAと明確に定義されています。 北米では、ULのES 60601-1により、最大リーク電流は0.5mAではなく0.3mAと規定されています。
これらのリーク電流は、患者と間接的に接触しない機器から、患者の心臓に直接接触する機器まで、すべてのクラスの医療機器に適用されることに注意してください。 したがって、多くの電源はより汎用的なIEC/EN 60950規制を満たしており、生体外(IVD)医療診断機器に使用可能ですが、これらの機器が患者に接近することがない場合でも、60601-1のリーク制限は依然として適用されます。
ただし、第3版ではISO 14971で指摘された正式なリスク評価プロセスの概念が導入されているため、話が複雑になります。 この評価は、患者が機器と接触する可能性が高いかどうかを、最終的な責任を持つ製造業者が判断するために使用されます。 接触する可能性があると判断された場合、そのシステムには、通常は心臓および血液モニタ、ポンプ、人工呼吸器、除細動器などにのみ適用される、完全な60601-1認定が必要となります。
IEC/EN/ES 60601-1は本質的に、リスク評価プロトコルを開発し、許容可能なリスクのレベルを設定し、残りのリスクは許容可能なものとする責任は製造業者にあるとしていますが、ISO 14971にはリスク管理ファイルが含まれており、特定可能な障害をリストして評価するために役立ちます。
MOPはMOOPか、それともMOPPか
60601-1は設計自体よりも設計プロセスとリスク管理を強調しているようにも見えますが、各種の状況において許容可能なMOPはどのようなものかについて、非常に明確なガイドラインが定義されています。
MOPは感電からの保護のため特に設計された保護性の接地で、たとえばGFCIフェイルセーフプロテクタ、絶縁体、エアギャップ、定義された「クリーページ」(2つの導体パス間、または導体パスとシャーシ/筐体との間の最短距離)、または入力と出力との間に存在する任意の高インピーダンスの分離障壁が含まれます。
第2版と第3版では、それぞれ2つの保護方法が定義されていますが、オペレータと患者ではリスクのシナリオが異なるため、IEC/EN/ES 60601-1の第3版では分離、クリーページ、絶縁に関して、オペレータ(MOOP)と患者(MOPP)とで明確に別の定義が行われています。
| 第3版での分類ごとの要件 | |||
| 分類 | 分離 | クリーページ | 絶縁 |
| MOOP 1つ | 1500VAC | 2.5mm | 基本 |
| MOOP 2つ | 3000VAC | 5mm | 二重 |
| MOPP 1つ | 1500VAC | 4mm | 基本 |
| MOPP 2つ | 4000VAC | 8mm | 二重 |
図2:IEC/EN/ES 60601-1の第3版ではオペレータ(MOOP)と患者(MOPP)について各種のレベルの保護が定義されていますが、最高レベルに準拠することが長期的には安価で効率的です。
MOOP 1つとMOPP 1つはどちらも標準の絶縁を使用して満たすことができますが、MOPP 2つの分離テストは4000VACにおいては特に難しく、クリーページ距離の8mmはMOPP 1つの場合の2倍です。 また、IEC/EN/ES 60601-1の耐電圧テストの電圧は、より一般的な業界のIEC/EN 60950よりも高くなっています。
| 分離タイプ | IEC/EN 60601-1 | IEC-EN 60950 |
| 基本的な分離 | 1500V | 1500V |
| 完全な分離 | 2500V | 1500V |
| 二重または強力な分離 | 4000V | 3000V |
図3:IEC/EN 60950の電源は多くの医療用途に適切ですが、完全なIEC/EN/ES 60601-1医療基準に準拠するには、はるかに高い耐電圧テストの電圧が必要です。
さらなるKISSの実践
コンプライアンスを取り巻く状況がこのように複雑であいまいなため、設計者にとってKISSルールは従来よりもさらに重要で、コストの点でもさらに利益をもたらす可能性があります。
たとえば、IVDの電源はベースラインの60950要件を満たすMOPを使用しているため、医療機器に適していると見られることから、これらを選択するのが安価な解決法と思えるかもしれません。または、ベースラインの60950機器を使用して、後から1xまたは2xのMOOPやMOPPを追加する計画も考えらます。しかし、このような方針は2つの理由から、非生産的な可能性があります。
最初の理由は、正式なリスク評価を行い、他のリスクは許容範囲内であることを示すために必要な書類作業とプロセスです。 この作業には膨大な時間を要する可能性があります。 2番目の理由は、在庫と、それに関連するコストの問題です。
長期的には、次のような理由から、多少のコストを費やして完全なIEC/EN/ES 60601-1 2x MOPP準拠の電源を選択する方が、最終的に安くなります。
- システム設計の減少
- コンプライアンスの複雑性の減少
- 在庫コストの低減
完全な2x MOPP電源を指定すると、設計者はシステムの将来を保証できるだけでなく、単一または一連の電源によって、ほとんどの医療システム用途に対応できるため、在庫管理や書類作業のコストも大幅に削減できます。
全体的に電源のコストは低下しているため、新しい電源は完全な2x MOPP要件を満たすようにするのが適切です。実際にチェックしてみましょう。
IEC/EN/ES 60601-1 2x MOPP準拠の電源の適切な例として、CUI Inc.のVMS-365シリーズ オープンフレームAC-DC電源があります。この電源は120Vおよび230VAC/60 Hzのテスト電圧について、それぞれリーク電流が0.110mAおよび0.275mAで、いずれもULの制限(リーク電流0.3mA)を満たしています。

図4:CUI Inc.製のVMS-365シリーズのオープンフレーム電源は、IEC/EN/ES 60601-1の要件を満たしています。
他の主要な機能として、12~48Vの単一出力、業界標準の3インチ x 5インチのフットプリント、90%の効率、ユニバーサル入力(85~264 VAC))、最大365Wの連続出力が挙げられます。完全なオープンフレームVMSのラインアップは、20~365Wに対応します。
外部アプリケーション用には、15~250Wの2x MOPP電源が用意され、これにはIEC/EN/ES 60601-1要件に準拠したETMA 60Wデスクトップ電源が含まれています。 この電源はCUIの「グリーン」への取り組みを反映し、レベルV効率標準を満たし、現行のUS EISA 2007効率規制を超え、2011年4月のErP規制も満たしています。
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