モジュールか、ディスクリート電源か?

著者 Aaron Yarnell

今日の技術者は、より短時間でより多くの成果を上げ、いくつもの分野でエキスパートとなり、リソースをより効率的に用いて利益を最大化するというプレッシャーを感じています。 こうした環境により、技術者が差し迫った課題に対するソリューションを見いだすアプローチは変化しています。特に、電源供給という避けがたい問題についてはそうです。

今日のほとんどの企業には、各プロジェクトの要件に応じて、電源開発に特化した内部チームを持つための資金や技術者リソースがありません。 その代わり、プロジェクトの技術者のうち1人が、用途に応じた電源を見つけるという仕事を任される(または、押しつけられる)といったことがよく行われます。 この状況で技術者がよく直面する選択肢の1つは、ディスクリート部品から電源を設計することに時間を費やすべきか、それとも外部サプライヤから調達して、事前に設計されたモジュールを利用するかということです。 もちろんこれは技術者にとって新たなジレンマではないでしょうが、設計サイクルが加速し、全産業がより大きな電力をより小さなスペースで求めるにつれて、この古くからの質問に対する答えも進化し続けています。

電力密度

ディスクリート電源ソリューションと事前設計済みのモジュールとの間にあるもっとも顕著なトレードオフは、消費するスペースと、それに関連して供給する電力密度です。 電力密度とは、消費するスペースあたりの、変換する電力のワット数で、通常1立方インチ毎ワット(W/in3)で表されます。 今日のほとんどの産業では、計算力、感知力が高く、より多機能な機器を求め続けています。 しかし、これを行うために配置されるスペースは増えておらず、多くの場合は専有面積を減らすことが求められます。 これにより、より密度が高く、より統合されたソリューションの必要性が高まっています。電源供給システムも例外ではありません。

すぐに入手可能な電源モジュールは、サイズが最適化されていることが多く、最小のスペースで最大のワット数を供給できます。 その一例として、以下の図1ではCUIVMS-365シリーズAC/DC電源を取り上げています。この製品は、1つのシャーシマウントパッケージで最大18W/in³の電力密度を供給します。

CUIが提供するVMS-365 AC/DC電源の画像

図1:CUIのVMS-365は最大18W/in³を給電するオープンフレームAC/DC電源です。

この対極に位置するのが、ディスクリート部品でシステムPCB上に直接設計された電源です。 こうしたソリューションにおいては、パワーソリューションとその他のシステムPCB機能との間で、しばしばスペースの競合が生じます。 電源のために大きくかさばるコンポーネントが必要となる場合、すべてのコンポーネントをボードレベルのソリューションに集約することが困難となる場合があり、電力密度の低下を招きます。 特に、この問題はPCBの片面のみにコンポーネントを配置する設計のアプリケーションによく当てはまります。 システムPCBの裏側を利用できないので、ディスクリート電源ソリューションはPCBの面に広がって、PCB上の貴重な面積を消費する傾向があります。

このような、システムPCBがコンポーネントを片面にしか配置できないという状況において、事前設計済みの電源モジュールを使うとかなりのスペースを節約できる場合があります。特に、システムPCBの面に垂直な領域であるZ軸を利用できる、垂直なスペースがある場合はそうです。 この状況では、既製のモジュールの価値が非常に高まります。既製のモジュールはサイズが最適化され、プラグアンドプレイを提供します。 下の図2は、片面ディスクリート電源供給ソリューション、両面ディスクリート電源供給ソリューション、そして最後に事前設計済みの電源モジュールへと設計が変わるにつれてPCB上で占める面積が減ることを示しています。事前設計済みの電源モジュールは、PCBの真上にあるZ軸のスペースを活用できます。

ディスクリートおよびモジュール式電源ソリューションが基板で占めるスペースの図面

図2:ディスクリートおよびモジュール式電源ソリューションが基板で占めるスペースの例

設計の最適化

毎年複数のディスクリート電源を設計する技術者ならばおそらく、十分に理解され、信用された一連の「頼りになる」コンポーネントを構築するでしょう。 しかし、ほとんどの技術者にとって、ディスクリート電源の設計を考えることは気がめいる場合もあり、タイムリーな方法で実装することは負担となります。 こうしたことから、しばしば多くの技術者は、さまざまな電源コンポーネントベンダが設計プロセスを加速するために用意しているリファレンス設計に目を向けます。 電源コンポーネントベンダは、部品表(BOM)の指定、推奨レイアウト、設計のベストプラクティスをできる限り提供しています。しかしアプリケーションはそれぞれが異なっていて、性能、スペースの制約、熱、電磁干渉(EMI)などの要件に適合させるため、技術者はしばしばリファレンス設計から逸れる必要があります。 これにより、コストや時間、性能面で困難な状況に陥る危険性が生じます。

たとえば、新たなアプリケーションでは1オンス銅の2層PCBしか必要がないとします。しかしディスクリート電源ソリューションで選択したレファレンス設計は2オンス銅の4層PCBを推奨している場合があります。 アプリケーションボード全体のPCB層を2倍、銅の重量を2倍にするという選択肢もありますが、そうすると設計に大きなコストがかかります。 さらに、コントローラベンダの推奨に従って電源プレーンを注意深く配置し、ディスクリート部品のトレースを最適化するといった時間的負担も生じます。

これに対して、既製の電源モジュールを使えば、両方の世界において最良のものを得ることができます。技術者は最小のレイヤ数で、より少ない銅の量でシステムPCBを設計でき、その上パワー変換の必要を単純化、最適化するために電源モジュールを活用できます。 ディスクリート部品ベンダをすべて追跡し、電源プレーンをレイアウトし、フィードバックループをタイトで静かに抑え、スイッチノードを高感度なアナログ回路から離すように努めるために莫大な時間を費やす代わりに、技術者は適切なサイズの事前設計済みモジュールを選ぶだけで済み、設計に関する他の仕事に力を注ぐことができるのです。

この好例の1つが、以下に示す5ワットAC/DCコンバータ、CUIのPBO-5シリーズです。 これらの小型モジュールは、さまざまな電気回路においてACライン電源をDCレールに変換する、簡単な基板実装ソリューションです(出力電圧DC3.3~24Vで入手可能)。 これらPBOモジュールはUL認証およびCE認証を取得済みで、3kVACの絶縁電圧を供給し、短絡保護と過電流保護を搭載しており、これらすべてが超小型SIPパッケージに詰め込まれています。

CUI提供の5W PBO SIP AC/DCシリーズの画像

図3:CUI提供の5W PBO SIP AC/DCシリーズは、Z軸を活用するよう最適化されており、基板のスペースをかなり節約できます。

設計の検証

ディスクリートかモジュールソリューションかを決定する際に、技術者が考慮すべきさらなる要素として挙げられるのが、電源の品質試験と設計検証です。 ディスクリート設計のために必要な検証試験をすべて行うのは、決して簡単なことではなく、かなりの時間と労力がかかります。 一人の技術者が設計と設計のデバッグに数週間費やす場合もあり、必要な基板変更が増えるごとに、コストとプロジェクトにかかる時間が増大します。 それに対し、すぐに入手可能なモジュールはテスト済み、試験済みで、電源システムが適合する必要のある、安全性や電磁干渉(EMI)規格を取得済みの場合もしばしばです。 認証済みの電源モジュールを選ぶことにより、エンドアプリケーションの認証プロセスが迅速に進む場合も多いです。

ディスクリートソリューションを設計する際に考慮すべきもう1つの点は、ほとんどの場合において、歩留まりや故障率などを分析するために役立つ、信頼できる履歴や性能データは入手できないということです。 これは設計プロセスにとってのさらなるリスクとなります。 他方、モジュールは、一般的に電源ベンダから追跡可能な品質履歴が入手でき、これによって技術者はアプリケーションに設計を組み込む前に、事前設計済みの電源ソリューションを適切に精査できます。

まとめ

公平に言えば、部品表の価格だけに注目する際、事前に設計されたモジュールはほぼ常にディスクリート実装よりも高価になります。 このため、大量用途の開発を行う多くの企業は、設計チームがこのソリューションに向かうよう後押ししています。 目指す部品表(BOM)コスト、アプリケーション要件、社内の能力などの要素によっては、ディスクリートソリューションが理想的な場合もあるでしょう。 しかし、設計のコストを分析する際は、部品表コストだけでなく、設計時間、シミュレーション時間やツール、レイアウト時間、ホストPCB要件、評価時間、資本設備コストなどの関連するリソースをすべて考慮すべきです。 プロジェクトをこうした高いレベルで分析した場合、多くの企業にとっては既製の電源モジュールを利用した方が、製品提供にかかる時間が短くなり、リスクをより抑え、心配が少なく、全体的なプロジェクトコストをより抑えることができるようになります。 この答えはすべてのアプリケーションに該当するものではないかもしれません。しかし上記の理由により、電源モジュールはますます多くの設計で選好され続けています。

 

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著者について

Aaron Yarnell

Article provided by Aaron Yarnell, Field Applications Engineering Manager, CUI Inc.