リン酸鉄リチウム電池の性能を最大限に引き出す専用充電器

リン酸鉄リチウム(LiFePO4)電池では、カソードにLiFePO4が使用され、電極として機能するグラファイトカーボン材には金属が裏打ちされています。この電池は、1996年にテキサス大学の研究者によって初めて説明されたもので、決して新しい技術ではありません。しかし、電気化学にはリチウムイオン(Li-ion)電池に勝るいくつかの利点があるため、多くの注目を集めています。それらの利点には、低コスト、非毒性、鉄の広範な利用可能性、優れた熱安定性が含まれます。対照的に、リチウムイオン電池に使用されるニッケルやコバルトは、調達が困難で高価であり、環境へのダメージがより大きくなります。

さらに、LiFePO4電池は、同等のリチウムイオン電池よりも多くの充電サイクルに対応することができます。電池の使用方法に応じて、1,000回から最大10,000回までのサイクルが可能です。また、標準的な規格を満たすLiFePO4電池は、少なくとも2000サイクルで80%以上の放電容量(または「放電深度」)を提供することができます。一般的なリチウムイオン電池の等価特性は、300~500サイクルです。

LiFePO4電池のその他の特長には、急速充電の許容度、内部抵抗が低いため高い放電電流に対応できる、電源電圧が非常に安定する、などが挙げられます。また、高温でも良好に機能します。

LiFePO4電池の1例は、Power Sonic Corporationが提供する3.2V、25Ah電池のPSL-FP-IFP2770180ECです(図1)。

図1:LiFePO4電池は、同等のリチウムイオン電池よりも安価で、より多くの充電サイクルを提供します。(画像提供: Power Sonic Corporation)

しかし、最近までLiFePO4電池が主流になることを阻んでいた欠点もあります。主な欠点は、リチウムイオン電池に比べてエネルギー密度が15~25%低いことや、出力電圧がリチウムイオン電池の3.7Vに対し、3.2Vと低いことです。さらに、LiFePO4電池は低温では良好に機能せず、一般的に、より堅牢なリチウムイオン電池よりも多くのケアと保護が必要です。

LiFePO4電池のエネルギー密度の向上

近年のエネルギー密度の向上により、LiFePO4電池を幅広いデバイスに応用することが可能になりました。携帯電話やポータブルコンピュータなどの製品でリチウムイオン電池から置き換わることはなさそうですが、スペースに余裕があり、低コストと容易なリサイクル性が重要な用途では、優れた選択肢となる可能性があります。その例として、電動自転車(e-bike)や電気自動車(EV)の一部モデルなどがあります。たとえば、Teslaは2021年末に、エントリーモデルの車両をLiFePO4電池に移行すると発表しました。同社の電池は約260Wh/kgを実現し、最高のリチウムイオン電池に匹敵します。

図2:Teslaのモデル3では、LiFePO4電池を活用するようになりました。(画像提供:Tesla)

設計者は、高エネルギー密度よりも、低コスト、長寿命、安全な電気的特性が重要視される用途において、LiFePO4電池をますます検討するようになっています。その例としては、無線制御デバイス、ポータブルモータ駆動製品、そして特に、産業用モノのインターネット(IIoT)センサなどがあります。

EVのような特殊な製品の設計に携わるのは一部のエンジニアに限られるため、LiFePO4電源はこれらのより控えめな用途で使用されることが増えています。

取り扱い注意

リチウムイオンとLiFePO4には、いくつかの共通点があります。たとえば、リチウムイオンが動くことでエネルギーが生まれ、電子が解放されて電流が発生し、デバイスに電力が供給されます。ただし、1つの重要な違いは、電池の充電方法にあります。LiFePO4電池はリチウムイオン電池と電気的特性が異なるため、充電プロファイルが変わります。この変化はわずかなものですが、LiFePO4の可能性を最大限に発揮するために理解することが重要です。

図3と図4(Texas Instrumentsの提供)は、一般的なリチウムイオン電池とLiFePO4電池の充電プロファイルの違いを示しています。LiFePO4電池の充電アルゴリズム(図4)では、リチウムイオン電池の充電サイクル(図3)によく見られる定電圧(CV)モードは必要ありません。その代わり、電池を急速充電の定電流(CC)モードで過充電電圧まで急速充電した後、より低いフロート充電電圧の閾値まで「緩和」することができます。CV制御をなくすことにより、充電時間が大幅に短縮されます。充電サイクル中、内部制御ループは通常、電源管理IC(PMIC)の接合部温度を監視し、その温度閾値を超えた場合に充電電流を低減させます。 

図3:リチウムイオン電池の充電は、3つの異なるフェーズに分かれます。まず、電池を適度な定電流でプリチャージします。その後、より高い定電流を流してエネルギーを素早く加えます。最後に、充電電圧が電池出力と一致すると、プロファイルは定電圧に切り替わり、電池をゆっくりとフル充電します。(画像提供:Texas Instruments)

図4:LiFePO4電池の充電は、リチウムイオン電池と異なります。プリチャージ後、定電流を使用して電池をフル充電します。次に、小さなトップオフ充電を使用することで、まず電圧を「緩和」し、次に「フローティング」させます。リチウムイオン電池のサイクルに比べて、LiFePO4電池の充電は高速です。(画像提供:Texas Instruments)

充電プロファイルのその他の違いは、電池組成の違いによってLiFePO4電池の最大充電電圧が低くなることです。LiFePO4電池の最大充電電圧は、3.6Vの過電圧を上限として3.5Vまで下がります。一方、リチウムイオン電池の場合は4.1Vまたは4.2Vに制限されます。

LiFePO4電池用の小型充電器

LiFePO4電池の普及に伴い、チップメーカーに対しては、最適化されたプロファイルでの充電専用にモノリシックICを導入することが推奨されています。これにより、電源管理回路をゼロから設計することなく、その技術を組み込むことが可能になります。

その1例が、Texas InstrumentsのLiFePO4 PMICであるBQ25070DQCRです。このデバイスは2×3mmパッケージで提供され、最大1.2Aで3.7Vの過充電電圧と3.5Vのフロート電圧を供給します。

2つ目の例は、Microchip TechnologyMCP73123T-22SI/MFです。4~16Vの入力で動作し、1.1Aの最大充電電流を提供します。急速充電のCC値は、充電する電池に応じて、130mAから上限値まで外付け抵抗で設定されます。また、MCP73123/223は、高電力または高周囲温度条件下で、チップ温度に基づいて充電電流を制限します(図5)。

図5:Microchip TechnologyのLiFePO4 PMICの回路図。PROGピンに接続される抵抗により、最大充電電流を設定します。(画像提供:Microchip Technology)

第3のソリューションは、Analog Devicesの製品です。MAX77787JEWX+ PMICは、4.5~13.4Vの入力電圧で動作し、最大充電電流は3.15Aです。急速充電電流と終端電圧は、外付け抵抗で設定されます。この2.75×2.75mmのデバイスは、LiFePO4電池とリチウムイオン電池の両方の充電に対応します。

まとめ

LiFePO4電池は、エネルギー密度や電源電圧においてリチウムイオン電池とトレードオフの関係にあるものの、より多くの充電サイクルと急速充電の利点を備えています。さらに、EVやIIoTセンサなど、コストに敏感な多くの用途に適しています。専用設計のモノリシック充電器では、最適化された充電プロファイルが長寿命と信頼性を保証するため、電池組成を安心して簡単に使用することができます。

著者について

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スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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