IoTアンテナのデータシートを理解する

ワイヤレスのモノのインターネット(IoT)製品を設計する際には、製品と外部世界との唯一のインターフェースであるアンテナとその役割を理解する必要があります。アンテナの選択を誤ると、最終製品は通信はできても、その性能は妥協を強いられ、ユーザーは製品に見切りをつけて他の製品に乗り換えてしまうかもしれません。

多くの設計者が直面する問題は、アンテナソリューションが膨大な数あるように思われ、選択プロセスが困難であることです。では、設計に最適なアンテナをどのように絞り込んでいけばよいのでしょうか?

決定事項の中には、他のものよりも容易なものもあります。まず、設計の動作帯域に最適化されたアンテナを探します。たとえば、製品がLoRa接続を使用し、米国市場をターゲットとしている場合、アンテナは902~928メガヘルツ(MHz)の帯域で動作するように最適化されている必要があります。デバイスがデュアルバンドWi-Fiをサポートしている場合、アンテナは2.4ギガヘルツ(GHz)と5GHzのRF帯域の両方で動作するように最適化されている必要があります。

次に、最終製品のフォームファクタを考慮します。たとえば、Bluetooth Low Energy(LE)対応センサが非常にコンパクトでなければならない場合、Amphenolの2.4GHz面実装チップアンテナであるST0147-00-011-Aが優れた選択肢となります。このアンテナはわずか3.05 x 1.6 x 0.55ミリメートル(mm)のサイズで、デバイスのプリント基板に直接取り付けられます。より大型のデバイスの例としては、Wi-Fiアクセスポイント(AP)があります。広い通信範囲と高いスループットの要件を満たしながら、アンテナ用の十分なスペースを提供します。このようなアプリケーションには、Amphenolの外部ホイップアンテナST0226-30-002-Aが適しています(図1)。

図1:ST0226-30-002-A外部ホイップアンテナは、デュアルバンドWi-Fiアクセスポイントなどのアプリケーションに適しています。(画像提供:Amphenol)

動作帯域とフォームファクタを考慮した後は、選択プロセスは少し複雑になります。消費電力、信頼性、通信距離、スループットの仕様を満たすアンテナを選択するには、データシートを適切に理解する必要があります。

データシートの技術的詳細

AmphenolのST0224-10-401-Aのような標準的なデータシートを例に取ります(図2)。これは、スマートメータや産業用IoT(IIoT)アプリケーションに適したWi-FiトレースRFアンテナで、内部に取り付けることができます。データシートには、デバイスの放射パターン、最大電力伝送、周波数応答、ゲイン、効率に関する情報が記載されています。これらのパラメータの意味について考えてみましょう。

図2:ST0224-10-401-A Wi-FiトレースRFアンテナは内部に取り付けることができ、スマートメータやIIoTアプリケーションに適しています。(画像提供:Amphenol)

放射パターン:アンテナが3D空間でどのように無線周波数(RF)エネルギーを放射(または吸収)するかをグラフィカルに定義します。データシートには通常、3D放射パターンの2つまたは3つの断面が示されており、1つはXY平面における放射のピークを示し、もう1つはZY(および/またはZX)平面におけるピークを示しています(図3)。多くの場合、アンテナを最終製品に使用することを想定して取り付けた場合、平面パターンは「アジマス」(XY平面)と「エレベーション」(XY平面に直交する、たとえばZY平面を横切る)と呼ばれます。

図3:Wi-FiトレースアンテナのXY平面(左)とZY平面(右)におけるピーク放射パターンを示しています。(画像提供:Amphenol)

ダイポールアンテナなどの全方向性アンテナは、全方向にほぼ均等に電波エネルギーを放射または受信するアンテナです。これは多くのIoTアプリケーションに適しています。というのも、開発者は多くの場合、デバイス同士がどのような向きであっても、デバイス間の接続性を確保する必要があるからです。AmphenolのST0224-10-401-Aアンテナのデータシートを見ると、これが全方向性デバイスであることが分かります。

全方向性アンテナの欠点は、送信エネルギーが拡大する球体の表面全体に散逸し、信号強度が指数関数的に減衰し、通信距離に影響を与えることです。これに対して、指向性アンテナはビームフォーミングなどの技術を使用して電波エネルギーを特定の方向に集中させ、通信距離を伸ばします。

最大電力伝送:これは、伝送ラインのインピーダンス(Z0)とアンテナのインピーダンス(Za)が等しい場合に発生します。インピーダンス整合回路が適切に設計されていても、通常はアンテナから伝送ラインに一部の電力が反射されます。Z0とZaのインピーダンスがどの程度一致しているかを測定する一般的な指標として、電圧定在波比(VSWR)があります。VSWRが1の場合はインピーダンス不整合による損失がないことを示し、数値が大きくなるほど損失が大きくなります。

たとえば、VSWRが3.0の場合、電力の約75%がアンテナに伝送されることを示します。入射波に対する反射波の電力比はリターンロス(RL)と呼ばれます。これは、反射波の電力が入射波の電力よりもデシベル(dB)単位で減少していることを示します。VSWRが1.5未満(RLが約14dB)であれば、満足のいくマッチングが得られます。AmphenolのST0224-10-401-A-10アンテナでは、2.4および5GHzの周波数帯域で動作する場合、RLは-10dBとなります。

RLは無線周波数にも依存するため、開発者はアンテナの周波数応答をチェックし、意図した動作帯域でRLが最小であることを確認する必要があります(図4)。

図4:RLは周波数に依存します。開発者は、意図した動作周波数でアンテナが最小のRLを提供することを確認する必要があります。(画像提供:Amphenol)

ゲインと効率:ゲインは、ピーク放射方向にどれだけの電力が伝送されるかを表し、通常、等方性アンテナ(dBi)を基準としたdBで示されます。ゲインは、アンテナの指向性と効率に関連しています。指向性は、アンテナの放射パターンの方向性を測定します。たとえば、完全な全方向性アンテナは方向性がゼロで、指向性は1(または0dB)です。指向性は通常、放射パターンによるピーク値(Dmax)で示されます。ゲインは、VSWRの不整合やエネルギー損失を考慮するため、アンテナの仕様書では指向性よりも一般的に記載されます。

効率(η)は、入力電力(Pin)に対する全放射電力(TRP、またはPrad)の比率です。TRPは、放射パターン全体にわたって放射される電力を積分することによって計算されます。ηを計算するには、η = (Prad/Pin) * 100%という式を使用します。アンテナのピークゲインはGainmax = η * Dmaxとなります。

ゲインが3dBの送信アンテナは、同じ入力電力の場合、損失のない等方性アンテナの2倍の電力を放射します。損失のないアンテナとは、効率が0dB(または100%)のアンテナです。同様に、ピークゲインが3dBの受信アンテナは、損失のない等方性アンテナの2倍の電力を受信します。Amphenolの例では、ピークゲインは2.4GHz帯域で2.1dBi、5GHz帯域で3.1dBiです。

高ゲインは常に良いというわけではありません。受信信号の方向が不明な場合は、あらゆる方向からの信号に満足のいく応答を確保するため、低ゲイン(低指向性)アンテナを使用する方が良いでしょう。たとえば、スマートフォンのアンテナがこれに該当します。最寄りのセルラー基地局への入出力信号は任意の方向からやって来るため、低ゲインである必要があります。

まとめ

アンテナはIoT製品の重要なコンポーネントです。誤った選択はワイヤレスデバイスの性能を大幅に損なう可能性があります。アンテナの動作周波数への適合や、利用可能なスペースに適合するアンテナの選択など、選択プロセスの一部は簡単です。正しいアンテナを選択するための重要なポイントは、データシートで使用されている用語を理解し、放射パターン、最大電力伝送、周波数応答、ゲインに特に注意を払うことです。

著者について

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スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

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