エレクトロニクス業界に代わって進化する鉄道模型

最も初期の鉄道模型は簡単に実装できましたが、性能が限定されていました。電力は線路レール経由で機関車に供給され、エンジン速度は印加される電圧(通常は18V DC)を変えて制御されていました。DCモータのトルク電圧比曲線は電圧が下がると低下するため、エンジン性能は速度を下げると最低限の状態になり、エンジンと列車はゆっくり進むというより、ガタガタ音を立ててのろのろ動いていました。

この欠点を補うために低電圧動作専用に設計されたモータを使用した場合、多くの車両を引くために必要な電力が足りませんでした。すべて基本のDCループが使用され、エレクトロニクスは存在していませんでしたが、一部の上級マニアは、信号の有効化、照明の制御、その他の実際的なアクションを作成するために、模型のレイアウト上で機械的にトリップさせる接点閉鎖スイッチを採用していました。

ソリッドステートデバイスが利用可能になるとすぐに、エレクトロニクスによってパルス電源を使って低速モータ制御の問題が解決されました。低速用の単純な低電圧DCを使用するのではなく、パルス幅変調(PWM)を使用して全電圧(またはそれに近い電圧)が印加されました。これにより、モータは低速でも適切に機能するようになり、ほぼ全トルクが実現されましたが、新たにモータのガタガタ音や振動が問題になりました。これらのPWM DCパワーパックのベンダは、スロットル設定に応じてPWM波形を形成および変化させるさまざまな適応方式を使用してこの問題に対処しました。

図1:線路間に置かれている上向きのフォトセルはシンプルな在線検出器のコアですが、望ましくない動作特性もあります。(画像提供:Iowa Scaled Engineering, LLC)

パワーパックのベンダがエレクトロニクスを使用するのに合わせて、鉄道模型愛好家(マニア)はレイアウトにトランジスタと電気光学コンポーネントを使い始めました。その例の1つが在線検出です。これは線路区間が使用中かどうか確認するために使用されました。これにより半自動の列車制御とその他の機能が使用できるようになりました。いくつかの光検出技術が普及しましたが、それぞれに、複雑さ、性能、コストの面でトレードオフがありました。

最も簡易なのは光センサを使用する方法で、このアプローチにはさまざまなバリエーションがあります。基本のバージョンでは、フォトセルが線路間に埋め込まれていました(図1)。フォトセルがいずれかの車両でブロックされると、シンプルなコンパレータ回路で出力低下が感知されます。これは非常に簡単な方法ですが、コンパレータのトリップ点を周囲光の強度に合わせる必要があり、人の動きやレイアウトの変化によって誤トリガが生じることがあります。

これよりも、周囲光ではなく赤外線(IR)LEDと補完フォトトランジスタを使用する方が優れていますが、この方法は複雑です。送信モードの設計では、いずれかの車両で光路がブロックされる線路の反対側にこのペアが配置されます。物理的によりシンプルな反射モード実装では、このペアが単一のハウジング内に配置されますが、暗い色の車両はフォトトランジスタに十分な光を反射しない可能性があります。この場合も、シンプルさと一貫性および実行のしやすさとの間にトレードオフ関係があります。高度な設計ではLEDドライブの変調も行うため、周囲光による混乱は生じません。

その他の在線検出スキームでは光を一切使用せず、電流センシングを使用します。この方法では、1つのキロオーム範囲の「ブリーダ」抵抗器が車両台車の2つの通常どおり絶縁された車輪(線路レールのショートを防ぐために輪軸がその軸で相互に絶縁される)間に取り付けられます。電流センストランスと一部のエレクトロニクスは、線路上の車両があることを示す、抵抗器の漏れ経路を通る電流を感知します。このアプローチでは、線路上に車両があるという事実以外にも、検出された車両の実際の位置が把握できるように、レイアウトの線路全体を絶縁されたブロックに電気的に分割する必要があります。

デュアルチャンネル電流センスブロック在線検出器の代表的な回路図は、回路の精巧さを示しています(図2)。重要なトランデューサは、T1およびT2に使用されるPulse Electronics FIS121NL 1:200電流センストランスなどのトランスで、その中央の穴から、感知されている電流を通電するワイヤの経路が提供されます。

図2:電流アプローチは、輪軸のブリーダ抵抗器を通過して線路に流れるわずかな電流によって異なります。電流は中央に穴がある電流トランスにより感知されます。(画像提供:Circuitous.ca)

この方法には固有の短所があります。それは、感知されるすべての車両にブリーダ抵抗器を追加する必要があることです。また、ブリーダの最適値は感度と誤トリッピング、線路の長さ、関連のIRドロップ、およびその他の要因間の妥協点です。

シンプルなDCを超える:ネットワーク化

多くのアドオン回路の数と精密さが増すにつれ、そのコスト、複雑さ、非互換性、およびメンテナンスの問題は持続不可能なレベルに達しました。さらに、線路レールからモータに直接電力を供給する場合に回避できない問題があります。それは、すべてのエンジンが同じ電圧を示すため、個別に制御できないという問題です。

唯一実用的なDCベースのソリューションは、電気的に絶縁されたブロックに線路を物理的に分割し、エンジンごとに1つずつ複数のパワーパックを使用する方法です。特定の機関車が、あるブロックから次のブロックに移動すると、レイアウトオペレータは管理しているパワーパックも切り替える必要があります。3台以上の機関車が同時に作動している場合、管理しているオペレータは苛立ち、疲れてしまいます。半自動の方式がいくつかありますが、これらは柔軟性にかけ、複雑でコストもかかります。

幸い、ICとオンチップの電力制御(MOSFET)によってこの問題は解決されました。1990年代半ばに、全米鉄道模型協会(NMRA)と業界ベンダは、鉄道模型をネットワーク化する、デジタルコマンドコントロール(DCC)と呼ばれるオープン標準を確立しました。DCCでは、常にフルパワーが線路に供給され、各機関車には、ネットワークノードとしてIDが割り当てられます。容量が約1Aの組み込みモータ制御ICを通じて、該当IDのモータに供給される電力量を示す、コーディングされた信号が線路に送信されます。DCCは、一連の問題を解決し、Wi-Fiと同様にどのベンダ間でも機能するため、すぐに普及しました。機関車はネットワークノードとなり、データバスとして機能しているレール経由で各ノードに命令が与えられます。

DCCの役割はすぐに、機関車の速度制御以外にも拡大されました。小型スピーカとともに、基板に実装されたICに音響効果がプログラミングされました。これらはすべてDCCコマンドで制御されます。また、線路ターンアウト(スイッチ)とその他の非動力機能を設定できるDCC互換のモータもあります。これらの設定はすべて特殊なDCCデコーダIDと一意のノードIDによって可能になります。DCCはほとんどのレイアウトで使用されるようになり、ほぼ「プラグアンドプレイ」システムに成長しました。また、事前設定された動作シナリオと自動スイッチングシーケンスにより、PCやスマートフォンでもレイアウトを操作することができます。

未解決の電源断の問題

ほとんどのネットワークと同様に、DCCには1つの大きな弱点があります。それは電源がカットオフされると機能しないことです。DC電源の切断は短時間でもデコーダそしてモータに大きく影響する可能性があります。それには、線路運用ブロックを絶縁する線路のギャップ、レールがそれ自体をクロスオーバーする逆ループにより極性を「その場で」切り替える必要があるギャップ(図3)、ターンアウトの「フロッグ」におけるトラックの物理的な連続性のギャップ、ホイールと線路間の断続的な接触などさまざまな理由があります。低速では、ギャップを惰行運転(惰力運転)できるだけの十分な推進力がない場合もあり、手動操作(押す)が必要になることがあります。

図3:逆ループは、電力供給に2つの線路レールを使用する場合に避けられない問題で、線路がそれ自体に折り重なるときに発生します。ループは絶縁する必要があり、列車がループ内にある間にメインの線路の電源極性がDPDTスイッチで逆になります。(画像提供:The Spruce Crafts)

この点についても、最新のコンポーネントで問題を解決できます。少数のスーパーキャパシタを直列に配線しておよそ20~25ボルトの出力を提供し、パッケージをオンボードに配置すると、それらのスーパーキャパシタは「キープアライブ」(「ステイアライブ」とも呼ぶ)電力を「デッドゾーン」期間を通じて提供します。スーパーキャパシタはレールを経由して継続的に充電され、シンプルで有効なソリューションを実現します(図4)。実際に利用できるスーパーキャパシタとして、Kemet FM0H103ZFと呼ばれる10mF、5.5Vの装置があります。5個を直列に使用して、通常のHO(1:87)スケールの機関車を1~2秒間サポートするのに十分な持続エネルギーが確保されます。

図4:一般的に、モータ制御ICの電力接続と並列に配置される一連のスーパーキャパシタは、エンジンがパワーレール内のギャップを通過するときに、エンジンにバックアップ電力を提供できます。実際の静電容量値は、必要なバックアップ実行時間に応じて異なります。(画像提供:Model Railroader Hobbyist Magazine)

このソリューションには1つ問題があります。O(1:48)などの小~中規模スケールのディーゼル機関車の模型には通常小型のスーパーキャパシタであってもスペースがなく、さらに小型のHO(1:48)、S(1:64)、N(1:160)、TT(1:120)、またはZ(1:220)スケールではまったくスペースがありません。ただし、古い蒸気機関車の模型では、それに利用できる炭水車(実物の木や石炭用)がついているため、これらのスーパーキャパシタ「キープアライブ」パックを使用できます。

次世代:線路を使用しない電源

機関車への電力供給がシンプルであることは容易に推測できます。結局、パワーレールとして使用することもできるこれらの有形の2つの線路レールと、DCCシステムでエンコードされたデータを利用するだけです。しかし実際、それらのレールから電源を確実に供給する場合、前述した理由から、いまだに問題になることがよくあります。

基本の電気コンポーネントの改良によって、革新的な方法が生まれています。これらの線路レールから電力を取り込むのではなく、充電式電池を使って必要な電力をオンボードで供給できるとしたらどうでしょうか。これにより、電力供給に線路を使うことで生じるあらゆる問題が解決します。屋外の「ガーデン」レイアウトに使用されることが多いG(1:24)など大型の模型スケールでこの方法を行っているモデラ―がいます。この環境では、レールベースのパワーパスで、錆び、腐食、葉、草などの障害物により、特に問題が起こりやすくなります。

それでは、線路を配線接続しない場合、エンジンをどのように制御するのでしょうか。レールベースのDCCパスの代わりに、DCCデコーダがRFフロントエンドに埋め込まれている短距離のワイヤレスリンクモジュールを使用します。必要なすべてのモジュールは専門のサプライヤから、すぐに利用できる標準製品として入手することができ、通常の設置は20~30分で済みます。

バッテリの性能向上に伴い、オンボード電源は非常に人気のある小型スケールで利用できる可能性があります。これは、DCCが登場したときと同じくらい劇的な鉄道模型におけるパラダイムシフトであるといえます。バッテリエネルギー密度の増加によってメリットを得られるのは電気自動車(EV)だけではありません。何度も目にしていることですが、特定の分野の進歩が、関連のない用途にメリットをもたらすことはよくあります。

参考およびお勧めサイト:

1:全米鉄道模型協会「コマンドコントロールとDCCの初心者向けガイド」(https://www.nmra.org/beginners-guide-command-control-and-dcc

2:DCC Wiki「DCCチュートリアル(ベーシックシステム)」(https://dccwiki.com/DCC_Tutorial_(Basic_System)

3:Wikipedia「Digital Command Control(日本語版:デジタルコマンドコントロール)」(https://en.wikipedia.org/wiki/Digital_Command_Control

4:Azatrax「鉄道模型の赤外線列車検出」(http://www.azatrax.com/ir-model-train-detector.html

5:Circuitous.ca「DCCのブロック在線検出」(http://www.circuitous.ca/DccBODvt5.html

6:Model Railroader Hobbyist Magazine「光検出器回路の作成」(https://model-railroad-hobbyist.com/node/23535

7:Kalmbach Media「Model Railroader誌」(https://mrr.trains.com/

8:Iowa Scaled Engineering, LLC「2018年光検出器の総まとめ」(https://www.iascaled.com/blog/2018-optical-detector-roundup/

9:Model Railroader「乗用車照明のキープアライブ回路」(http://cs.trains.com/mrr/f/744/p/268873/3047228.aspx

10:Model Railroad Hobbyist Magazine「独自のステイアライブの構築」(https://model-railroad-hobbyist.com/magazine/mrh2019-06/electrical-impulses

11:The Spruce Crafts「鉄道模型の逆ループを作成および配線する方法」(https://www.thesprucecrafts.com/reverse-loops-model-trains-2382604

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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