よりバランスの取れたサプライチェーンを目指し、テクノロジーコミュニティがCHIPS法を支持
近年では、米国は、半導体技術という重要なマイクロエレクトロニクス製品を製造する能力を有する国としてよりも、それらの製品を専ら消費する国として知られています。しかし、「2022年CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)for America法」(今後10年間で米国半導体業界を再生すべく、520億米ドルを投入する法案)[1]は、半導体の製造、設計、研究の面で国内のイノベーションを後押しすることを約束しています。
バイデン大統領は先月初め、同法案に署名しました。この法律は、主に半導体業界を対象とした米国内の技術革新を支援するために、542億ドルの資金を割り当てています。この法律で割り当てられる資金は、より大きな2800億ドルの「CHIPSおよび科学」法[2]への充当の一部です。
図1:「2022年CHIPS法」は、その資金の4分の3近く(約390億ドル)を半導体奨励策に、さらに110億ドルを研究開発に向けています。(画像提供:Forrester)
米国、足場を失う
60年前、米国で半導体チップが発明され、その後何年にもわたって、米国は技術による製造のリーダーとしての地位を確立していました。しかし、現在、米国で生産される半導体は世界の10分の1程度となったにもかかわらず、販売される半導体の約半分を米国が購入しています。1990年当時はまだ、チップ生産に占める米国の割合は10分の1を大幅に上回る約37パーセントでした。生産が10分の1なのに半分も購入しているのでは、成功しているとは言い難いでしょう。
一方、世界の半導体製造の4分の3は東アジアで行われています。この格差の拡大は、中国政府がチップ製造に1000億ドルもの補助金を出していることによります。これに対し、米国連邦政府の投資は、国内総生産(GDP)比で横ばいに推移しています。このように、これらの地域の各国は、国内半導体産業に多大な投資を行うことで、急速に技術力を高めてきました。
米国では半導体工場の建設コストが高いため、最先端を走り続けることがより困難になっています。米国半導体産業協会(SIA)によると、10年以上にわたり、米国で工場を建設・運営するコストは、台湾、韓国、シンガポールよりも約30%高く、中国に建設するよりも37~50%も高くなります。その比率とコストは、政府の奨励金に直接遡ることができます[3]。
重要資源としての半導体
米国経済における半導体の重要性は、決して過小評価されるべきではありません。半導体チップは、人工知能(AI)、5G/6G、量子コンピュータ、クラウドサービスなど、米国経済だけでなく国家安全保障にも貢献する重要な技術を実現するからです。
さらに、ここ数か月の間に、半導体の不足がいかに米国経済を停滞させ、消費者をいらだたせるかが明らかになりました。
図2:半導体の売上は様々な産業で伸びており、今後も長期にわたって成長し続けます。(画像提供:SIA)
電気自動車や家電製品など、あらゆるものが配送の遅れによって手の届かないものになっている「サプライチェーン問題」については、一般消費者もよく知るところとなったからです。航空宇宙、防衛、医療、自動車、通信、情報技術、製造業など、あらゆる分野のメーカーで、電子部品を搭載した製品が多くなり、必要なチップの数が増えています。このニーズに応えるためには、支援金が与えられる必要がありました。その支援金を与えたのが、政府でした。
CHIPS法の中身は?
CHIPS法は、半導体の研究開発と国内製造に力点を置いています。「半導体やマイクロエレクトロニクスの高度な研究開発をリードするイノベーションエコシステムは、新しいエネルギーの注入をまもなく受けるでしょう。つまり、試作や商品化から製造に至るまでの対象に絞り込んだ130億ドルの連邦政府からの資金が投入されます」と、ホワイトハウス科学技術政策室(OSTP)の部長Alondra Nelson(アロンドラ・ネルソン)博士は述べています[4]。OSTPは、国内の半導体工場を米国のオンショアに作ることを目指しています。国産の製造コストが高いため、これまでOEMは製品の製造をオフショアに移してきましたが、このような支援があれば、イノベーションをオフショアにおけるのと同じように国内でも生み出すことが可能になります。
自動車メーカーや防衛関連メーカーが使用する既存のチップやレガシーチップへの投資は比較的少額(20億ドル)で、イノベーションに大部分の重点が置かれています。約132億ドルが半導体労働力の育成に計上されています。これは、半導体産業の成功と米国の経済的成功の両方にとって不可欠です。
CHIPS法は、米国内の熟練労働者の雇用を拡大する可能性や、関税の変動や海外での予期しない自然災害など、オフショア製造の複雑性による、グローバル市場のサプライチェーンの不確実性に対処できる可能性を秘めています。半導体OEMがCHIPS法を最大限に活用するには、そのグローバル戦略を見直す必要があります。しかし、工場建設には何年もかかるので、戦略の見直しははすぐにできるものではありませんが、それでも、よりバランスの取れたサプライチェーンに向けた望みある出発点にはなります。
リファレンス:
1:https://www.commerce.senate.gov/services/files/592E23A5-B56F-48AE-B4C1-493822686BCB
2:https://science.house.gov/chipsandscienceact
3:https://www.semiconductors.org/turning-the-tide-for-semiconductor-manufacturing-in-the-u-s/

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