先の見えない長い影を落とす世界的な半導体不足
かつてはハイテク製品とローテク製品が明確に区別されていましたが、現在では電動歯ブラシから人工衛星に至るまで、あらゆる製品に電子部品によるインテリジェンスが搭載されています。さらに、私たちの想像を超えるほど多くの半導体チップが内蔵されている製品も多数あります。考えてみてください。1990年当時、高級自動車に搭載されていた半導体は平均で7~30個でした。そして当時の予想では、その数が300個にまで増えるかもしれないというものだったのです。
しかし、その予想は大きく外れました。今では、高級車に限らず、一般的な自動車にも、さまざまなサブシステムにわたって平均1,300個の半導体が組み込まれています。1990年には想像もできなかったことが今では当たり前になりました。いえ、想像もできなかったことは最近も起きています。いつの日か歴史家に「2021年の世界的半導体不足」と呼ばれるかもしれない状況によって、私たちは皆、自動車をはじめ、あらゆる日常的なデバイスで半導体が大きな役割を果たしていることを再認識させられました。
私たち消費者は、いつも使っていたデバイスが不足し、コストが高くなることで、痛みを感じるかもしれません。しかも、その痛みはこれからさらに広がる可能性があるのです。電子部品メーカーやディストリビュータは、リードタイムが長いにもかかわらず、顧客の要求に応えるために時間外勤務をしている状況です。そして、デバイスメーカーは、貨物船が寄港できずに漂い、自社製品が陳列されているはずの店の棚が空になっている現実を痛感しています。
ここまで悪化した過程はわかっていますが、この先どのくらい悪化するのか、いつになれば改善に向かうのかはわかりません。
不足の原因
半導体のリードタイムは、通常は週単位ですが、現在では1年単位で計算されています。実際のところ12~15か月待ちも珍しくありません。この原因として、次のような市場の現実が挙げられます。
- 新型コロナウイルス:ロックダウン中、サプライチェーンでさまざまな問題や混乱が起きましたが、そうした中、人工呼吸器、体温計、各種救命具などの医療機器を製造するヘルスケアメーカーからの需要が急増しました。
- 需要計画の不備:潜在的なビジネス問題に直面して、顧客やサプライヤが支出を控え、消費の低下が懸念されたため、半導体や最終製品の供給が減少しました。
- 需要の急増:自動車、家電製品、ホームシアタシステム、ゲーム機などの需要が急増しました。コンピュータや関連デバイスの在庫はほぼ、在宅ワーカーと学生によって消費されました。
- 業界の変化:最先端のファウンドリの建設コストは高く、ある推定によれば平均150~200億ドルになります。また、こうした工場の新規建設には2年以上の長い年月が必要となります。現在のファウンドリはフル稼働していますが、需要の増加に対応するための生産増強は明らかに難しく、多くの顧客は半導体不足に伴う価格上昇の受け入れを余儀なくされています。
- 新しい技術:人工知能(AI)、電気自動車(EV)、クラウドコンピューティング、5Gネットワークなどの最新技術で、これまで以上に多くの半導体チップが使用されています。需要は今後も増加するでしょう。
- 気候変動:気候パターンの変化により、洪水、異常気象現象、火災などのさまざまな自然災害が発生し、エレクトロニクス業界のサプライチェーンに影響を及ぼしています。
図1:この1年半のコロナ禍によって、半導体業界では売上が急速に伸びています。(画像提供:Semiconductor Industry Association)
また、半導体不足が話題になっていますが、ディストリビュータによると他のコンポーネントも不足の影響を受けており、抵抗器やコンデンサ、半導体を内蔵する発振器などの製品も入手しにくくなっています。さらに悪いことに、電子部品の製造に必要な樹脂や一部の貴金属など、さまざまな原材料も制限されるようになっています。
また、高度な半導体やリードフレームに使用される回路基板も供給が不足しています。材料だけではなく、労働者も不足しており、人材の確保という問題も続いています。これらのさまざまな現実を考えると、この半導体不足の問題は数週間や数か月で解決できるものではなく、まだ何年も続きそうです。
過小評価されている問題の大きさ
この問題の大きさと幅広さは、いくら強調してもしすぎることはありません。最近のIndustry Tech Daysの基調講演「The Impact of Chip Shortages on the Electronics Industry(エレクトロニクス業界における半導体不足の影響)」の中で、Microchip Technologyの最高経営責任者であるスティーブ・サンギ氏は、同社の6月30日までの四半期の純売上高は15億ドルでしたが、それとは別に機会損失(品不足で販売に至らなかった注文)もその半分相当あったと述べています。サンギ氏は「コロナ禍前の水準を通常と考えれば、未処理分の合計は通常の4倍」と語り、販売するすべての製品のリードタイムが52週以上になっていることを明らかにしました。同氏は、少なくともあと1年は、半導体業界はキャパシティ確保のために奔走することになるだろうと予測しています。
半導体不足で生産停止に追い込まれた自動車製造業者は、半導体不足という氷山の一角を占めているにすぎないのかもしれません。自動車の設計ではまだ旧型の半導体を使用する傾向があり、当然のことながら、予測されるままの一定の需要を抱えています。一方、半導体企業とその顧客は新型の利益率の高い部品に移行しています。しかし、今、市場調査員は自動車業界だけでなく、さまざまな市場を懸念して注視し始めています。特に注目されているのは、携帯電話業界です。
Appleは今月初め、携帯電話とタブレットの新モデルを発表2し、実際に消費者に製品を届けました。この成果は、優れたサプライチェーンと綿密な計画の賜物です。他の携帯電話メーカーはまだその準備ができていないかもしれませんが、スマートフォンの販売台数は増加傾向にあります。Gartnerの追跡調査によると2021年第1四半期のスマートフォンの販売台数は26%増加しており、携帯電話全体の販売台数は前年比で22%の増加でした。Gartnerは、スマートフォン業界は世界的な半導体不足の影響を受けていないとしていますが、アナリストたちは、影響を受ける可能性があると考え、いずれ携帯電話の価格が上昇するのではないかと述べています。
図2:Gartnerが発表したサプライチェーンにおける半導体在庫の指標は、少なくとも今年半ばまでは不足が続くことを示しています。(画像提供:Gartner、2021年5月)
処理能力への要求が下がることは決してありません。私たちは今後も、より多くの電子部品が組み込まれたデバイスを使用し続けるでしょう。エレクトロニクス業界の見通しは多くの点で楽観的ですが、痛みを軽減するためには、適切なサプライチェーンインフラを構築することが重要です。半導体製造業者の新しいファウンドリを構築し、ディストリビュータが保持できる在庫のキャパシティを増やすことです。それとともに、綿密なサプライチェーンと細かな顧客関係管理リソースに基づいて将来への投資を行うことです。そうすれば見返りを得られるでしょう。
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