半導体供給元の増加を見込むが、時間が必要
半導体業界では、特にエレクトロニクス業界で、サプライチェーンの脆弱性によるコストが非常に増大してきていることがわかっています。そのため、半導体メーカー各社は、需要の急増に加えて、予期しない出来事が相次ぎ、生産や納品に支障をきたしているのを見過ごすことはできません。さらに、この状況を危惧したOEMメーカーがチップを備蓄しています。半導体が今日のグローバル経済の健全性を支える非常に重要な部品であることは明確です。そのため、供給不足は無視できません。
半導体の状況
現在、エレクトロニクス業界は高性能でないチップの著しい供給不足に苦しめられていますが、これがすぐに解消できるとは思われません。そう考えているのは私だけではありません。J.P. Morganのアナリストであるハーラン・サー氏はクライアントへのレポートの中で、「半導体企業は現在の需要レベルの10~30%未満しか出荷できていないと私たちは考えています。供給が需要に追い付くには、少なくとも3~4四半期かかるでしょう。顧客/販売経路の在庫が補充されて通常レベルに戻るには、さらに1~2四半期かかる見込みです」と述べています。1
私はいくつかのレポートに目を通しましたが、何十年にもわたってエレクトロニクス業界を取材してきた経験から、チップメーカーが高利益率の最先端チップに注力するようになり、より一般的で単純なチップの不足が生じると予想していました。そうした中で、消費者需要の変化により、ローエンド製品の需要が供給を上回るようになりました。半導体メーカーは生産拠点を再配置し、生産能力を増強するために奔走していますが、これには何年もかかる可能性があります。
そして、さまざまな情報源に基づき、パンデミックに関連した明らかな変化により需要が急増していると推測されます。SIAの社長兼CEOであるジョン・ニューファー氏は「今年の最初の2か月間の世界の半導体売上高は、世界の多くの場所でパンデミックが拡大し始めた2020年前半の売上高を上回っています」と述べています。また、「中国市場での売上高は前年比で最大の伸びを示しました。これは主に、中国市場で売上高が昨年初めに大幅に落ち込んだためです」とも述べています。
ここで、いくつかデータを示します。2021年2月の世界の半導体業界の売上高は396億ドルで、2020年2月の345億ドルに比べて14.7%増加しました。しかし、2021年1月の400億ドルに比べて1.0%減少しています。世界半導体市場統計(WSTS)がまとめた月間売上高は、3か月間の移動平均を示しています。
図1:2021年2月の世界の半導体業界の売上高は396億ドルで、2020年2月の345億ドルに比べて14.7%増加。しかし、2021年1月の400億ドルに比べて1.0%減少。月間売上高は、3か月間の移動平均(画像提供:WSTS)
一方、半導体の製造能力は中国と東アジアに集中しています。これらの地域は、政情不安や自然災害など、さまざまなリスクにさらされることは周知の事実です。現在、米国半導体工業会(SIA)によると、半導体製造能力および主要な材料サプライヤの約75%はこの地域に拠点を置いています。2 10nm以下のロジック半導体の生産能力は、すべて台湾(92%)および韓国(8%)を拠点としています。
歴史的に見ても、制限された調達には(特定のメーカーや限定された地理的領域に限らず)リスクが伴います。2011年に日本で地震が発生したとき、DRAMの価格が上昇したことがありました。しかし、これはほんの1例にすぎません。現在の半導体はリスクが高い状態にあります。SIAはさらに、「バリューチェーン全体の50以上の地点で、1つの地域が世界市場の65%以上のシェアを占めています」と、付け加えています。また、「バリューチェーン内のこれらの地点は、それぞれ自然災害、インフラの停止、または地政学的紛争によって損害を受ける可能性があり、重要なチップの供給が大規模に中断される恐れがあります」とも述べています。問題は、これが最新のTVや洗濯機の出荷/入荷だけにとどまらないことです。
さらに大規模な影響
世界的パンデミックがもたらした著しい景気後退に加えて、チップの不足により、世界中でさらに広範囲の経済的大混乱が引き起こされる可能性があります。世界銀行が最近公開した2020年および2021年の世界経済見通しによると、2020年にはあらゆる国の国内総生産(GDP)が減少しました。3
図2:本年、1人当たりのGDPの縮小を経験した国の数は、1970年以降で最高レベル(画像提供:World Bank Global Outlook for 2021)
残念なことに、この供給不足は、半導体技術のさらなる進歩によって、新たな変革をもたらす技術を実現するために、これまで以上にチップが必要とされるタイミングで発生しています。その技術は、人工知能(AI)、5G、自律走行車/電気自動車、無数のスマートコネクテッドデバイスで大規模展開されるモノのインターネット(IoT)ソリューションなどです。これは、二重の苦しみ(最も必要とされる時期の不足)として考えられます。
一部の業界では、部品が不足してパンデミック後の回復が遅延し、需要を満たすことが不可能になり、今後数か月間の個人消費の増加期待を活かすことができなくなります。こうした可能性について、政府が(ようやく)懸念し始めたことは幸いです。たとえば、GMは、半導体の供給不足によって工場閉鎖を発表しました。一方、経済学者は、チップ価格の高騰が経済全体にわたる価格高騰につながり、インフレを引き起こすことを懸念しています。ただし、懸念を表明するだけで迅速に行動を起こさなければ、実際には何の役にも立ちません。今のところ、その行動が欠如しています。
米国および欧州連合による技術の独立性の追求
現在半導体メーカーに拠点を提供している国々は、業界へのインセンティブや他の政府支援を提供する点で優れた実績があります。世界中の製造業が、市場へのアクセスに加えて、低賃金、税制優遇、および他のインセンティブを取得する方向に移行してきた様子を数十年にわたって観察してきました。
現行の生産能力の懸念に対処するため、米国と欧州連合が自国内に生産能力を誘致する方法を探していることも明るい材料です。 米国と欧州連合は、特に先進技術において、独立性を高めるという大胆な計画を打ち出しています。
ここ米国では、1月1日に成立した2021会計年度国防権限法(NDAA)により、米国半導体業界に数十億ドルの新しい連邦支援、とりわけ新規国内製造施設の建設に対する税額控除と補助金が約束されています。関連して、米半導体製造支援法(CHIPS)が12月に議会で成立しました。現時点では半導体の約12.5%しか米国内で製造されていないため、これは注目に値します。4 前述した他の地域での高額の補助金や税控除はこの影響を受けています。
さらに最近では、バイデン大統領が半導体サプライチェーンを強化するイニシアチブを含むインフラ計画を導入しました。この計画には以下のものが含まれます。
- 半導体の研究および製造のための500億ドル。
- 米国の工業力に関する事務所を商務省内に設置し、重要な製品の生産を支援するための500億ドル。
- 全米科学財団が半導体などの主要分野に特化した技術理事会を設置するための500億ドル。
これらの戦略は米国の前進につながるかもしれませんが、経験上、時間がかかるでしょう。そして、それは、かなり長い時間です。一方、2020年5月、TSMCはアリゾナ州にハイエンド工場を新規建設することを発表しましたが、早くても2024年までは操業を開始しません。この工場は、同社の5nmプロセスを使用し、毎月最大20,000ウェハの生産を予定しています。TSMCは、この工場の建設には120億ドルかかり、米国でこれまでに建設された最も高額な工場になると考えています。
先月(3月)、欧州連合はデジタルコンパス計画を発表しました。これには、今後数年間、デジタル分野に対して約1,660億ドルのコロナウイルス復興基金を投資することが盛り込まれています。このイニシアチブの一環として、欧州連合は2030年までに、世界中で使用される高度な半導体(すなわち5nm以下)の少なくとも20%を製造することを目指しています。
まとめ
半導体チップは世界のデジタル経済にとって非常に重要であり、半導体のマルチソース化が必要なことは明らかです。しかし、生産の移行には、教育から入国管理に至るまで、すべてにおいてフォークリフトアップグレードが必要になります。業界が国際的にも国内的にも確実に成功するための方法について、総合的に考え始める必要があります。また、必要なチップを製造するだけでなく、安全に出荷されるようにする必要もあります。
半導体の製造を単一の供給元や地域に過度に依存した結果、チップの安全性や供給停止に関連したリスクに対処しなければならなくなり、多くの努力が求められています。設計者は当然のことながら、部品供給元を可能な限り複数探すことになります。設計者はグローバルレベルで支援されるべきでしょう。需要と供給の問題という最悪の状況では、すべての人のために、新たな方向へ転換(および推進)するためのプラスの力を連携させることが必要です。
参照資料:
3 – https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/33748/211553-Ch01.pdf
4 – https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2020/06/2020-SIA-State-of-the-Industry-Report.pdf
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