飛行時間型の近接検出を簡単迅速に追加して高精度を実現

近接検出は、モノのインターネット(IoT)、伝統的なオートメーション、DIYプロジェクトにおいて重要な要件となりつつあります。近接検出の最もシンプルなアプリケーションとしては、人が近づいたときに照明を点灯させるモーション検出器や、トラック、タンク、ゴミ箱の中の材料や液体の高さ検出などがあります。これらよりも複雑なアプリケーションとしては、ロボット掃除機や組み立て機械、VR(バーチャルリアリティ)などがあります。

機械に周囲の状況を判断させるための技術がいくつかあります。たとえば、Bluetooth Low Energy(LE)トランシーバは、受信信号強度の測定値から類似のトランシーバまでの距離を推定することができます。また、磁界の乱れを利用して、近くに何かがあることを検出できるデバイスもあります。これらの技術は安価で役に立ちますが、2つの物体間の距離を大まかにしか推定できません。たとえば、照明を点灯させたり、モーションアラームを作動させたりするのには役立ちますが、混雑した倉庫で無人搬送車を誘導したり、高額資産の正確な位置を示したりするのにはそれほど実用的ではありません。

より高い精度を得るには、自然界に存在する不変定数の一つである光速(c)を利用します。隣接する物体にレーザー光(またはマイクロ波など他の電磁波)を照射し、その反射信号を受信するまでの飛行時間を正確に計れば、次のような簡単な計算をするだけで物体までの距離を知ることができます。

飛行時間(ToF)(秒)/2 x c(m/s) = 対象物までの距離(m)

この計算自体は簡単なわけですが、その計測を行うセンサを作るのは簡単なことではありません。ですが幸いなことに、計測を行える業務用モジュールなどが市販されているのです。以下に紹介します。

広視野角のToFセンサ

広視野角のToFセンサは新しい種類の飛行時間型(ToF)センサです。その一例としては、STMicroelectronicsVL53L7CXV0GC/1があります。このモジュールには、赤外線(IR)スペクトルで動作する高効率の垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)(人間の目には安全)が組み込まれており、最大3.5m先の対象物にビームを照射することができます。このモジュールには、反射信号を検出するIRフィルタを備えた単一光子アバランシェダイオード(SPAD)アレイが搭載されています。MCUおよびその搭載メモリ、そして同社独自のソフトウェアがToFの計算を行います。すべての電子機器が、6.4 x 3.0 x 1.6ミリメートル(mm)というコンパクトなフォームファクタに収納されています(図1)。

図1:ToFモジュールVL53L7CXは、IRレーザー、マルチゾーンSPADアレイ、MCU、メモリを小型パッケージに搭載しています。(画像提供:STMicroelectronics)

この他にも、興味深く便利な機能がVL53L7CXモジュールにはあります。たとえば、レーザーエミッタには効率的な「メタサーフェス」レンズが組み込まれており、60° x 60° の正方形(対角90°)視野(FoV)を投影することができます(図2)。この機能の利点は、センサがどの位置からでも、より広い領域とより多くの物体を「見る」ことができることです。

図2:ToFセンサVL53L7CXは、一定方向からの広視野を実現し、複数の物体の位置を特定することが可能です。(画像提供:STMicroelectronics)

図2に示すコレクタ除外ゾーンは、モジュールのアセンブリ許容誤差を考慮し、カバーウィンドウの寸法を限定するために使用されます。カバーウィンドウの開口部は、除外ゾーンと同じ広さを持つか、それよりも広くなければなりません(注:画像は正確な縮尺ではありません)。

VL53L7CXのもうひとつの重要な特長は、SPADアレイが8 x 8のマトリクスである64個のゾーンで構成されていることです。各ゾーンは独立したセンサとして機能します。VL53L7CXは、STMicroelectronicsの特許取得済みアルゴリズムにより、FoV内の各ゾーンにある物体を検出するとともに、奥行きも知覚することができます。このセンサは、物体の色や反射率に関係なく、物体までの絶対距離を計算するものです。

SPADアレイマトリクスは、低リフレッシュレート15ヘルツ(Hz)の高解像度モード(8 x 8)で動作させるか、高リフレッシュレート60Hzの4 x 4モードで動作させるかを選択することができます(図3)。もちろん、解像度とリフレッシュレートは、アプリケーションの速度や消費電力などの要件に応じて選択できます。

図3:ToFセンサVL53L7CXでは、センサマトリクスを8 x 8から4 x 4に変更することが可能です。これによって解像度は下がるわけですが、リフレッシュレートは4倍になります。(画像提供:STMicroelectronics)

ToFセンサの開発・製造ツール

STMicroelectronicsでは、ToFセンサを使用した設計を開始するのに役立つツールを提供してきました。たとえば、拡張ボードX-NUCLEO-53L7A1は、Arduino R3コネクタを搭載した任意のSTM32 Nucleoボードで使用できるように設計されています。開発ボードSTM32 Nucleoを使用すると、設計者は任意のSTM32マイクロコントローラでプロトタイプを作成することが可能です。この拡張ボードの本質は、ToFセンサVL53L7CXの評価キット一式であると言えます。

STMicroelectronicsの拡張ボードは、Arduinoのコネクタを使って複数枚スタックすることが可能です。たとえば、拡張ボードX-NUCLEO-53L7A1とBluetooth LEボードやWi-Fiボードをスタックして、近接データをクラウドに送信することが可能です。

STMicroelectronicsは、上記の評価キット/ボードを提供しているほかにも、2枚のブレイクアウトボードで構成されるパッケージSATEL-VL53L7CXも提供しています。各ブレイクアウトボードには、VL53L7CXモジュール、3.3Vの電圧レギュレータ、およびいくつかの周辺部品が搭載されています(図4)。

図4:SATEL-VL53L7CXパッケージは、2枚のToFセンサ用ブレイクアウトボードで構成されており、それぞれ、左側にVL53L7CXセンサ、右側に3.3Vの電圧レギュレータが搭載されています。(画像提供:STMicroelectronics)

完成形としては、3つのToFセンサ(評価キットのセンサと2つのブレイクアウトボード)で構成されるシステムを作成できます。それには、Arduinoコネクタを使ってブレイクアウトボードを拡張ボードに接続します。2枚のブレイクアウトボードにはミシン目が付いているため、ToFセンサのあるセクションはミニプリント(回路)基板となるので、3.3V電源をベースにしたアプリケーションアセンブリに簡単に配線することができます。これらのブレイクアウトボードにより、評価と開発を加速し、市場投入までの時間を短縮することが可能です。

まとめ

近接検知は、IoTデバイスなどのシステムに追加する機能として、ますます活用されています。ToFセンサが実現する精度によって、より複雑なあらゆるアプリケーションを開発できるようになるとともに、より複雑な設計上の問題点も解決できます。IR ToFセンサVL53L7CXとその評価ツールは、そのような複雑性をほとんど取り除くことができるだけでなく、広いFoV、スケーラブルな解像度、多対象物検出機能をも提供しています。

著者について

Image of Steven Keeping

スティーブン・キーピング氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住したのは、1年中ロードバイクやマウンテンバイクを楽しめるようにするためと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストとなりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

More posts by Steven Keeping(スティーブン・キーピング)
 TechForum

Have questions or comments? Continue the conversation on TechForum, Digi-Key's online community and technical resource.

Visit TechForum