有用なノイズ:テストと回路用途にノイズを使う理由と方法
エレクトロニクスのエンジニアや技術者はノイズをマイナスと考え、部品選定、回路設計、基板レイアウトの段階で低ノイズに向けて最適化することが習慣になっています。実は、ランダムあるいは擬似ランダムのノイズが役に立つこともあるのです。その理由と活用方法を詳しく見ていきましょう。
さまざまな用途で一般的に使用されているランダムノイズには、ホワイトノイズとピンクノイズの2種類があります。ホワイトノイズは、周波数スペクトルがフラットで、帯域幅の全体でパワー(単位:dB)が等しいという特徴があります。ピンクノイズは、帯域幅内の各周波数オクターブでパワーが等しくなっています(図1)。
図1:ホワイトノイズとピンクノイズの周波数スペクトルの比較。ホワイトノイズのパワースペクトルはフラットですが、ピンクノイズのパワースペクトルは1オクターブあたり3dBずつ減少しています。(画像提供:Art Pini)
ピンクノイズは人間の耳の反応に近いため、オーディオのテストやサウンドシステムのイコライジングに使用されます。
ルームイコライゼーションは、サウンドシステムの周波数特性を調整し、そこに投入される信号と全く同じ信号を生成するものです。サウンドシステムにピンクノイズを入れると、スペクトラムアナライザで測定したピンクノイズが出るようにイコライザが調整されます(図2)。
図2:イコライザで部屋の周波数特性を調整し、入力をロスなく、歪みなく再生します。(画像提供:Art Pini)
ホワイトノイズは、周波数特性の測定やスペクトラム拡散通信の拡散源として利用されています。
次の例では、10.7MHzの中間周波数(IF)フィルタの周波数特性が特徴づけられています(図3)。
図3:広帯域ホワイトノイズを用いて、10.7MHzのIFフィルタの周波数特性を測定しています。(画像提供:Art Pini)
左上の枠に示されているホワイトノイズは、適切なインピーダンスマッチングネットワークを通してフィルタに供給されます。入力の周波数スペクトルは左下の枠に示されており、対象の周波数の全範囲にわたってフラットです。正しく終端処理されたフィルタ出力は、右上の枠に示されています。バンドパスフィルタにより、フィルタの帯域外の周波数成分が減衰しているため、入力よりも振幅が小さくなっています。右下の枠にあるフィルタ出力の周波数スペクトルは、フィルタが中心周波数10.7MHzで約400kHzの帯域幅を持っていることを示しています。理論上の周波数特性は、入力信号に対する出力信号の複素数比です。入力信号の大きさが一様のため、出力スペクトルはフィルタの振幅のスペクトル応答を示しています。
ノイズ発生器の製作
ノイズ発生器は、3つの基本技術のいずれかをベースとしています。1つ目は、抵抗器に発生するジョンソンノイズを利用するものです。この電子ノイズは、導体内の電子が熱で攪拌されることによって発生するもので、電圧の印加に関係なく発生します。生成されるノイズは基本的にホワイトガウスノイズであり、いくつかの非常にハイゲインのアンプによってバッファリングする必要があります。
2つ目は、逆バイアスのツェナーダイオードやアバランシェブレークダウンダイオードを使用する方法です。このノイズもホワイトノイズで、ジョンソンノイズよりハイレベルですが、やはりハイゲインのアンプが必要になります。
3つ目は、シフトレジスタで擬似ランダムバイナリシーケンス(PRBS)を生成し、デジタル/アナログコンバータ(DAC)とフィルタでPRBSをホワイトノイズに変換する方法です。PRBSのノイズストリームは、繰り返される有限の長さを持っています。長さは、シフトレジスタの段数で設定できます。信号継続時間の逆数が、PRBS発生器で再生可能な最低周波数となります。PRBS発生器は最も高い出力電圧を提供し、ハイゲインアンプを必要としません。
PRBS発生器は、図4に示すようなディスクリートのシフトレジスタで実装することも、マイクロコントローラやFPGAなどのプログラマブルシステムオンチップで実装することも可能です。
図4:ディスクリートのオクタルDタイプフリップフロップICを2個使用した16ビットPRBSノイズ発生器の実装。(画像提供:Art Pini)
図4に示す低コストPRBS発生器の設計は、onsemiのMC14015DGデュアル4ビットスタティックシフトレジスタとTexas InstrumentsのCD4070BMTクワッドXORゲートを使用した線形フィードバックシフトレジスタの実装がベースになっています。16個のDタイプフリップフロップ(ICあたり8個)で、14番目と15番目にフィードバックタップがあり、PRBS15のデータパターンが生成されます。フィードバック接続は、XORゲートを介して行われます。このデータパターンの長さは32767ビットで、クロックレート500kHzの場合、約65ミリ秒(ms)となります。シフトレジスタの数を増やし、フィードバックタップを適切に変更することで、より長いパターンを実現できます。
onsemiのMC14093BDR2GシュミットトリガNANDゲート(IC5)と基本的な抵抗-コンデンサ(RC)ネットワークを用いて、電源投入時に発生器を「オールゼロ」状態に初期化することができます。クロックは、500kHz付近で動作するシンプルなCMOS発振器で供給されます。デジタル出力は、シフトレジスタQ出力のいずれかから取得できます。この場合、Q14を使用しています。
アナログフィルタも使えますが、特定のクロック周波数に制限されます。有限インパルス応答(FIR)ローパスデジタルフィルタを使用することで、フィルタのカットオフがクロック周波数の変化に追従します。さらに、FIRフィルタは、アナログフィルタでは非常に大きなコンデンサが必要となる、非常に低いカットオフ周波数を提供できます。FIRフィルタは、シフトレジスタの出力の加重和を組み合わせます。周波数領域で矩形のローパスフィルタ応答を生成するために必要な加重は、時間領域でsin(x)/xとなります(図5)。
図5:発生器の出力段では、シフトレジスタの出力からsin(x)/xの加重サンプルを用いて、FIRローパスフィルタを実装しています。(画像提供:Art Pini)
加重シフトレジスタの出力は、LM324KDRクワッドオペアンプの3セクションを構成する差動アンプで合計されます。上側の抵抗バンクは、sin(x)/xの加重の負成分を表します。下側の抵抗バンクは、正の値を表します。このデジタルフィルタ帯域は、出力を500kHzクロック周波数の5%程度、つまり25kHzに制限するため、オーディオ周波数のテスト用途に適しています。
この発生器のホワイトノイズ出力は、シンプルな抵抗-コンデンサフィルタを用いてピンクノイズに変換できます(図6)。
図6:このシンプルなRCフィルタにより、発生器のデジタルノイズ出力からピンクノイズが生成されます。(画像提供:Art Pini)
アンプは想定される負荷に合わせて選択します。このタイプのノイズ発生器は、オーディオのテストやイコライジングに適しています。
まとめ
一般的にノイズは除去するか、少なくとも軽減すべきものですが、適切な種類のノイズは有用である場合があります。ホワイトノイズやピンクノイズは、そのスペクトルパワー分布が知られているため、周波数応答テストに最適なリソースとなります。上述のように、すぐに入手可能な部品をいくつか使うことで、適切なノイズ発生器を迅速に構築できるのです。
Have questions or comments? Continue the conversation on TechForum, Digi-Key's online community and technical resource.
Visit TechForum