雑音指数は理解できますが、なぜ雑音に「温度」があるのでしょうか

「雑音要素」や「雑音指数」という概念は、それなりに直感的に把握できます。これは入力信号が出力へと向かう間にアンプなどのコンポーネントによって加えられる雑音、または受動部品内の熱運動によって生成される雑音です。こうした内部的に作られる、避けられない雑音には多数の原因があります。エントロピー、デバイス、材料の物理的要因、電子のランダムな動き、さまざまな不備などは、原因のごく一例です。

雑音要素(F)の定量的な定義は比較的単純で、次のとおり、入力信号対雑音比(SNR)に対する出力SNRの比率です。

雑音要素(F)=(入力信号/入力雑音)/(出力信号/出力雑音)

抵抗器など、受動的かつゲインのないコンポーネントでも雑音要素を定義できます。この雑音要素は、実際の抵抗器の雑音対観念上の抵抗器の単純な熱雑音の比率として定義されています。この比較を標準化するために、雑音要素は標準の温度である290Kで測定されます。この標準は、1930年代にベル研究所のハラルド・フリスによって実施された、重要な研究の結果を主な根拠として定められています。比較に使用される標準的な雑音発生源からはKTレベルの雑音が発生します。ここで、Kとはボルツマン定数を示します(1.38 × 10-23 J/K)。

それでは、雑音指数(NF)を計算するにはどうしたらよいでしょうか。

これは、次の単純な関係から導き出されます。 NF(dB単位)= 10 × log(F)

雑音要素であるFと、雑音指数であるNFが両方とも使用されているのはなぜでしょうか。これは、実施された信号経路分析のタイプによるものです。分析のタイプによってはFの方が有用な場合もありますし、NFを使用することで式が単純になることもあります。

しかし、ここで登場するのが、もう1つの「雑音」パラメータである雑音温度です。雑音になぜ温度があるのでしょうか。そもそも、雑音と温度に関係がある理由はなんでしょうか。

では、ご説明しましょう。 雑音温度とは、雑音の強度と関連する信号から雑音への変化を説明する方法の1つです。これはRFリンク、特に電波天文学、宇宙向けリンク、その他の地球外システムとの関連で使用されます。

では、まず雑音温度(NT)の定義から始めます。

NT= 290 ×(F-1)(「290」は、前述したとおり、標準の参照温度です)

この時点では、雑音温度は雑音を定量化する方法の1つのように見えます。しかし、雑音温度が示すのはそれだけではありません。これは理論上の「抽象概念」であり、観察されたものと同量の雑音パワーを作る、等価の温度を示しています。TEQとして指定されることが多い、この等価雑音温度は、温度計で測定されるような、アンプの実際の温度を示しているわけではないことにご注意ください。

では、雑音温度とTEQを使用する理由は何でしょうか。繰り返しますが、一部の分析タイプでは、雑音温度によって信号チェーンの評価と関連する式が単純になります。また、雑音が充満する空(空は雑音の発生源です)など、感知しにくい発生源を定義するのに有用な指標を提供します。

無線リンクでは、等価入力雑音温度であるTEQは、以下のように、出力アンテナにおけるアンテナ雑音温度であるTANTとレシーバ回路のシステム雑音温度であるTSYSの合計になります。

TEQ = TANT + TSYS

各ステージでは、雑音温度が線形的に追加されていきます。これにより、信号チェーンの任意のポイントにおける雑音の特性が決まります(図1)。

図1: 各ステージで追加される雑音温度でシステムにおける各ポイントにおける雑音が決まります。最初の雑音温度は、アンテナなどの発生源と同じです。(画像提供: New Jersey Institute of Technology)

数百メガヘルツ(MHz)および数十ギガヘルツ(GHz)で稼働するラジオ、レーダー、および宇宙での使用を中心とするRFシステムでは、低い周波数の雑音は簡単にフィルタ処理され、減衰されるため、問題にはなりません。その代わり、主な雑音の発生源は、内部で発生する雑音と環境放射線の雑音になります。そのため、すべての分析で、これらの雑音の発生源を対象にする必要があります。アンテナが空を指している場合、発生源の等価入力雑音温度であるTEQは、太陽の相対位置、およびさまざまな周期に応じて異なります(JPL/NASAの論文『Solar Brightness Temperature and Corresponding Antenna Noise Temperature at Microwave Frequencies』を参照してください)。

この「空の雑音」の研究の結果、アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンは、宇宙空間の宇宙マイクロ波背景放射(CMBR)と、その明確な意味を発見しました。ペンジアスとウィルソンは、この研究でノーベル賞を獲得しました(「Cosmic Microwave Background」を参照してください)。巨大なホーンアンテナで構成された彼らのレシーバは、アンテナの方向にかかわらず、宇宙空間にほぼ均等に充満している4.2Kを超えるアンテナ温度を記録しました。彼らはこの結果を回路およびシステムの雑音分析について説明することができなかったため、この結果は「ビッグバン」の残熱によって引き起こされた可能性があり、黒体放射の有名な物理現象を表していると結論づけました。

図2: 空全体における微少な変化を示す、宇宙におけるマイクロ波背景放射の画像。2013年にEuropean Space Agency Planckの衛星が撮影。(画像提供: ESA/Planck Collaboration、Space.comより)

雑音温度のこのあまりに抽象的な使い方に嫌気がささないようにしてください。雑音関連の指標と同様に、等価雑音温度の原則は、天体や宇宙に関連した分析だけでなく、実地的な(文字通り「地上での」という意味、そして「現実的な」という意味の両方での)使用方法があるからです。たとえば、アンテナの雑音温度は理論上雑音のないレシーバの入力における仮想の抵抗器の温度であり、指定された周波数におけるアンテナ出力と同じ、単位帯域幅ごとの出力雑音パワーを生成します。

雑音は、有線か無線かを問わず、ほぼすべてのシステムにおける主要な懸案事項です。帯域幅や雑音パワーへの影響など、考慮すべき事項は他にも多数あります。雑音要素、雑音指数、そして雑音温度はすべて雑音の測定に有効な方法であり、かつ、ある基準から別の基準へと簡単に変換することができます。何が使用に「適切」なのかは、実施される分析と、求める回答に応じて異なります。

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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