神話の崩壊:高電流スイッチングレギュレータICのノイズはLDOの数値近くまで低減可能

進化を続けるテクノロジーの世界でも、「常識」となっている長年の決まり文句や、劇的な進歩にもかかわらず変化に抵抗する思い込みが存在します。今でも時々、「充電式電池の寿命を延ばす方法は、完全に使い切ってから充電することだ」という時代遅れの言葉を耳にすることがあります。従来のニッケルカドミウム(NiCad)蓄電池ではそうだったかもしれませんが、現在のリチウム電池の寿命に対しては完全に間違っており、有害にもなります。

ステップダウン(降圧)DC/DCスイッチングレギュレータ、特に入力電圧が高く(数十ボルト)、高電流(最大10A程度)を流すように設計されたものについても同様の誤解があります。低ドロップアウトレギュレータ(LDO)は、リニアでスイッチングしないトポロジを備えているため、ノイズはほとんどありませんが、非常に効率が悪いというのが標準的な考え方です。対照的に、スイッチングレギュレータ(スイッチャ)は、比較的ノイズが多いのですが、効率が高くなります。

スイッチャについての懸念は、推測されるノイズにとどまりません。これらは効率的(通常、負荷の「スイートスポット」で動作した場合は85%以上)ですが、以下3つの欠点がしばしば伴います。

1:電気的ノイズがあり、そのノイズの大部分(すべてではない)は、スイッチング周波数とその高調波で発生します。

2:過渡応答が悪く、閉ループ応答をアプリケーションに合わせて慎重に調整しない限り、不安定で発振しやすくなります。

3:高電力スイッチャはMOSFETを内蔵したレギュレータではなく、外部MOSFETを必要とし、スイッチングデバイスのコントローラとして機能するため、必要な部品点数や基板スペースが増加します。

しかし、Analog Devicesの65VモノリシックSilent Switcher同期降圧レギュレータであるLT8645SLT8646SLT8645S-2の3機種(それぞれ8A出力に対応可能)で実証されているように、最近の進歩や革新的なトポロジが状況を一変させました(図1)。

図1:Silent Switcher降圧レギュレータの内部機能のブロック図はその複雑さを示していますが、主な性能向上を実現するための技術の詳細を示すことはできません。(画像提供:Analog Devices)

3つのデバイスの小さくも明確な違いにより、ユーザーはアプリケーションに最もマッチする特定の構成を選択することができます(図2)。

図2:3つのスイッチングレギュレータは非常によく似ていますが、微妙な構成の違いが特定のアプリケーションで重要になる可能性があります。(画像提供:Analog Devices)

最初に、スイッチングレギュレータに関して最も多く挙げられる懸念であるノイズについて考察します。優れたLDOが低ノイズ出力に対する標準であることは間違いありませんが、この高度なスイッチングレギュレータは、驚くほどそれに近いものです。

ノイズを心配する理由

レギュレータの出力ノイズは、以下のようなさまざまな形でシステム性能に悪影響を及ぼします。

  • 特に、電源マージンがかなり小さい低レール電圧で動作する回路では、負荷ICの安定した信頼性の高い性能に影響を与える可能性があります。
  • センサのフロントエンドなど、アナログ信号の精度を損なうため、最終的に達成できる性能のレベルに影響を与えます。
  • 出力レールのノイズは、放射および伝導電磁干渉(EMI)の原因となる可能性があります。広く使用されているCISPR 25の放射EMI試験など、アプリケーション特有の多くの要件のうち1つまたは複数を最終製品で実現できない可能性があるため、放射ノイズは特に心配です。

心配ご無用

Analog DevicesのSilent Switcherアーキテクチャは、設計上、低ノイズによる優れたEMI性能を確保しています。さらに、モノリシックデバイスとして、この性能はプリント回路基板(プリント基板)レイアウトに敏感ではなく、部品やレイアウトに起因するEMIを設計上の懸念事項として排除することができます。

Silent Switcherレギュレータは、そのような成果をどのようにして実現するのでしょうか。設計者は、クロックや他のノイズ源が発生するあらゆる原因を調べ、それぞれを克服するための方法を考案してきました。ノイズの2つの主な発生源は、スイッチングアーキテクチャに固有のいわゆる「ホットループ」と、トレースインダクタンスおよびリンギングです。

ホットループに対抗するため、Silent Switcherの設計では、ホットループを釣り合った2つのループに分割し、電流の流れを効果的に打ち消し合うようにします。トレースインダクタンスに対処するには、バイパスコンデンサをオンチップ化することで、プリント基板のトレースインダクタンスやリンギングに関連した問題を解消するとともに、外付け部品やその配置のばらつきをなくすことで性能を確保します。その結果、CISPR 25の制限を容易に満たす放射エミッション性能を実現しました(図3)。

図3:ホットループ問題の解消や内蔵バイパスコンデンサの追加などの強化により、Silent Switcherレギュレータの放射は規制の最大値を大きく下回っています。(画像提供:Analog Devices)

注目すべきは、デバイスの伝導ノイズも低いのですが、規制値があまり厳格でないことです。また、伝導ノイズはフェライトビーズを使用して簡単に低減できますが、放射ノイズは減衰させるのが難しく、高価で複雑なシールドが必要になる場合もあります。

さらに、このスイッチングレギュレータの設計では、過渡応答も改善されています。負荷変動があっても明瞭で厳密な安定化を実現し、さまざまな動作条件下でもループの安定性を維持します(図4)。さらに柔軟性を高めるため、LT8646Sデバイスは外付けの抵抗器-コンデンサ(RC)補償が可能です。これにより、設計者は過渡応答を最適化することができます。

図4:Silent Switcherレギュレータの設計は、迅速かつクリーンで一貫した過渡応答をもたらし、負荷の変化にもかかわらず、強固で安定したDC出力レールを実現します。(画像提供:Analog Devices)

最後に、高電力MOSFETを搭載することで、以下のような複数の利点がもたらされます。

  • MOSFETのプリント基板トレースが不要なため、ノイズ放射が少なくなります。
  • 入力電源から出力レールまでの一貫した性能が、データシート上で完全に規定されています。
  • 全体的なフットプリントが縮小します。これらの8Aレギュレータは6mm x 4mmのLQFNパッケージに収められており、完全な回路に必要な小型受動部品はわずか数点です(図5)。

図5:LT8645S-2(または同ファミリの他の部品)をベースにした完全な電源レギュレータサブシステムは、小型で部品表(BOM)が短くなります。(画像提供:Analog Devices)

最後に、重要な質問が1つあります。これらの高電圧、高電流のSilent Switcherレギュレータを使用した場合、効率の妥協やペナルティはあるでしょうか。結局のところ、リニア電源の代わりにスイッチャを使用する最も重要な理由は、高い効率性です。

答えは簡単です。これらのデバイスの効率は、ノイズの多いレギュレータと同じゾーンにあります(図6)。1A~最大8Aまでは効率が約90%~96%になり、2A~4Aの間が「スイートスポット」です。

図6:8A Silent Switcherレギュレータの効率は、電流出力値の極低域と高域を除き、約95%です。(画像提供:Analog Devices)

まとめ

スイッチングレギュレータは高効率という非常に重要な長所を備えていますが、回路、システム、規制要件に対して過剰な放射ノイズの発生源となる可能性もあります。Analog Devicesが提供するSilent Switcher DC/DCレギュレータの革新的なアーキテクチャは、望ましい性能特性を妥協することなく、従来のスイッチングレギュレータのこれらの欠点やその他の欠点を克服します。

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Analog Devices、「65V入力/8A出力のモノリシック型降圧レギュレータ、高速な過渡応答と極めて高いEMI性能を実現」

https://www.analog.com/jp/design-notes/monolithic-65v-8a-step-down-regulators-with-fast-transient-response-and-ultralow-emi-emissions.html

Analog Devices、「ホットループとは何か?」

https://www.analog.com/jp/technical-articles/what-actually-is-a-hot-loop.html

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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