効率、低レールノイズ、高速過渡応答のための適切なスイッチングレギュレータの選択

著者 Bill Schweber氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

DCレールの品質は、低信号レベルのアナログ回路に依存するワイヤレス接続などのアプリケーションや、低電源レール電圧のデジタル設計において、システム性能を維持する上で極めて重要な要素です。変換効率、出力精度、安定性、ラインおよび負荷の安定化に加えて、DCレールの品質は、固有のノイズや動的な負荷変動に対する過渡応答などの要因によっても特徴付けられます。

しかし、Analog Devicesの堅牢なSilent Switcherシリーズは、何世代にもわたる進歩を重ね、適切に適用することで、必要な低ノイズのDC出力と超高速の過渡応答を可能にする技術を確立しました。

この記事では、これらの使いやすく高性能なDC/DCスイッチングレギュレータ、それらが解決する問題、およびそれらのもたらすメリットについて説明します。また、Analog Devicesのアプリケーション例を用いて、その性能を最大限に引き出す方法も紹介します。

Silent Switcherファミリ

Analog DevicesのDC/DCスイッチングレギュレータ、Silent Switcherファミリは、現在第3世代になりました。第1世代のSilent Switcher 1は、スイッチングレギュレータに関連する高周波ノイズの低減に重点を置いていました。それは、低EMI(電磁干渉)、高効率、高スイッチング周波数(関連部品の小型化のため)という3つの主要な利点を同時に提供するものでした。

その後、Analog Devicesは、Silent Switcher 2を発表しました。このSilent Switcher 2は、前モデルの機能を継承し、さらに高精度コンデンサの内蔵、より小型のフォームファクタ、プリント回路基板(プリント基板)のレイアウトによる影響の排除を追加したものです。

第3世代のSilent Switcher 3は、最初の2つの固有の機能をベースにしています。また、高速な過渡応答や低周波数帯域での超低ノイズといった利点も追加されました(図1)。

Analog Devices Silent Switcher DC/DCレギュレータの画像(クリックして拡大)図1:Silent Switcher DC/DCレギュレータの各世代は、前世代の機能と性能を継承し、さらに改良を加えています。(画像提供:Analog Devices)

シンプルなスイッチングレギュレータのノイズ対策

最初の2世代の低ノイズを実現するため、設計者は複数のノイズ源を調べ、それらを回避、最小化、あるいはキャンセルする革新的な方法を模索しました。そのためには多面的なアプローチが必要でした。たとえば、スイッチング電源の主なノイズ源は、定常状態の電流の流れではなく、電流のスイッチングによるものです。従来のスイッチングレギュレータのトポロジでは、ホットループと呼ばれる電流の経路が存在します。ホットループは、空気中に放出される高周波ノイズの主な発生源であり、EMIの原因となります。第1世代のSilent Switcher DC/DCレギュレータは、革新的にホットループを2つの対称形状の電流ループに分割しました。これにより、放射ノイズが大幅に打ち消されるような逆極性の2つの磁界が形成されます。

第2世代のSilent Switcherは、入力コンデンサをICパッケージに直接内蔵することで、重要なホットループを最小限に抑えます。

そのアーキテクチャは、高スイッチング周波数で高効率を実現する高速スイッチングエッジをサポートしながら、優れたEMI性能も実現しています。DC入力電圧(VIN)側に内蔵されたセラミックコンデンサは、高速AC電流ループを小さく保ち、さらに性能を向上させます。また、Silent Switcherアーキテクチャは、独自の設計とパッケージング技術を採用し、超高周波での効率を最大化することで、CISPR25クラス5のピークEMI限界値をクリアしています。

さらに、出力電圧が負荷電流に依存するアクティブ電圧ポジショニング(AVP)技術が使用されています。出力電圧は、軽負荷時には公称値以上に、全負荷時には公称値以下に調整されます。DC負荷レギュレーションを調節することで、過渡性能を向上させ、出力コンデンサの要件を低減しています。

Silent Switcher 3および過渡応答

過渡応答とは、急激な負荷変動に対するレギュレーターの応答能力のことで、ますます重要なパラメーターとなっています。そのため、第3世代では、低周波ノイズ(10Hz~100kHz)を最小限に抑えることに加え、超高速の過渡応答を実現することに重点を置いています。

過渡応答に対する関心の高まりは、負荷過渡プロファイルが急激に変化することが多い信号処理ユニットやシステムオンチップ(SoC)によるものです。この負荷過渡現象は、高性能RF設計にとって重要な要素である電源電圧の乱れを引き起こします。たとえば、電源電圧の変動は、システムクロック周波数に大きな影響を与えます。

その結果、RF SoCは通常、負荷過渡時にブランキングタイムを設定します。5Gアプリケーションでは、情報品質はこの遷移中のブランキング期間に密接に関係しています。したがって、電源への負荷過渡の影響を最小限に抑えることで、システムレベルの性能が向上します。

これらの目標を達成するため、モノリシックSilent Switcher 3デバイスは、超高性能エラーアンプ設計を採用することで、積極的な補償を行ってもさらなる安定化を実現します。4メガヘルツ(MHz)の最大スイッチング周波数により、ICは固定周波数ピーク電流制御モードで制御ループ帯域幅を数百kHzの半ばまで拡張することができます。さらに、過渡応答を妨げる微妙な問題を軽減するために、以下のようなさまざまな技術革新を採用しています。

負荷分離 - 一般的な設計では、1Vの負荷は送信回路と受信回路、局部発振器(LO)、電圧制御発振器(VCO)で構成されています。送/受信負荷は、周波数分割二重(FDD)で動作中に、負荷電流の急激な変化を受けます。同時に、LOとVCOには一定の負荷がかかりますが、高精度と低ノイズが要求されます。

これらのデバイスの高帯域幅という特長により、設計者は、2番目のインダクタ(L2)で動的負荷と静的負荷を分離することにより、レギュレータICから2つの重要な1V負荷グループに電源を供給することができます(図2、上)。負荷過渡応答は高速で、VOUT偏差は最小であり、静的負荷に影響を与えません(図2、下)。

Analog Devices Silent Switcherのアプリケーション回路図(クリックして拡大)図2:Silent Switcherのアプリケーション回路を示しています。インダクタ(L2)で動的RF負荷と静的RF負荷を分離し、性能を向上(上)させています。負荷過渡応答は高速でVOUTの偏差が最小限に抑えられ、静的負荷に影響を与えません(下)(画像提供:Analog Devices)

最小化された等価インダクタンスによるポストフィルタリング - TDD(時分割二重)モードでは、ノイズに敏感なLOとVCOは、送受信モードの変更に伴って負荷がかけられたり、解除されたりします。すべての負荷が動的とみなされるため、よりシンプルな回路を使用できます。同時に、LOとVCOの低リップルとノイズ特性を維持するために、より重要なポストフィルタが必要となります。

3端子貫通型コンデンサは、最小の等価インダクタンスで十分なポストフィルタを実現し、負荷過渡時の高速帯域幅を維持します(図3、上)。貫通コンデンサとリモート側出力コンデンサは、2つの追加のインダクタ - コンデンサ(LC)フィルタ段を形成します。すべてのインダクタンスは、3端子コンデンサの等価直列インダクタンス(ESL)によるもので、非常に小さく、負荷過渡現象への影響は小さいです。貫通コンデンサは、出力電圧リップルを最小限に抑えながら、過渡応答を向上させます(図3、下)。

動的/静的RF負荷を組み合わせたアプリケーション回路の画像(クリックして拡大)図3:動的/静的RF負荷を組み合わせたアプリケーション回路を示しています。この回路では、3端子の貫通コンデンサ(右上隅)を使用して、負荷過渡現象に対して高速帯域幅を維持するために、最小の等価インダクタンスでポストフィルタリングを行います。貫通コンデンサは、出力電圧リップルを最小限に抑えながら、過渡応答を向上させます(下)。(画像提供:Analog Devices)

プリチャージング - 一部のケースでは、信号処理ユニットに汎用I/O(GPIO)が搭載されており、信号処理がスケジュール化されており、過渡事象が事前に分かるようになっています。これは、FPGAの電源設計の一部でよく見られ、電源の過渡応答を支援するためにプリチャージ信号を生成することができます。

一般的なアプリケーション回路(図4上)では、 FPGAが実際の負荷の前にプリチャージ信号を生成してバイアスを与えれば、その遷移によってデバイスが負荷擾乱に対応するための追加時間を確保でき、VOUTの偏差と回復を最小限に抑えることができます(図4下)。

エラーアンプの負の入力端子に供給されるプリチャージ信号の図(クリックして拡大)図4:エラーアンプの負の入力ピン(OUTS)にプリチャージ信号を入力し、高速な過渡応答を実現する例を示します。レギュレータのフィードバックはプリチャージ信号と負荷過渡(下)現象の両方の影響を受けます。(画像提供:Analog Devices)

アクティブドループ - ビームフォーマのアプリケーション(図5、上)では、さまざま電力レベルに対応する必要があるため、電源電圧は絶えず変化します。その結果、電源電圧に対して求められる精度は、5%から10%程度です。この種のアプリケーションでは、電圧の精度よりも安定性の方が重要になります。負荷過渡時の回復時間を最小化することが、データ処理の効率の最大化につながるからです。このアプリケーションで大きな効果を発揮するのがドループ回路です。ドループ電圧によって、回復時間は短縮されるか、ゼロになることもあるからです(図5、下)。

OUTSとVC間のアクティブドループ抵抗(R8)の図(クリックして拡大)図5:OUTSとVCの間にアクティブドループ抵抗(R8)を追加することにより、高速な過渡回復を実現できます(上)。ドループ過渡応答により、過渡回復時間を最小化することができます(下)(画像提供:Analog Devices)

デバイスによるイノベーションの実装および検証

これらのノイズ低減と過渡応答改善のコンセプトは、モノリシックデバイスであるSilent Switcher 3ファミリに組み込まれています。幅広い電圧と電流の最大値に対応し、ユーザーに妥協のない柔軟性と性能を提供します。この点を明確に示す2つの例として、LT8622SAV#PBF(図6、上)とLT8627SPJV#TRPBF(図6、下)があります。

電流と電力の低出力範囲では、LT8622SAV#PBFは2.7V~18Vの入力に対応する2アンペア(A)の連続出力スイッチングレギュレータです。出力電圧範囲は0V~VIN - 0.5 Vで、抵抗1本でプログラム可能です。出力電流範囲の大部分において効率は90%以上で、最大95%に達します。

Analog Devices LT8622の一般的なアプリケーション構成図(クリックして拡大)図6:一般的なアプリケーション構成における2A LT8622の効率と電力損失曲線(上)を示しています(注:回路図のLTC8624はLT8622と同一の特性曲線を有しますが、定格は4Aです)。6A LT8627の同じ情報も示されています(下)。(画像提供:Analog Devices)

LT8622SAV#PBFは、スイッチングレギュレータにおいて、0.1 Hzから100 kHzの低周波数帯域で卓越した出力ノイズ性能を実現し、RMSノイズはわずか4μVRMSです。動作周波数は調整可能で、300kHz~6MHzまで同期化できます。このデバイスは、4mm × 3mmの小型20リードLQFNパッケージに収められています。

より高出力の16A LT8627SPJV#TRPBFは、入力電圧が2.8V~18Vで、出力電圧は0~VIN - 0.5Vの範囲で抵抗による調整が可能です。効率は80%を超え、1MHzのスイッチング周波数で中間帯域の最適領域では90%に達します。低周波出力ノイズ特性は2A LT8622SAV#PBFと同等です。

動作周波数も調整可能で、300kHz~4MHzの範囲で動作および同期可能であり、低電流モデルよりも低い周波数に対応しています。パッケージはやや大きめの24リード4mm × 4mm LQFNで、オプションのヒートシンク用に背面が露出しています。

まとめ

革新的な製品、特に最先端のRF分野の設計者は、効率を求めますが、それには低ノイズと電源電圧に対する高速な過渡応答が伴わなければなりません。Analog DevicesのSilent Switcher 3ファミリのDC/DCレギュレータは、ノイズに敏感な動的負荷過渡性能を最適化した高効率モノリシックデバイスの次世代製品です。

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著者について

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Bill Schweber氏

エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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