モーション制御における良い、より良い、そして最高のプロファイル
モーション制御とは、モータとその負荷の性能パラメータを制御して、最適な方法で望ましい目標を達成する技能および技術のことです。このシンプルな定義の背後には多くの変数があります。位置、速度、加速度、ジャーク(加速度の変化)のうち、どのパラメータ属性を制御したいとお考えですか?主要な目的は正確な位置を達成することでしょうか、それとも速度を達成することでしょうか?最適なソリューションとは、必要とされる精度で、できるだけ早く目的を達成することですか?オーバーシュートについてはどうですか?負荷の変化については?電力効率や、失速などの不可避な障害への対応についてはどうでしょうか?
これらの目標は、多くの場合、ある程度矛盾するため、すべて達成するのは簡単ではありません。こうした目標を達成できるかどうかは、モータのモーションコントローラの機能に大きく依存しています。このコントローラは、制御システムの「頭脳」として機能し、アプリケーションの目的に合わせて設計および調整されたアルゴリズムを実装しています。また、これらのアルゴリズムでは、ステッピング、ブラシ付き、ブラシレスDC(BLDC)、ACなどのモータの種類を考慮する必要があります。さらに、負荷の性質(固体、液体、粉体、ギア、レール)、リンクやバックラッシュについても、これらのアルゴリズムでは考慮する必要があります。
コントローラは、MOSFETなどのパワーデバイスを搭載したモータドライバと連携して動作し、コントローラの指示に従ってモータへの電流を調節します。なお、一部のドライバには基本的なコントローラ機能があり、一部のコントローラは低電力のMOSFETを搭載できるため、2つの役割には機能的な重複があります。
良いプロファイルで開始
モータを必要な位置に到達させるための間違いない方法は、単純に電力を高め、モータを最大限の速度まで加速させ、その速度を維持して、モータが望ましい終点の位置または速度に到達したときに停止することです(図1)。
図1:最も簡単なモータのモーション管理方法は、望ましい終点に到達するまで最大限の速度でモータを加速させてから、突然停止させることです。(画像提供:Trinamic Motion Control GmbH)
台形プロファイルと呼ばれるこのアプローチは効果的で広く使用されていますが、多くのアプリケーションでは許容されません。たとえば、起動と停止の遷移時に加速度がゼロから最大になる際に生じる大きなジャークは、液体を乱したり、スロッシングを生じたりする可能性があります。また、実世界のモータやその負荷は瞬時には停止しないため、許容できないオーバーシュートが発生することがよくあります。
より良いプロファイルの取得
標準的な改善点は、起動位相と運転位相の間、および運転位相と停止位相の間に緩やかな遷移を加えることです。これは、S字曲線プロファイルとして知られています(図2)。
図2:S字曲線プロファイルは、停止位相と運転位相の間(およびその逆動作)の速度遷移点に丸めを加えています。(画像提供:Trinamic Motion Control GmbH)
「S」の部分をどれだけ鋭くするか、あるいは丸くするか、また全体のプロファイルの中でそれをどれだけ持続させるかは、アプリケーション、負荷、システムの優先順位によって決まります。その際、多くの性能目標や制約の中でトレードオフのバランスを考慮する必要があります。
加えて、ジャークの最小化も重要です。これにはもっともな理由があります。ジャークの値が大きいと、モーションプロファイルのスペクトルに含まれる周波数が増えるため、負荷の発振が誘発される傾向があり、システムの自然共鳴のような発振が1つ以上起きる可能性があります。このような発振が実世界に及ぼす影響は、不快なノイズから有害で破壊的な振動まで多岐にわたります。
結果として、このような発振は、より単純な(そしてやはり望ましくない)オーバーシュートとは異なるもので、一般的に許容されません。
「最高」のプロファイルの追求
基本的なS字曲線は効果的ですが、アプリケーションに最適なモーションプロファイルを提供できない場合があります。その理由は、モータのダイナミクス、負荷へのリンク、および負荷自体が、最初の単純なモーションモデルを非常に複雑にするからです。
制御されるモータの種類によってはさらに複雑になります。また、フィードバックセンサを追加して閉ループ制御を行うと、より精密で高速な応答が可能になりますが、そのためにはPID(比例積分微分)アルゴリズムなどのより高度な制御方法が必要になります。
S字曲線やより高度な制御を提供するための1つの選択肢は、必要な方程式をリアルタイムに実装する高度な数値処理能力を備えたマイクロプロセッサを使用することです。このマイクロプロセッサは、モーション制御に特化した他の内蔵ハードウェアの機能や特長によりサポートされています。これらのアプリケーションに最適化されたプロセッサは、プロセッサベンダーがよく提供するモーション制御ソフトウェアを実行できます。
たとえば、Texas InstrumentsのC2000ファミリはこうしたアプリケーションを対象とし、100MHzで動作する32ビットのデュアルコアプロセッサを備えたC28x/ARM Cortex-M3シリーズ マイクロコントローラであるF28M35H52C1RFPSを搭載しています。これは、512KBのフラッシュメモリ、2KBのRAM、および多数の通信ポートによりサポートされています。
Texas Instrumentsは、C2000ベースのモータ制御に2つの異なるパスを提供しているので、プロセッサはアプリケーションにアルゴリズムを合わせるためのソリューションの一部にすぎません。デジタルモータ制御(DMC)ライブラリは、長年にわたって作成されてきたモータ制御ソフトウェアのビルディングブロックを幅広く揃えており、ユーザー自身が最適な制御ループのチューニングを開発することを前提としています。このライブラリには、ハードウェア評価モジュールで提供されるベースラインシステム例が含まれており、経験豊富なモータ制御技術者の出発点として使用できます。
一方、モーションコントロールの経験が少ない設計者にとって、TIのInstaSPINモータコントロールソリューションは、高性能アルゴリズムへのアクセスを可能にする一方で、高度なソリューションを開発する際の現実的な課題の多くを簡素化します。 また、自動自己チューニングも備えているため、ユーザーによる最適化には及ばないとしても、アプリケーションの要件を十分に上回ることもできるでしょう。
他のベンダーは、スタンドアロンのICや完全なプリント基板モジュールを提供しています。多くの場合、これには高度なモーション制御アルゴリズムで完全に事前プログラムされた関連モータドライバが備わっていますが、ユーザーは主要なパラメータを設定したり、カスタムプロファイルを提供したりすることもできます。その好例が、ステッピング電源管理用デュアルコントローラ/ドライバTMC5041-LA-Tに対応する、Trinamic Motion Control GmbHのTMC5041-EVAL評価ボードです(図3)。
図3:TMC5041-EVAL評価ボードに搭載されたステッピング電源管理用デュアルコントローラ/ドライバTMC5041には、高度なモーション制御アルゴリズムと機能が組み込まれており、主要な動作パラメータをユーザーがプログラムできるようになっています。(画像提供:Trinamic Motion Control GmbH)
TMC5041は、高度なステッピングモータドライバのために、ターゲットの自動位置決めが可能な柔軟なランプ発生器などの機能を備えており、最高の効率と最高のモータトルクを組み合わせたノイズのない動作を保証します。事前にプログラムされた他の機能とともに、より迅速な安定化が必要な場合もある、加減速によるモータの逆起電力(BEMF)の変動にも対応しています。これにより、ユーザーは関連設定(指定されたPWM_GRAD)を調整および最適化し、可能な限り高速の加減速ランプを実現できます(図4)。
図4:ユーザーが指定した電流駆動値の設定によるTMC5041の高度な性能を示します。これは、最小限のオーバーシュートと迅速な性能に相応の最速の加減速を実現します。(画像提供:Trinamic Motion Control GmbH)
まとめ
効果的なモーション制御とプロファイル管理では、位置、速度、加速度のトレードオフを慎重に調整しながら、高い精度と性能を確保する必要があります。高度なモーションコントローラを使用して、モータを駆動する電流や電圧などの主要なパラメータを設定することで、優れた精度と精密さ、そして高速応答を実現することができます。
モーションコントローラには、高性能なマイクロプロセッサで実行されるアルゴリズムによって実装されるものと、組み込みファームウェアで事前にプログラムされ、ユーザーが動作点を調整およびチューニングして高度な性能を発揮できるようになっている専用デバイスがあります。
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3:専用MCUを使用したモーション制御設計の簡略化
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4:高度なモーションの制御
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