BLDCおよびPMSモータとセンサレスベクトル制御を使用して精密なモーション制御を実現

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

DigiKeyの北米担当編集者の提供

ロボティクス、ドローン、医療機器、産業システムなどのアプリケーションでは、精密なモーション制御の必要性が高まっています。ブラシレスDCモータ(BLDC)とAC駆動の永久磁石同期モータ(PMSM)は、必要な精度を実現しつつ、小型のフォームファクタで高効率化のニーズにも応えます。しかし、接続して作動させるのが簡単なブラシ付きDCモータやAC誘導モータとは異なり、BLDCやPMSMはより複雑です。

たとえば、特にセンサレスベクトル制御(フィールド指向制御またはFOCとも呼ばれる)のような技術は、センサのハードウェアが不要になるため、コスト削減と信頼性向上を実現でき、効率性にも優れています。設計者にとっての問題は、センサレスベクトル制御は実装が複雑であるため、開発期間が長くなり、コストがかかり、市場投入の時期に間に合わなくなる可能性があるということです。

このジレンマを解決するために、設計者はセンサレスベクトル制御ソフトウェアがすでに組み込まれている開発プラットフォームや評価ボードを利用することで、制御ソフトウェアのコーディングの微妙な差異にとらわれることなく、システム設計の問題に集中することができます。さらに、これらの開発環境では、モータコントローラと電源管理ハードウェアのすべてが完全なシステムに統合されているため、市場投入までの時間を短縮することができます。

本記事では、精密モーション制御のいくつかのニーズを簡単に説明し、ブラシ付きDC、AC誘導、BLDC、PMSMの違いを確認します。次にベクトル制御の基礎をまとめてから、Texas InstrumentsInfineon TechnologiesRenesas Electronicsのプラットフォームと評価ボードをいくつか紹介し、精密モーション制御システムの開発を容易にする設計指針を示します。

精密モーション制御の応用例

ドローンは複雑なモーション制御システムであり、一般的に4つ以上のモータを使用しています。ドローンのホバリング、上昇、下降を可能にするには、正確で協調したモーション制御が必要です(図1)。

ドローンが一般的に4つ以上のモータ(通常はBLDCまたはPMSM)を使用していることを示す画像図1:ドローンは一般的に、12,000回転/分(RPM)以上で回転する4つ以上のモータ(通常はBLDCまたはPMSM)を使用し、電子速度コントローラ(ESC)によって駆動されます。この例では、ドローンにESCモジュールを搭載し、センサレス制御のブラシレスモータを使用しています。(画像提供:Texas Instruments)

ホバリングするためには、ドローンを押し上げるローターの正味の推力のバランスが取れていて、ドローンを引き下げる重力の大きさと完全に等しくなければなりません。各ローターの推力(速度)を等しく増加させることで、ドローンは垂直に上昇することができます。逆にローターの推力を下げると、ドローンが下降します。さらに、ヨー(ドローンを回転させる)、ピッチ(ドローンを前後に飛ばす)、ロール(ドローンを左右に飛ばす)があります。

正確で反復的な動きは、多くのロボティクスアプリケーションの特長の1つです。定置型の多軸産業用ロボットは、重量の異なる物体を移動させるために、3次元で異なる量の力を与えなければなりません(図2)。ロボット内部のモータは、正確なポイントで可変速度とトルク(回転力)を供給し、それをロボットのコントローラが使用して、正確な速度と位置決めのために異なる軸に沿ってモーションを調整します。

定置型の多軸産業用ロボットの画像図2:定置型の多軸産業用ロボットは、重量の異なる物体を移動させ、組立ライン上の他のロボットと動作調整するために、3次元で異なる量の力を与えなければなりません。(画像提供:Texas Instruments)

車輪型移動ロボットの場合、精密な差動駆動システムを使用して、動作の速度と方向の両方を制御することができます。負荷のバランスをとるために、1つまたは2つのキャスタホイールとともに、2つのモータを使用して動作を実現します。2つのモータは、回転と方向転換を実現するために異なる速度で駆動しますが、両方のモータが同じ速度で駆動すると、前進または後退いずれかの直線運動になります。従来のステアリングシステムと比較すると、モータコントローラはより複雑ですが、このアプローチはより正確で機械的に単純であるため、より信頼性が高くなります。

モータの選択

基本的なDCモータやAC誘導モータは、比較的安価でシンプルに駆動します。掃除機から産業機械、クレーン、エレベータまで、さまざまな用途で幅広く使用されています。しかし、安価で駆動しやすい反面、ロボティクス、ドローン、医療機器、精密産業機器などのアプリケーションで要求される精密な動作を提供することはできません。

単純なブラシ付きDCモータは、整流子とブラシを使用し、回転に連動して電流の方向を機械的に切り替えることでトルクを発生させます。ブラシ付きDCモータの欠点としては、ブラシの摩耗によるメンテナンスの必要性や、電気的・機械的ノイズの発生などが挙げられます。パルス幅変調(PWM)駆動を用いて回転速度を制御することはできますが、ブラシ付きDCモータ固有の機械的性質により、精密制御や高効率化が困難です。

BLDCは、ブラシ付きDCモータの整流子とブラシを排除したものであり、ステータの巻き方によってはPMSMにもなります。BLDCモータではステータコイルが台形に巻かれており、発生する逆起電力(EMC)が台形の波形をしているのに対し、PMSMのステータは正弦波状に巻かれており、正弦波状の逆起電力(Ebemf)が発生します(図3)。

PMSMモータが正弦波逆起電力を発生させるグラフ図3:PMSMモータは正弦波のEbemfを発生させるのに対し、BLDCは台形のEbemf波を発生させます。(画像提供:Texas Instruments)

BLDCモータとPMSMモータのトルクは、電流および逆EMFの関数です。BLDCモータが矩形波電流で駆動されるのに対し、PMSMモータは正弦波電流で駆動されます。

BLDCモータの特長:

  • 6段階の矩形波直流電流で制御が容易
  • 大きなトルクリップルを生成
  • PMSMよりも低コスト、低性能
  • ホール効果センサまたはセンサレス制御での実装が可能

PMSMの特長:

  • 3相正弦波PWMを使用し、制御が複雑
  • トルクリップルなし
  • BLDCよりも高効率、高トルク、高コスト
  • シャフトエンコーダまたはセンサレス制御での実装が可能

ベクトル制御とは?

ベクトル制御とは、ベクトルで視覚化可能な直交する2つの成分として3相電動機のステータ電流を識別する、可変周波数モータ駆動制御方法です。一方の要素はモータの磁気フラックスを定義し、他方の要素はトルクを定義します。ベクトル制御アルゴリズムの中核には、以下2つの数学的変換があります。クラーク変換は3相系を2座標系に変換し、パーク変換は2相静止系のベクトルを回転系のベクトルとその逆数に変換します。

クラーク変換とパーク変換を使用することで、制御可能なステータ電流をローター領域にもたらします。これにより、モータ制御システムは、動的に変化する負荷の下でトルクを最大化するためにステータに供給すべき電圧を決定することができます。

高性能の速度制御や位置制御では、位相励磁パルスをローター位置と同期させるために、ローターシャフトの位置と速度をリアルタイムで正確に知る必要があります。この情報は通常、モータのシャフトに取り付けられた絶対エンコーダや磁気レゾルバのようなセンサによって供給されます。これらのセンサには、信頼性が低い、ノイズの影響を受けやすい、コストと重量が大きい、複雑性が高いといったシステム上の欠点があります。センサレスベクトル制御を使用すると、速度/位置センサが不要になります。

高性能マイクロプロセッサとデジタル信号プロセッサ(DSP)は、最新の効率的な制御理論を高度なシステムモデリングに具現化することを可能にし、あらゆるリアルタイムモータシステムに最適な電力と制御効率を確保します。マイクロプロセッサやDSPの計算能力向上とコスト低下の結果、センサ付きベクトル制御や、単純で低性能の単一可変スカラ電圧/周波数(V/f)制御は、ほぼ例外なくセンサレス制御に取って代わられると予想されています。

産業用および民生用ロボティクス向けの3相PMSMおよびBLDCモータの駆動

ベクトル制御の複雑さを回避するために、設計者は既製の評価ボードを使用することができます。たとえば、Texas InstrumentsのDRV8301-69M-KITは、DIMM100 controlCARDベースのマザーボード評価モジュールであり、3相PMSM/BLDCモータ駆動ソリューションの開発に使用できます(図4)。これには、デュアル電流シャントアンプと降圧レギュレータを備えた3相ゲートドライバDRV8301と、InstaSPIN対応のPiccoloTMS320F28069Mマイクロコントローラ(MCU)ボードが含まれています。

Texas InstrumentsのDRV8301-69M-KITモータキットの画像図4:設計者は、DRV8301とInstaSPIN対応のPiccolo TMS320F28069M MCUボードを含むDRV8301-69M-KITモータキットを使用して、3相PMSM/BLDCモータ駆動ソリューションを開発することができます。(画像提供:Texas Instruments)

DRV8301-69M-KITは、Texas InstrumentsのInstaSPIN-FOCおよびInstaSPIN-MOTION技術をベースにした、回転3相PMSMおよびBLDCモータ用のモータ制御評価キットです。InstaSPINを利用したDRV8301-69M-KITを使用することで、3相モータの素早い識別、自動チューニング、制御を行うことができ、安定した機能的なモータ制御システムを「瞬時に」実現できます。

DRV8301-69M-KITは、InstaSPIN技術と組み合わせることで、高性能、省電力、コスト効率に優れたセンサレスまたはエンコーダセンサ対応のFOCプラットフォームを提供し、開発期間を加速して市場投入までの時間を短縮します。そのアプリケーションには、ポンプ、ゲート、リフト、およびファンの他、産業用および民生用ロボティクスとオートメーションを駆動させるための、サブ60Vおよび40Aの同期モータが含まれます。

DRV8301-69M-KITのハードウェアの特長:

  • DIMM100 controlCARDに対応したインターフェースを備えた3相インバータベースボード
  • 最大60ボルトおよび40A連続動作をサポートするDRV8301、3相インバータ統合電源モジュール(1.5A降圧コンバータ内蔵)ベースボード
  • TMDSCNCD28069MISO InstaSPIN-FOCカード、InstaSPIN-MOTIONカード
  • MotorWare対応のTMDXCNCD28054MISO(別売)およびTMDSCNCD28027F + 外部エミュレータ(別売)との連携が可能

高性能、高効率のPMSMおよびBLDCモータドライブ

Infineon TechnologiesのEVAL-IMM101Tは、IMM101TスマートIPM(統合電源モジュール)を含むフル機能のスターターキットであり、高性能、高効率のPMSM/BLDCモータに対して使用できる完全に統合されたターンキーの高電圧モータ駆動ソリューションを提供します(図5)。また、EVAL-IMM101Tには、整流器やEMIフィルタ段など、IMM101T Smart IPMの「すぐに実行できる」評価に必要な回路や、PCとUSB接続できる絶縁型デバッガ部も搭載されています。

InfineonのIMM101T評価ボードの図図5:IMM101T評価ボードは、モーション制御エンジン(MCE 2.0)、ゲートドライバ、およびセンサレスFOCを使用してPMSMおよびBLDCモータを駆動できる3相インバータを含む、包括的なソリューションです。(画像提供:Infineon Technologies)

EVAL-IMM101Tは、IMM101T Smart IPMを使用したアプリケーション開発の初期段階で設計者をサポートするために開発されました。評価ボードには、センサレスFOC用の全アセンブリグループが搭載されています。モータ接続用に、単相ACコネクタ、EMIフィルタ、整流器、3相出力を搭載しています。また、パワー段には、電流センシング用のソースシャントとDCリンク電圧測定用の分圧器も含まれています。

InfineonのIMM101Tは、小型の12 x 12mm面実装パッケージでPMSM/BLDC駆動システム用のさまざまな制御構成オプションを提供し、外部コンポーネントの数とプリント回路基板(プリント基板)の面積を最小限に抑えています。パッケージは、ヒートシンクの有無にかかわらず、十分な性能を発揮できるよう熱的に強化されています。パッケージ下にある高電圧パッド間の沿面距離を1.3mmとし、面実装を容易にしながらシステムの堅牢性を高めています。

IMM100シリーズは、500VのFredFETまたは650VのCoolMOS MOSFETを内蔵しています。パッケージに採用されているパワーMOSFETにもよりますが、IMM100シリーズは、最大直流電圧500V/600Vで定格出力25Wから80Wまでのアプリケーションに対応します。600ボルトバージョンでは、Power MOS技術の定格が650ボルト、ゲートドライバは定格600ボルトであり、それによってシステムの最大許容DC電圧が決定されます。

24Vモータ制御評価システム

24ボルトPMSM/BLDCモータドライブの設計者は、RenesasのRX23Tマイクロコントローラ用RTK0EM0006S01212BJモータ制御評価システムを利用することができます(図6)。RX23Tデバイスは、単一のインバータ制御に適した32ビットマイクロコントローラであり、浮動小数点演算ユニット(FPU)を内蔵しているため、複雑なインバータ制御アルゴリズムの処理に使用できます。これにより、ソフトウェア開発やメンテナンスに必要な工数を大幅に削減することができます。

Renesasの24ボルトモータ制御評価システムの画像図6:RenesasのRX23Tマイクロコントローラ用24ボルトモータ制御評価システムには、評価パッケージに含まれるPMSMを駆動するためのインバータボードが含まれています。(画像提供:Renesas Electronics)

また、コアの関係上、ソフトウェアスタンバイモード(RAM保持あり)での消費電流はわずか0.45μAです。RX23Tマイクロコントローラは2.7~5.5ボルトの範囲で動作し、ピン配置とソフトウェアレベルでRX62Tラインと高い互換性を有しています。キット内容:

  • 24ボルトインバータボード
  • PMSM制御機能
  • 3シャント電流検出機能
  • 過電流保護機能
  • RX23Tマイクロコントローラ用CPUカード
  • USB mini Bケーブル
  • PMSM

結論

BLDCとPMSMを使用することで、コンパクトかつ高効率の精密モーション制御ソリューションを提供することができます。BLDCモータやPMSモータにセンサレスベクトル制御を採用することで、センサのハードウェアが不要になり、コスト削減と信頼性向上が図れるというメリットがあります。しかし、これらのアプリケーションにおけるセンサレスベクトル制御は、複雑で時間のかかるプロセスとなり得ます。

説明したとおり、設計者はセンサレスベクトル制御ソフトウェアが付属している開発プラットフォームや評価ボードを利用することができます。さらに、これらの開発環境では、モータコントローラと電源管理ハードウェアのすべてが完全なシステムに統合されているため、市場投入までの時間を短縮することができます。

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著者について

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Jeff Shepard(ジェフ・シェパード)氏

ジェフ氏は、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディターとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチモード電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。

ジェフはまた、後にComputer Products社に買収された高ワット数のスイッチング電源のメーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。ジェフは発明家でもあり、熱環境発電と光学メタマテリアルの分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、あちこちで頻繁に講演を行っています。彼は、定量的研究と数学でカリフォルニア大学から修士号を取得しています。

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