革新的な燃料電池と標準のDCモジュールにより、小型で長時間飛行可能なドローンを実現

ドローンといえば、重量と体積で評価したときにクラス最高の出力密度を持つリチウムベースのバッテリを使用していると考えるでしょう。しかし、小型ドローンが化学電池だけで動くと考えるのは、従来の常識にとらわれた考え方です。この考えを覆すのが、韓国のDoosan Mobility Innovation(DMI)社の小型ドローンで、これは燃料電池に電力を供給する加圧水素タンクを動力源としています(図1)。

図1:Doosan Mobility Innovation社の小型ドローンは、従来のバッテリではなく、水素燃料を動力源としています。(画像提供:Doosan Mobility Innovation)

このドローンは、1回限りのリサーチプロジェクトや高度な実験ユニットではありません。DoosanのDS30は、巨大な太陽光パネルの設置状況の点検や湖や河川などの水路の点検、AED(自動体外式除細動器)などの医療品を遠隔地に届けるなどのプロジェクトですでに使用されている市販のドローンです。

このコンパクトなオクトコプター(8ローター)の大きさは、2m × 2m弱、高さ750mm、10.8リットルのタンクを搭載して重量は21kgです(図2)。持ち運びの際には、一辺が1m以下のケースに収めることができます。

図2:DS30は、約2m四方サイズの8ロータードローンで、1m四方に折りたたむことができます。(画像提供:Doosan Mobility Innovation)

同社のデータによると、水素のエネルギー密度はリチウム電池の約4~5倍と良好で、燃料電池と併せて5kg(最大)のペイロードで約120分の飛行が可能で、最大80kmの距離を移動できると言います。バッテリと同様、燃料補給も簡単で、軽量のカーボンファイバ製タンク(図3)が空になったら、数分で別のタンクと交換でき、地上での作業時間を最小限に抑えます。タンクのサイズは、長さ435mm、直径225mmと控えめで、圧力は350barです。

図3:10.8リットルの水素タンクは、軽量なカーボンファイバーでできており、350barの圧力で作動します。(画像提供:Doosan Mobility Innovation)

最新の燃料電池

基本仕様は物語の一部に過ぎません。革新的設計の総合パフォーマンスの出発点となるのは燃料電池です(図4)。燃料電池の技術は何十年も前からあり、アポロ計画の月面探査にも使用されましたが、Doosan社では独自の設計と材料を使用して、より効率的で軽量な燃料電池を開発しました。

図4:燃料電池の原理は単純ですが、近年、構成の細部や材料の進歩により、効率の向上や軽量化が図られています。(画像提供:Doosan Mobility Innovation)

燃料電池は電源パック全体のごく一部を占め(図5)、挿入されたタンクから水素を取り出し、それを酸素と結合して発電します。

図5:燃料電池は、電源パックの一部として水素タンクの横に取り付けられています。(画像提供:Doosan Mobility Innovation)

DS30ドローンのDP30電源パック一式の定格は、連続出力2.6kW/ピーク出力5kWです。10.8リットルのタンクを装着した状態での重量は12.34kgです。

素の燃料電池から安定化レールまで

もちろん、燃料電池の素のDC出力だけでは十分ではありません。この出力電圧は、ローターモータや電子機器にクリーンで安定したDCレールを供給するために調整する必要があります。

Doosan社のエンジニアが、古典的な設計上の判断を迫られたのはこの点です。つまり、設計に必要な数多くの機能のうち、革新的なカスタム設計と適切な標準部品のどちらを選択するかということでした。実際には、違いを生む部分でのみイノベーションを行うことが最も理にかなっていることがよくあります。ここでの主役は燃料電池のパワーユニットです。そして、可能な限り高性能の既製部品を使用することで、設計者は、設計上の未知数、リスク、統合の問題、市場投入までの時間の遅れ、その他の望ましくない、あるいは予期しない「驚き」を最小限に抑えることができます。

DS30ドローンの場合、燃料電池は40V〜74Vの広い範囲で可変の開回路電圧(OCV)を備えています。これによって、電源パックは2つの電力配電回路網(PDN)を提供します。1つはドローンの8つのローターモータに電力(48V、12A)を供給し、もう1つはコントローラボードと冷却ファンに12V、8Aの出力を供給します。Doosanは、PDNの高効率化と高エネルギー密度を実現するために、Vicor Corp.の3つの標準製品を選択しました(図6)。

図6:燃料電池の電源サブシステムには、2つの主要な分岐があります。1つはローター用で、もう1つは制御盤と冷却ファン用です。(画像提供:Vicor Corp.)

2つの水素燃料電池スタックからの出力を昇降圧レギュレータで受け、ローターに48Vの確かな安定化出力を供給しています。Vicor社のPRM48AF480T400A00昇降圧レギュレータ(32.5mm × 22mm)を2基並列に配置し、ローターが必要とする12Aを供給しています(図7)。

図7:2基のVicorのPRM48AF480T400A00昇降圧レギュレータを並列に配置し、ローターモータに電力を供給します。(画像提供:Vicor Corp.)

スタックコントローラボードには、VicorのPRM48AH480T200A00(22.0mm × 16.5mm)の低電力レギュレータが使用され、4.17Aで48V安定化出力を実現しています(図8)。さらに、48Vから12Vのゼロ電圧スイッチング(ZVS)降圧レギュレータPI3546-00-LGIZ(10mm × 10mm)が搭載されています(図9)。

図8:最終段のレギュレータの前で、VicorのPRM48AH480T200A00を使用してDCレールを「事前調整」しています。(画像提供:Vicor Corp.)

図9:コントローラーボードとファンへの電力を最終的に調整するのは、VicorのPI3546-00-LGIZです。(画像提供:Vicor Corp.)

これらのDC/DCレギュレータの選択の結果として、燃料電池電源システムは、わずか23.4Wの損失でDC入力からレールへ96.6%の出力効率を提供します。これがDIYソリューションであれば、改善が難しく、時間もかかり、慎重な性能評価が必要になるでしょう。

まとめ

製品イノベーションを成功させるには、最先端の技術、型破りな発想、粘り強さが噛み合わせることが必要であり、これに必要な性能を備えた標準的な既製品を組み合わせることも必要です。そうすることで設計チームは、懸念事項のリストからできるだけ多くの機能ブロックを取り除きながら、システム開発、デバッグ、統合の問題に集中することができます。

参考資料と仕様

1 - DoosanのDS30ドローン:https://www.doosanmobility.com/en/products/drone-ds30/

2 - DoosanのDP30電源パック:https://www.doosanmobility.com/en/products/powerpack/

3 - Doosanの水素タンク:https://www.doosanmobility.com/en/products/hydrogen-tank/

4 - Vicor:http://www.vicorpower.com/resource-library/case-studies/doosan

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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