どれだけ温度が低くなるのでしょうか?極低温度の測定はまさに別世界

一般的な用途における温度測定は、水の凝固と沸騰(0ºC~100ºC)というきわめて限られた範囲内で行われますが、このレベル以上または以下になる状況も多いことは確かです。幸いにも、使いやすく-50ºC~+125ºCの仕様に対応したソリッドステートセンサが低コストで入手できます。また、さらに広い温度範囲で利用できる特別な製品もあります。さらに、熱電対、抵抗温度検出器(RTD)やサーミスタも、広い温度範囲に対応できます。

たとえばVishay ComponentsPTCSL03T091DT1Eサーミスタは定格-40ºC(277K)~+165ºC(438K)であり、TE Connectivity Measurement SpecialtiesR-10318-69 T-タイプ熱電対はこれより広い範囲の-200ºC(73K)~+350ºC(623K)に対応しています。一般的に、このような測定に対応するセンサの選定自体は困難ではありません。そのかわり、こうしたセンサを実際に採用すると課題が生じてくることがあります。

温度が数千ºCもの非常な高温に達していくにつれ、センサのオプションはどんどん限られていきます。通常は、幅広いタイプの熱電対か、赤外線検出装置のいずれかを選定することになります。対象物の測定を高温で行う場合、対象物への影響を最小限に抑えながらセンサで大量のエネルギーを取得する必要があります。

しかし2桁台の前半(数十K)、1桁台(1~9K)、さらには1ケルビン未満(<1K)のようにきわめて低い温度で測定を行う場合はどうなるのでしょうか?実は0.01Kもの低温での研究も行われており、IEEE Spectrumの最新記事「Quantum Computing: Atomic Clocks Make for Longer-Lasting Qubits」では、100nKよりも低い温度で行われた研究について述べられています。(ここまで温度を下げる方法も、大変興味深い話です!)しかしここまで低温の状態で、正確な温度はどのようにして知ることができるのでしょうか?こうした極低温度での正確で信頼性の高い測定は、以下の理由から非常に不可思議な世界になっています。

  • 1つ目は、物理の法則が明らかに有効である間に、測定物質がその形態を大きく変えるのに伴い、その特性や反応も根本的に変化することです。極低温度領域の環境では、センサの性能や直線性などの重要な属性が著しく移り変わります。水から氷または水蒸気への変化については理解しやすいのですが、極低温度領域での変化はこれよりもはるかに把握するのが難しいのです。
  • 2つ目は、測定アプローチには通常、このような温度へ達するのに用いられる数々の方法と密接なつながりがあることです。たとえば、2テスラ以上に達するような強い磁界は過冷却の主軸となりますが(方法と理由についてはまたの機会にご紹介します)、こうした磁界が検出装置やそのコンポーネントに重大な影響を及ぼします。
  • 3つ目は、非常な極低温度で実行するプロジェクトでは、場合によっては数個の原子や分子しかない極めて小さい質量を取り扱うことが多くなることです。したがって、エネルギー量の小さい分子を少量だけ取り扱わなければならないという二重の課題が生じます。センサの装着が不可能であるのは明らかですが、もしそれができたとしても、センサが測定対象物質に深刻な影響を及ぼしてしまうでしょう。これは測定作用が測定対象物質に影響を及ぼすという点で、さまざまな形で量子物理学における「ハイゼンベルグの不確定性原理」の必然的な結果となります。

図1: ケルビンの値が非常に小さい極低温度での測定にはさまざまな物質を用いることができます。縦軸が直線性ではないことに注意する必要があります。CLTSは極低温度用の直線性温度センサのことで、マンガニンやニッケル箔の検出グリッドからなるフラットで柔軟性の高いセンサです。また、RuO2は酸化ルテニウムを表します。(画像提供:ICE Oxford Ltd.)

科学者や研究者はそれでもなお、こうした測定を行う必要性にかられています。「どこまで温度を下げるか」や、「何を測定するのか」(固体の塊、ガス状のクラスタに含まれる分子、個別の分子など)に応じてさまざまな選択肢があり、0Kに近接する温度での研究や実用的アプリケーションは数多くあります。相対的に言えば、ロケットの燃料に使われる液体酸素(90K、−183ºC)および水素(20K、−253ºC)の取り扱い、また窒素(77K、−196ºC)の作業も簡単です。それとは逆に、液体ヘリウムはMRI機器の磁気を超電導領域まで冷却するのに用いられますが、温度が約4K(−269ºC)となるため評価を行うのが非常に困難です。

温度測定を行うための鍵となるのは、「温度」と呼ばれるものがまさに、あらゆる測定対象物質のエネルギーを測る指標となるのを忘れないことです。ユーザーはほぼすべての温度測定において、以下3つの仕様について検討する必要があります。それは「対応すべき温度範囲」、「求められる絶対精度」、「精度の桁数(分解能)」です。次に、これらの温度で測定装置が受けると想定される影響について評価する必要があります。

やや驚くべきことには、一般的に「常温」により近い温度範囲で使用されるセンサでも、1桁台後半の領域まで対応できるということです(図1)。これらのオプションの中には(プラチナあるいはロジウム鉄を使用した)RTD、ゲルマニウムあるいは従来からのカーボンをベースとした抵抗器も含まれます。しかしこれらの機構がなす強い磁界が数ケルビン程度のセンサ誤差を引き起こすことがあります。研究業界の現実として、極低温度での検出に対する需要が高いため、このような変換器がさまざまな供給業者から標準的に提供される製品になりつつあります(これは、考えてみるとかなり驚くべきことですね)。

また、さらに複雑なオプションとして、光ファイバなどの高度な光学技術によるブリルアン散乱の活用もあります。しかし「慎ましい」コンデンサでさえも、その物理的な寸法や形状や静電容量などのおかげでブリッジ配列で使用することができ、注意深くモデリングした温度機能としての関係性が認知されつつあります。

しかしこれらの技術は少量の分子の温度測定を対象としてはいません。このような状況下では、非常に難解なアプローチが必要になることもあります。ある装置では高精度グラジエントにより、密封された測定対象物質の周りから強い磁界を除去し、この領域に沿って測定対象物の分子がどのように分散しているかを観察することでエネルギー量や温度を表示します。また、別のスキームでは、レーザーで分子を押し出すことで、レーザーのエネルギー量とその結果に生じる動きの比率で目的のエネルギーを表示します。上記の、およびその他の複雑な手法は準備が難しいだけでなく、その二次的・三次的な物理特性の繊細さをシステムの不完全性とともに幾度も修正・補正することが必要です。

したがってもし今度、温度測定シナリオが困難なものだと不満に感じることがあるならば、極低温度領域(1K近傍、場合により1K未満も)での研究作業について思い浮かべてみましょう。それは不可思議な世界で、どんな研究者も計測器にまつわる永遠に答えの出ない問い「読み取り値をどうやって較正し、確認し、検証したら良いのか」に対して自問自答を繰り返すのです。それはさながら悪夢のようです。

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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