コイン型、ボタン型電池の種類の増殖:必然か設計の拙さか?
コイン型電池およびボタン型電池は、携帯性の高い多くの電子製品のみならず、遠隔に配置される産業用モノのインターネット(IIoT)の監視デバイスにも広く使用されている、基本的な1次(非充電式)電源です。超低電力設計の広まりにより、これらの電池は数か月、さらには数年間も電力供給する場合があり、これはかなり驚くべきことです。ですが、交換が必要になるまで待ってみてください。すると場合によっては「楽しいこと」(言い換えると、いら立ちと不満)が始まります。
なぜでしょう?あなたが幸運ならば、必要とする電池は広く出回っている標準的な製品であり、たいていはこのケースに当てはまりますが、必ずそうなるとも限らないからです。ボタン型電池およびコイン型電池には数百ものサイズ(径と厚みの組み合わせ)と、各種の基本的化学組成(酸化銀やリチウムなど)、公称電圧、定格容量(単位はmAh)の製品があります。なかには寸法が型式間で1ミリの数分の1しか違わないものもありますが、それだけでも交換した際にきちんと収納できなかったり信頼性のある動作ができなかったりします。
理想が叶うならば、設計技術者は設計段階の初期に電池用にある一定のスペースを割り当てるでしょう。そして電圧および容量の定格が適合した、まずまず一般的な製品を選択し、最終設計には必要な物理的スペースが確保できるようにし、設計の進行の過程で電力バジェットを守るようにするでしょう。しかし、エンジニアリングとはトレードオフおよび妥協をしつつ目的を実現することであり、当初の計画を忠実に守っていても、ときにはその変更を余儀なくされる予期せぬ設計上の「詰め込み」が発生することがあります。
筆者は数年前、自分が所有している民生製品の設計者と話したことがあります。その製品には、入手しにくいコイン型電池が使用されていました。そこで、筆者はストレートに尋ねました。「どうしてあの電池を使ったのでしょうか」と。彼の答えは次のような単純なものでした(もちろん、ここでは表現は変えてあります): 「設計の最終的なフォームファクタが決まってきたときに、当初使おうとしていた電池ではスペースが足りないことがわかったのです。最も簡単な対処方法は、電圧と容量の仕様が一致する、もう少し小型の電池を見つけることでした」そして、あれはBOMの記載ではリードが長い特注の製品でしたが、まだ最終製品の装飾をする必要があったので、それで十分だったと付け加えました。要するに、その決定が行われたときにこの製品の購入者のことは考えられていなかったのです。お気の毒さま。
電池の型番を確認する
場合によっては、電池の型番は複数のクロスリファレンスがあることがあり、それによって交換が難しくなることがあります。これらのクロスリファレンスは正しい場合もありますが、化学組成や容量が近いながらも異なっていて、それでも機能するものがあります。少なくともしばらくは、の話ですが。
たとえそうであっても、電池の名前と型番を知るだけでは不十分な場合があります。筆者には、プロモーション特典の小型キーチェーンライトで、新しい電池が必要になったものがあります(図1)。もちろん、電池交換の費用をかけるほどのものではないでしょう(無料だったので文句は言えません)。とはいえ、技術者として、少なくとも交換品は入手できるのか、価格はいくらかを確認したくなりました。
図1:この無料のLEDキーチェーンによって、筆者は標準的でないコイン型電池は交換が必要になったときに大きな問題になる場合があることがよくわかりました。(画像提供:Bill Schweber氏)
電池のケースにはベンダー名(Lumatec)、型番(AR18)、電圧(4.5V)が明瞭に刻印されているので、これは簡単なことだと思いました(図2)。なんと行き届いているのでしょう。極端なコスト節約の例として、LEDの片方のリードが電池にセロハンテープで留められているだけであることに注意してください。これは見事なミニマリズムの設計または最大限の粗末なエンジニアリング、あるいはその両方であると見ることもできます。
図2:よく見ると良い点がみつかります。この電池にはベンダー名と型番、さらに公称電圧も明瞭に記されているからです。LEDのリードを電池に接続するためセロハンテープが使われている点には注意してください。(画像提供:Bill Schweber氏)
オンライン検索をしましたが、このベンダー名も電池の型番も見つけられなかったので、次のステップに移りました。電池のサイズを測定し(図3)、ケースの径が23mm、縁を含めた全体の径が25mmで、厚さが6.5mmであることがわかりました。次にさまざまなコイン型電池ベンダーのサイトを検索し、こうしたサイズで4.5Vの電池を探しましたが、見つかりませんでした。結局、かなりの時間を無駄にしてしまい、強迫観念になってしまうまえに新しいことに取り掛かる必要があることに気付きました。
図3:検索を次の段階に進めるため、オンラインで交換品を探す論理的な第一歩として電池の各種寸法を測定しました。(画像提供:Bill Schweber氏)
筆者の経験では、使ったことのある多数のデバイスのコイン型電池またはボタン型電池は5~10種類程度あり、近くの店で追加購入できます。それらはOEM用の数量を広くディストリビュータから入手することもできます。
個人的に気に入っている製品の1つがPanasonicのCR2032です。この3V、225mAh、20.0mmのコイン型二酸化マンガンリチウム電池(図4)は、きわめて広く使用されており、Digi-Keyでは300万個近く在庫をもっています。
図4:Panasonic CR2032コイン型電池(左)は広く使用されており、入手も容易です。この寸法のため多数のアプリケーションに適し(右)、225mAhと十分な定格容量をもちます。(画像提供:Panasonic)
もう1つ、紹介しておきたいのが、Energizer Battery Companyの357-303VZです。これは、1.55V、150mAh、11.6mmの酸化銀電池です。筆者はこれらの種類の電池数個と他の種類いくつかを常に個人的なストックにしていて、遅い時間や悪天候のときに近くの店に交換品を買いに出なくてすむようにしています。保存寿命が5年以上あることを考慮すれば、これは合理的なストック体制です。
筆者が設計者に言いたいことはシンプルです。それは、本当にやむを得ない事情がない限り、コイン型電池またはボタン型電池はあくまで主要なモデルを使用してくださいということです。そうすることが、自分自身を助け、サプライチェーンを容易にし、エンドユーザーを幸せにするのです。エンドユーザーが、悩まされたり面倒をかけられたりするようなことをされたといって、技術者一般にむやみに怒りを向けることもしないでしょう。これも同様に重要なことです。
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