パワーエンジニアリングがついに尊敬されるのはいつ?

一般的に、電気技術者(EE)は世間の人々から尊敬されますが、ある「タイプ」の技術者は他の技術者よりも尊敬の目で見られるようです。ローパワーシステムの設計者は、「信じられない、こんなに小さな電池で数週間も動くように作るなんて!」と絶賛されます。ほぼ常にキーボードの前に座って過ごすエンジニアも、「いいなプログラマは、一生安泰だよね」と言われます。

私はハードウェア(いわゆるサーキットリー)エンジニアを贔屓目に見ますが、通常のプロジェクトには幅広い一連の技術的スキルが必要なことも承知しています。なので、マイクロパワーやキーボードのエンジニアにも彼らが受けるべき敬意を、この場で表しましょう。

しかし世間には、本当は重要な仕事に取り組んでいるのに、普段その苦労がほとんど知られず報われないEEの層も存在しているようです。たとえば、数百ボルトや数百アンペア、数十キロワットを超えるようなハイパワーの分野に取り組む技術者層です。そのようなアプリケーションは世間の人には馴染みがないので無理もない、と言う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。これらのハイパワーのアプリケーションは、工業環境や電車用の25kV架線など、消費者から比較的縁が遠い分野に限られるわけではないのです。

たとえば電気自動車(EV)なら、多くの消費者にも直接または少なくとも間接的に触れたことがある身近な存在でしょう。EVの充電池のエネルギー容量は約25kWhr(キロワット時)~70kWhr以上にも及び、300Vから400Vを約1000Aで供給できます(これらのトラクションモータセットは最大300馬力以上)。これらの数値、つまりエネルギー容量、電圧、電流はいずれも、EVパワーパック、変換、管理、および配電が、設計や試験、メンテナンスの面で非常に難しい問題になることを意味します。

これら(ハイパワーとローパワー)の設計環境の違いは、数値データ自体や数値の尺度の問題だけではありません。ハイパワー分野のあらゆる作業に取り組むには、むしろまったく異なる考え方とアプローチが求められます。ローパワーの設計では、配線を移動したり局所はんだ付けしたりすることや、アイデアが妥当かを即座にテストして確認するなど、状況に応じてその場で何かを試すことは大きな問題ではありません。しかしハイパワーのレベルに従事する場合、具体的な作業を行う前に、すべての行動を計画、シミュレーション、評価、査定し、ダブルチェックして臨む必要があります。そこでは、非常に膨大な量の高密度に蓄積されたエネルギーを扱うことになるのです。

さらに、試験を行う問題もあります。システムが何を実行し、変化が生じたときの影響がどの程度かを判断するあらゆる面で、試験の計画とアレンジを慎重に組み立てる必要があります。デジタル電圧計(DVM)のリード線を目的のポイントにクリップで留めれば済むわけではありません。インラインシャント抵抗による電流測定など、ルーチンの必要な作業であっても、部品、インターフェース回路、ガルバニック絶縁は当然のこと、物理的な接続の実装についても慎重に検討する必要があります。

たとえば、シャント抵抗器を使用して高電流導体の電流を測定しようとする場合を考えてみましょう。これは周知の技法ではありますが、EVの数百アンペアを調べようとする場合、シャント抵抗の値をできるだけ小さくして、IRで引き起こされる電圧降下とセンス抵抗のI2R熱放散の両方を減らす必要があります。

幸いにも、抵抗値が非常に低い標準シャント抵抗器を利用できます。たとえば、Vishay Daleが提供するWSBS8518ファミリは、標準定格が100、500、および1000μΩ(わずか0.1、0.5、1.0mΩ)です(図1)。このシャント抵抗器は、長さ約85mm、幅18mmの、一見普通の金属「ストラップ」にしか見えませんが、金属個体のニッケルクロム合金で作られており、抵抗温度係数(TCR)は±10ppm/°Cの低さです。

図1:このμΩレンジのシャント抵抗器は他の電子部品に比べて簡素にも見えますが、入念に設計、製造された個体金属のニッケルクロム合金製品で、非常に低い温度係数とケルビン接点を持ちます。(画像提供:Vishay/Dale)

ところで、この抵抗を負荷ラインに物理的にどのように接続すればよいでしょう?数mΩの接触抵抗であっても結局電力を散逸し電圧を降下させてしまうので、シャント抵抗器接続のアセンブリは設計上のもう1つの問題になります。さらに電圧センシングリード線を接続する必要もあります。幸い、この特定シャント抵抗器には一体式のケルビン接点があるので、多くのシャント抵抗とは対照的にその作業はある程度容易になります。

「パワーエンジニア」の誰もがほとんど尊敬されない、というわけではありませんが、残念な状況に置かれているのは、多くが電力関係のエンジニアのようです。アポロ月面着陸50周年に関心が集まっていますが、当時、サターンロケットの第1段を動かした5基のF-1ロケットエンジンが生み出す発射の推進力を見たときは、本当に感銘を受けました。(図2)。

図2:目立たないパワーと非常に目立つパワーがありますが、5基のF-1エンジンを搭載したサターンV型ロケットは間違いなく後者でしょう。(画像提供:NASA)

数字から具体的に想像するのは難しいかもしれませんが、サターンV型第1段ロケットは203,400ガロン(770,000リットル)のケロシン燃料と318,000ガロン(120万リットル)の液体酸素を積んでいました。各F-1燃料ポンプは55,000馬力のタービンで駆動され、毎分約15,000(米液量)ガロン(ほぼ60,000リットル)のケロシン燃料を供給し、液体酸素ポンプは毎分25,000ガロン(94,000リットル)の液体酸素を供給しました。また各ターボポンプは、-300°F(-18°C)の液体酸素に対する1,500°F(820°C)の入力ガスに耐える必要がありました。発射時に5基のエンジンが生み出した推力は750万ポンドです。

これらのF-1エンジンをテストスタンドで定位置に保持するために必要な固定具や、ロケットモータがフルパワーに達してもサターンロケットを点火後に発射台に保持する保持クランプを想像するとどうでしょう。それらは数百万ポンドもの推力に抗ってロケットを保持する上に、排気ガスが充満する環境でも円滑で安定したリリースを行う必要があるのです(一体どうすればテスト可能?)。

打ち上げの成否に関わらず、非常に目立ちやすいロケットのパワーによってロケットエンジニアはその手腕に相応しい尊敬の念を集めるはずです。対照的に、電気エネルギーはそれほど「目立たず」、電力エンジニアはそのような尊敬の目で見られません。ロケット発射後にエンジン噴射でできる巨大な航跡はそのパワーをリアルに印象付けますが、バッテリパック内の電子は無音の動作が普通なので、「大したことない」ように見えます。

ハイパワーレベルに従事するEEは、将来より多くの尊敬を集めるでしょうか?もちろん何とも言えません。もし尊敬されれば素晴らしいことです。なぜなら、EV、ソーラーパワー、スマートグリッドなどマスマーケットのアプリケーションには、キロワットやメガワットの専門知識が必要だからです。

 

参照資料:

1 – ロジャー・E・ビルステイン、『Stages to Saturn: A Technological History of the Apollo/Saturn Launch Vehicles』(ファイル(サイズ168MB)の無料ダウンロードはこちら。章ごとの無料ダウンロードはこちら

2 – チャールズ・マレー、キャサリン・ブライ・コックス、『Apollo: The Race to the Moon』

3 – Wikipedia、『Rocketdyne F-1

著者について

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エレクトロニクスエンジニアであるBill Schweber氏はこれまで電子通信システムに関する3冊の書籍を執筆しており、また、発表した技術記事、コラム、製品機能説明の数は数百におよびます。これまで、EE Timesでは複数のトピック固有のサイトを統括するテクニカルウェブサイトマネージャとして、またEDNではエグゼクティブエディターおよびアナログエディターの業務を経験してきました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)ではマーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その職務を通じて、企業の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する役割と、自らもそれらを受け取るという技術PR業務の両面を経験することになりました。

広報の業務に携わる以前は、高い評価を得ている同社の技術ジャーナルの編集委員を務め、また、製品マーケティングおよびアプリケーションエンジニアチームの一員でした。それ以前は、Instron Corp.において材料試験装置の制御に関するハンズオンのアナログおよび電源回路設計およびシステム統合に従事していました。

同氏はMSEE(マサチューセッツ大学)およびBSEE(コロンビア大学)を取得した登録高級技術者であり、アマチュア無線の上級クラスライセンスを持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADC選定およびLED駆動などのさまざまな技術トピックのオンラインコースを主宰しており、またそれらについての書籍を計画および執筆しています。

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