単一のプラットフォームを使用したワイヤレスセンシングノードの迅速な試作およびデバッグ
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2020-01-29
ワイヤレス接続されたセンシングデバイスの開発者は、HVACおよびファクトリオートメーションから自動車、医療、民生用電子機器に至るまでの分野で、迅速かつコスト効率よく作業を反復することを継続的に求められていると同時に、規制、相互運用性、性能に関して増大し続ける課題に対応する必要があります。多くの場合、ワイヤレスセンサ製品をゼロから設計して、性能およびサイズに関して差別化することは魅力的ですが、迅速な試作と開発のために設計されていることに加えて、サポートとスケーラビリティのエコシステムが確立されている既製のキットを使用する方が速さとコスト効率の点で優れています。
そのようなプラットフォーの1例は、Texas InstrumentsのLPSTK-CC1352R LaunchPad SensorTagキットです。このキットでは、マイクロコントローラ(CC1352R)、センサ、複数のワイヤレスインターフェース、比較的高い性能、低い消費電力のすべてが小型でコンパクトなフォームファクタに統合されており、ソフトウェアとツールサポートの広範な実証済みのエコシステムを備えています。
この記事では、ワイヤレスセンサ製品の設計および試作に関する発展性について説明し、CC1352R SensorTagキットとその使い方を紹介します。
ワイヤレスセンサ試作キットを使用する理由
ワイヤレスセンサデバイスは、扱いにくい問題を設計者にもたらします。これらのデバイスは、メンテンナンスを最小限にするために、バッテリを交換する前に、現場で実際に少なくとも1~10年持ちこたえる必要があります。また、一定レベルのオンボード処理および分析を実行できる必要があります。モノのインターネット(IoT)ネットワークのエッジに可能な限り近い場所で処理および分析を行うことにより、交換する必要のあるデータの量が削減され、その結果、消費電力が抑えられ、利用可能なワイヤレス帯域幅をより有効に活用できます。
ワイヤレス帯域幅には固有の問題があり、設計者は、Bluetooth、Thread、サブGHzの周波数または2.45GHzで動作するZigbeeなど、複数のワイヤレススタックから選択する必要があります。利用可能な帯域幅、電力、処理リソースの使用方法に関して、各スタックに固有の長所と短所があります。スタックを選択するときは、データレート、範囲、予測されるノード数、ネットワークトポロジ、レイテンシの要件、デューティサイクル、消費電力、ネットワークプロトコルのオーバーヘッド、、相互運用性、および規制要件に関するアプリケーション要件を慎重に分析する必要があります。
新しい「未使用の」展開向けに適切なインターフェースを選択することは比較的簡単ですが、産業用IoT(IIoT)アプリケーションの場合、ワイヤレスネットワークがすでに展開されていることが多いため、設計者は、同じインターフェースを使用して他のノードに直接接続するか、アプリケーションにより適した別のインターフェースを使用するかを決定してから、ゲートウェイを介して古いノードを新しいノードに接続する必要があります。
これらの問題はすべて、設計者が取り組む必要のあるアプリケーション関連のデシジョンツリーですが、アイデアを試作および開発する場合は、ソフトウェアの開発や統合のため費やす時間やリソースについてもそうですが、インターフェースをゼロから設計してから、関連するプロセッサやセンサを選択することに価値はほとんどありません。「独自の」設計は、生産量が非常に多い量販用設計向けに利点があることは事実ですが、多くの場合、工場の独自の製品ライン向けのノードを設計するエンジニアは、いくつかのモータ、製品ラインの特定のポイント、または温度計からデータを取得するために少数のノードのみが必要になるため、大量生産は設計上の要件ではありません。そのような場合は、既製のキットが最適です。
大量生産が必要な場合は、規制に準拠した認証済みの市販のRFモジュールが利用できます。これらのモジュールではファームウェアとソフトウェアのサポートが充実しているため、試作を加速し、開発と展開のコストを下げることができます。これらのケースでは、設計者は、必要なプラットフォームプロセッサ、センサ、各センサと追加ブロック用の関連ソフトウェアエレメントを引き続き組み合わせる必要があります。
使用する必要があるワイヤレスインターフェースを設計者がすでに決定している場合は問題ありませんが、相互運用性がないことが多いレガシーワイヤレスインターフェースが使用されている場合に、複数のアプリケーションに対して複数の設計をまだ検討している段階では、ワイヤレスセンサの試作と開発に向けたより柔軟なアプローチが必要です。
SensorTag:ワイヤレスセンサの包括的な試作プラットフォーム
より適切なアプローチは、ワイヤレス対応のセンシングおよび処理ノードのコアエレメントとセンサ、ソフトウェア、エコシステムを統合する既製のプラットフォームを見つけて、設計者をサポートするとともに、ソフトウェア開発スタックのより高い階層で調査と差別化を引き続き行えるようにすることです。この方法は、Texas Instruments(TI)がLPSTK-CC1352R LaunchPad SensorTagキットで提供しています(図1)。
図1:LPSTK-CC1352R LaunchPad SensorTagキット には、ワイヤレスセンサアプリケーションの試作と開発に必要なすべてのものが含まれています。(画像提供:DigiKey。Texas Instruments提供の原資料に基づく)
このキットはTIのCC1352Rマルチバンドワイヤレスマイクロコントローラ(MCU)に基づいており、環境センサとモーションセンサが追加されています。これらすべてが、外部サブ1GHzスイベルアンテナ、2線式メス-メスケーブル、JTAG接続用の10ピンフラットリボンケーブル、およびクイックスタートガイドが含まれた取り外し可能なエンクロージャに統合されています。キットに含まれていませんが、TIのLAUNCHXL-CC1352R1 SimpleLink Multi-Band CC1352RワイヤレスMCU Launchpad開発キットに加えて、2つのAAAバッテリを使用することをお勧めします(SensorTagは、ボードの背面に取り付け可能な専用バッテリホルダを使用するCR2032コイン電池で実行することもできます)。
SensorTagキットの中心はCC1352RマルチバンドワイヤレスMCUです(図2)。このMCUは、安全かつ低電力の接続トポロジのすべてのビルディングブロックを提供するように設計されているTIのSimpleLink MCUプラットフォームの一部です。
図2:TIのCC1352Rマルチバンドワイヤレスマイクロコントローラは、2.4GHzおよびサブ1GHzでのデュアルバンド動作向けのFCC、CE、およびIC認証要件を満たしており、LPSTK-CC1352R LaunchPad SensorTagキットの中心として機能します。(画像提供:Texas Instruments)
CC1352Rマイクロコントローラは、2.4GHzおよびサブ1GHzでのデュアルバンド動作向けにFCC、CE、およびカナダ産業省(IC)の認定を取得済みであり、Bluetooth Low Energy(BLE)、Thread、Zigbee、スマートオブジェクトのIPv6対応低電力ワイヤレスパーソナルエリアネットワーク(6LoWPAN)、TIのSimpleLink TI 15.4-Stack(サブ1GHzおよび2.4GHz)などのその他のIEEE 802.15.4g物理レイヤ(PHY)ベースの独自のプロトコルに対応しています。また、ダイナミックマルチプロトコルマネージャ(DMM)を使用して、複数のプロトコルを同時に実行できます。
無線のレシーバの感度は、SimpleLink長距離モードで-121dBm(デシベルミリワット)、50kbpsで-110dBm、125kbpsでBluetooth向けに-105dBm(LEコードPHY)です。最大送信電力は、サブGHzバンドで+14dBm(24.9mAを消費)および2.4GHzで+5dBm(9.6mAを消費)です。デバイスのスタンバイ電流は、RAMを完全に維持した状態でわずか0.85µAです。また、105˚Cにおいて11µAのスタンバイ電流でIIoTに対応しています。設計者は、さまざまなスタンバイモードとA/Dコンバータ(ADC)サンプリングレートを試して、低電力のために最適化できます。たとえば、1HzでサンプリングするようにADCを設定できます。システムはこのレートで1µA消費します。
CC1352Rの中心となるプロセッサは48MHzのArm® Cortex®-M4Fコアであり、システム内でプログラム可能な352KBのフラッシュ、プロトコルおよびライブラリ関数用の256KBのROM、8KBのキャッシュSRAMによってサポートされています。また、このプロセッサは無線(OTA)アップグレードをサポートし、AES 128およびAES 256アクセラレータを備えています。
低いBOMのために最適化
RFフロントエンドの設計者が直面する問題の1つは、フィルタリング、インピーダンス整合、およびその他の機能に必要な追加のディスクリート受動部品の数です。これらの部品により、BOMが増え、レイアウトが複雑になります。TIはCC1352Rの実装を簡単にするために、Johanson Technologyと連携して、サイズが1 x 1.25 x 2mmのカスタム統合受動部品(IPC)パッケージを開発し、コンポーネント数を23個から3個に減らしました(図3)。
図3:TIはJohanson Technologyと連携してIPCを開発し、TIのCC1352Rの実装を簡単にして、受動部品の要件23個から3個に減らしました。(画像提供:DigiKey。Johanson Technology提供の原資料に基づく)
SensorTagキットには4つのセンサが含まれていますが、追加のセンサや異なるセンサが必要な場合は、TIのBoosterPack LaunchPadプラグインモジュールを使用して、これらのセンサを選択し、すばやく追加できます。SensorTagキットには、次の4つのセンサが含まれています。
レイアウトとセンサへの接続は次のとおりです(図4)。
図4:SensorTagキットには、湿度および温度、周囲光、加速度、ホール効果のセンサが含まれています。(画像提供:Texas Instruments)
コネクタはLaunchPadと互換性があるため、センサに加えて、LCDディスプレイなどのBoosterPack周辺機器やカスタム回路でさえ簡単に接続できます。
LPSTK-CC1352R LaunchPad SensorTagキットの使用方法
LPSTK-CC1352R LaunchPad SensorTagキットの使用を開始するには、SimpleLink CC13x2およびCC26x2ソフトウェア開発キット(SDK)をダウンロードします。このバージョンは、Rev. Eデバイスのみに対して検証されているため、Rev. C以前のデバイスの場合は、v2.30.00.xxを使用してください。ダウンロードが完了したら、段階的な手順と例が記載されているSimpleLink Academyにアクセスします。
サンプルデータをすばやく取得するために、キットは、Bluetooth 5(BLE5)プロジェクトであらかじめプログラムされています。このプロジェクトはMulti-Sensorと呼ばれ、iOSとAndroidの両方に対応したSimpleLink StarterアプリがロードされているスマートフォンやタブレットにBLE接続を介して接続します。設計者はこの初期接続を使用して、センサデータの調査を開始し、LEDのオン/オフを切り替え、ボタンのステータスを読み取り、OTAダウンロード(OAD)機能を使用してファームウェアを更新できます(図5)。また、この時点で、データをモバイルデバイスからクラウドにプッシュできます。
図5:設計者は、iOSとAndroidの両方のプラットフォームに対応したSimpleLink StarterアプリがロードされているスマートフォンやタブレットへのBLE接続を介してLaunchPad SensorTagキットを試すことができます。(画像提供:Texas Instruments)
LPSTKには、BLEの他にも2つの例が含まれています。1つは、LPSTKをZigbee照明スイッチとして使用し、もう1つは、LPSTKを802.15.4ネットワークのセンサノードとして使用します。次に示すように、これらの3つのプロジェクト例はすべてSDKで利用できます。
- Multi-Sensor:
<simplelink_cc13x2_26x2_sdk install location>\examples\rtos\CC1352R1_LAUNCHXL\ble5stack\multi_sensor
- TI DMMセンサノード:
\CC1352R1_LAUNCHXL\dmm\dmm_154sensor_remote_display_oad_lpstk_app
- Zigbeeスイッチ:
\CC1352R1_LAUNCHXL\dmm\dmm_zed_switch_remote_display_oad_app
TIは、SimpleLinkとStarterアプリを補完するために、SysConfigを提供しています。この統合グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)ツールは、BLE、Zigbee、Thread、TI-15.4のTIドライバやスタック構成など、さまざまなSimpleLink SDKコンポーネントの初期化コードを有効化、構成、および生成します(図6)。
図6:TIのSimpleLinkを補完するSysConfigは、ピン、周辺機器、無線、サブシステム、その他のコンポーネントを構成するための使いやすいグラフィカルユーティリティのコレクションです。(画像提供:Texas Instruments)
あらゆるシステム設計の場合と同じように、ある程度のデバッグは必要です。この段階では、SensorTagは、LaunchPad開発キット(この場合、前述のLAUNCHXL-CC1352R)のオンボードXDS110デバッガと併用するように設計されているため、Arm 10ピンJTAGケーブルと2線式UARTケーブルが含まれています。これらのケーブルを接続したら、完全なデバッグ、プログラミング、UART通信が可能になります。ケーブルを接続するには、次の手順に従います。
- LaunchPadの絶縁ジャンパを切断します。
- LaunchPad SensorTagのXDS110 OUTヘッダにArm 10ピンJTAGケーブルを接続します。
- LaunchPad SensorTagのJTAGヘッダにArm 10ピンケーブルのもう一方の端を接続します。
- RXDとTXDの上部ピンに2ピンジャンパケーブルを接続します(グレーのワイヤをRXDに、白のワイヤをTXDに接続)。
- LaunchPad SensorTagのピン12/RXと13/TXに2ピンジャンパのもう一方の端を接続します。
- PCまたはラップトップにLaunchPadを接続します。
完全なセットアップは、図7に示されている手順に類似しているはずです。
図7:デバッグを行うには、SensorTagキットに含まれているArm 10ピンJTAGケーブルと2ピンUARTケーブルを使用して、SensorTagをLAUNCHXL-CC1352R LaunchPad開発キットに接続する必要があります。(画像提供:Texas Instruments)
イメージを実行しても、イメージ自体は更新されないため、OADイメージの受信中にイメージを一時的な場所に保存する必要があることに注意してください。この一時的な場所は、内蔵フラッシュまたはオフチップに確保できます。いずれの場合も、イメージのダウンロードが完了すると、SensorTagデバイスに永続的に常駐しているBoot Image Manager(BIM)を使用して、新しいイメージが有効であるかどうか、および新しいイメージをロードして実行する必要があるかどうかを判定します(イメージヘッダに基づいて)。
BIMは、たとえば、OADの後、追加設定なしの元のイメージを復元できる点において特に便利です。復元する場合、電源投入時またはリセット中にBTN-1(左のボタン)を押すと、BIMが元のイメージ(例:Multi-Sensor)を復元します。
まとめ
ワイヤレスセンサノードを実装するときは、多くのワイヤレスインターフェースを選択できますが、開発者は、各インターフェース向けの試作のために時間やリソースを費やして、特定のアプリケーションに対して最も適切に動作するインターフェースを確認する必要はありません。その代わり、LPSTK-CC1352R SensorTagキットおよび関連するLaunchPadハードウェア、ソフトウェア、エコシステムを使用すると、インターフェースをすばやく簡単に組み合せたり整合させたりし、1つ以上のインターフェースを同時に使用して、必要に応じて、BoosterPackセンサを追加および交換できます。

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