LiDARの仕組みを理解することで分かるTIAとコンパレータを慎重に選定する重要性

LiDAR(光による検出と測距)は、ハンズフリーの実現が夢として語られる自動車設計の分野で最も広く知られるようになりました。具体的には、デジタル制御された光信号を3次元スキャン装置から照射し、反射された信号を検出して環境を分析することで、ますます高度化していく運転支援システム(advanced driver assistance system:ADAS)の開発を支援するものです。前述の夢自体は正しいものでしたが、その実装は古典的な「コーヒー缶アプローチ」とは大きく異なっています。(コーヒー缶アプローチとは、ベッドの下のコーヒー缶に大事な物を貯めていく戦略。この場合は、ADASを実現するためのキードライバと考える360度カメラによるLiDARセンサの開発に専念すること。図1を参照)。

図1:車載用LiDARセンサは、ADASの重要なコンポーネントですが、当初のコーヒー缶アプローチからは大幅に進化しています。(画像提供:Research Gate)

初期の開発者は360度の映像を撮るのが最善だと考えていましたが、このソリューションはコストが少々高くつくため、本格的な商用化ができませんでした。現在、車載用アプリケーションでは前進、必要に応じた後進、およびときどきの左右へのマッピングさえ可能なら良いようなので、より経済的な設計にビジネスチャンスが開かれています。

ですが、話が本題からそれたようなので、元の話題に戻りましょう。車載用システムだけを取り上げてもLiDARの可能性は十分に伝わりません。そのため、LiDARの仕組みを理解することから始めて、LiDARの全体像を見ていきたいと思います。

LiDARの中核を担うトランスインピーダンスアンプ

LiDARは、光信号が照射されてから物体に反射して戻ってくるまでの飛行時間(ToF)を測定することがポイントです。この技術は、レーザードライバからレーザーダイオードに送信される一連のデジタル信号で実にうまく機能します。LiDARシステムは、信号周波数ではなく信号エッジを探します(図2)。この検出方法には、優れたトランスインピーダンスアンプ(TIA)が必要です。

図2:レーザーダイオードがデジタル光パルスを照射し、その戻りパルスをTIAが捕捉します。(画像提供:Analog Devices Inc./Maxim Integrated)

図2において、LiDAR信号のレシーバ回路は、Analog Devices/Maxim Integratedによる高帯域幅TIAMAX40660と、同じくAnalog Devices/Maxim Integratedによる超低ばらつきの280ピコ秒(ps)高速コンパレータ(COMP)MAX40025から構成されています。

MAX40660は、光距離測定チェーンのレシーバリンクとなっています。車載用LiDAR向けに設計されているため、特長としては低ノイズ、高ゲイン、低群遅延に加え、過負荷からの高速出力回復、入力電流クランプ、 2.1ピコアンペア(pA)の入力基準ノイズ密度などがあります。25kΩ(キロオーム)と50kΩの、ピン設定で選択可能なトランスインピーダンスを備えているほか、標準値490MHz(メガヘルツ)の広帯域幅と0.5pF(ピコファラッド)の入力容量を備えています。

この光検出システムのフロントエンドは、基本的に光検出器です。設計で慎重な選択を行うとともにベストプラクティスを実施することで、光信号を効果的に捕捉しています。つまり、フロントエンドは、静的物体や動的物体を検出するために独自の帯域幅とノイズの仕様を持つTIAとなります。MAX40660 TIAの広帯域幅はさまざまな物理的条件の細目を捕捉できるため、ノイズが低くなるので、歪みレベルも低下します。

高速COMPであるMAX40025は、分解能1bitのA/Dコンバータ(ADC)として動作します。オーバードライブ分散が25ps(ピコ秒)と極めて小さいため、ToF距離測定アプリケーションに最適なコンパレータとなっています。コンパレータMAX40025では、その伝搬遅延(標準値280ps)により、TIAの光信号はクリーンな「1」または「0」に変換されます。

移動距離に応じて、D1に入射する光は明るくなったり暗くなったりします。また、大気中の汚染物質や、システムをさらに混乱させるような幻の光もあるかもしれません。

これらの影響を相殺するために、実世界でのLiDARシステムの有効活用はさまざまな分野にまたがっています。車載用アプリケーションでは、LiDAR、レーダ、カメラなどのセンサシステム同士の融合が必要です。ドローンとGPSによるマッピングは、LiDAR構築プロジェクトの土台を築くための3D画像の詳細をリサーチャーや設計者に提供します。水深測定LiDARマッピングや海底LiDARマッピングは、海底構造物の位置を決定するものです。これらのアプリケーションには、他の多くのアプリケーションと同様に、独自のLiDAR構築要件があります。

LiDARと電磁スペクトル

図2の光学系のフロントエンドでは、フォトダイオードのD2が信号タイミングのための出射光を検知し、D1が入射光を検知します。この電磁光信号は、紫外線から赤外線にまでわたります(図3)。

図3:電磁スペクトルとは電磁放射の範囲のことですが、そのうち可視範囲にあるのはごく一部です。(画像提供:Cosmos)

LiDARシステムの多くは、D1、D2にアバランシェInGaAsシリコンを使用した赤外線レーザーシステムを採用しており、その光波長は1310~1550nm(ナノメートル)です。ただし、可視光信号を利用したLiDARシステムもあります。

まとめ

ADASの直感的操作実現、そして最終的に自動車の完全なハンズフリー化に向かう道において、LiDARは、それを使用する多くのアプリケーションにとって欠かせない要素となっています。これらの技術の進歩に伴い、LiDARの構成コンポーネントの要件もますます厳しくなってきています。本稿で説明してきたように、高帯域幅TIAであるMAX40660と280ps高速コンパレータであるMAX40025を中心とするLiDAR信号レシーバ回路は、堅牢な車載用LiDARフロントエンドの基盤となっています。

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