最適なリチウム組成による電池の長寿命化
モノのインターネット(IoT)、ワイヤレスセンサノード(WSN)、スマートメータ、電動工具、ポータブル医療用デバイス、ハンドヘルドLED照明などのアプリケーションでは、電池の長寿命化が重要になります。リチウム(Li)電池組成を選択することが長寿命化のためにますます重要になっていますが、どのリチウム電池組成を選択すれば良いのでしょうか?リチウム/二硫化鉄(Li/FeS2)、リチウム二酸化マンガン(LiMnO2)、リチウム塩化チオニル(Li-SOCl2)といった主要な組成は、電池寿命が複数年にわたりますが、それぞれ異なるアプリケーションに適しています。さらに、電池寿命は組成に依存しているだけでなく、電池の構造、エネルギー消費パターンなどとも関係しています。
最適な選択は、アプリケーションによって異なります。そのアプリケーションでは、長い保存寿命が必要ですか?長期間にわたる低率放電が必要ですか?長時間の休止後に高率放電が必要ですか?これらの質問に対する答えは、長寿命を実現するためにどの電池を選択すべきかを判断するのに役立ちます。
Energizer、Zeus Battery Products、Jauch Quartz、およびTadiranが提供している電池の実例を使用して、パルス放電率と連続放電率、エネルギー密度、動作温度、詳細な構造のトレードオフについて考えてみましょう。
高率放電と長い保存寿命を実現するLi/FeS2
EnergizerのUltimate Lithium電池は、同社のアルカリ電池とは組成や構造が異なります。Li/FeS2組成は高い容量を実現するので、この組成の電池は、従来のアルカリ電池の20倍の表面積を持つスパイラル構造と組み合わせることで、高い容量を備えるとともに高率放電に対応することができます(図1)。
図1:L92 Li/FeS2 AAA電池における3種類の放電率での放電プロファイル(左)と、従来のアルカリ電池と比較したL92の容量-ドレイン電流のグラフ(右)。(画像提供:Energizer)
たとえば、1.5VのL92 AAA電池は、1.2アンペア時(Ah)の公称容量を備え、1.5Aの最大連続放電率をサポートし、2秒間で最大2.0Aのパルスを提供できます。L92は、保管寿命が21℃で20年間、動作温度範囲が-40~+60℃です。こうした仕様の組み合わせにより、これらの電池はゲームコントローラ、全地球測位システム(GPS)ユニット、LED懐中電灯、電動・リモコン玩具、レーザー水準器などの高ドレインアプリケーションで有用なものとなります。
低~中電力向けのLiMnO2
長時間の休止後に中程度に高い電流が必要な設計であれば、LiMnO2電池を選択することをお勧めします。このような設計のアプリケーションとしては、アクセス制御、航空機用救命無線機、ソノブイ、危険環境モニタ、RFID(電波による個体識別)追跡装置などがあります。これらの電池の電極にはパッシベーション層が形成されないため、長時間の休止後でも瞬時に電流パルスが流れます。
LiMnO2電池は、かなりフラットな放電曲線で3.0Vを供給し、中程度の電流パルスに対応します(図2)。たとえば、ZeusのCR-2 LiMnO2電池は、800mA(ミリアンペア)の容量を備え、20℃での自己放電率が年間3%未満であり、900mAのパルス負荷に3秒間対応することができます。EnergizerのUltimate Lithium Li/FeS2電池と同様に、これらのLiMnO2電池も-40~+60℃の動作温度範囲を備えています。
図2:LiMnO2電池は、放電曲線がLi/FeS2電池と比較するとフラットで、低~中電流を長時間供給できます。(画像提供:Zeus Battery Products)
高エネルギー密度と長/低電力を実現するLi-SOCl2
LiMnO2電池とは異なり、Li/SOCl2電池はパッシベーション層を形成するため、自己放電が非常に低くなります。これにより、電池容量の低下を最小限に抑えながら、長時間の休止を実現することができます。しかし、このパッシベーションは、電池の初期放電時に電流の流れを妨げ、瞬発的なピーク電力能力を制限することにもなります。パッシベーション層は連続放電で消失しますが、電池が再び休止状態になると修復されます。
設計上の意義としては、Li/SOCl2電池は、ワイヤレスIoTセンサ、ユーティリティメータ、ワイヤレスセキュリティ機器、追跡システムなど、低電力で連続動作するアプリケーションに特に適しています。
Li/SOCl2電池には、スパイラル巻きタイプとボビン構造タイプがあります。ボビンタイプの電池はエネルギー密度がかなり高く、「エネルギー電池」と呼ばれることもあります。スパイラル巻きタイプの電池は、連続電流定格とピーク電流定格がより高く、「パワーセル」と呼ばれています。両タイプとも公称出力は3.6Vで、放電曲線はフラットです(図3)。
図3:Li/SOCl2電池は、LiMnO2やLi-SOCl2よりも放電曲線がフラットなため、特に低電力で連続動作するアプリケーションに適しています。(画像提供:Jauch)
ボビン電池のエネルギー密度は、最大710Wh/kgです。ボビン型Li/SOCl2電池の例としては、Jauchが提供する容量1.2Ah、動作温度範囲-60~+85℃のER14250J-S 1/2AAや、Tadiranが提供する容量2.4Ah、動作温度範囲-55~+85℃のTL-5903/T AAが挙げられます。
まとめ
この記事で考察した3種類の組成のうち、Li/FeS2が最も高い放電率とパルス電流に対応できますが、動作電圧が1.5Vであるため、エネルギー密度は低くなります。その対極にあるLi/SOCl2は、低いレベルの電力の長期供給に適しており、最も高いエネルギー密度を実現します。LiMnO2電池はエネルギー密度が中程度で、低~中レベルの電力を長時間必要とするアプリケーションや、電力の瞬発的なバーストを定期的に必要とするアプリケーションに適しています。
もちろん、アプリケーションで長い電池寿命を実現するためには、さらに多くのことを考慮する必要がありますが、人気のあるLi組成の主な差別化要因を確認することは出発点としては悪くないでしょう。

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