高精度信号チェーンで電源の選択が重要な理由

私たちはアナログ回路を設計する際、回路を構成する各コンポーネントの詳細仕様に反射的にのめり込んでしまうようです。そのようなやり方では、熱意は伝わってきますが、最終的な設計が電源の面で苦しくなるかもしれません。本稿では、そのような失敗の理由と、そのような失敗を回避する方法をご紹介します。

高速セトリング向けに最適化された低レイテンシの超高精度回路を設計する場合は、手順を使用するのが普通でしょう。レイテンシを抑えるこのような高精度回路を設計するため、低ノイズで高速な部品を選定します。このような回路に適したブロック図を図1に示します。絶縁バリアを越えてアナログ信号を送り出す多くの部品が含まれています。

図1:調整可能でレイテンシが低い電圧/電流測定を行うための信号チェーン(画像提供:Analog Devices)

そうなると、つい、目に入ってくるのが、高精度部品のディテールです。Analog DevicesADG5421Fスイッチは、「±60ボルトのフォールト保護・検出、11オーム(Ω)のRON、デュアル単極、単投(SPST)」のスイッチです。2つの入力の差が電源を超えたことを検出し、エラーメッセージを生成するデバイスです。

ゲイン段には、Analog DevicesのLTC6373(36ボルト完全差動のプログラム可能ゲイン計装アンプ)を使用しています。LTC6373は、入力されたセンサ信号を、後続の適切なアナログ/デジタルコンバータ(ADC)レベルまで増幅します。フィルタは単極のディスクリートRC(抵抗器-コンデンサ)回路です。高い周波数の信号を減衰させるアンチエイリアシング機能を持つフィルタです。

アナログ/デジタル変換(ADC)回路は、Analog Devicesのデュアル低消費電力レールツーレール出力アンプADA4896-2から始まります。このアンプは、ADCのドライバアンプとして機能します。ADC回路の次のコンポーネントは、Analog DevicesのAD4630-24という、真打ち、ADC自体です。これは、24ビット、2メガサンプル/秒(MSPS)、デュアルチャンネル逐次比較型レジスタ(SAR)ADCであり、ゼロレイテンシで高精度な変換を行うことができます。

ADCの基準電源部分は、Analog Devices製LTC6655LN(固定5ボルト出力の直列基準電源)と、Analog Devices製ADA4523-1BCPZ(基準電源とADA4523基準入力ピン間のバッファを形成するゼロドリフトアンプ)で構成されています。

ADC回路の最後がデジタルアイソレータであるAnalog Devices製ADuM14xEであり、これは回路を絶縁するとともに保護します。

高精度の仕様を超えて

さて、ここで立ち止まってください。今度は、あなたがグループのアナログ設計者になったと想像してください。おめでとうございます!あなたはエンジニアのエリート集団の一員になりました。とは言っても、今後も学び続ける必要があります。このことを念頭に置いていただければ、今まで聞いたことのないような提案をさせていただくことをお許しいただけることと信じます。まずは、アナログのチュートリアルを捨てて、電源系、静止電流、ノイズ、精度をはじめとする基本的な問題に対して、アナログとは異なる手法で取り組むことを検討してください。

私の長年のアナログ設計では、このような手法は設計サイクルの終盤にしか思い浮かばないことが多く、そう、設計のやり直しや改良で痛い目に遭いました。ですが、以下をお読みいただけば、痛い目に遭う必要はありません。

また、業界のトレンドとして、低消費電力化、小型化が進んでいることは明らかです。幸いなことに、私たちはこの設計にそれほど深く関わっていないため、一歩下がって、回路の基本である電源電圧、静止電流、電源電圧変動除去比(PSRR)を見ることができるわけではありません。

私が提案する革新は、電源ソリューションを信号チェーン設計の重要な価値提案として、精度目標を超えるほどではないにしても同等レベルになるまで調整することです。次に、設計の手順と注意事項を示します。

  1. 信号チェーンブロック図を作成します。
  2. 図に含まれているコンポーネントの候補を選定します。
  3. 以下を定義します。
    1. 電源電圧
    2. 電源電流
    3. PSRR

早い段階で設計案と合わせて電源仕様を検討しないと、設計の複雑さが飛躍的に増加してしまいます。これは、背後の電源設計が複雑になり、それに伴いコンポーネントの静止電流による消費電力が増加するためです。そのような場合の結果は全体的に不満足な設計となるので、振り出しの図面に戻らなければならなくなる可能性があります。

そこで、電源電圧、電流、PSRRのバジェットを確認してみましょう。

電源を意識した設計

スイッチ(または保護)段とゲイン(またはプログラム可能計装アンプ)段は、入力センサに十分な信号範囲を提供する場合の±15ボルトなど、広めの電源電圧範囲を必要とします。ADCドライバブロック、基準電源ブロック、基準ドライバブロック、絶縁ブロックは、信号要件に対応する場合の±5ボルトや+5.5ボルトなど、平均的な電源範囲を必要とします。また、コントローラへのADCデジタルインターフェースは、+1.8Vといった低めの電圧しか必要としないため、全体の消費電力が低く抑えられます(表1)。

表1:各デバイスの電源要件(表提供:Analog Devices。Bonnie Baker(ボニー・ベイカー)が電源面を修正)

表1により、3つの正のアナログ電源(15ボルト、5.5ボルト、5ボルト)、3つの正のデジタル電源(5ボルト、5ボルト、1.8ボルト)、2つの負のアナログ電源(-15ボルト、-5ボルト)が存在することが分かります。表1の数値は、アナログとデジタルの電源要件を示しています。PSRRシステムの中心であるADA4896-2は、最適な性能を発揮しながら、発生する静止電力は487ミリワット(mW)という最小限に留まっています。

まとめ

これまで見てきたように、スイッチ、アンプ、そしてAnalog DevicesのAD4630-24のような24ビットADCという最適な組み合わせにより、高速セトリング特性と低レイテンシ特性の最適化による超高精度システムを構築することができます。しかし、総合的に最高の性能を発揮するには、電源についても十分に検討する必要があります。ADG5421F、LTC6373、ADA4896-2、AD4630-24、LTC6655LN、ADA4523、ADuM14xEは一体となって、低レイテンシでの計測を行わなければならないアプリケーション要件を満たす、調整可能な電圧/電流計測を行うための信号チェーンとなると同時に消費電力を抑えて最適な計測ソリューションともなります。

著者について

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Bonnie Baker氏は、アナログ、ミックスドシグナル、シグナルチェーンの経験豊富な専門家であり、電子技術者です。Baker氏は、業界の出版物で技術記事、EDNコラム、製品特集など、数百本の署名記事や著書を執筆してきました。『A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers』(ベイカーの12の教え:デジタル設計者のためのリアルアナログソリューション)を執筆し、他にも数冊の書籍を共著する傍ら、Burr-Brown、Microchip Technology、Texas Instruments、Maxim Integratedで設計者、モデリングエンジニア、戦略マーケティングエンジニアとして働いてきました。Baker氏は、アリゾナ大学ツーソン校で電気工学の修士号を取得し、北アリゾナ大学(アリゾナ州フラッグスタッフ在)で音楽教育の学士号を取得しています。彼女はまた、ADC、DAC、オペアンプ、計装アンプ、SPICE、IBISモデリングなど、様々なエンジニアリングトピックに関するオンラインコースの企画・執筆・発表に携わってきました。

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